小島歯科医院 名誉院長ブログ

がん治療を支える歯科治療・口腔ケア

2012年01月29日(日)


がん治療を支える歯科治療・口腔ケア1 ー病院と地域の口腔ケアの取り組みー
講師  大田洋二郎先生
     静岡県立静岡がんセンター 歯科口腔外科
日時  平成24年1月29日(日) 10:00~13:00
場所  石川県立中央病院 健康教育会館 大研修室
対象  歯科医師
主催  石川県歯科医師会  

メモ
1.静岡県立がんセンターの取り組み
  ・よろず相談(年間13000件の電話相談・5人のソーシャルワーカーが対応)
  ・研究所に患者家族支援研究部 入院前・後も支援を行う一貫した体制
  ・2002年開院時の活動目標
    ①口腔ケアをがん治療に組み入れる
     がん治療前に口腔内評価と口腔清掃(口腔衛生指導)、感染巣除去
    ②がん患者の口腔の問題を地域で支える仕組みを作る
がん治療を支える歯科治療・口腔ケア2  ・口腔外科外来が医科と地域の歯科開業医と結ぶ役割を果たす
    参考として
    静岡がんセンター周術期口腔機能管理計画書
    静岡がんセンター周術期口腔機能管理報告書・実地指導
    静岡がんセンター周術期口腔機能管理報告書・入院前
    静岡がんセンター周術期口腔機能管理報告書・入院後
    
  ・何かが起きてからではなく、がん治療前に口腔内合併症回避のため歯科へ対診依頼
  ・病院内看護師対象の口腔ケア研修会が盛んに
  ・口腔ケアの看護師と歯科衛生士の棲み分け
  ・口腔ケアリンクナース制度と多職種レジデント制度(歯科衛生士)
  ・各地のがんセンターにおける常勤/非常勤の歯科医師や歯科衛生士はこれから増加
2.がん治療による口腔有害事象
がん治療を支える歯科治療・口腔ケア3  ・がん治療に伴う口腔合併症の発生頻度(40から100%)
  ・口腔粘膜炎以外の口腔有害事象
    ①味覚異常と味覚障害
      塩味が感じなくなることが多い
           香りの効いた食事を勧める
    ②歯肉出血
      特に肝がんやC型肝炎では、歯石除去などの観血処置に注意
      血小板減少が2万/μℓでも歯肉出血がなければ超軟毛でブラッシングする
    ③口腔感染と歯性感染
      白血球数が2000/μℓを下回ると起きやすい
      がん治療前に歯科を受診
      感染リスクの高い部位を優先的に治療
      ブラッシング指導や歯石除去などの歯周初期治療を終了させる
    ④ヘルペス性口内炎
      刺すような痛み
      抗ウイルス薬
    ⑤カンジダ性口内炎
      ピリピリ、チクチクした痛みですか(「痛いですか」と聞かないで)
      抗真菌薬
    ⑥末梢神経障害と知覚過敏症様の症状
      すべての歯がしみる
      大腸がんなどに用いられるシスプラチンなどの白金系抗がん剤
      抜髄処置を行っても症状は改善しない
      抗がん剤の一時的な影響であることを説明する
      極端に熱いもの、冷たいものを避ける
    ⑦口腔乾燥症
      含嗽や保湿剤の使用
      水分制限されていなければ1日1から1.5㍑の水分摂取を指導
3.口腔粘膜炎の発症メカニズムと病態
  ・口腔粘膜炎はがん治療に伴うもので、口内炎と区別している
  ・口腔粘膜炎は、がん臨床で発症頻度が高く、
    患者のQOLを低下させる最も強い有害事象の一つ
        治療中断、延期をさせる要因
  ・腎障害によって結果的に抗がん剤濃度が高くなり発現
  ・好中球減少単独より口腔粘膜炎合併している場合に、
     敗血症になるリスクは4倍以上となる
  ・口腔粘膜炎の発症メカニズム
     基底細胞が最も影響を受ける
     抗がん剤開始後10~12日で潰瘍形成
がん治療を支える歯科治療・口腔ケア4

