小島歯科医院 名誉院長ブログ

講演会『小児歯科臨床Update!』

2024年10月20日(日)


講師:宮内康範氏 金沢市鞍月 みやうちこどもデンタルクリニック院長
 20日(日)石川県地場産業振興センターにて宮内康範氏の講演会『小児歯科臨床Update!』が開催され、47名の参加者があった。
 小児の心身の特性を順序よくわかりやすく解説された。実に面白い。
 小児の歯科的対応では、患児の協力が得られない時には今後の見通しを立てることが大切であり、そのために必要なのは、先ずは視診、そして、診査・診断し、正しい情報を伝えること。『むし歯を治療すること』がゴールではなく、『むし歯ゼロの永久歯列の獲得』がゴールであることを保護者に理解してもらい、共有する。短期目標は、治療が終了してから、『患児自らチェアに乗り、上手に診療を受けられるようになる』こと。
 小児のう蝕についてでは、母乳(乳糖)が歯を脱灰し、う蝕の進行を早める可能性がでてきたにも触れられた。また、第一大臼歯と切歯のエナメル質形成形成不全をWeerheijmらによって2001年に命名されたMIHについての最新情報も披露された。MIHの歯は見た目が健全であっても接着処理が効きにくいので、やわらかい歯質のみ除去してグラスアイオノマー充填処置することを勧められた。
 小児の口腔機能については、先ずは口唇閉鎖が大切であり、あいうべ体操や上唇マッサージについて解説された。「食べる」「話す」「呼吸する」などの口腔機能の発達支援が目的であり、不正咬合の治療や予防が目的ではないこと、指導・訓練だけで機能が改善しないこともあることを患児・保護者と共有することが重要であることを強調された。
 最後に、日本では、保存学会より永久歯のう蝕治療ガイドラインが2009年より策定され、定期的にアップデートされているが、乳歯う蝕治療のガイドラインは策定されていないこと、また、小児の口腔機能では、エビデンスに基づいた研究や論文の提示がされておらず、予後が不明であること、そして、保険の対象が機能のみをターゲットとし、形態に対しては全く触れられていないことなどの問題提起があった。
 質問タイムでは、患児の協力が得られない時の対応、局所麻酔の手技、指しゃぶりの支援、難治性の感染根管の考え方、保険導入による口腔機能発達不全症に対する対応の変化など、数多くの質疑応答があった。講演会終了後も個別相談が列になっていた。
 メモ
A.小児の心身の特性
 a.発育とは 成長+発達
  【発育の原則】
   ①発育順序   決まっている
   ②発育速度   一定ではない
   ③発育の方向性 一定
   ④発育の臨界期 重要な時期がある
   ⑤個体差
  1.成長  形態的な量の増加
   【成長の評価】
   ①身体成長パーセンタイル曲線
www.shobix.co.jp/paru/hyo.html
     *点ではなく線でとらえる
   ②体格の評価
    ・Kaup指数(6歳未満の幼児) [体重(g)/身長(cm)2]×10
hoiku.mynavi.jp/contents/hoikurashi/childminder/knowledge/15720/
    ・Rohrer指数(6歳以上の学童期) [体重(g)/身長(cm)3]×10 4
www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/34297.pdf
    ・BMI(学童期以降の成人) 体重(kg)/身長(m)2
kenko-nenrei.jp/bmi.html
  2.発達  分化、多様化、複雑化していく過程
   ①原始反射 一般的には4~6ヶ月で消失する
credo-coltd.com/primitive-reflex/
     ・モロー反射:突然の音や動きに対して、両腕を広げ、手のひらを上にする
            乳幼児が危険を感じた際の保護反応
            なくなると首が据わる
   ②運動の発達
www.sped.jp/develop2.htm
     ・中枢→末梢
   ③情動の発達 すべて興奮から
allabout.co.jp/gm/gc/420419/
     ・『恐れ』について
      1歳児: 聴覚に訴えるものが対象
      2~3歳児: 視覚的、聴覚的なものが対象
      4~5歳児: 恐れとともに不安の感情が出現   
      6歳以上: 想像力が発達
  3.歯列の発育
    ①生理的歯間空隙
      霊長空隙+発育空隙
      空隙のないもの  上顎3.2% 下顎9.5%(日本小児歯科学会, 1993)
    ②リーウェイスペース
      側方歯群の歯冠近遠心幅径は永久歯より乳歯の方が大きい
