のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

スマホ脳

2022年02月01日(火)


www.shinchosha.co.jp/book/610882/
著者 アンデシュ・ハンセン
訳  久山葉子
新潮新書
2020年11月20日発行
980円
 人間の脳はデジタル社会に適応していない。現在、大人は1日4時間をスマホに費やしている。10代の若者なら4~5時間。この10年に起きた行動様式の変化は、人類史上最速。脳にしてみれば未知の世界。
 ここ数十年で、よい暮らしができるようになったのにむしろ不健康になっている。この矛盾を理解しようとする過程で「スマホ脳」が生まれた。人間の基本設定を理解し、デジタル社会から受ける影響を認識しなくてはならない。心の健康に、睡眠や集中力に、子どもや若者に、学校教育にどんな影響があるのか突きとめるために、科学の力に頼ろうと決めた。
 著者は、現役の精神科医。2016年の前作「一流の頭脳」でブレイク。「運動するだけでストレスに強くなり、記憶力や集中力がアップする」ことを数々の論文、説得力のある根拠を引用して「人間の進化の見地」から示した。
 精神科医 樋口進監修「ネット依存・ゲーム依存がわかる本」
kojima-dental-office.net/blog/20200106-13564
 セロトニン研究の第一人者 有田秀穂著「医者が教える疲れない人の脳」
kojima-dental-office.net/blog/20220109-15262
 精神科医による気分障害の診方
kojima-dental-office.net/20160915-2147#more-2147
 更科功著「絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたのか」
kojima-dental-office.net/blog/20181110-10692#more-10692
 スウェーデンはなぜ強いのか
kojima-dental-office.net/blog/20120808-3065#more-3065
A.子供のスマホ依存
 スマホをなくせばどんな影響が出るかを調べようとしたが、半数以上が「禁断症状」のせいで実験を中断せざるを得なかった。多くのティーンエイジやーがスマホ使用に関して自分が自制心を失っていることを自覚している。米国でも、若者の5割は自分がスマホ依存症だと感じている。特に女子の割合が高く、約6割。
 2017年10月、ここ20年間のインターネット使用習慣を調べた過去最大の調査「スウェーデン人とインターネット」の結果が発表された。私たちがスマホに取り憑かれていることには驚きはしなかったが、子供の生活に大きな影響を及ぼしているという事実には息を呑んだ。  
 乳児、つまり月齢12ヶ月までの4人に1人がインターネットを使っている。2歳児は半数以上がインターネットを毎日使っている。学齢期になると、7歳児の殆どがインターネットを毎日利用し、11歳は実質全員(98%)が自分のスマホを持っている。ティーンエイジャーは1日3~4時間をスマホに費やしている。中でも中学生が一番使っている。
1.スマホの制限
 衝動を制御する能力が完全には成熟していない上に、激しい興奮を感じる時期と重なり、若者は危険を冒すことができる。若者が依存症になるリスクが高いので、アルコールを速く覚えるのを規制している。
 脳のシステムは同じ速度で発達するわけではない。衝動に歯止めをかけ、報酬を先延ばしにできる前頭葉は、成熟するのが一番遅い。25~30歳になるまで完全に発達しない。
 また、ドーパミンが一番活発なのはティーンエイジャーの頃で、その量は報酬という形で激しく増えるし、失望するとやはり激しく減る。つまり、多幸感に酔いしれることもあるが、途方もなく悲観に暮れることもある。
 カロリンスカ医科大学附属病院の小児科ヒューゴ・ラーゲルクランツ教授は、子供、特に1歳半未満の子供は、タブレット端末やスマホ使用を制限すべきと主張。米国小児学科学会も賛同している。衝動をコントロールする能力を発達させるためには、遊びが必要。問題は、子供たちが遊ばなくなったことだと指摘している。
2.前頭葉
 ①なぜ前頭葉は最後に成熟するのか
 脳は後から前に向かって成長していく。
 前頭葉は、複雑な社会的協調を理解し参加するために、成長に訓練を必要とする。経験を重ねるのに何十年も必要なので、最後に成熟する。つまり前頭葉は、遺伝子よりも環境に影響を受ける。
 ②報酬が我慢できなくなる
 マシュマロをすぐに1個もらうより2個もらうために15分待てる4歳児は、数十年後に学歴が高くいい仕事に就いている。つまり、自制心は人生の早い段階で現れ、将来性にも関わってくる。
 しかし、報酬を先延ばしにできる力は生まれた時からあるわけではなく、生活環境の影響を受ける、また訓練で伸ばすこともできる。よくスマホを使う人のほうが衝動的になりやすく、報酬を先延ばしにするのが下手になる。
 数年前の実験で、スマホを使っていない被験者数人に(今では持っていない人を捜せない)スマホを3ヶ月使用した後にテストを行った。報酬を先延ばしにするのが前よりも下手になっていることが分かった。
 報酬を先延ばしにできなければ、上達に時間がかかるようなことを学べなくなる。クラッシック系の楽器を習う生徒が著しく減ってきた。先生に理由を尋ねると、「今の子は即座に手に入るご褒美になれているから、すぐに上達できないとやめてしまう」と答えが返ってきた。