          グラム陰性桿菌が増殖
  ・口腔粘膜炎は可動粘膜に好発する(左右に見られる)
     歯肉、硬口蓋など角化粘膜には見られない
       (舌背は可動性はあるが特殊粘膜で角化粘膜に入る) 
がん治療を支える歯科治療・口腔ケア5

  ・口腔粘膜炎グレードが評価として使用されている
がん治療を支える歯科治療・口腔ケア6

  ・抗がん剤により口腔粘膜炎の発症頻度が違う
     (5Fu治療時によく見られる)
  ・グレード3以上になるのは頭頸部がんと造血幹細胞移植治療
4.口腔粘膜炎の評価と対処方法
  ・外来通院で抗がん剤治療が増えているため、自宅での難しい口腔ケアも増えている
  ・口腔ケアの目的は、口腔粘膜炎の予防ではなく、感染予防と症状緩和
  ・口腔粘膜炎の対処
    口腔粘膜炎が起きやすい化学療法開始前に3つの指導を行う
     ①口腔内清潔保持
      痛い口腔粘膜に極力触れない小さめなヘッドの歯ブラシを選ぶ
       (タフトブラシがお勧め)
     ②口腔内保湿
      含嗽に生理食塩水を使う
       1Lのペットボトルに9g(小さじ2杯で10g)
       浸透圧の関係でしみることがない、人肌に温めるともっと使いやすい
     ③疼痛コントロール
       がんの術後創傷部痛、化学療法や放射線療法後の口腔粘膜炎、
       口腔粘膜損傷などは、傷害受容性疼痛である
              したがって、NSAIDs/アセトアミノフェンによる鎮痛
        グレード2まではボルタレンやフローベン、カロナール
       麻薬系は病院処方になる
がん治療を支える歯科治療・口腔ケア7 がん治療を支える歯科治療・口腔ケア8

  ・経口摂取支援の実際には
     ①食事前20~30分に鎮痛剤内服
     ②食事直前に口唇などにキシロカインゼリーなどを塗布
5.がん周術期の口腔ケア
  ・口腔ケア介入によりがん治療後の合併症が激減した
  ・外科治療による口腔ケアのエビデンスがある疾患
    ①頭頸部がん(進行がん再建)
    ②胸部食道がん3領域郭清、開胸、開腹手術を行う患者
    ③人工呼吸器管理患者
    (④口腔不衛生の高齢者消化器系手術)
  ・外科学会から保険適応を緊急要請
6.がん終末期の口腔ケア
  ・口から自然な形で食べたい
    どんな食事を食べたらいいのか
    レシピは
     症状で選ぶ! 抗がん剤・放射線治療と食事のくふう
survivorship.jp/meal_top.html
  ・表情も大切
  ・話をして和みたい
  ・尊厳ある最後を迎えるために
7.がん患者の歯科治療はどのように行うのか
  ・がん化学療法中の歯科治療の考え方
    ①歯科治療の原則
      抗生剤や鎮痛剤の処方を含め、すべての歯科治療について担当医に相談
      予防的口腔ケアと歯周病治療は、化学療法開始前または終了後がより安全
      血小板数が5万/μℓ以上
      白血球数が2000/μℓ以上(好中球1000/μℓ以上)
    ②抗がん剤治療による白血球数の変化
      口腔粘膜炎の発症と同じような変化経過をたどる
      抗がん剤治療開始後10~12日が底になる(内科系ではナディアと呼ぶ)
        ③歯科治療の時期と処置内容
      観血処置は、次の抗がん剤治療の2~3日前(安全な時期)に予約を取る
      白血球数が2000/μℓ以上、血小板数が5万/μℓ以上が確保されている
       10日以内に同レベルを下回らないこと
       一次閉鎖をする
       浸潤麻酔は貧血帯による壊死リスクを考え刺入点を少なくする
      非観血処置も有害事象が強く出る時期は避け、
       次の抗がん剤治療直前が望ましい
  ・歯科医院へ受診するがん患者のほとんどは、頭頸部以外で化学療法を受けている
  ・がん患者の歯科治療で確認すること
    ①がん治療歴
      がん疾患名
      治療方法(治療前・治療中・治療後・緩和)
      抗がん剤とそのスケジュール
      白血球数と血小板数の確認
    ②問い合わせの注意
      口腔内の現状を伝える
      処置が観血処置か非観血処置か伝える
      抗がん剤の投与スケジュールの確認
      白血球数が2000/μℓ以上、血小板数が5万/μℓ以上かを尋ねる
      抗菌剤(   )や鎮痛剤(  )の服用の可否も確認する
8.がん患者歯科医療連携→日歯国がん連携へ
がん治療を支える歯科治療・口腔ケア9 がん治療を支える歯科治療・口腔ケア10 がん治療を支える歯科治療・口腔ケア11

