ルポ スマホ育児が子どもを壊す
2025年02月02日(日)
石井光太著
2024年7月20日発行
1700円
保育園から大学まで200人を超える教育関係者、保育園から高校の教員が30~50人くらいずつ、大学が15人ほど、年齢層は40代以上のベテランが7割、20~30代の若手も3割、にインタビューやアンケートから見えてきた、衝撃的な子どもたちの実態、保育園の4歳児の給食にミキサー食が提供されていることや昼寝に寝かしつけアプリが使われていること、幼稚園の運動会が中止になっていること、大人ファースト社会が子どもをスマホやゲームへ追い込むこと、スマホ育児により“養育者との心理的な結び付きの基盤が弱まり、発達が妨げられる”ことを、一部の出来事とするのか、近未来の前兆として捉えるかの選択を迫られている。
子どもたちが多様な社会で生きていくのに必要な力を育めないまま大きくなれば、ネット上の大量の情報に翻弄され、コスパやタイパばかりを重視し、傷つかないように自分を守るのに必死になる。そうした傾向は、格差の下層に生きる子どもほど顕著となっている。
大人ファースト社会が子どもをスマホやゲームへ追い込む
kojima-dental-office.net/blog/20250115-20800
スマホ脳
kojima-dental-office.net/blog/20220201-15327#more-15327
A.4,5歳の子に離乳食同然の給食
数年前、ある保育園へ取材で行った際、給食の光景を見て驚いた。年少や年中の子どもたちが、皿に入った高齢者の介護食のようなものを食べていた。中身は茶色や緑色のペースト状のものや、ミキサーで細かく切り刻まれたものばかり。原形はとどめておらず、控えめに言って「おかゆ」。子どもたちの大半は何を食べているのか分からないのだから、つまらなそうな表情だった。食後は残飯の山になっていた。
園によっては、何でもかんでもミキサーにかけて離乳食同然のものを4,5歳の子に与えているところもある。今の子どもたちは、物を噛んで飲み込む力がとても弱い。4歳くらいの子でも、2歳くらいの力しかない子もいる。そういう子たちは固形物を喉に詰まらせて、最悪の場合は窒息するといったことも起きてしまう。だから園としては給食をできるだけ柔らかくしなければならなくなっている。
事実、4歳児が皮をむいたぶどうや節分の豆を喉に詰まらせて死亡するといった誤嚥死亡事故が相次いでいる。それだけ、保育園や幼稚園では咀嚼力や嚥下利欲の低下が深刻な問題になっている。全国民間保育園経営研究懇談会の夏期セミナーでも、子どもの嚥下力低下が議題としてあげられていた。
参考に
全国保育士会 平成29年度食育推進研修会
kojima-dental-office.net/20170802-3691
a.3,4歳になれば固形物を食べさせる
通常、保育園では、噛んで飲み込む力が弱い0~2歳の子には、離乳食やそれに近い柔らかな給食を提供する。3,4歳になれば顎の筋肉が発達して咀嚼や嚥下の力がつくので、餅など喉に詰まりやすいものを除けば、固形物を食べさせる。
ちゃんと離乳食の食べ方を教わっていないから、子どもがものを飲み込めない。親の多忙さのしわ寄せが、子どもの噛んで飲み込む力の発達を妨げている。
参考に
陰圧になりやすい飲み物用の狭い口から、いろんな物が食べやすい広い口へ移行せず
kojima-dental-office.net/blog/20241130-19944#more-19944
離乳食連絡会
kojima-dental-office.net/20110622-3193#more-3193
b.お口の機能を育てましょう
ミルクを飲む時期から離乳食を経てきちんと食べられるようになるまでは、決まったプロセスが必要。自然に身につくものではなく訓練によって獲得していくもの。食事の訓練をするから顎の筋肉が発達するし、口の中でこれくらい噛み砕けば飲み込めるかが分かる。だけど、家庭でそれをやらせていないと、子どもは3,4歳になっても、それができないままになってしまう。
離乳食には、大きく分けて「ごっくん期(生後5~6ヶ月)」「もぐもぐ期(生後7~8ヶ月)」「かみかみ期(生後9から11ヶ月)」「パクパク期(生後12~18ヶ月)」と4つの段階がある。それぞれの段階を適切に経験し、固形物が食べられるようになるには、生後半年から1年くらいの月齢期に親の手厚い世話が必要。
参考に
お口の機能を育てましょう―歯科医師からのメッセージ
kojima-dental-office.net/20131208-1494