3.ドーパミン
 周囲をより深く知ることで、生存の可能性が高まるから、人間は知識を渇望する。新しいもの、未知のものを探しに行きたいという衝動が組み込まれた状態で生まれてくる。生き延びて遺伝子を残せるように、新しいことを学ぶと脳がドーパミンを放出させた。
 自然の摂理は予言できないものが多い。ハズレを引いても諦めない人は、そのうちに高カロリーの果実というご褒美をもらえる。それで生き延びる確率も高まる。不確かな結果でドーパミンの量が急増する、報酬が得られるかどうか分からなくても、私たちは探し続ける。
 ①ドーパミンの役割
 ドーパミンは報酬物質と呼ばれているが、その重要な役割は、何に集中するかを選択させること。ドーパミンが増えるのは、食べている最中ではない、テーブルに食べ物が出てきて、それを食べるという選択をさせる時である。ドーパミンが、満足感を与える行動を促す。
 ②「かもしれない」が大好きな脳
 報酬システムを激しく作動させるのは、「何かが起こるかも」という不確かな未来への期待。
 1930年代の研究では、レバーを押すと餌が出てくるようにした実験で、ねずみたちは時々しか餌が出ないようにしたほうが、レバーを押す回数が多かった。餌が出てくる確率が3~7割の時に、一番熱心にレバーを押した。
 1950年代には、サルの実験も行われた。ある音が聞こえると、ジュースが少し出るようになっている。サルのドーパミンは、ジュースを飲んでいる時よりも、音が聞こえた時点で増加した。ドーパミンが快楽を与える報酬物質ではなく、何に集中すべきかを伝える存在だということ。
 人間でも同じ。お金がもらえるカードを被験者に引かせてみる。毎回お金がもらえると分かっていると、確実にもらえるかどうか分からない時ほどドーパミンは増えない。ドーパミンが最も増えるのは2回に1回の時。人間に行動する動機を与えること。ギャンブル依存症になる人も確実にいる。
 ③「もしかしたら」がスマホを欲させる
 スマホもドーパミン量を増やす。パソコンやスマホのページをめくる毎に、脳がドーパミンを放出し、クリックが大好きになる。着信音が聞こえた時の方が、実際にメールやチャットを読んでいる時よりもドーパミンの量が増える。「大事かもしれない」と強い欲求を感じ、「ちょっとだけ見るだけ」とスマホを手に取る。
 あなたの脳は、数十万年かけて進化した通りに機能しているだけ。もともとは生き残り戦略だったはずの脳のメカニズムのせいで、不確かなデジタルのご褒美に次々と飛びつく。
 ④どんな人がスマホ依存症になるのか
 「ヘビーユーザー」に多いのは、タイプA(怒りっぽく、攻撃的なほどの積極性に富み、活動的な性格)の傾向があり、自尊心は低いが競争心が強く、自分を強いストレスにさらしている人たち。Bタイプの人たち(おっとりした性格で落ち着いた人生観を持つ人)は、基本的にそれほどスマホに依存していなかった。
4.睡眠
 スマホが及ぼす最大の影響は、「時間を奪うこと」で、うつから身を守るための運動や人付き合い、睡眠を充分にとる時間が無くなることかもしれない。
 眠れなくて受診する人の数は爆発的に増え、スウェーデン人のほぼ3人に1人が睡眠に問題があると感じている。睡眠障害の治療を受ける若者がこの10年で爆発的に増えている。例えばスウェーデンでは眠れなくて受診する若者の数が2000年頃に比べて8倍にもなった。特に女子に顕著。精神科医の元へ睡眠導入剤を求めてやってくる。原則として、すぐに薬を処方しない。その代わり、スマホを寝室以外の場所におくように勧める。加えて週3回は身体をしっかり動かすようにアドバイスする。
 ①ブルーライトの闇
 スマホなどのスクリーンを見ている時間が長い人ほど、よく眠れなくなる。特に遅くにスマホを使うと影響が大きかった。
 小学校高学年の児童2000人にベッド脇にスマホを置いて寝てもらったところ、スマホを側に置かなかった児童よりも睡眠時間が21分短かった。保護者に調べてもらった調査では、1時間も睡眠時間が短かった。
 ②電子書籍vs「普通の」本
 寝る前に、電子書籍を読んだ人たちは、同じ内容の紙の書籍を読んだ人たちよりも眠りに落ちるまでに10分長くかかった。電子書籍を読んだ人たちは、メラトニン合成が著しく減少し、さらにはメラトニンの分泌が1時間以上遅くなる。

