自分の頭で考える日本の論点
2021年01月26日(火)
出口治明著
立命館アジア太平洋大学学長、ライフネット生命創業者
幻冬舎新書
2020年11月25日発行
1100円
人々の間で意見が分かれている「論点」を22個選び、基礎知識的なことを解説した上で、著者はどう考えているかを述べている。そこに至る思考のプロセスを学びたい。
物事を考える時に大切にされていることは、「タテ(昔の歴史)・ヨコ(世界はどうなっているか)・算数(数字、事実、論理で裏付ける)」の3つ。日頃からそのような訓練を積み重ねることが、想定外のことが起きた時に生き残る力とななる。
声の大きい人の意見や、挑発的な意見、面白い意見、感情に訴える分かりやすい意見などに引きずられることなく、正しい判断を下せるには、どうしたらよいか。腹落ちするまで自分の頭で考え、自分なりの答えを選んでいくことで、人生は悔いのない、より楽しいものになるだろう。
出口治明著「適応力 新時代を生き抜く術」
kojima-dental-office.net/blog/20210627-14782#more-14782
論点1 日本の新型コロナウイルス対応は適切だったか
A.基礎知識
発症前から人に感染させることがあるのが新型コロナウイルスの特徴で、発症2日前から発症後5日ぐらいが、人にうつしやすい時期である。
数十種類あるコロナウイルスのうち、人に感染するものは、これまで4種類が知られている。ふつうの風邪の原因となるコロナウイルスの他、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)、2012年のMARS(中東呼吸器症候群)、今回のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)。
死者数を見る限りでは、PCR検査の少なさは致命的な被害拡大につながっていない。
ウイルスは生きている
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なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか
kojima-dental-office.net/blog/20201211-14352
B.自分の頭で考える
組織のリーダーは、自分ひとりでいくら考えても分からない問題に対しても、何かを決めなければならない。考えても分からないなら、自分よりもそれに詳しい専門家に意見を求めるのが一番。
【エピソード】
長江が氾濫しそうになり、放置すれば武漢の心臓部である工場地帯が水没、堤防を切れば農村部が水浸しの瀬戸際な時、朱鎔基首相が解決策を探るために温家宝副首相を現地に送り込んだ。温家宝は、利害関係者の話を聞いても公平かつ客観的な判断を下せないと考え、陳情に来ていた誰とも会わず、武漢一帯から治水などの専門家を集めて、議論させた。それを黙って聞き、最終的に「堤防は切らなくてもいい」と決め、北京に戻った。結果的に、工場地帯は水没しなかった。非常時にこの判断を下したことを高く評価して、朱鎔基は温家宝を自分の後継者に据えた。
a.学長として何をどう判断したか
立命館アジア太平洋大学では新型コロナウイルス対策として、上期はオンライン授業に踏み切る覚悟を決め、Zoom社と契約。そして、卒業式と入学式の中止を政府からイベント中止要請が出る前の2月20日に、校医の見解を尊重して、リーダーである自分の責任で決めた。
それを決めた背景には、学生のほぼ半数3000人弱が外国人で、卒業式や入学式には世界各国から2000人を超える人々が出席する。その人たちが1カ所に集まって盛り上がるイベントは、感染リスクが大きすぎる。校医は感染症のスペシャリストではないが、大学関係の中で一番疾病に詳しく、学生のことも知っていた。
b.政府の専門家会議の知見を信頼した理由
イデオロギー上の争いあるテーマとは異なり、パンデミックなケースでは、政府の集める専門家に偏りが生じる心配はなく、専門家会議が提供する情報や知見が最も信頼に足ると著者は判断した。
今回のコロナ禍でメディアにたびたび登場した、政府の専門家会議を批判する「専門家」の中には、「テリトリーは超えるけれど、自分が知っている限りでコメントしておけばいいだろう」と安請け合いする人もいた。たびたび出演依頼が来ても、「このタイプのウイルスは専門外なので」と断った疾病専門家もいる。良心的な態度だと思う。
c.イノベーションが起きるチャンス
