決断力
2008年11月02日(日)
羽生善治
角川書店
2005年7月10日発行
686円
最先端プロ棋士のきびしい世界から“自分の頭で考える”ことの大切さを改めて学んだ。好きなこと、興味を持てること、打ち込めるものを見つけられることが、いつまでも第一線で生きていくコツではないかと思う。どの世界においても、進歩している。今はこれがいいという勉強法でも、時間とともに通じなくなる。変えていかなければならない。
これからは、「忘れれば、脳のその部分に空いたスペースができる。そこから新しい発想が生まれるのではないか、むしろ忘れることはいい傾向ではないか」と考えていきたい。
1.未知の世界
相手も自分もまったくわからない世界で、自分の頭で考えて決断していく局面にしたい思いがある。知らないフィールドで戦うほうが面白いではないか。常識もマニュアルも通用しないカーナビがきかない場所では、自分の力が試されているようであり、充実感を実感できるはずだ。未知の世界に踏み込み、自分で考え、新しいルートを探し求める気迫こそ、未来を切り開く力になると私は考えている。
2.才能
目に見えて進歩はしていないが、少しでも前に進む意欲を持ち続けている人は、たとえ人より時間がかかっても、いい結果を残している。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションを持って継続してやるのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている。
「小さい頃から始めたほうが伸びる」というのは疑問に思っている。小さい頃に身につけたフォームを新しく変えるのは大変だ。年齢が上がってから覚えた人は、感覚よりも知識に頼る傾向がある。感覚より知識で覚えたほうが忘れやすいので、次を受け入れやすい。自分のスタイルを新しくすることができるし、進歩や変化に適応しやすい。
3.経験
経験には、「いい結果」、「悪い結果」がある。マイナス面に打ち勝てる理性、自分自身をコントロールする力を同時に成長させていかないと、経験を活かし切るのは難しくなってしまう。経験によって考える材料が増えると、逆に、迷ったり、心配したり、怖いという気持ちが働き、思考の迷路にはまってしまう。
4.常識
常識といわれていることを疑ってみることから、アイデアや新しい考えも生まれる。「こんなことはあり得ない」と思うのではなくて、理解していこう、吸収していこう、試してみようという気持ちや姿勢を、これから自分自身でも大事にしていかなくてはいけない、と強く思っている。常識では考えられない手が、実は、最も最先端の形なのである。対処の方策が確立していないのである。当たり前とされていたことが、どんどん変わっている。
5.決断
決断を下さないほうが減点がないから、決断を下せる人が生まれてこなくなるのではないか。決断とリスクはワンセットである。リスクの大きさはその価値を表しているのだと思えば、それだけやり甲斐が大きい。積極的にリスクを負うことは未来のリスクを最小限にすると、いつも自分に言い聞かせている。そして、決断をするときのよりどころは自分の中にあると思っている。
6.最新の情報にこだわっていく棋士
情報をいくら分類、整理しても、どこが問題かをしっかりとらえないと正しく分析できない。山ほどある情報から自分に必要な情報を得るには、「選ぶ」より「いかに捨てるか」のほうが重要である。
過去にどれだけ勉強したかではなく、本当に短い間に最先端の将棋を勉強しているかが問われるようになった。常に前進を目差さないとそこでストップし、後退が始まってしまう。今は最善だけど、それは今の時点であって、今は既に過去なのだ。最先端で争っていると、そこを避けることは、逃げることでもある。そして、だんだんと消極的な作戦しか選べなくなってしまう。
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