がん患者さまの口腔管理の実際
2012年08月26日(日)
講師 辻本好恵先生
サンスター株式会社 医科歯科営業部
日時 平成24年8月26日(日) 9:30~12:30
場所 石川県立中央病院 健康教育会館 2F大研修室
対象 歯科衛生士(定員200名)
主催 石川県歯科医師会
抄録
今年4月より、病院との診療連携でがん患者さまの口腔管理を行うことに対し、歯科保険点数が新設されました。その背景には、がん治療中には様々な口腔内トラブルが発生すること、治療中の口腔内トラブルは患者さまの闘病中のQOLを著しく低下させてしまい、時に治療成績に関わることなどがあげられます。今後はご開業の歯科医院さまでも、これからの治療に入られる、もしくは治療を終了されたがん患者さまが、ご来院されることが予想されます。そこで今回は、がん治療中の口腔内トラブルやがん患者さまへの対応、口腔管理の実際についてご紹介させていただきたいと思います。
講師略歴
平成16年4月 大阪大学歯学部付属病院歯科衛生研修開始
平成18年4月 東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科 編入
平成20年4月 静岡県立静岡がんセンター 歯科・口腔外科 入職
平成23年4月 サンスター株式会社 入社
レポート
「がん患者さまの口腔管理の実際」を受講して
研修者 小島歯科医院
歯科衛生士 松川 嘉美
今回の講習会に参加するまでは、歯科とがん患者さんとのかかわりがいまいちピンとこなかったが、がん治療と歯科とのかかわりが非常に重要性のある事だと認識した。がん治療前の口腔ケアにより、合併症のリスクがだいぶ軽減され、治療後の副作用により口腔内のトラブルが表れるという話を聞き、通院でのがん患者さんが増加していることもあり、歯科衛生士による口腔ケアの必要性を実感した。
A.がん治療に伴う口腔トラブル
手術・・・誤嚥性肺炎 口腔がん→創部感染
化学療法・・口腔粘膜炎 口腔感染症 歯周疾患の急性化 味覚異常
放射線療法・口腔粘膜炎 唾液腺機能障害 味覚異常 放射線性骨壊死
緩和医療・・口腔感染症[カンジタ ヘルペス] 口腔乾燥 口臭
B.術前の口腔ケアの必要性
患者さんに術前の受診や口腔ケアの必要性を説明し、理解してもらう。
1.ポイント
① 術前の歯科受診は患者さんにとって、主訴がない。
② 受診理由が理解できていない場合がある。
③ 手術前には精神的不安がある場合がある。
C.初診時の対応と流れ
1.歯科医師が、歯科受診の目的と、がん治療実施に必要な歯科処置や口腔ケア、
今後の方針を説明する。
2.口腔内診査、歯周基本検査、パノラマX線写真による口腔状態と、
必要な具体的処置を説明する。
3.歯科処置の実施
・縁上歯石の除石と疾患、治療目的に会わせたブラッシング指導を実施
[周術期をセルフケアで良好に維持できるよう患者教育を行う。歯周治療
の実施が必要な場合には、術後体調が回復してから開始する。]
・咳反射低下や嚥下機能障害の場合、処置の際には、背板の角度や吸引に注意する。
D.誤嚥回避への配慮
1.体位への配慮・・・可能であれば30~45度ギャッジアップし、
頚部はタオルや枕を使用して頭部前屈にする。
2. ケア中の吸引は確実に行う。
3. 水分への配慮・・・スポンジブラシやハブラシに残る余分な水分は絞る。
E.『頭頸部領域のがんへの放射線療法による口腔乾燥症とケア 』
1.セルフケアの指導について
口腔乾燥症のケアにおける基本
①頻回の含そう
②保湿剤の使用
③歯のメンテナンス(放射線性う蝕への対処)
2.セルフケア指導のポイント
①頻回の含そう
含そうは最低1日3回、できれば1日8回(約2時間ごと)行う。
口腔内に含そう剤や生理食塩水を含み、30秒のぶくぶくうがいを基本とする。
『含そう剤』
・口腔内保湿に用いる含そう剤
・口腔粘膜炎の疼痛コントロールと口腔内保湿を目的とした含そう剤。
・生理食塩水(水500ml、食塩4.5g)
②保湿剤の使用
市販の保湿剤(スプレー型、ジェル型、洗口型)を状況や症状によって
使い分ける。
③歯のメンテナンス(放射線う蝕への対処)
・治療前後を通じたフッ化物の塗布を指導する。
・フッ化物の塗布は定期的(年2~4回)に歯科で行う他、
日常生活でもフッ化物入り歯磨剤を患者自身で使用してもらう。
F.[放射線性骨髄炎への対処、義歯の扱い]
1.放射線療法前
①不適合義歯の調整、う蝕や歯周症の初期治療
(放射線骨髄炎に先行して発症する軟組織壊死は
義歯による粘膜圧迫部位に生じやすい。)
②必要な抜歯は、治療開始2週間前にすませる。
(照射部位の顎骨は非常に感染を起こしやすく、抜歯は最大の発症誘因となる。)
2.放射線療法中~治療後