5.食欲
 体重が気になる人は、夜遅くスマホを使うと食欲が増進する可能性がある。
 ブルーライトは、身体を目覚めさせ(メラトニンとコルチゾール)、行動に出る態勢を整え(コルチゾール)、エネルギーの貯蔵庫を満タンにして脂肪を蓄ええさせる(グレリン)。空腹ホルモンのグレリンの量が増えると、食欲を増進させるだけではなく、身体に脂肪を貯めやすくする。夜食は、普段より効率的にカロリーを摂取し、皮下脂肪の形で腹回りに貯蔵してしまう。

6.スマホ追放で成績アップ
 英国では複数の学校でスマホを禁止した。生徒たちは朝スマホを預け、学校が終わると返してもらう。その結果、成績が上がった。特に成績を伸ばしたのは、勉強で苦労していた生徒たちだった。お金をかけずに生徒間の成績格差を縮められた。

7.幼児には向かないタブレット学習
 タブレット端末の使用は、小さな子供の場合には、発達が遅れる可能性がある。
 ①パズル遊び
 大人にとっては、アプリのパズルと本物のパズルにそれほど大きな違いはない。一方、2歳児は、本物のパズルをすることで指の運動能力を鍛え、形や材質の感覚を身につける。そういった効果はiPadでは失われる。
 ②書く能力
 すでに書くことができる大人は、キーボードに打ち込んでもいいが、まだ書くことを習得していない場合は、ペンを使って練習することで文字を覚えていく。就学前の子供を対象にした研究では、紙にペンで書くという運動能力が、文字を読む能力とも深く関わっていることが示された。

B.人間がテクノロジーに順応するのではなく、テクノロジーが人間に順応すべき
 テクノロジーはテクノロジーなのだから、人間のほうが慣れるしかないと主張する人々もいる。私はそれは間違っていると思う。テクノロジーは、好き嫌いにかかわらず受け入れるしかない天気とは違う。
 テクノロジーの方が私たちに対応すべきであって、その逆ではないはずだ。スマホやSNSは、できるだけ人間を依存させるように巧妙に開発されている。広告が売れる。金儲けのために人間の特性を利用するのではなく、もっと人間に寄り添ってくれるような形に開発できたはず、睡眠を妨げないように、身体を動かすためのツールにも、偽情報を拡散しないようにもできたはず。今からでも遅くはない。心身共に健康でいられるような製品が欲しいと私たちが言えば、手にはいるはず。どんな商品が欲しいのかを、決めるのは私たちだ。
 1.IT企業トップは子どもにスマホを与えていない
 ビル・ゲイツは、子どもが14歳になるまでスマホを持たせなかった。スウェーデンの11歳児の98%が自分のスマホを持っている。
 アップル社の創業者スティーブ・ジョブズは、「iPadは側に置くことしない」、そしてスクリーンタイムを厳しく制限していた。彼の10代の子どもも、iPadを使ってよい時間を厳しく制限されていた。スウェーデンでは2~3歳の子どものうち、3人に1人が毎日タブレットを使っている。
 2.シリコンバレーの巨人たちの後悔
 フェイスブックの「いいね」機能を開発したローゼンスタインは、自分の創造物「立てた親指」が度を過ぎて魅力的だと感じている。インタビューでは、「思ってもみないような悪影響を与えていることに気付いたのは後になってから」と後悔の発言をしている。
 フェイスブックの元副社長チャマス・パリハピティヤは、インタビューで「私たちが作りだしたのは、短絡的なドーパミンを原動力にした、永遠に続くフィードバックのループ。それが既存の社会を壊してしまった」と発言。
 フェイスブック初代CEOを務めたショーン・パーカーも「同社が人間の心の脆弱性を利用した」と明言。

