小島歯科医院 名誉院長ブログ

添い乳の弊害について

2013年10月09日(水)


2授乳のしかた質問 
 パンフレット『お口の機能を育てましょう』の読者から「添い乳の弊害について」の質問です。
 コラムの原本
 横になりながら授乳すること(添い乳)はお母さんにとっては楽ですが、子供のお口の機能に与える影響(添い乳の弊害)の面から、今後、検討される必要があるのではないかと私たちは考えています。
 パンフレット『お口の機能を育てましょう―歯科医師からのメッセージ』
kojima-dental-office.net/20130619-1477#more-1477
 日本式の添い寝と欧米式の「おやすみ」と言うだけで一人で寝かせる方法
kojima-dental-office.net/blog/20230828-17350#more-17350

回答
 本パンフレット編集集委員会としては次のように考えております。
1.適切な授乳の姿勢と哺乳の関係
出産後1ヶ月間は赤ちゃんの身体も首もしっかりしておらず、母親の体調によっては適切な姿勢で授乳することが困難な場合もあります。したがって、横になって授乳せざるを得ない状況もありますので、必ずしも「添い乳」が否定されるべきものではないと思っています。
しかし、本来は、舌を床と平行になるような角度の抱き方であってこそ、授乳時の蠕動運動がよりスムーズになされると思います。また、後の顎発育不全を招く低位舌などの問題を引き起こさないためにも(後述)、この時期から60度程度の角度での授乳が大切と考えています。
しかし、1ヶ月を過ぎても添い乳を続けたり、授乳クッションを母親の膝の上に置き、その上に赤ちゃんを水平に寝かせ、上から覆いかぶさるように授乳する方がいます。このような場合、赤ちゃんは舌や口腔周囲筋が疲れることから、1回の授乳量が少なくなり、いつまでも乳を欲しがるようになりがちです。そこで、先に述べたような適切な角度での授乳をお勧めすると、赤ちゃんも疲れにくくなるため1回に飲む量が増え、授乳間隔の時間も開いてきます。
また、母乳の場合は、乳汁を「吸う」というよりは「しごき出す」「絞り込む」という表現がされますが、牛の搾乳のように「絞り込む」というようなより筋力を使う動きが必要になります。これに対して、人工乳の場合は、仰臥位での哺乳は「絞り込む」よりも「吸い込む」「吸う」の作業になりがちです。この場合には授乳が短時間で終わってしまい、口腔周囲筋の発達に遅延を招き兼ねないと言われています。
なお、近年、人工乳首は「吸う」作業ではなく、「絞り込む」作業をするように改良されています。一般的には、赤ちゃんを60度くらいの角度で抱っこした場合、その時期に必要な授乳量を10~15分程度で飲ませるような乳首性状・形状を選べば、母乳とほぼ同じような口腔周囲筋の発達が促されると言われています。

2. 顔貌の変化
母親が右を下にして寝ている場合、右側の目が小さくなります。また、母親に対して赤ちゃんは同じ方向で向かい合いますので、左を下に寝ることになります。赤ちゃんは左側の目が小さくなり、左右の目の大きさが違ってくることもあります。
 
3. 歯列不正
添い乳をした場合、母子ともども横になって寝入ってしまうことも多くなるでしょう。
頭の重さはその人の体重の1/8程もあります。顔を横にしたたままでは、頭の重さのため下にしている側の臼歯部に圧力が加わることで左右臼歯間の幅径が狭くなり、前歯部が叢生となります。

4. 口腔機能の問題
 左右臼歯間の幅径が小さくなれば舌房が狭くなりますので、舌位置が下がり、低位舌となります。低位舌になると下顎が下方に引っ張られて口が開くため口呼吸になりやすくなり、口呼吸による機能の問題が生じると考えられます。
また、舌房が狭くなるだけでなく、高口蓋・上顎前突になりやすくなります。このようなことも口呼吸に関連すると考えられます。
さらに、筋肉は通常、「起始」と「停止」がありますが、舌筋は「起始」は舌骨ですが、「停止」がありません。他の筋肉よりもだらりと垂れ下がりやすい特徴がありますので、絶えず鍛える必要があります。
「1.」で示したような適切な姿勢による授乳は、口輪筋や舌筋を鍛えることになるため、舌が垂れ下がりにくくなり、口呼吸を防ぐことにつながると考えられます。

以上、縷縷述べてまいりましたが、いずれも強固なエビデンスはありませんし、研究も未だ途中ですが、今後解明されていくものと思っています。既にその萌芽も見られます。
近年は携帯やスマートフォンをしながら常時添い乳をしている母親が多くなってきました。また、産婦人科の授乳指導においても、母親に対してできるだけ楽な姿勢で授乳するよう指導しています。しかし、添い乳は母親の体調が万全でないときに行われる一時的な与え方であり、正しい授乳の仕方ではありません。したがって、私たち歯科医師が口腔領域を診る歯科医師として警鐘を促すべきではないかと考え、敢えて本パンフレットの「コラム」で取り上げた次第です。
さらにご質問やご意見などございましたなら、再度ご連絡いただければ幸いです。
                                                                               
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