今回のコロナ禍では、テレワークやオンライン授業などの工夫がなされた。働き方改革を進め、日本の労働生産性を上げるチャンスが生まれた。
新型コロナへの対応を考える上では、ウィズコロナとアフターコロナの時間軸を分けて考える発想が不可欠。
論点2 新型コロナ禍でグローバリズムは衰退するのか
A.基礎知識
マイケル・サンデル著「これからの「正義」の話をしよう」
kojima-dental-office.net/blog/20101123-1334#more-1334
グローバリズムとは、人・物・カネ・情報が国境を越えて自由移動できる国際社会を理想とする考え方。1971年にアメリカで金=ドル交換が停止(ニクソン・ショック)され、1973年から為替が固定相場制から変動相場制に移行したこともきっかけとなった。以後、自由貿易協定により促進され、「小さな政府」を目指す新自由主義的な経済政策により加速させた。さらに1989年にベルリンの壁が崩壊し、1991年にソ連が解体。アメリカ一極構造に移行し、グローバル資本主義、多国籍企業に有利な経済体制が成立。1998年にはEU域内でグローバリズムが実現した。
しかし、グローバル化には、周期的に世界的な金融危機を引き起こすという弊害がある。グローバル資本が求める競争重視と規制緩和、効率化は、勝者と敗者を生み出し、深刻な格差社会を生む。さらに、2010年代からイスラム原理主義者によるテロが多発し、ヨーロッパでイスラム系移民の拝外感情が高まった。
B.自分の頭で考える
「反グローバリゼーションが世界の潮流になってきた」という現状認識は間違い。
a.「反グローバリゼーション」は見かけだけ
どの国のメディアでも、「反グローバリズム」の大きな潮流が生まれているように見える。いつの時代であっても分断のほうが絵になる。しかし、現実には、メディアが取り上げない、地味で目立たないところに、大きなグローバリゼーションの潮流がいくつも存在する。過去の歴史を中長期的にみれば、主流を占めているのは連帯と強調の流れだ。
b.「米中対立」を見誤らないための3つのポイント
1.対立の原因は、ナンバー2がナンバー1に追いついてくるとケンカが始まるというのは歴史の常。両者の争いは、先端技術分野と宇宙・軍事技術の分野で激しさを増している。GAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)対BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)
2.「トランプ大統領の考え方」と「アメリカの総意」の間には、大きなギャップがある。
3.中国は日本以上にアメリカとの間に太いパイプを築いている
中国からは習近平の娘も含めて37万人もの留学生がアメリカに行っている。アメリカの全留学生110万人のうち、3人に1人は中国人。日本人のアメリカへの留学生は2万人弱。
ナンバー1の習近平やナンバー2の李克強がアメリカの首脳を罵倒するのを聞いたことはない。アメリカに反論するのは、大体の場合は中国外務省の報道官など。
かっての米ソのような一触即発の対立関係であれば、首脳同士の罵倒合戦になるはずだが、中国はアメリカが世界の覇権を握っていることを理解し、許容しているので、そこまで踏み込まない。中国がアメリカと本気で軍を構えるつもりはない1つの証拠。
米中は経済面でも強く結びついている。アメリカの4~6月期のGDPはマイナス31%を記録したが、時価総額でトヨタを抜いた振興アメリカ自動車メーカーのテスラは増益。その理由をCEOは、「上海工場がフル稼働したからだ」と述べている。
コロナ禍でお世話になっているZoomは、1997年に27才の中国人、エリック・ユアンがアメリカに渡って創業したアメリカ企業。
論点3 日本人は働き方を変えるべきか
A.基礎知識
正社員は長期間にわたって育てられ、若い時は安い賃金を、年齢を重ねて責任が重くなるにしたがって高い賃金を受け取るという、年功序列賃金とセットになった終身雇用制が慣行とされてきた。賃金の額は、いわば「人」に付随してきた。これに対して、終身雇用と年功序列のない欧米では、「賃金」は職に付随する。
ヨーロッパは年に1300~1400時間働いて年平均2.5%前後の成長を維持している。日本は正社員ベースで考えると2000時間以上働いて年平均1%しか成長していない。日本の労働生産性はずっとG7(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ)最下位。
毎年5日間の有給取得が義務化