C.脳はこの1万年変化していない
 生物学的に見ると、脳はまだサバンナで暮らしている。地球上に現れてから99.9%の時間を人間は狩猟と採集をして暮らしてきた。私たちの脳は、今でも当時の生活様式に最適化されている。私たちを取り巻く環境と人間の進化の結果とのミスマッチが、私たちの心に影響を及ぼしている。
 地球上に現れてから99.9%の時間、飢餓や殺人、干ばつや感染症で死んできた。つまり、人間の身体や脳は、癌や心臓発作から身を守るようにはできていない。
 生き延びるため、人間はカロリーを強く欲するように進化してきた。しかし、今の世界でそんな衝動があるのは非常にまずい。食べ物が溢れるほどある現実に、脳は追いついていない。だから、お菓子の棚の前に立つと、多くの人は合理的な判断を下せなくなる。2型糖尿病や肥満が蔓延した理由が分かる。過体重や肥満の問題は、僅か数十年で貧困国から中進国に這い上がった国で特に増えている。ほんの一世代で、常に飢餓に脅かされた状態から、西洋的なファストフード文化に変わった。
 人間の身体は、大勢が感染症で亡くなるという現実に基づいて進化した。素晴らしい免疫システムを発達させた。それに、感染を回避する行動も身につけた。だから、ニュース速報を見るのをやめられない。先進諸国で最も多い死因は、癌や心臓発作であるが、ウイルスが心配で眠られない。
 1年間における日本人の死因データをランキング 2022年01月24日
www.nenshuu.net/magazine/pages.php?pages_id=146

1.精神的不調で受診する人がますます増えている
 スウェーデン社会庁のデータベースによれば、2018年12月現在、16歳以上の96万9516人が抗うつ剤の処方を受けている。大人の9人に1人以上。同様の統計が多くの国で見られる。
 常に破滅を想定する性格のせいで心が病み、うつや恐怖症になる。常に周囲を確認し、危険を避けようとする。今では、そんな衝動や感情のせいで集中できないと、教室でじっと座っているのが困難な子だと思われ、ADHD(注意欠如・多動性障害)の診断が下る。
2.ストレス
 生存のため、ストレスのシステムHPA系が存在する。今よりも相当危険の多い世界で生き延びるために発達した。当時の危険は、瞬時の反応を迫られるものが殆どだった。
 現代では、命に関わるレベルの機会は殆どないが、心理社会的な種類のストレスを受けると、脳内で同じシステムが作動する。長期間継続するストレスには、システムは進化していない。長期にわたってストレスホルモンの量が増えていると、脳はちゃんと機能しなくなる。
 人間は強いストレスにさらされると、精神状態が悪くなる。攻撃か逃避の選択しかなく、緻密なプレーをする余裕はない。迅速な判断を下そうとすると、最優先なのは瞬時の問題解決となり、脳の「思考」機能に助けてもらおうとはせず、社会的に緻密な行動をとらない。些細なことでも強い苛立ちを感じるようになり、堪忍袋の緒も切れやすくなる。
 ストレスにさらされていると時期は、海馬に余裕がなくなり、記憶があやふやになることが多い。
 ①決断を下す時、私たちを支配するのは感情
 感情が、様々な行動をとらせ、瞬時に全力で行動に出られるようにしている。充分な情報を持ち合わせていない場合、もしくは決断に時間がかかりすぎる場合、脳は即座に大まかな見積もりをとり、感情という形で回答を返してくれる。ネガティブな感情はポジティブな感情に勝り、負の感情は脅威に結びつく。
 脅威には即座に対処しなければいけない。先延ばしにはできない。そのため、強いストレスや心配事があると、それ以外のことを考えられなくなる。
 ②HPA系(視床下部・下垂体・副腎系)
 数百万年の進化の産物で、基本的に全ての脊椎動物が有するシステム。緊急性の高い脅威に遭遇した時のために発達した。素早く反応して、「気をつけろ」と警報を鳴らす。視床下部から下垂体へ信号が送られ、下垂体が副腎へコルチゾールを分泌するよう命令する。コルチゾールは身体にとって最も重要なストレスホルモン。コルチゾールがエネルギーをかき集め、心臓の拍動を強く速くする。人間の身体にも残っていて、ストレスに晒されると心拍数が上がる。
 ③扁桃体 人体の火災報知器
 扁桃体の重要な機能は、周囲の危険に目を配り、小さなことでも警報を鳴らすこと。ストレスシステムHPAを作動させること。間違えて鳴らないよりは、鳴りすぎる方がいい。敏感だが、正確ではない。用心することに越したことはない。たった1回逃げ損なって死ぬくらいなら、多めに逃げた方がいい。
 周囲に刺激が多いほど、扁桃体が作動する機会が増える。扁桃体は、ヘビやクモ、高いところ、狭い空間などがの刺激には作動するが、自動車やタバコの脅威にはまだ適応していない。人間が適応してきた世界と今生きている世界との明らかにミスマッチ。

