のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

現代日本人の歯並びが最悪なワケ

2022年12月11日(日)


月刊保団連 2022年12月号
 特集「食べる」「話す」「息をする」が苦手な子どもたち
口腔機能の発達と育成支援
 現代日本人の歯並びが最悪なワケ
人類学から考える咀嚼期の発達と退縮
 国立科学博物館人類研究部名誉研究員 馬場悠男 著
 人類は、道具使用と肉食によって咀嚼器を退化させた。その過程で、喉頭が頸まで下降し、睡眠時無呼吸の究極要因が生まれた。ただし、その後でも、例えば縄文人は、歯列が広くて歯並びがよく、正常な口腔容量を保っていたので、睡眠時無呼吸を起こすことはなかった。ところが、現代日本人では、歯並びが極端に悪くなり、口腔容量が不足し、しばしば睡眠時無呼吸を起こす。
 参考に
 馬場 悠男「骨から人類の移動、拡散を探る」
www.youtube.com/watch?v=vwxlKUzjYPs
 3歳児の不正咬合が増えている
kojima-dental-office.net/20221123-6720
 絶滅の人類史
kojima-dental-office.net/blog/20181110-10692#more-10692
 口腔機能の発達に応じた食事提供、保育の展開について
kojima-dental-office.net/20211211-6090
 小児口腔機能管理加算
kojima-dental-office.net/20180721-4227

A.ヒトはなぜしゃべれるのか

 ヒトが有節音声言語をしゃべるためには、論理能力としての大脳の発達と、楽器としての声帯から唇までの適切な管状構造が必要である。
 チンパンジーや猿人も含めた一般哺乳類では、気道確保のために喉頭が咽頭中部にあり、鼻腔と直結している。だから、しゃべれない。その代わりに、呼吸しながら水を飲み、誤嚥も睡眠時無呼吸も起きない。
 ヒトでは、喉頭が頸まで下がっているので、声帯から咽頭中部までの垂直共鳴菅と、そこから口までの水平共鳴菅が機能し、うまく調音して、しゃべることができる。しかし、水や食べ物を飲み込みながら、呼吸したりしゃべったりはできない。因みに、ヒトの胎児では喉頭が咽頭中部にあるので、呼吸しながら母乳を吸うことができ、不完全ながら、しゃべることもできる。

B.喉頭の下降はいつ起きたか
 ヒトでは、歯列が後退し、脊柱頸部が直立し前進したので、咽頭中部に喉頭が収まるスペースがなくなった。その結果、喉頭が頸まで下がり、声を調整して口から出し、言葉をしゃべることができるようになった。ただし、誤嚥や睡眠時無呼吸も起きる。

C.日本列島人の起源と形成
 10万から6万年前にアフリカを出た新人の集団は、東アジアを経て3万8000年前には日本列島に到来し、1万6000年前には縄文人になった。土器を発明し、季節の変化に応じた採取狩猟生活を送っていた。
 およそ3000年前、組織的水田耕作や金属器の文化をもった渡来系弥生人が、中国東部や朝鮮半島からやってきて、在来の縄文人と徐々に混血し、古墳時代以降の日本人の主流を占めるようになった。
 その結果、現在では、日本列島に住む日本人は、主に3つの民族集団によって構成されている。渡来系弥生人の遺伝子を色濃く(80~90%)受け継ぐ本土日本人、縄文人の遺伝子を色濃く(70%ほど)受け継ぐアイヌの人々、そして縄文人と渡来系弥生人の遺伝子をおよそ半々に受け継ぐ琉球人(南西諸島の人々)である。

D.縄文人と渡来系弥生人の顎顔面構造
 縄文人の顔の骨は、上下に短く、幅が広く、頑丈であり、顔は四角く立体的だった。歯槽骨は厚く、歯列はD字形を横にした形。歯は小さく、咬合面だけでなく隣接面も激しく摩耗していた。歯は直立し、噛み合わせは切端咬合だった。
 渡来系弥生人の顔の骨は上下に長く、楕円形で丸みを帯び、顔は長円で平坦であり、全体的に縄文人より大きめだった。歯列は広い放物線形で、噛み合わせはハサミ状だった。歯は縄文人に比べると大きく、上顎中切歯は舌側のくぼんだシャベル形が多い。
 縄文人も弥生人も硬い食物を食べて、ホモ・サピエンスとしての健全な顎顔面構造を維持していた。、歯並びも良く口腔容量も確保されていて、睡眠時無呼吸も起こさなかった。 
E.日本人の歯並びは、いつ、いかに、ぐちゃぐちゃになったか
 1955年前後までに生まれた庶民の多くは、顎がしっかりしていて歯並びも良かった。ところが、生活が豊かになり、罪深いファーストフードやインスタントフードが普及し始めた1960年代半ば以降に生まれた人々には、顎の退縮や歯並びの乱れが目立つ。今の日本の若者たちは、世界中で最も歯並びが悪くなっている。それは、渡来系弥生人の遺伝的影響が大きく歯が大きいにもかかわらず、軟らかい食物を好んで食べるために顎(特に歯槽骨)が発達せず、歯の生えるスペースが足りなくなったことが原因である。ヨーロッパ人は、もともと歯が小さく、硬めのパンを食べるので日本人やアメリカ人ほど歯並びが悪くない。 
 最近の子どもたちの中には、口腔容量が少なく、正常な咀嚼と嚥下ができない例が増加している。咀嚼における舌の動きが悪いだけではなく、言語活動における滑舌も悪い。口呼吸や睡眠時無呼吸を起こす若者も(子どもでも)少なくない。

F.学校給食を正課にしよう「アジの干物素揚げ給食」
 人類学研究者である筆者としては、縄文人や弥生人の食生活を学び、子どもたちの顎を鍛えたい。筆者が教育委員を務めている神奈川県座間市の小学校では、「アジの干物素揚げ給食」を実施している。子どもたちは、喜んで、手づかみで食いちぎっている。小さめのアジの干物を、170℃で7分、190℃で2分、二度揚げすると、頭と背骨まで食べられると伝えている。食べられなければ、睡眠時無呼吸を起こし、滑舌も良くないかもしれない。

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