のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る

2021年11月24日(水)


 「かしこいけど強い」子どもを育てる方法
著者  山中伸弥
    成田奈緒子
講談社+α新書
2021年10月20日発行
900円
 対談で読みやすい。新しい時代の「子育ての極意」が、散りばめられている。皆さんに一番伝えたいことは、「お子さんのこともご自身のことも、あまり追いつめすぎないでほしい」ということ。
 「自分はどう育てられたか?」
 「我が子をどう育てたか?」
 「今の時代、子育てに大切なことは何なのか?」
 山中伸弥、初めての育児本。神戸大学医学部に現役合格、授業にあまり出ず、成田さんのノートを借りて試験を乗り切る。利根川先生の講演会の質問タイムに勇気を振り絞って手を挙げて「日本では研究の継続性が大切だと言われますが、先生はどうお考えですか」と聞いた。利根川先生は「一貫性が無くていい。君自身が重要で面白いと思ったことをやればいい」と言ってくださった。あそこで腹がくくれた。自分のやりたいことをやろう、決めた道を行こうと思えた。
 山中伸弥、畑中正一著「iPS細胞ができた!」
kojima-dental-office.net/blog/20080817-1153#more-1153
 山中伸弥、藤井聡太著「挑戦 常識のブレーキをはずせ」
kojima-dental-office.net/blog/20220115-15293#more-15293
 成田奈緒子氏は小児科医で、小児専門の脳科学者でもある。特別支援教育を行う教員を育てる大学教員でもあり、その分野の研究もしている。小児心理の外来及び、児童相談所や発達障害者支援センターなどの嘱託医を務めながら、千葉県内で「子育て科学アクシス」という医療・心理・福祉・教育の枠を超えた専門家と家族の交流の場を主宰。発達障害や不登校、不安障害の悩みを支えている。

1.良い習慣が脳を育てる
 きちんとお腹を空かせて食事を摂って満足することは、間脳や延髄の中枢をきちんと刺激するので、基本的な情動がコントロールされやすくなる。
 脳と朝ごはんには密接な相互関係がある。脳を動かすために必要なものは、酸素とブドウ糖とアミノ酸。ブドウ糖とアミノ酸の2つは食べ物から摂取する。従って午前中に脳を働かせるには、朝食をとることが必要。
 逆に「食べるために脳を働かせること」も必要。「うちの子、朝ごはんを食べてくれない」という声を良く聞くが、「食べたい」の意思は心が支配しているので、「お腹が空いた」という信号を脳がきちんと受け取らなくてはならない。この「お腹が空いた」を認識する食欲中枢を働かせるためには、セロトニンという不安抑制に働く脳内物質が欠かせない。このセロトニンを分泌させる一番の条件が、早寝早起き。眠る時間帯が重要で、夜10時~朝8時の10時間より、夜8時~朝6時のほうがセロトニンをきちんと取り込める。小学生なら9時までに寝たほうがいい。
 早寝早起き朝ごはんによって脳と心、からだのバランスを維持できる。なぜなら、脳は身体の機能、情動、自律神経などの働きを司る「古い脳」ができてから、記憶や思考、情感を司る「新しい脳」が発達し始める。最後に適切なコミュニケーションに欠かせない「前頭葉」が育つという順番がある。ところが、夜更かししたりしてベースになる古い脳を育てないまま、塾とか習い事等々で新しい脳を育てるところに走っても、バランスが崩れる。
 ここぞという時自分の意思で動ける力は、日頃の生活の中で前頭葉を活性化させて、脳をきちんと成長させることで身につく。子どもは早寝早起きさせて、ちゃんと朝ごはんを食べさせていれば全てうまくいく。親がしてあげられることは、良い習慣をつけてあげること。

2.親子で「ええかっこしい」をやめる
 自立とは、自分ができないことを理解して、誰かに「助けて」と言えること。「ええかっこしい症候群」があると、言えない、ピンチに陥った時に人間のマイナス要因となる。「助けて」を言える力を育てるには、「いつでも助ける。大丈夫」と周囲が伝えること。 コロナで経済的にだったり、精神的にもつらい人は、ぜひ「助けて」と声を出して周りに頼って欲しい。ええかっこしない人のほうが「ちょっと手を貸してくれないか」と言えて、そこをきっかけにまた成長できる。常にええかっこしようとすると、ネガティブな事実や課題と向き合えない。すると、課題を解決できなくなってしまう。
 「ええかっこしい」は、親も子もしんどい。我が子に完璧を求める親と、求められるから完璧でなくてはいけないと刷り込まれている子ども。親から用意されたハードルを越えられない自分はダメな人間だと感じて苦しくなる。自律神経失調の症状があることを伝えられなくなってしまう。子どもが「学校に行こうとしても吐き気がして行けない、お腹が痛くなって行けない」と訴えても、大人たちは大概「それは甘え」って言う。親も自分が分からないことや理解できないことに対して不安になる。お母さんも追いつめられている。
 子どもたちは、自分の本音を絶対出せない。思っていることを表に出せない。親に自分の本心を伝えられない。でも、そこをほぐしてあげて、親に自分のありのままを出せるようになった時、初めて子どもたちは解放される。相談に来た子に「うん、痛いね、分かるよ」と共感すると、みんなホッとしたような顔をする。
 自分はこうしたいと思って、それを子どもが何の気兼ねなく言える関係性を作ることが大切。子どもが一番認めて欲しいのは自分の親。
 大学がオンライン授業になって、学生が帰省して実家で親と一緒に過ごす時間が増えた。オープンで何でも言い合える関係だった家庭と、親からの一方的な指示や命令が多かった家とによって、家族関係がコロナ禍で顕在化した。「親といろんな話ができて有意義、家族に重宝がられて良かった」と良い関係を築き、成長の機会になっている学生と、家族関係が悪くなり、うつ状態になったりして勉強どころではなくなり、そうなっていないケースに二分されていると感じる。
 コロナでかえって仲が良くなる夫婦と、関係が悪化してしまう夫婦とがある。

