のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

挑戦

2022年01月15日(土)


 常識のブレーキをはずせ
著者 山中伸弥
   藤井聡太
講談社
2021年12月6日発行
1400円
 完璧になる前にやらないと何にもできない。経験を積めば積むほど新しいことを学ぶことが非常に難しくなってしまう。どんなことでも夢中になれることがあったら、それがどんな結果になっても、必ず自分の成長に繋がっていく。成功確率が低くても、信念や直観に基づいて進んだ道は別の新しい発見につがる。失敗をおそれずに挑戦する。何もしないということだけはやめて欲しい。
 山中伸弥、畑中正一著「iPS細胞ができた!」
kojima-dental-office.net/blog/20080817-1153#more-1153
 山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る
kojima-dental-office.net/blog/20211124-15014#more-15014
 AIに心は宿るのか(AIの将棋)
kojima-dental-office.net/blog/20180310-9144#more-9144
 羽生善治著「決断力」
kojima-dental-office.net/blog/20081102-1303#more-1303
1.限界を自分で決めない
 ①異分野の知に触れる
 iPS細胞を作ろうとし始めた頃、「これは絶対できないくらい難しいことをやっている」と自分たちは勝手に考えていた。今まで話したことのない植物の先生と話していた時、「万能細胞を作りたいけど、なかなか難しい」と言ったら、その先生が「植物の場合、万能細胞だらけ」と言われた。挿し木でどんどん増える。枝や茎を切ると、そこから万能細胞がわーっと出てきて、新しい個体ができる。その話を聞いた時に「難しい。もうできない」と自分で自分に勝手にかけていたブレーキがスーッと外れたような気がした。「植物がそうなら、動物もできる」と。それで実際、そこから数年でiPS細胞ができた。
 自分の専門分野だけ考えていると、どんどん凝り固まってしまって、自分で限界を決めてしまうところがある。違う分野の人と話すことによって、自分のマインドが変わる。
 ②ワクチン開発はiPS細胞がきっかけだった
 mRNA技術が注目を浴びるきっかけになったのはiPS細胞だった。iPS細胞をステップにして、さらに飛躍するという海外の研究者の信念や心意気が今回のワクチン開発に繋がった。日本人は一つ成功したら満足してしまう傾向がある。
 他にもいろいろできるはずだと、さらに上の可能性を目指すというメンタリティ、そして少々の困難があっても諦めない、資金を集める粘り強さが、今回のmRNAワクチンの成功に繋がったと思う。自分で限界を決めない彼らに学ぶ点がすごく多い。
 ③新型コロナウイルス感染症を経験して
 アメリカやヨーロッパでは、専門が感染症以外の研究者も、なんとか自分の研究をコロナ対策に活かせないかと、一斉に動き出した。彼らは変わり身が早く、自分の限界を決めていなかった。すごく柔軟性を感じた。
 日本の縦割りの構造は、平和な時は非常にうまく働くが、非常時には弊害になる。「これは自分の研究分野ではない」と自分で限界を決めてしまっている。非常時にもっと素早く対応できるような人材や力を蓄えないと、今後同じようなパンデミックや異なる脅威が地球を襲う時に日本の存在を示されないと、今回痛感した。
 ④AIが常識というブレーキをはずす
 AIが人間の思いもつかない手を指してきて、棋士の人たちの常識というブレーキを外してくれた。「なぜこの手が優れているか」という理由まで言ってくれないから、AIが示した手をそのまま覚えても役に立たない。それを拒絶するのではなくて、自分なりに考えてその意味を理解し、咀嚼した上で取り入れていけば、自分の力になる。
 忖度するAIも研究されている。「接待将棋」は、対戦するうちに相手の棋力を把握して、微調整しながら勝つか負けるかギリギリのいい勝負をする、それで最後は負けてあげるという将棋ソフト。
 研究でも思いこみがいっぱいある。人間だけで考えてしまうと、これまでの常識内でしか解釈できないが、AIが研究の常識を破っていく。AIが異なる文化の壁を勝手に破ってくれている。
2.藤井聡太の将棋
 ①負けから学ぶ
 負ける時は、しっかり相手を認めて投了すべき。「感想戦は敗者のためにある」という言葉は、その意義をよく表している。他の勝負の世界では珍しい。
 勝った将棋はもう過去のことなので、負けた将棋の方が印象に残る。自分の単純なミスで負けた対局よりも、実力で負けた対局が印象に残りやすい。終盤の時間がない中で判断を誤ってしまうのは、自然なこと。それよりも、時間が十分ある状況の中で、自分が判断ミスをしているところがないかどうかを重点的に見るようにしている。
 振り返る時に一番重視するのは、初めて形勢が傾いたポイント。負けた将棋を振り返り、改善すべき点をフィードバックして、次につなげていくことが大事。
 悪手には対局中に気付くものと、対局後に振り返って気付くものの二つがある。自分の場合、対局中に気付いた時は精神的にかなり落ち込む。でも対局中に以前の局面を考えてもマイナスにしかならないので、ぱっと切り替えて、今の局面における最善手を探すようにしている。
 ②「無極」
 色紙に押す印に「無極」と刻んでいる。自分で限界を決めない。強くならなければ見えない景色は確実にあると思うので、そうした景色を見るところまでいきたい。
 基本的には、初めて見る局面でどれだけ最善に近づけるか、未知の局面でどのように対応できるかが実力だと思う。
 意識していることは、リスクをとることを厭わないこと。「すぐには負けないけど、なかなか勝つのも大変という手」よりも「うまくいけば勝ちに繋がるけど、逆に読み抜けがあったら負けになってしまうような手」を意識する。きわどい変化の方をしっかり読んでいく。形勢の均衡がとれた局面が長く続く対局が理想。
 ③詰め将棋
 詰め将棋の選手権を5連覇。詰め将棋は趣味。
 チェスは差し手が進んでいくと、駒が減っていって差し手の分岐も減っていく。持ち駒が使える将棋は局面が展開して行くにつれて、むしろ複雑になる。将棋は終盤の激しさが大きな特徴。
 詰め将棋の解答が頭の中では分かっているけど、文字にする時に間違えた。見直しても気付かなかった。先入観でミスしてしまう。
 ④棋士の実力
 今の棋士が一番強い。後世の人は、優れた人の成果を学ぶことができる。将棋の棋士は、20代半ばから30代が実力的なピーク。囲碁の世界では、10代後半から20代前半が活躍されている。
 年齢による将棋の指し方の変化が脳細胞の変化によるという話は自分にはなかった視点で、とても刺激的だった。50代の自分がiPS細胞の力で強くなっているかもしれない。
3.山中伸弥の研究人生
 ①デイル・ドーデン著「仕事は楽しいかね?」
kojima-dental-office.net/blog/20220121-15314#more-15314
 