kojima-dental-office.net/blog/20181108-12849
開業医4人に1人「過労死ライン」神奈川県保険医協会アンケート
kojima-dental-office.net/20190210-4592
B.自分の頭で考える
a.戦後の製造業の工場モデルを引きずる日本
集団就職によって、生産性の低い第1次産業から生産性の高い自動車や電気電子産業へと労働力を移動させ、日本の高度成長を生み出した。わが国の製造業は「国の宝」、生産性も高く、品質も優れている。
しかし、現在、製造業のGDPに占める比率は約20%、雇用に至っては約1000万人で、16~17%しかない。しかもそのウェイトは年々減少傾向にある。このようなウェイトで日本経済全体を引っ張れるはずがない。
b.日本は、この30年間に、新しい産業や企業を生み出せなかった
製造業に必要なのは、土地と資本と均質な労働力。製造業は低学歴でよかった。
これに対してGAFAやユニコーンは、土地も資本も労働力も必要がない。アイデアがすべて。原動力は「ダイバーシティ」と「高学歴」。たとえばグーグルはロシア人とアメリカ人の2人のドクター(博士)が議論を積み重ねる中から誕生した。
世界の産業構造は新しいサービス産業が中核となりつつある。GAFA4社の株価の時価総額は、名目GDP世界3位の日本の国家予算を超えている。アメリカ経済の新たな力強さの象徴となっている。
GAFAの予備軍と目される企業価値10億ドル以上の未公開企業、「ユニコーン」と呼ばれる振興企業群は、2019年7月末で世界には380社。シリコンバレーを中心にアメリカに200弱、中国に100弱、EUに30以上、これに対して日本は僅か3社。
c.日本はダイバーシティが進んでいないから新しい産業が生まれない
アイデア、イノベーションを生む土壌は、「ダイバーシティ」。いろんなバックグラウンドを持った人が集まると面白いアイデアが出る。反対に、同じ職場の同僚同士でいくら議論を重ねても、あまり突飛なアイデアは出ない。
ダイバーシティの最たるものは、男性と女性。わが国の女性の社会的地位は、世界経済フォーラムによれば153カ国中121位(2019年)。また、日本の企業の幹部の中で外国人の占める割合も微々たるもの。
d.日本に新しい産業が生まれないもう一つの理由は、構造的な低学歴社会
高等教育在学率は、全世界で見ると100位以下。また日本の大学生は勉強しない。これは100%企業に責任がある。日本の企業は未だに面接重視で、採用基準に成績がない。難関大学の入学試験にパスすれば、あとは勉強するインセンティブが生じない。
さらに、日本企業は大学院卒業者を「なまじ勉強した人間は使いにくい」と言って敬遠する。関西学院大学の村田治学長の研究によれば、労働生産性とその社会の大学院卒業者(博士課程修了者)の占める割合には正の相関があるというデータを出している。
就職してからもずっと、学び続けることができる社会であることも重要。正社員として大企業に就職できても、2000時間労働で、「メシ・フロ・ネル」の生活が余儀なくされる。
e.「メシ・フロ・ネル」から「人・本・旅」へ
働き方改革とは、「メシ・フロ・ネル」の生活を改め「人・本・旅」の生活に切り替えること。長時間労働からは、新しい産業が生まれにくい。シリコンバレーで働いている知人は、1日3時間以上働いたことがないと言っていた。仕事を効率的に切り上げて、「人・本・旅」で脳を活性化させる。
論点4 気候危機(地球温暖化)は本当に進んでいるのか
A.基礎知識
「植林」は砂漠化を防げるか
kojima-dental-office.net/blog/20070525-748#more-748
1880年から2012年までの地上の平均気温は、それまでより0.85℃上昇。現在の地球上の平均気温は14℃だが、もし温室効果ガスがなければ、マイナス19℃になる。
1988年に設立された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、「現在の温室効果ガスによる気温上昇は、人間の生活に深刻な悪影響を及ぼすレベルに達している」と結論づけている。この見解は、世界共通認識。まともな学者で地球温暖化を軽視している人はほとんどいない。
2015年に開かれたCOP21で196の国と地域が、地球を挙げて対策を進めなければならないと合意した。このパリ協定以前は、先進国と途上国との間で深刻な対立があった。