        上顎は1mm
        下顎は3mm
*乳臼歯隣接面にう蝕があると小さくなり、スペースが確保できなくなる
 b.小児の歯科的対応
  1.歯科治療への適応度の評価(Frankl ら, 1962)
    ・基本的には保護者を同席させる
    ・保護者の同意・信頼が大切
    ・保護者の多くは子どもが泣いていてもしっかりと治療をして欲しいと望む
      「多少の泣き嫌がりは仕方ない」 50.7%
      「泣き嫌がってもしてほしい」  44.7%
      「泣き嫌がるときはやめてほしい」4.6%
  2.年齢別の対応
    【上手に治療できる子の割合】
      3歳20% 4歳50%  5歳80%
   ①3~4歳が重要
    ・行動変容法が有効だが、拒否の反応や行動が顕著になることもある
   ②5~6歳
    ・拒否が続く場合は、非協力の理由を慎重に検討
  3.トレーニング
   ①トレーニング回数の目安
     協力状態の良い子 0 ~ 1 回
     非協力児     1 ~ 2 回
     障害児      2 ~ 5 回
    *3歳6ヶ月以下の子どもに発達度を考えればトレーニングの効果なし
   ②3歳6ヶ月以上の子どもには効果の“見える化”が必要       
     トレーニングのチェックリスト
     ・診療室には入れる
     ・ユニットに1人で座れる
     ・ユニットに1人で寝られる
     ・お話が聞ける
     ・歯ブラシで歯磨きができる
     ・フロスができる
     ・ミラーを入れられる
     ・ダイアグノデントができる
     ・ロールワッテを入れられる
     ・開口器が入れられる 3秒 10秒
     ・エアーができる   手 頬 口 3秒 10秒
     ・バキュームができる 手 頬 口 3秒 10秒
     ・コントラブラシ 手 頬 口 3秒 10秒
     ・水コントラ+バキューム
     ・シーラント
  4.経過観察
     ・患児の協力が得られないことを理由にとりあえずになっていないか
     ・今後の見通しを立てることが大切
        そのために必要なのは、先ずは視診
        そして、診査・診断
B.小児のう蝕について
 a.現状
  1.小児期のう蝕は減少している
     45歳以上は減っていない
  2.二極化している
   ①『東京都の学校保健統計』(2015年度)よると、
    ・公立小学校の学校健診で「未処置のむし歯あり」と診断された児童の割合
      最高値=25.8%(足立区)
      最低値=11.1%(千代田区)
    ・公立小学校低学年で平均世帯年収が高いほど、むし歯の児童が少ない
   ②石川県保険医協会「学校歯科健診後調査」
kojima-dental-office.net/blog/20190718-12672#more-12672
     県内4割の学校に「口腔崩壊」の子
 b.乳歯う蝕の特徴
   ①進行が早い(急進性・多発性・早発性)
    ・乳歯は数ヶ月で歯髄炎 永久歯では数年
    ・口腔前庭が浅く、自浄作用が低い→咬合面だけでなく平滑面もう蝕
   ②自覚症状が不明瞭
    ・pulからperの移行期に非常に痛がる
    ・歯に大きな穴が開いても、子どもが痛がることはほとんどない
   ③う蝕好発部位は、年齢によって決まっている
                   ・1~2歳  上顎前歯部
     ・2~3歳 乳臼歯 咬合面
     ・4歳~   乳臼歯 隣接面
     ・6歳~  萌出直後の第一大臼歯
   ④「母乳神話」が崩れる
     ・母乳(乳糖)が歯を脱灰し、う蝕の進行を早める可能性がでてきた
     ・ビフィズス菌が口腔内、特に重度の小児う蝕患者から多く検出される
     ・ビフィズス菌は糖をエサにして、代謝産物として酢酸と乳酸(4:1の割合)
 乳糖を利用し酢酸を産生する細菌による「う蝕病因論」の新展開に期待
東北大学口腔生化学教室が2019年に国際学術誌 Frontiers in Microbiology(IF5.6)に掲載
www.dent.tohoku.ac.jp/news/file/20190529.pdf
゙   ⑤生物学的プラーク仮説
     ・多くの保護者は『う蝕予防=ブラッシング』と考えているが、
      プラーク除去だけでは予防できない「生活習慣病」として捉える
   ⑥フッ化物配合歯磨剤の使用方法が変更
      1歳でも1000ppm(2023年1月 4学会合同が推奨する利用方法)
 c.乳歯う蝕どう対応する?