kojima-dental-office.net/20200503-5190
c.食べ方を教える時間が親にはない
固形物が食べられるようにするには相応の時間と労力がかかる。親が日に何回も子どもと向き合い、同じ声かけと動作を繰り返し、子どもがちゃんと食べられるようになるまで見守らなければならない。今の親にはご飯の食べ方を教えるだけの時間や心の余裕がない。仮に時間が確保できたとしても、育児の相談に乗ってくれる人や、ちょっとしたことを手伝ってくれる人がいない。育児休暇が取れるようになったとはいえ、夫婦がバラバラに育休を取れば結局ワンオペ。離乳食の食べ方までスマホ任せにせざるを得ない状況が生まれている。
参考に
添い乳の弊害について
kojima-dental-office.net/20131009-208
4歳になるがクチャクチャ食べが治らない
kojima-dental-office.net/20181017-4489
ポカン口が増えています
kojima-dental-office.net/20081120-232
イチゴ味が嫌い
kojima-dental-office.net/20221206-6759
d.スマホ育児
親の育児の一部をスマホで代行することを“スマホ育児 ”という。
従来の子育ては、養育者が直に子どもと触れ合って行うものだった。子どもは体温、声、吐息、など様々なものを感じとることによって、養育者と心理的な結び付きを手に入れる。これが心理学でアタッチメントと呼ばれ、発達の基盤となる。子どもはアタッチメントの中で情緒力や想像力を伸ばし、そこを安全基地にして他者と触れ合ってコミュニケーション能力を高める。
参考に
食べる働きの習得にはアイコンタクト(アタッチメント)が必須
kojima-dental-office.net/20240624-7603
スマホ育児の欠点は、脳科学や発達心理学など多くの専門家から『アタッチメント』欠如だ」と指摘されている。養育者との心理的な結び付きの基盤が弱まり、発達が妨げられる。
東北大学東北メディカル・メガバンク機構の栗山進一教授らの論文には、7097人の子どもを対象にした調査で、1歳児が経験したスクリーンタイムの長さで発達の遅れが現れるという研究結果を出している。これによれば、スクリーンタイムが4時間以上の子どもは、1時間未満の子どもと比べると、2歳児の時点でコミュニケーション領域の発達に遅れが生じる割合が4.78倍、問題解決の領域で2.67倍になる。
1.バーチャルで漂う赤ちゃん
関西のある保育園に、午後1時から2時のお昼寝の時間を訪ねた。薄暗い教室に入ると、3割ほどの子どもたちの枕元にスタンド付きのスマホが置かれ、それぞれ違う動画や音楽が流れていた。
園長(60代女性)がそのわけを教えてくれた。「“寝かしつけアプリ”がないと眠れない子がいる。今は、家庭で寝かしつけの際に、専用のアプリを使う親御さんが多い。」保育士が歌ってあげると、そういう子たちから「下手」「うるさい」「眠れない」と言われる。一部の子にとって、子守歌はアプリなりつつある。“泣きやみアプリ”もある。それらに慣れてしまうと、別の何かでは寝たり泣きやんだりしにくくなる。アプリを見せればすぐに泣きやむのに、保育士が抱っこして揺さぶっても泣き止んでくれない。子どもの扱い方が大きく変わりつつある。
2.増えるイクメンは機能しているか
園の先生方のインタビューで興味深かったのは、子どもにスマホを長時間見せるのは、母親より父親。ここ10年ほどの間に、男性の育児が推奨され育児休暇を取得することが多くなった。でも、全体として父親は母親に比べて育児の仕方を知らない。子育てのイメージを持っていないので、とりあえず静かにさせるのが育児だと思っている。
男性保護者がイクメンを自称していたが、先生方からすれば、その子どもは明らかに睡眠不足だったり、言葉の発達が遅れていたりと懸念すべきことが多かった。先生が心配になって、男性に育児の仕方を聞いた。すると、男性は子どもにスマホを与える一方で、自分はSNSに子どもの写真をアップしたり、育児日記を書いたりして、周囲に育児をしていることをアピールするのに必死だった。
女性の場合は「子どもにスマホを見せすぎている」と相談してくれることが結構ある。男性の場合はそれがないし、妻の方も夫の男性の育児を見る機会がない。妻が夜に仕事から帰った時に、夫から「今日はおとなしかった」「いい子にしていた」と言われればそれまで。なので、男性の方が育児の内容が見えにくい。“イクメンの形骸化”と呼ぶべき現象が起きている。
参考に
医師や歯科医師の働き方改革