2019年9月には、「国連気候行動サミット」が開かれた。サミットでは77カ国が、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標を表明。「実質ゼロ」とは、実際の排出量と、植物の光合成などによって吸収された量が釣り合った状態。
その後さらに増え、G7で参加していないのはアメリカと日本だけになっていた。2020年10月、菅首相が温室効果ガスを2050年までに実質ゼロにすると宣言。2020年11月バイデン氏も「50年実質ゼロ」を公約。
B.自分の頭で考える
気候危機のような世界レベルの問題について、日本の経営者もメディアも意識が低くて、目先のことしか考えていない。
論点5 憲法9条は改正すべきか
A.基礎知識
日本国憲法は、1946年6月、当時の吉田茂内閣が第90帝国議会に「帝国憲法改正案」を上程し、いくつか修正が加えられた後可決、11月3日に公布された。施行は翌1947年5月3日。以降、一度も改正されることなく現在に至っている。
日本国憲法の原案はGHQが作成したが、明治憲法の草案も日本人ではなくドイツ人のロエスレルが書いている。
a.憲法9条と自衛隊の関係
・憲法制定時、吉田茂首相は、「自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したもの」と答弁している。
・1950年6月に朝鮮戦争が勃発し、日本を占領していた米軍が朝鮮に転用されて、日本における兵力が一時的に空白になった。そこで最高司令官マッカーサー元帥が吉田首相に対して、警察力の増強に関する書簡を提示、8月には警察予備隊(自衛隊の前身)が作られた。
・自衛隊が発足した1954年12月の国会で、鳩山一郎内閣が「憲法は戦争を放棄したが、自衛のための抗争は放棄していない」と政府解釈が大きく変わる。自衛隊の存在を合憲とする根拠を9条2項の冒頭の「前項の目的を達するため」という文言に置いている。芦田均議員(のちの首相)が、この「前項の目的」とは侵略戦争を指し、自衛のための「戦力」は否定していないと提案、いわゆる「芦田修正」。
・1976年に三木武夫内閣は、「軍事大国化を防ぐ」との名目で防衛予算を「国民総生産の1%以内」とする枠を作った。この予算額は1987年に撤廃されたが、暗黙の誓約として今日まで維持されている。
・1972年、田中角栄内閣の統一見解で、武力行使の3要件が打ち出された。
①日本に対する急迫不正の侵害があること(違法性)
②自衛力を行使する他に防衛の手段がないこと(必要性)
③自衛力の行使は必要最低限にとどまること(均衡性)
・2015年、第3次安倍内閣は、「保有しているが行使できない」から「限定的ながら行使できる」へ集団的自衛権について政府解釈を変更。
・2017年5月3日に安倍首相は「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という加憲案を提案。自衛隊の存在が明記されるだけではなく、武力行使について課してきた「必要最低限の範囲」という縛りが外されている。
木村草太「憲法の創造力 -今こそ憲法を語る-」
kojima-dental-office.net/blog/20180310-8488#more-8488
B.自分の頭で考える
憲法には国家権力を制限し市民の権利を保障・伸長させてきた長い歴史がある。日本国憲法の原型は、戦争を否定した初の国際条約である1928年のケロッグ=ブリアン条約(パリ不戦条約)。故に、理念として大変よくできている。著者は、現状では日本国憲法を変えるべきだと感じるところはほとんどないと思っている。
現在では、憲法9条と自衛隊の関係は合憲との国論がほぼ統一されている。ただ憲法の条文として明記されていない。
a.保守と革新
政治的な潮流には、大きく分けて保守と革新という2つの立場がある。
近代の保守は、イギリスの思想家でフランス革命を批判したエドマンド・パークから始まり、人間は本来万能ではないという立場にたち、長年それに沿ってやってきて誰も困っていなければ維持し尊重しよう、問題が生じたらその時変えればいいという考え方。
革新とは、人々が慣れ親しんだものであっても、誰も困っていなくても、良くないところがあると思えば改めるべきだし、積極的に物事を変えていこうとする立場。
本質的な定義からすれば、憲法を変えようと主張する人は革新となり、逆に現行の憲法のままでいいと考える人は保守ということになる。現実には、憲法を変えようと主張しているのは保守の自民党で、変えないでおこうと主張しているのが革新の野党。日本では、保守と革新家の内実がねじれており、自民党も野党も本来の自分たちの立つべき立場とは矛盾したことを唱えている。