   ①事前に話すと説明、事後に話すと言い訳
     ・う蝕処置前に「歯髄処置の可能性」の説明は必須
   ②正しい診査・診断し、正しい情報を伝える
     ・治療するかどうかの意思決定は、歯科医師ではなく患者(保護者)が行う
   ③ゴールのことを保護者に理解してもらい、共有する
     ・『むし歯を治療すること』がゴールではなく、
       『むし歯ゼロの永久歯列の獲得』がゴール
     ・短期目標として、治療が終了してから、
       『患児自らチェアに乗り、上手に診療を受けられるようになる』
   ④患者(保護者)に行動変容して欲しい
     ・ネガティブではなく、ポジティブに
     ・時間軸を考えて傾聴・支援
kojima-dental-office.net/blog/20210911-14907#more-14907
  d.乳歯う蝕処置
    *日本では、乳歯う蝕治療のガイドラインが策定されていない
       →厚労省交渉に提案する
     日本保存学会より永久歯のう蝕治療ガイドラインが2009年より策定され、
      定期的にアップデートされているが、
    ・処置を行う以上、安全にきちんとした処置を行う責任がある
     *3種の神器
       ・エックス線写真
       ・局所麻酔
       ・ラバーダム防湿
    ①エックス線写真は必須
     ・髄角が高く露髄しやすい
     ・乳臼歯の隣接面う蝕は見つけにくい
    ②局所麻酔
     ・貼付用局所麻酔剤
        ペンレステープ(リドカイン)
  e.MIH(Molar Incisor Hypomineralization)について
     ・第一大臼歯と切歯のエナメル質形成形成不全
     ・Weerheijmらによって2001年に命名された
     ・原因が確定していない
     ・MIHの歯は見た目が健全であっても接着処理が効きにくい
     ・やわらかい歯質のみ除去してグラスアイオノマー充填
C.小児の口腔機能について
 a.口腔機能発達不全症
   1.口唇閉鎖不全(ポカン口)がスタート
    ・咀嚼機能低下、発音機能低下、嚥下機能低下
    ・顔面軟組織形態、歯列・咬合の異常
    ・舌突出癖、口呼吸、閉塞性睡眠時無呼吸症候群
    ・う蝕・歯周病、口腔乾燥
   2.患児・保護者が気づいていないことがほとんど
   3.留意点
     ①プラス面を伝える
      ・顎の成長に良い影響がある
      ・素敵な笑顔になる
      ・風邪をひきにくくなる
     ②目的
      ・不正咬合の治療や予防が目的ではない
      ・「食べる」「話す」「呼吸する」などの口腔機能の発達支援が目的
     ③ゴールを患児・保護者と共有する
      ・指導・訓練だけで機能が改善しないこともある
      ・協力度と効果の有無を見て継続するか判断する
 b.実際の指導
   1.先ずは口唇閉鎖
     ・あいうべ体操
kojima-dental-office.net/20150510-1156
     ・上唇マッサージ 
       仕上げ磨きの際など子どもが横になっている状態で、
       人差し指を上唇に当て、下方向に伸ばしたり
       上唇をつまんで優しく引っ張ったりする
      【口唇食べ期に上口唇が下りてくるのを待つ】
kojima-dental-office.net/20130619-1477#more-1477
     ・日常の中で口腔周囲筋を使った『遊び』を取り入れていく
   2.指しゃぶり
     ・集団生活に入り羞恥心を持ち始める4歳頃がチャンス
     ・言葉の成長と共に減少
     ・親指だけの手袋(患児に糸の色などを選んでもらい作りプレゼントする)
     ・くせなので本人
  【「おしゃぶり」のメリット・デメリット】
kojima-dental-office.net/20240702-7615
   3.臼歯が噛まない
     ・ガムトレーニング  キシリトールガム
       ガムの咀嚼により、第一大臼歯の植立方向の変化が起き
       それにより第一大臼歯間の幅径が拡大された
   4.前歯部の開咬
     ・”チューイ”を使った前歯噛みのトレーニング
       毎日30回前歯でカミカミしてもらう
c.問題点
  ・エビデンスに基づいた研究や論文の提示がされておらず、予後が不明
  ・保険対象に機能のみがターゲットとなり、形態に対して全く触れられていない