3.即座に解決すべき問題以外は後回しにする
 ①お腹の不調
 ストレスシステムを作動させている時には、身体は食べ物の消化吸収に気を配るのをやめ、それ以外の機能を優先する。
 ②吐き気
 不安で気分が悪くなるのは、胃を空にすることで早く走って逃げよう、あるいは闘おうとするから。
 ③口の渇き
 唾液腺は血液から水分をとりだしている。身体が闘いに備える時、血液が筋肉に集中するため、唾液腺への血液が少なくなり、口が渇く。

4.不安は人間特有のもの
 ストレスは脅威そのものに対する反応だが、不安は脅威になり得るものに対して起こる。不安な時も脳内でHPA系が作動する。
 動物は脅威そのものに対応する時にHPA系が役割を果たす。人間は、仮定のシナリオでもHPA系が作動する。未来を予測する能力は、人間が持つ重要な特性。現実の脅威と想像上の脅威を見分けることが、脳にはできない。不安は、ストレスシステムを事前に作動させた結果。

5.うつは人間を助けるために発達した
 うつを引き起こす原因として一番多いのは長期のストレス。脳にとってストレスとは、「ここは危険」という意味。祖先が危険を感じたように、隠れていろと命令を出す。脳は感情を使って、危険いっぱいの環境から私たちを遠ざけようとする。ひどく気分を落ち込ませることで、引き込ませる。現代社会に適応するようには、脳は進化していない。頭から毛布をかぶって隠れたところで問題は解決はしない。
 患者は、強いストレスを受けた後の休暇中にうつ状態になった。自分の感情が果たす役割を理解するのはとても重要。不安が私たちを危険から救ってくれたことや、うつが感染症や争いから身を守るための術だったと知れば、「うつになったのは自分のせいではない。脳が、進化したとおりに働いているだけ。その世界は、今いる世界とは全く違ったのだから」と考えることができる。

D.集中力こそ現代社会の貴重品
1.マルチタスクとは、複数の作業を同時にしようとすること
 危険な時代に、集中を分散させ、現れる物すべてに素早く反応するように進化してきた。現代社会では、脳に気を散らすものが多くなり、注意力が散漫となり、集中力は貴重品になってしまった。注意持続時間が12秒から8秒に下がった。
 デジタルライフでは、ご褒美のドーパミンを与えて、気持ちよくさせ、敢えて脳の働きが悪くしてでも、マルチタスクになるようにする。マルチタスク派の人は、重要ではない情報を選別し、無視することもできず、集中力や作業記憶にも悪影響を受ける。
 ①マルチタスクによって間違った場所に入る記憶
 記憶は脳の様々な場所に保存される。例えば、事実や経験は、記憶の中枢、海馬に入る。一方で、技術を習得する時には大脳基底核の線条体が使われる。
 テレビを見ながら本を読むなど、複数の作業を同時にしようとすると、情報は線条体に入ることが多い。つまり、脳は、事実に関する情報を間違った場所へ送ることになる。一度に一つのことだけすると、情報はまた海馬に送られるようになる。
 複数の作業を同時に使用とすると、情報が海馬だけではなく線条体にも送られてしまうから、記憶は部分的に失われてしまう。

 ②スマホがあるだけで気が散る
 大学生500人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外においた学生の方が、サイレントモードにしてポケットにしまった学生よりもよい結果が出た。
 米国の研究で、被験者に集中力の要る難しいテストさせた。被験者の一部には、テストの最中に実験のリーダーからメールが届くようにした。それに返答したわけではないが、それでも、メールや電話を受けた被験者の方が3倍も多く間違えた。
 何かを無視することは、脳に働くことを強いる能動的な行為。1日に何百回もドーパミンを少しずつ放出してくれる存在を無視するために、脳は知能の容量を割かなければならない。スマホやパソコンが側にあるだけで、学習能力が落ちる。