kojima-dental-office.net/blog/20220719-15495#more-15495
3.スマホ育児に対する今の親の2つ認識
1つは、スマホ育児の弊害を理解しながらも、つい子どもにスマホを与えてしまう親。スクリーンタイムを短くしようと努めたり、遊びや運動の時間を意図的に増やそうとする傾向がある。スマホ育児の弊害はそこまで深刻ではない。
2つ目が、スマホ育児を前向きに考え積極的に行っている親。スマホ育児がいいと思っている親は、年々増えている。育児にアプリを使った方が、自分で判断するより安心。親が自ら手をかけて育てるより、専門家が作ったアプリを用いたほうが子どもの発育によいと考えている。
「幼いうちは、アプリを見せる時間をもう少し減らして、親子の直接的な触れ合いの中で愛情を育んで欲しい」と先生は助言する。しかし、親にスマホ育児の弊害をどう説明すればいいのか分からないという先生も中にはいる。だからこそ、科学的知見を持つことが大切になってくる。「何のために、みんなでお遊戯をしなければならないか」を明確な言語で説明することが求められる時代になっている。
B.大人ファースト社会
ここ十数年の間に自由な遊びを禁じる風潮が強まった。今は社会全体が、子どもたちが自由に振る舞うことを厳しく禁じている時代。
子どもが自由にしていると、世間の怒りは親に向いて「何でおとなしくさせない」「何でちゃんと管理しない」と言われる。だから親も子どもを自由にさせたくてもできない。世界と比べると、日本では子どもを静かにさせろという圧力が非常に大きい。
大人たちが精神的な余裕を失っている。気持ちにゆとりがあれば、子どもの楽しむ姿を微笑ましい気持ちで見守ることができるが、目の前のことでいっぱいになっていれば、苛立ちを子どもにぶつけてしまう。そうなった背景に、格差社会の中で大人に経済的な余裕がなくなった、コンプライアンス(法令遵守)の考えが幼い子どもにまで押し付けられた、高齢化で子どもよりお年寄りが優先されるようになった等々。
複数の要因が重なり合い、子どもファーストではなく、“大人ファーストの社会”ができあがった結果、子どもたちの聖域だった自由な遊びの機会が奪われていった。
a.親がゲームを与える理由
社会の中で大人ファーストの圧力が大きくなると、子どもたちは公園、駐車場、道路で自由に過ごせなくなる。そのため、園が終わったら、親たちはできるだけ早く子どもを家に連れて帰る。
1.今の保護者はとても周りに気を遣っている
他の親ともあまり接点を持たないし、お迎えで子どもを引き取ったら、公園やスーパーにも寄らず、真っ直ぐ帰宅する。本音では、保護者も園の前で友達と遊ばせたいとか、公園によってあげたいとか思っているはず。
でも、子どもを自由にさせる親は、子どもの自分勝手を放置していると見なされる。それで、そそくさと子どもを家に連れて帰るが、家は狭いし、一人っ子や2人兄弟が多いので、結局はゲームやスマホで動画を見せるだけとなりがちになる。
親にしてみれば、公園で自由に遊べないのであれば、せめて家の中ではのびのびと娯楽を楽しんで欲しいと願う。そんな親が子どもに与えるのが、ゲームやタブレットといった最新の機器。
b.自由な遊び
自由な遊びは、社会で生きていくための準備運動のようなもの。
昭和の子どもたちの遊びは、単なる娯楽に留まらず、子どもたちが生きるうえで必要な能力を総合的に伸ばす役割を果たしていた。人間関係の築き方、創造することの喜び、未知なるものへの好奇心、仲間に受け入れられたという安心感、助け合うことの素晴らしさ等々。
人と遊ぶことが苦手な子や、一人遊びをすることが増えた。こういう子たちは、人と遊んだ経験が少ないので、周りの子たちと一緒に何かをすることに興味を持てない。そもそも人とどう付き合っていいかが分かっていない。だから先生が既存の友達の輪に入れても仲良くできない。
もし今の子どもたちが自由な遊びを奪われることで、何かしらの偏りが生じているのなら、不足している経験を意図的に補う必要がある。
1.遊ぶのが恐ろしい
大勢の先生方が、「遊ぶことに消極的な子が増えている」と指摘する。遊びに対する考え方や価値観が変化しつつあり、知らない遊びをするのを怖がる子が多くなった。自分で楽しいことを見つけ出して、ドキドキしながらやった経験が乏しいから、新しいことに興味を持って、やり方を教えてもらおうという意欲がない。
新しいものを発見する喜びを知っている子は、どんどん新しいことをやろうとする。その経験のない子は、見向きもしない。
2.公園で立ちすくむ園児