世の中の成功者は誰よりも「試す」を繰り返してきた。どんどん新しいことに挑戦しなさい。だいたいうまくいかない。でもとにかく挑戦しないと何も始まらない。失敗しても努力を続けることが大切だ、結果を楽しめ。やらずに後悔するよりは、やって失敗する方がいい。何も挑戦しないのが一番の失敗。
 研究者は、何十回もトライして失敗ばかりだから、回復力や忍耐力が強い人が多い。思い通りに行かないのが基本なので、研究は短距離走ではなく、明らかにマラソン。
 予想と違ったら、できるだけ忘れたい。記録を残す気力がない。もったいない。予想と違っても、結果をちゃんと記録して解析する。そこから本当に思いがけないことに繋がる。
 ②ビジョン
 明確なビジョンを持ち、それに向かって懸命に努力することが、研究者として人間として成功する秘訣だと留学中に恩師から教わった。ビジョンがなければ努力も無駄に終わってしまう。
 ③プレゼンテーション
 研究者が成功するためにはよい実験をするだけではなく、その成果をきちんと発信するプレゼンテーションの力が必要。
 アメリカのグラッドストーン研究所のプレゼンテーションのゼミでは、発表後に本人がいないところで他の参加者が遠慮なしに批評し、その全てを録画したものを、後で発表者に見せるというシビアなもの。
 論文の書き方では、単語の選び方から文章の構造、論述の順序など、人に分かりやすく伝える仕方を学ぶ。
 ④外国に行って初めて分かる
 コロナ禍が始まる前は毎月10年以上、サンフランシスコのグラッドストーン研究所に通っていた。世界中から集まる20代、30代の研究者と話していると、国によって美意識や価値観が違う。
 基礎研究をしているアメリカ人は、職人の日本人とは全然違う。「これでひと花咲かせてやろう」とか「ベンチャーをつくってやろう」とか狙っている。アメリカの科学者は非常に明るい。前向き。日本人は職人。小さいものを千個作ればいい。アメリカ人はエレガントに1個のシステムでつくりたい。
 ⑤「どうして歳をとるのか」
 10代の細胞と50代の細胞は、同じ細胞だけど、全然違う。その仕組みを理解してiPS細胞の技術を応用して最初の状態も戻す。注目されているのは、iPS細胞を作るのと同じ技術を体内で直接働かせる研究。それができたら、体の中で若返りができる。脳細胞も。
 ⑥研究者のピークは40歳ぐらい
 研究者の場合はアイディアと柔軟性は20歳ぐらいがピークで、後は下がっていく。でも、発想する力は少しずつ下がっていくけど、逆に経験値が上がっていくから、二つを足してピークになるのは40歳ぐらい。経験を重ねるにつれ知恵がつき、いろんな局面で重要な判断ができるようになる。自由な発想力は若い人にはかなわない。
 ⑦新型コロナウイルスに関するサイト
 二つのメッセージを伝えたい。一つは、「そんなにすぐには終わらない」。長い対策が必要なので、そういう心構えでいないとダメージが大きい。もう一つは、「長いけれども、必ず出口はある」。5年後には間違いなく収まっている。がんのようになかなか決定的な治療法がない状況とは全く違う。

 

考え方の最新記事