b.憲法を議論しよう
憲法改正問題を考えていくには、メディアの役割と責任が大きいが、日本のメディアはかなり劣化している。深い議論にはならず、かみ合わない双方の主張をただ流すだけ。メディアは私たちが鍛えなければならない。ツイッターやフェイスブックなどで「ここが分からない」とか「これはおかしい」と言った声を上げ、議論しようという雰囲気を醸成することが大切。普段から憲法問題を友だち同士や家族で話し合うことが、民主主義社会を維持するための必要条件だと著者は考えている。
論点6 安楽死を認めるべきか
A.基礎知識
a.ガイドライン
安楽死に関する法律が存在しない日本では、厚生労働省や関連団体のガイドラインが、「刑事責任を問われない延命の差し控え・中止」を医師に保証する役割を果たしている。あらかじめ本人の意思がある、または家族の希望・同意がある場合に、生命維持装置による治療を開始しない、もしくは、いったん始めた治療を中止する。
横浜地裁は1995年に、医師による積極的安楽死の要件の4つを示した。
①耐え難い肉体的苦痛がある
②死が避けられず、死期が迫っている
③肉体的苦痛を除去・緩和する他の方法がない
④患者の明らかな意思表示がある
b.安楽死と人権
ヨーロッパやアメリカの場合、「いつ死ぬかを決めるのは個人の権利」という考え。しかし、日本では、「家族や周囲の人に迷惑をかけたくない」という配慮から安楽死を望むケースが少なくない。障がい者団体からは、安楽死の容認は弱者の排除につながると懸念している。
B.自分の頭で考える
ALS女性安楽死事件
kojima-dental-office.net/20200820-5282
多くの人々が「好きな生き方を自由に選択できることが、人権が保障された社会」と考えている。「自由に死を選ぶ権利」も含まれていいかどうか。
尊厳死や安楽死の問題は、本人の自由意思が優先されることが重要だが、ACPが普及した後の段階でゆっくり考えればいいと思う。
ACP(Advance Care Planning)とは、まだ元気なうちに、将来、自分の意思決定能力が低下した時に備えて、望む医療や介護の方向性について、本人が家族や医師や介護提供者などと話し合いを持ち、コンセンサスを共有しておこうという仕組み。40才ぐらいにACPを作っておく。
論点7 日本社会のLGBTQへの対応は十分か
A.基礎知識
LGBTQとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クエスチョニングまたはクイアの頭文字、性的少数者の総称の一つ。最近はLGBTQより広い概念であるSOGI(性的指向と性自認)という言葉を使うようにしている。
a.同姓婚
G7でLGBTQは5つの国で合法的に結婚ができ、フランスはパートナーシップが認められている。日本のみが法的な結婚が認められず、パートナーシップが60ほどの自治体(2020年10月末現在)でかろうじて結べるだけの状況。
博報堂が行ったインターネット調査(2019年、約42万人対象)では、LGBT・性的少数者に該当する人は約10.0%。
B.自分の頭で考える
a.基本的人権
社会問題を考える時は、数の論理で判断できるのか、それとも数の論理とは関係のない人権に関わるのかを、分けて考える必要がある。LGBTQも夫婦別姓問題も基本的人権の問題で、多数決の問題ではない。
法律婚で夫婦同姓を強制しているのはOECD加盟国の中では日本だけ。日本は、国連に3回にわたって、夫婦別姓を認めるように勧告を受けている。
b.多様性
人間の性は多様で、性的思考や性自認によって差別されるべきではない。動物でも、子供を作らない少数派が存在する。少数派を包み込むことができる人間社会の方が、はるかに健全。少数派の人たちに優しい社会は、多数派の人たちにとっても暮らしやすい。
デンマークでは、ほとんどのトイレが男女別にはなっていない。全部が同じような個室仕様。基本的人権や個人の尊厳に関わる問題は、時間やコストがかかってもやっていくしかない。
LGBTQの権利拡大の動きは、ダイバーシティ実現を目指す流れの中に位置づけることもできる。
自分の頭で考える日本の論点 2へ続く
kojima-dental-office.net/blog/20210203-14589#more-14589
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