 ③手書きメモはPCに勝る
 米国の研究で、一部の学生には紙とペン、残りの学生にはパソコンでノートをとらせた。すると、紙に書いた学生の方が講義の内容をよく理解していた。必ずしも詳細を多数覚えていたわけではないが、趣旨をより良く理解していた。
 理由は正確には分からないが、パソコンでノートをとると、聞いた言葉をそのまま入力するだけになり、手書きの場合は、速く書けないため何をメモするか優先順位つける必要がある。いったん情報を処理する必要があり、内容を吸収しやすくなる。

2.長期記憶を作るには集中が必要
 新しい長期記憶を作ること(固定化と呼ぶ)は、脳が最もエネルギーを必要とする作業なので、眠っている間に行われている。
 記憶するには集中しなければならない。人は「何か」に集中する。そして、エネルギーを費やす価値がある、「これは大事なこと」という信号を脳に送る。脳は、積極的に注目を向けた情報を作業記憶に入れる。そこで初めて、脳は固定化によって長期記憶を作ることができる。集中せずに別のことを考えていると、脳は、「これが大事」という信号を受け取らず、鍵をおいた場所が思い出せない。記憶されていなかった。
 間断なく脳に印象を与え続けると、情報が記憶に変わるこのプロセスを妨げることになる。脳はあらゆる情報を処理することに力を注ぎ、新しい長期記憶を作ることができなくなる。デジタルな娯楽の間を行ったり来たりするのは、情報をしっかり頭にはいるわけではない。

3.脳は近道が大好き
 脳は情報そのものよりも、その情報がどこにあるかを優先して記憶する。
被験者のグループに美術館を訪問させ、何点かだけ写真撮影し、それ以外は見るだけにするように指示した。翌日、絵画の写真を見せると、写真を撮っていない作品は覚えていたが、写真を撮った作品はそれほど記憶に残っていなかった。脳は近道を選ぶ。「写真で見られるから」記憶に残そうとしない。

E.フェイスブック
1.SNSのせいで精神状態が悪くなる
  写真をアップしないし議論にも参加しない消極的なユーザーは、積極的なユーザーよりも精神状態が悪くなりやすい。フェイスブック上のアクティビティで積極的なコミュニケーションは9%。たいていは、次から次へと見ているだけ。
 フェイスブックとツイッターのユーザーの3分の2が「自分はダメだ」と感じている。別の調査でも、20代の半数近くが「SNSのせいで自分は魅力的でないと感じるようになった」と答えている。そのような自己評価が低く自信がない人は、SNSを使いすぎることでもっと精神状態が悪くなる。特に、女子がひどく影響を受ける。

2.社会的地位は精神の健康のために重要
 デジタルな嫉妬でうつになる。他人と競争して負ける、特に地位が下がると、人は不安になり心の健康を損なう。なのに私たちは競争ばかりしている。
 私たちの気分に影響を与える伝達物質、セロトニンは、集団の中での地位にも影響する。サバンナザルの群れを複数調査したところ、群れのボスはセロトニン量が多く、支配的でない個体と比べるとおよそ2倍もあった。
 ボスが不在になった後の権力争いをセロトニンで操作できることが分かった。無作為に選ばれた1匹にセロトニン量を増やす抗うつ剤を与えると、そのサルが突然指揮を執りだし、新しいボスになった。攻撃的になったわけではなく、他のサルと同盟を結ぶことで自らの地位を強固なものにした。
 ボスの地位を失ったサルはセロトニン量が減ったばかりではなく、行動も変化した。疲れ切ったように呆然とし、うつ状態になった。地位を奪った相手の脅威にならないようにする。
 人間についても同じことが言える。セロトニン量の一番多いサルがボスになるだけではなく、自分がボスであることや社会的に高い地位にいることを理解して、セロトニン量が増える。

3.フェイクニュース
 新聞やテレビのニュース編集局は、真実かどうか精査するが、フェイスブックには責任を持つ編集局は存在しない。内容が正確かどうかは全く関係ない。SNS上で拡散された10万件以上のニュースを調査したところ、フェイクニュースのほうが多く、拡散速度も速いことが分かった。一方で正確なニュースは同程度に拡散されるまでに6倍の時間がかかっていた。
 ①人間の脳は悪い噂が大好きなのか
 人口の1~2割が他の人間に殺されていた世界では、誰が誰に恨みを抱いているか、誰に気をつけた方がいいかといった情報は、食べ物がどこにあるかと同じくらい重要だった。私たちが生き延びるのを助けたのは、食べ物とゴシップだった。多くの研究により、社交的な人の方が長く健康に生きられるのも分かっている。

 

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