20年ぶりに復職した保育士が、公園に到着し子どもたちをお散歩カートから降ろした時、子どもたちが無表情で立ちすくみ、動こうとしなかった事に驚く。保育士になったばかりの時の経験では、子どもたちは大声を上げて駆けだし、思い思いに好きな遊びをしていた。先生が「帰りますよ」と声をかけても、みんな聞こえないふりをして遊び続けていた。昔は“遊ぶのは子どもの仕事”と言われ、自分たちで遊びを考え出した。
保育園のミーティングで先生は公園での出来事を話すると、園長から次のように言われた。「彼らは外で自由に遊んだ経験がないので、遊び方が分からない。大人がルールを教えて、『これをこのようにしなさい』と言えばやれるが、自分で遊びを考えて、みんなとルールを共有してやることができない。だから、公園へ連れて行くだけでは、戸惑ってしまう」。今の子はコミュニケーションを取るのが苦手で、やり方を教えてくれと言ったり、ルールを他の子に説明したりすることができない。
3.バーチャルとリアル
市販のゲームは面白い。ただ、リアルの遊びと違うのは、結局は大人が作ったストーリーに沿ってやっているに過ぎず、生きていくうえで必要な多様な経験を得られないという点。『仲間っていいな』って感じる体験が得られないから、人と外遊びをすることに興味を持てなくなる。人とつながれない、リアルの遊び方が分からない、遊びに興味を持てないといった子が増えている。子どもがゲームを通して獲得できるものと、自由な遊びから獲得できるものは別物。
毎日ゲームの中では街中に塗料をぶちまけているのに、リアルでちょっとペンキが付着したらショックを受けて泣き叫んでしまう。このエピソードは、自由な遊びを経験していないこの特徴を表すものとして、園では語り継がれている。
ゲームは一見能動的なように見えて、実は大人の目論見通りのことをやっているに過ぎない。しかも脳内にドーパミンが放出されて、リアルでは味わえないような興奮状態になる。そうした体験をしていれば、感覚麻痺に陥って、小さな刺激では物足りなくなる。今の子どもは、四つ葉のクローバーを見つけた時の感動や、川での水切り遊びで石が友達より1回でも多く水面をはねた時の喜びを感じられなくなっている。
C.現代の成育環境の変化が身体活動にも多様な影響
子どもたちが外で遊ばなくなったことが、月齢期の子どもだけではなく、1歳、2歳、3歳と年齢が上がっても、身体活動や別の能力に影響を与えている。
正しい手順を踏まなければ運動神経は磨かれない。赤ちゃんの時にお座りをする、次に両手両足でハイハイをする。そして、つかまり立ちをし、徐々に歩き方や走り方を覚え、最後にジャンプやスキップができるようになる。つまり、段階を追って初めて総合的に体を動かせるようになる。
今の子どもは初期段階でハイハイやつかまり立ちをしなくなっている。そうなると、筋力や体幹が育たないので、ある程度の年齢になっても座る、しゃがむといった基本的な動作ができない。
a.ハイハイをさせない“一足飛び育児”
ハイハイをするには、子どもが自由に動き回れるだけの空間が必要。それなりの広い空間が用意できて、親がつきっきりで安全を確保しなければ、子どもはハイハイをして体を鍛えていくことができない。
子どもを外へ連れて行っても自由にハイハイができない世の中になっている。そうなると、親は子どもの安全を考えて、家でもベルト付きのベビーチェアーに座らせるようになる。これなら怪我もしないし、スマホを見せていれば静かになるので、時間の余裕も生まれて楽だと考える。
親にしても、ハイハイと子どもの発育の関係性を知っている人はそう多くはない。今の親は、育児の仕方を経験的に学ぶわけではないし、親から教えてもらえるわけでもない。自分で本を買って勉強するか、自治体などが主催する「両親教室」などで学ぶしかないのが実情。受講したとしてもあれもこれも情報を詰め込まれるので、よほど協調されない限りハイハイの重要性は記憶に残らない。そもそも、出産間際の親にそこまで求めるのも無理がある。
1.平らな床に座れない
今の子どもは、バランス感覚や体幹が育っていないので、しゃがむどころか、平らな床に座ることすらできない。体育座りをしてもらうと、だるまさんのようにゴロゴロ倒れる子が出てくる。あぐらをかいてもらうと、後ろ向きに倒れてしまう。
2.ヘッドガードの制服化
園内を見学すると、やたらと大きくぶ厚いヘッドギアを被っている子どもたちが目に飛び込んできた。子どもたちの中にはちゃんと歩くことができない子がいて、転んで頭を打ってしまう。特に不安に思う子には、事故防止のためにつけている。3~5歳の健常児がしているのは意外だった。
