小島歯科医院 名誉院長ブログ

母乳(乳糖)が、う蝕の進行を早める

2024年10月23日(水)


 「母乳神話」が崩れる
  ・母乳(乳糖)が歯を脱灰し、う蝕の進行を早める可能性がでてきた
  ・ビフィズス菌が口腔内、特に重度の小児う蝕患者から多く検出される
  ・ビフィズス菌は糖をエサにして、代謝産物として酢酸と乳酸(4:1の割合)
Press Release
  東北大学大学院歯学研究科  2019年5月29日
 新たなう蝕関連細菌ビフィドバクテリウム菌の糖代謝機構の解明
 乳糖を利用し酢酸を産生する細菌による「う蝕病因論」の新展開に期待
www.dent.tohoku.ac.jp/news/file/20190529.pdf
 重度の小児う蝕患者から特徴的に検出されることが報告されているビフィドバクテリウム菌のう蝕誘発機能の一端について明らかにした。
 ビフィドバクテリウム菌(ビフィズス菌)は、主に腸内に生息し、腸内環境を酸性化することで良好な腸内環境を作る有用菌として知られている。近年の研究により、このビフィドバクテリウム菌が口腔内、特に重度の小児う蝕患者から多く検出されることが明らかになってきた。
 ビフィドバクテリウム菌は糖をエサにして、代謝産物として酢酸と乳酸を4:1の割合で菌体外に排出する。口腔内では、この排出される酸により歯が溶けること(脱灰)で、う蝕が生じる。
 ビフィドバクテリウム菌もストレプトコッカス・ミュータンス菌も糖から酸を産生し、歯の脱灰に十分な pH 低下を引き起こすが、ミュータンス菌が主に乳酸を産生するのに対し、ビフィドバクテリウム菌は主に酢酸を産生する。乳酸と酢酸は同じ酸だが、pH の低い酸性環境下では、酢酸の方が歯の内部に浸透しやすいことが報告されており、歯を脱灰し、う蝕の進行を早める可能性が高くなると考えられている。
 【発見 その1】
  特殊な代謝経路「ビフィドシャント」によってフッ化物の阻害効果を回避
 う蝕の予防方法の1つに、フッ化物の利用が挙げらる。フッ化物の主な利点は、脱灰した歯の成分(カルシウムやリン)を効率的に歯に戻すこと(再石灰化)だが、同時に細菌の糖代謝に関わる代謝酵素の働きを阻害し、酸の排出を抑えるという働きもある。
 ストレプトコッカス・ミュータンス菌は、フッ化物により酸産生が抑えられたが、ビフィドバクテリウム菌には同じ濃度のフッ化物では効果がなく、さらに高濃度のフッ化物を使用しても、酸産生を完全に抑えることは出来なかった。この原因を追究したところ、ビフィドバクテリウム菌が持つ「ビフィドシャント」という、特殊な糖代謝経路がフッ化物による代謝阻害を受けないことが分かった。つまりビフィドシャントにより、酸産生能力を維持し、これがう蝕の発生や進行に関与することが分かった。
 【発見 その2】
 乳糖(ラクトース)が糖代謝の効率を促進
 ビフィドバクテリウム菌はブドウ糖(グルコース)よりも乳糖(ラクトース)をエサにした方が、糖代謝の効率を促進し、より多くの酸を産生することが分かった。小児期は乳糖を多く含む母乳や牛乳をよく口にしていることから、乳児のう蝕予防法について、再考する必要があると言える。
 これまでう蝕の研究は、主に砂糖を代謝し乳酸を産生する細菌(特にストレプトコッカス・ミュータンス菌)が対象にされてきたが、本研究によって、乳糖を代謝し酢酸を産生する細菌による「新たなう蝕病因論」が展開されることが期待される。

 参考に
A.科学的に正しい子育て
kojima-dental-office.net/blog/20200810-14294
 3.母乳育児の「神話」を真に受けない
  ②離乳食
 母乳の栄養はパーフェクトではない。ビタミンDとビタミンK、鉄分が足りない。アレルギーを恐れた食事制限や日光浴の不足により、くる病の子が増えてきている。
 生後6ヶ月を過ぎたら、母乳中の鉄分はとても少ないため離乳食を通じて鉄分を摂取する必要がある。赤ちゃんはママのお腹の中で鉄分を体に蓄えて生まれてくるが、生後6ヶ月までにその蓄えを使い切ってしまう。
 大豆などの植物性食品にも鉄分は含まれているが、動物性食品より吸収が悪い。果物などビタミンCを多く含む食品を一緒に食べると吸収が促される。
B.添い乳の弊害について
kojima-dental-office.net/20131009-208
C.乳幼児とジュース
kojima-dental-office.net/20240515-7574#more-7574

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