  ・矯正治療を選択できない状況の場合
    「何をどこまで行うのか」「できないことに対して、できない」と
     伝えることも歯科医療従事者の重要な役割

講演会『小児歯科臨床Update!』
講師:宮内康範氏
   金沢市鞍月 みやうちこどもデンタルクリニック院長
日時:2024年10月20日(日)10時~12時30分
場所:石川県地場産業振興センター 新館2階 第10研修室
対象:保険医協会会員の歯科医師及びスタッフ(定員 80 名)
参加費:無料
申込 : 必須 宮内先生講演会チラシから申込
主催 :石川県保険医協会 歯科部
  TEL 076-222-5373  FAX 076-231-5156  メール ishikawa-hok@doc-net.or.jp
~ ご案内 ~
 小児の歯科診療を見直してみませんか。小児の心身の特性を学んでみませんか。
 今回、『小児口腔機能管理料』の実践に役立つ豊富な知識と歯科衛生士の業務についても披露していただきます。『口腔機能管理体制強化加算(口管強)』の追加研修内容のエナメル質う蝕管理もお話しいただきます。
 子どもたちの様々な口腔機能を見つめ直し、生活全体を考え、食べ方など発達ステップの問題点を発見し、その改善を支援できるようになり、楽しく、美味しく、いろんなものを食べられる健康な口を育てていきたいと思います。そして、診療室が、明るく楽しくワクワクする場となることを望んでいます。
 新たに『小児口腔機能管理料』の導入を考えている先生やレベルアップを考えている先生が、理解を深め、役立つ機会となることを願っています。奮ってご参加ください。
 この講演会は「小児口腔機能管理料の注3に規定する口腔管理体制強化加算」の施設基準に定められた「小児の心身の特性に関する研修」及び「歯科疾患の重症化予防に資する継続管理(エナメル質初期う蝕管理)に関する研修」にも位置づけています。最後まで受講された方には修了証を発行いたします。なお、希望される方は、以下の①、②を必ずお守りください。お守りいただけない場合は、いかなる理由があっても修了証は発行できませんので、ご承知おきください。
①修了証の発行対象は保険医協会会員ご本人に限ります。未入会の場合には、事前にご入会手続きをお願いいたします。
②遅刻および途中退出された場合は発行いたしかねます。
 〈2024年歯科新点数検討会の解説〉
kojima-dental-office.net/20240426-7270
 「小児口腔機能管理料の注3に規定する口腔管理体制強化加算」の施設基準を新たに届け出るときに必要となる研修内容は、「歯科疾患の重症化予防に資する継続管理(エナメル質初期う蝕管理、根面う蝕管理及び口腔機能の管理を含む)」ならびに「高齢者・小児の心身の特性及び緊急時対応」となっている。 したがって、今回の講演会では、その内の2項目が対象となる。
 また、改訂前に「か強診の施設基準」を届けている医療機関では、以前に「歯科疾患の重症化予防に資する継続管理(口腔機能の管理を含む)」ならびに「高齢者の特性及び緊急時対応」を受講しているので、今回の講演会を受講すると、残る追加研修内容は「根面う蝕管理」のみとなる。
【講師抄録】
 近年、これまであまり注目されてこなかった『小児歯科』に注目が集まっています。 その大きな要因として平成30年より『口腔機能低下症』、『口腔機能発達不全症』という病名が保険収載されて、令和6年度診療報酬改定ではこれまでの『かかりつけ歯科医機能強化型診療所(か強診)』から『口腔機能管理体制強化加算(口管強)』へと変更されたことが考えられます。これは、これまでの『か強診』という施設基準で求められてきた歯科医院の在り方は踏襲されつつも、口腔機能に関しての新たな視点を持ち合わせていって欲しいという国からのメッセージではないでしょうか。実際、『口腔機能管理体制強化加算』の施設基準に『小児口腔機能管理料』の算定実績が必要になったことにもあらわれています。
 今、注目されている『小児歯科』だからこそ、小児歯科臨床をUpdateしませんか?
【講師経歴】
2004年 岩手医科大学歯学部卒業 歯科医師免許 取得
2008年 昭和大学大学院歯学研究科(小児成育歯科学)卒業 博士号 取得
2010年 日本小児歯科学会認定 小児歯科専門医 取得
2013年 みやうちこどもデンタルクリニック開院(金沢市南新保町)
2020年 みやうちこどもデンタルクリニック移転(金沢市鞍月)
2021年 日本小児歯科学会認定 小児歯科専門医指導医 取得

 

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