原因は、赤ちゃんの時に家でハイハイをしていない子供が増えたこと。ハイハイは、生後8ヶ月から1年くらいでするもので、この期間に子どもたちは手足の筋肉、骨盤、体幹などを鍛え、正しく歩くための準備をする。ハイハイができないまま大きくなると、バランス感覚も悪くなるので、正しく歩くくことができなくなる。こういう子は幼児なのにO脚だつたり、猫背だったりといった身体的な特徴も見られる。ひどい子になると、左右の脚を交互に前に出せず、脚が絡まって倒れてしまう。そのような子が一定数いて、事故が起きれば園の責任になるから、幼稚園が運動会を全面的に廃止するところもでてきた。
子ども家庭庁によれば、2022年に教育・保育施設で起きた事故件数は過去最多の2461件。最も多いのが骨折事故で1897件。
b.発達特性が目立ちやすくなる
本来、保育園は自由でゆるい空間だった。いろんな子がいて、いろんなことをバラバラにやってよかった。だから、誰にとっても楽しい場だった。でも、今はみんなで一つのことを競争してやろうという流れになりつつある。全員が一つの方向を向いて同じことを規律正しくやらなければならない。そうすると、それができない子が出てきてしまう。
発達障害のグレーゾーンの子が、雑多な集団の中で過ごしているぶんには特性が大きな障害になることがあまりなかった。しかし、規律を守って足並みを揃えることが苦手だから、うまくいかない。批判の矢面に立たされ、自然と孤立していく。
昔は園でのびのび過ごしていたグレーゾーンの子が、小学校に進学して管理教育に組み込まれ生きづらさを抱えことがあった。今は園が同調性を求め始めたことで、発達特性が目立つ子が増えている。
c.限定されたスポーツ体験
かつてスポーツは自由な遊びの中で覚えるものだった。だが、放課後の遊びの消滅と共に、限定されたスポーツしかできない子が多くなった。自分がやっているスポーツは大好きだが、それ以外は見向きもしない。限定されたスポーツしか体験していないと、運動能力が総合的に育たない。
体験した競技が少ないと、スポーツへの苦手意識を必要以上につけてしまいかねない。サッカーしかスポーツの経験がなく、それがうまくいかなかったら、武道のセンスがあっても、「私には運動能力がない」と考えてスポーツ自体に興味を持たなくなる。そうした決めつけが、本来持っているはずの可能性を潰してしまう。友達と遊んでいないと、才能に気がつかないまま、スポーツそのものに苦手意識を抱きかねない。
d.教室から子供がいなくなる
数年前、関東のある公立小学校を取材で訪れた時、4年生のクラス、40人学級で5席が空席だった。今の小学校ではどこでも児童の1割ほどが不登校。
昔はクラスに2,3名は騒いだり暴れたりする子がいた。今はみんなよい子を演じるのがすごく上手になって、トラブルメーカーは減っている。そり代わり、いきなり教室からいなくなるとか、よく分からない行動をとるようになった。
教室から黙って出ていく理由を聞くと、「教室の“アツ(圧力、プレッシャー)”がすごい」と言う。座って授業を聞くことに我慢ができず、精神的に参ってしまう。
何か言いたいみたいがそれを上手く言葉にできないので、変わった行動をとってみせる。本人にしてみれば何かを伝えているつもりなんだが、こちらとしては意味が分からない。
こうした現象は小学校だけではなく、中学や高校でもみられるようになり、“静かな学級崩壊”とか“静かな荒れ”と呼ばれている。これは一部の学校の特殊な例ではない。
先生たちは、こうした“静かな荒れ”に対応する術をほとんど持っていない。ゆえに見て見ぬふりをするか、その子の特性なのだと自分に言い聞かせて授業を続けるしかなくなっている。
1.大学生
今の学生はコミュニケーションがものすごく下手で、自分から人と接して関係を築き、情報を交換し合うことができない。だから、入学式までに何度もオリエンテーションを開いて、『友達の作り方』から『サークルの入り方』まで教えてあげないといけない。授業が始まったら、週に各1回『授業の受け方』『レポートの出し方』『参考書の買い方』を教える指導をするが、それでも講義の途中で教室を出て行ったり、机にうつぶせになったりする子が続出する。理由を聞くと、「教室にいるのがしんどい」とか「人がたくさんいて目がくらくらする」と言う。近年、学力レベルの低い大学ほどこうしたことが珍しくなくなっている。小学校で“静かな学級崩壊”を引き起こしてきた子どもたちが大学に進学すれば、こうした事態が起こるのは必然。
2.新入社員
企業の「Z世代」と呼ばれる新入社員に、入社試験時の親の付き添いや、内定同意を親に取る“オヤカク(親確認)”が珍しくなくなった。
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