①口腔内の照射野に含まれる部位の抜歯は禁忌。必要な場合は、
口腔外科で抗菌薬予防投与下で抜歯を行う。
②義歯の扱い
・放射線療法中は原則義歯を外す。
・食事が口からとれるようであれば、食事時だけ装着してもかま
わないが、なるべく装着時間を短くするよう指導する。
・細菌や真菌の温床となるため、常に清潔に保つ。(特に凸凹の多
い構造の複雑な場所、裏の溝など)
G.『頭頸部がん、食道がんの外科手術による術後合併症と口腔ケア』
1.目的・術後の創部感染を予防する。
・術後の肺炎を予防する。
2.方法・術前から術後まで医科と歯科が連携して口腔ケアを行う。
・術前では衛生士が、術後には看護師がこのシステムを支える。
3.周術期リハビリテーションの流れ
①術前 術前カンファレンス
②入院 術前評価
患者への説明
口腔ケア(歯科、口腔外科での口腔内診査。衛生士による歯面清掃と指導)
③術後2~3日・・口腔ケア
・スポンジブラシによる口腔清拭、唾液吸引、ハブラシによるセルフケアの介助
・含そうや口腔ケアの指示、経口摂取開始の指示
④術後3~1週間
・嚥下機能評価
⑤退院
・誤嚥の有無、経口摂取量の確認
・セルフケアの指導
・定期検診
H.『がんの化学療法による口腔粘膜炎とケア』
口腔粘膜炎のケアにおける基本
1.ブラッシングによる口腔内清潔保持
①ハブラシの選択
・ヘッドが小さく、柄がストレートで毛先の柔らかいもの。
・ハブラシが届きにくい奥や悪心、開口障害があるときはタフトブラシを使用。
②歯磨剤
・刺激が少ないもので、フッ素配合のもの。
③洗口液
・ノンアルコールで低刺激性で、保湿効果も備えた市販の洗口液。
④疼痛時の対応
・歯磨剤、洗口液はつかわず、水か生理食塩水のみでブラッシングを行う。
疼痛の強いときは水や生理食塩水のみで30秒ぶくぶくうがいをさせる。
2.口腔内保湿
・含そうにより、口腔内保湿を継続すると、口腔粘膜炎の症状も軽減する。
・含そうは最低1日3回、できれば1日8回、約2時間ごと行う。
・含そうは発症前から、治療後まで継続する。
・市販の保湿剤
①スプレー型
・舌中央、頬粘膜に直接2~3回プッシュし、
舌を使って口腔粘膜全体に薄く伸ばす。
②ジェル型
・チューブから適量を手指もしくはスポンジにとり、
舌表面にのせ舌で口腔内全体に薄く行き渡らせる。
③洗口型
・保湿洗口液で30秒のぶくぶくうがい。
・生理食塩水・強い疼痛でブラッシング出来ない場合。
3.疼痛コントロール
・疼痛が強いときは、処方された薬剤を服用するよう指導。
・食事の刺激で疼痛が増すため、鎮痛剤は毎食30分前に服用させる。
「粘膜炎が発現しやすい化学療法」
①口腔がん FP(5-FU+CDDP)
②食道がん FP(5-FU+CDDP)
③肺がん FOLFOX(5-FU+レボホリナートカルシウム
+オキサリプラチン)
④胃がん 5-FU SI+CDDP
⑤大腸がん FOLFIRI(5-FU+レボホリナートカルシウム)
I.『がんの緩和医療における口腔トラブルとケア』
がん診断後~終末期での口腔トラブル
・口腔乾燥症 ・カンジタ性口内炎 ・口臭(舌苔)
・口腔内出血 ・味覚障害
1.カンジタ性口内炎
・治療には、アゾール系抗真菌剤が有用である。
(イトラコナゾール内服液、ミコナゾール軟膏)
・義歯はカンジタ菌の温床になりやすいため十分に清潔を保つ。
2.口臭(舌苔)のケア
舌苔を除去することで口臭抑制できる。
①舌苔の除去
・舌尖をガーゼで保持し、スポンジブラシを押さえるよう回転、
もしくは毛先の柔らかい歯ブラシにて拭う。
この時、刺激で嘔吐する恐れがあるため、無理せず優しく10回ほど擦掃する。
・1日1回のケアで十分だが、1回ですべて除去しようとせず、
2~3回に分けて少しずつ行う。
・堆積した舌苔は、保湿剤や20倍希釈したオキシドールなどの塗布により、
軟化させて除去を容易に出来る。
3.味覚障害のケア
・薬物や口腔カンジタ菌により増悪する。
・具体的にどの味や臭いに障害があるかを個々に見極め、
栄養士と相談して食事内容を調整する。(濃い味、薄い味対応、冷食対応など)
・香りのよい食事を摂る、友人や家族と語らいながら食事をすることもよい。
4.口腔乾燥症のケア
①含そう
②スポンジブラシによる保湿、清掃
・口腔粘膜を傷つけないよう、軟らかいスポンジブラシを用いる。
・スポンジブラシには、粘膜刺激の少ない保湿剤を含ませて使う。
・スポンジブラシの動きは、
「奥から手前」「中から外へ」の回転動作を基本とする。
③保湿剤
④水、氷片
・上記の他、頻回に少量の水を飲ませたり、
氷片を舐めさせるのも症状緩和に有効。←誤嚥に注意
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