  ・がん対策推進協議会
    次期がん対策推進基本計画の骨子に「口腔ケア」が盛り込まれる
  ・平成24年度診療報酬改定 歯科診療報酬関係の具体案
     周術期における口腔機能の管理等、チーム医療の推進
    頭頸部領域のがん患者等の周術期における口腔機能の管理を評価する
  ・医科病院(歯科が併設されていない)との連携
    ①チラシ
     がん治療を受ける前に地元の歯科医院を受診して頂きます
    ②地域の連携歯科医院マップ
最後に
  ・がん患者に歯科治療・口腔ケアは特別なものではない
  ・必要な状況に介入するとQOLは確実に向上
  ・がん治療に歯科治療・口腔ケアがなければ治療の質が担保されない

抄録
 がん治療の最前線では、手術手技の向上、抗がん剤や放射線治療の進歩により、良好な治療成績が得られるようになりました。その一方で、非常に多くの患者が、治療で生じる口腔粘膜炎や口腔乾燥、味覚異常、さらには歯性感染症など、様々な口腔合併症が発症し、口腔のトラブルで苦しんできた事実があります。こうした口腔の問題は、この20年間、がん治療時効果や成績が優先され、ほとんど注目されてきませんでした。
 2002年に開院した静岡県立がんセンターでは、がんチーム医療のなかに歯科の役割を明確に位置づけ、がん治療時の積極的な口腔ケア介入・歯科治療を実践してきました。その結果、頭頸部再建外科手術の局所合併症、化学放射線療法の粘膜炎疼痛緩和、緩和医療患者の口腔トラブルの軽減などの成果が認められ、がん支持療法として歯科の果たす役割が評価されるようになりました。
 2006年には、地域の歯科医師会の先生方の協力を仰ぎ、がんセンターと地域歯科医師会の開業診療所が病診連携し地域でがん患者を支援する体制を開始しました。当初はモデル事業としての取り組みでしたが、正式な医科歯科連携の事業として運用されています。この連携も5年を経て、関東5都県における日歯・国がんの医療連携につながりました。がん治療の基幹病院である国立がん研究センターは、手術を受ける患者全員に地域の歯科受診を推奨しており、すでに250名が歯科を受診しています。
 また2012年に改定を予定しているがん対策基本計画に、がん専門病院と地域の歯科が連携して「がん患者の口腔を守る」ことが明文化される予定です。地域の歯科の先生方ががん治療する病院と協働する大きな連携が、今まさに全国規模で始まろうとしています。講演では、開業される先生方が、がん患者におこる口腔合併症を理解した上で歯科治療や口腔ケアをどのように考えて、どうおこなうのか、さらに医療連携はどのようにおこなっているのか、具体的に解説いたします。

講師略歴
昭和36年  宮崎県宮崎市生まれ
昭和61年  北海道大学歯学部卒業、同大第一口腔外科講座入局
昭和63年  国立がんセンター病院歯科医員
平成13年  国立がんセンター中央病院 歯科口腔科医長
平成14年  静岡県立静岡がんセンター歯科・口腔外科部長

参考文献
月刊保団連

大田洋二郎1 大田洋二郎2 大田洋二郎3 大田洋二郎4

がん患者を支える口腔管理の最新記事