3.「ほったらかし」は子育てに必要
 多くの日本人が我が子に「こうなって欲しい」というレールを敷いてきた。そのレールから外れてしまうと、親は心配で仕方がないから世話を焼く。子どもは、心配されると信用されていないと思い、自己肯定感はどんどん下がる。自分で選んだことに失敗しては立ち上がって続けて、自信をつける、自己肯定感が重要。
 研究者になろうと思って大学院に入った後は手取り足取りとかそういう教育は一切無かった。「自分で何をやりたいかを考えろ」から始まって、次は「自分で見てやり方を盗め」などと言われ、論文を読み込んで、学んだ。そんな環境で自ら創意工夫して自分のやりたいようにやらせてもらった。
 ところが、若い研究者たちは「もっとちゃんと教えて欲しい」と言う。だから、研究者の養成も自分たちが受けた教育から変えていかないとダメかもしれない。その中でどこまで手を差しのべるべきかを迷っている。

4.レジリエンス(ピンチを乗り越える力)
 レジリエンスは、つらい出来事があったとしても、しなやかに対応して生き延びる力。「自己肯定感」「社会性」「ソーシャルサポート(「おかげさま」と思える力)」という3つのパーツからできている。生まれつき備わっているものではなく、後からでも鍛えることができる。
 発達障害のある方は、「レジリエンス」が低い方が多い。その方に10回ぐらいトレーニングをすると、「おかげさま」と思える力は一番上がるが、自己肯定感や社会性はそこまで上がらない。自己肯定感は、大人になってからでは高まりづらい。
 「ありがとう」と「ごめんなさい」がきっちり言えて、人に寄り添えて、人の心をきちんと読み取れる人なら、どんな職業になっても絶対成功していく。うまくいかなかったときに、「みんなが手伝ってくれなかったから」と考えてしまうと、解決策が無く、立ち直る術が無くなる。ピンチの時は楽観的に、結果が出た時は警戒する。
 アメリカの組織は、お互いのことをとことん称え合う。「良くやった」「あんたはすごい」と。言われた方も、「誰々のおかげで」と名指しで感謝を口にする。日本だと普通は何も言わないのに、失敗した時だけ「何やってるの」と口出す。

5.捉え直す力(リフレーミング力)
 子育てには、物事を違う角度から見る、捉え直すことがすごく重要。うちの子、けんかっ早くてすぐ感情的になると相談に来るお母さんがいる。それは正義感が強い、エネルギーがある、感受性が強いという長所とも考えられる。お子さんの一面だけではなく、反対側からも見てみる。

6.相手の目線に立つ
 アフターコロナの時代をしぶとく生き抜くためには、コミュニケーション能力が重要。
 講演で分かりやすく話したつもりでも、相手が理解していない時に、「理解できない方が悪い」と判断してしまうと、自分自身が進歩できない。だから、もし相手に伝わらなかったとしたら「それは自分が悪い」と思うようにしている。
 アメリカにいた時は必死になって相手の心を読もうと一生懸命コミュニケーションしていた気がする。海外に住むと、他者とコミュニケーションを図ることに貪欲になれる。言葉を尽くせる日本のほうが、アメリカよりも分かり合えているか怪しい。
 第四人称という概念が近視眼的な平面視から立体視を気づかせる。通常のコミュニケーションは「私は」の一人称と、「あなたは」の二人称の間で行われ、その話題に「彼女は」「彼は」といった三人称が登場する。それに対し、アウトサイダーの立場で係わる存在が第四人称。例えば、子育てに悩む親に叱ってばかりいる母親役を演じてもらうと、第四人称的視点で自分の心理が理解できるようになる。
 外山滋比古著「思考の整理学」
kojima-dental-office.net/blog/20211227-15054
 外山滋比古著「第四人称」
www.msz.co.jp/book/detail/07547/

7.オープンラボ
 一つひとつの研究室を閉じた空間とせず、研究者同士で自由な議論をすることができる構造様式。実際コミュニケーション頻度は高まる。どの研究室も自由に行き来して見学に行ける。「許可なく入るな」みたいな構造ではない。ところが、日本人の研究者は自分のデスクから離れない。アメリカの研究者たちは「日本人は自分の研究しか興味ない」という評価。
 研究は「問いを立てる力」「自分で考える力」が必要。そのためには自分から何でも見てやろうという姿勢が必要。知識を吸収する力も大事だけど、その知識を使って何をするか、何を想像するかが求められている。

子育て支援の最新記事