小島歯科医院 名誉院長ブログ

地域で取り組む「在宅療養高齢者」の食支援

2016年08月25日(木)


―歯科医師として多職種連携から垣間見るものとはー
講師:公立能登総合病院歯科口腔外科部長 長谷剛志先生
 前回の長谷先生の講演 嚥下機能にあわせた食形態
kojima-dental-office.net/20131020-1277#more-1277
メモ
A.少子高齢化の将来
 a.推計値
   平成52(2042)年には、高齢者人口は約3900万人でピーク   
      平成72(2060)年には、高齢化率が39.9%、2.5人に1人が65歳以上
      2100年には人口が約5000万人となり、そのうち50%が65歳以上
 b.通院できない歯科難民が増えている
   ・入院中の医科から歯科への紹介者数は80歳代がピーク
     (歯科からの紹介は60歳代がピーク)
   ・目的は口腔機能管理
     「食べる」機能の評価
     誤嚥性肺炎の予防 
   ・治療よりもケアや支援の要望が多い(1:5)
 c.ケアマネージャーや訪問看護師が歯科に望むこと
    第1位 肺炎予防のための口腔ケアについて
    第2位 食事介助が困難な症例(認知症)の対応
    第3位 胃ろう患者の口腔機能回復(リハ)について
    第4位 口腔ケア難症例(口腔出血など)の対応
    第5位 咀嚼と適応形態について

   *要望に応えられるように研鑽が必要

B.「誤嚥性肺炎」に関する口腔環境因子
  乾燥痰と口唇炎が見られる時に誤嚥性肺炎のリスクが特に高い
  歯垢・食物残渣、口腔乾燥、舌苔が見られる時も注意が必要

  参考に 口腔内はある程度きれいにできるが、咽頭部の汚れを何とかしたい
   特許申請:特2014-0069 咽頭ケア器具 喀痰吸引チューブ「からめと~る」

C.食支援

    a.食事観察のポイント
  ・認知問題、口腔問題、咽頭問題、食形態、姿勢など多岐にわたる
  ・食事支援チェックシートを利用する
      食事観察支援ソフト「い〜とみる」
www.eatmiru.com/

    全身状態:1.どこか元気がない様子である
         2.現在37℃以上の発熱がある
         3.声掛けしても目を閉じたままである
         4.食欲がない
         5.自分一人で食べることが困難である

    認知:  6.食べることを促しても拒否する
         7.食べもの以外のものを食べようとする
         8.落ち着きがなく食事に集中しない
         9.丸飲みしている様子である
         10.なかなか食事が進まない
 
   口腔機能: 11.食べこぼしがみられる
         12.上手く噛めない様子である
         13.食事のときに入れ歯の装着を嫌がる
         14.食後、口腔内にたくさんの食物残留がみられる
         15.口腔ケアすることを嫌がる
 
   咽頭機能: 16.お茶や汁物でむせる
         17.固形物(お茶や汁物以外)でむせる
         18.痰絡み(濁声)がみられる
         19.一口量にもかかわらず飲み込みに時間がかかる
         20.飲み込むときに苦しそうな表情がみられる
  
   姿勢:   21.体が左右どちらかに傾いている
         22.極端にうつむいた状態である
         23.頭部が後方へ仰け反っている
         24.麻痺や緊張がみられる
         25.食事中に姿勢が崩れやすい

        25項目を入力すると、考えられることや対応策も表示される。
      それを参考にする

 b.「ゴックン」だけではなく食事全体を診て評価する重要性
  ・経口維持加算も今回の改正で変わった
    嚥下機能評価 → 食事観察評価
    歯科医も指示を出せるようになった
  ・嚥下調整食学会分類2013の食形態を嚥下食と咀嚼食の2つに大別。
    咀嚼食は歯科医師の出番。
嚥下食と咀嚼食1 嚥下食と咀嚼食2 嚥下食と咀嚼食3 嚥下食と咀嚼食4

  ・食力class分類
        ⅡとⅢでは胃ろうから経口に復活できる可能性がある

 c.対応策をミールラウンドの進め方
      ステップ1  食事場面を「観察」する
      ステップ2  機能低下している所見を「チェック」
      ステップ3  チェック項目より「考えられること」を検討
      ステップ4  「考えられること」より「対応策」を検討
      ステップ5  計画性のある「食支援」を実行
      ステップ6  定期的に「再評価」する

 d.「食支援」を成功させる道標
      ①誰が         ライフステージは  歯科的問題は
                            原疾患  認知機能  ADLは
      ②いつ         朝・昼・晩  間食
      ③どこで        病院・施設・自宅
      ④どんなものを     食形態は  食材は  調理は
      ⑤どれだけ       カロリーは  栄養は
      ⑥どのように            家族は   介助は  胃ろうは

      食べるか     ①~⑥を個々にイメージしながらプランニング

 e..課題
   ・病院に入院中の「歯科難民」に対応できる医科歯科連携を構築する
    ・ 誤嚥性肺炎のリスクが高い「口腔環境」をトリアージできる
    ・退院後の療養環境につなげるシームレスな食支援連携(地域包括)
    ・「食べる力」を多角的に評価できるシステム作り
    ・地域で提供される「摂食嚥下食」の形態呼称と内容の互換性を得る
    ・胃ろう造設時に予後を推測できる「摂食嚥下機能評価」を考える
   
日ごろの疑問の解決のために
なんでも学術!なんでも回答?
よろず勉強会 第42回
とき:2016年8月25日(木)午後7時15分~午後8時45分
ところ:近江町交流プラザ4階・研修室1
対象:保険医協会会員(参加は無料です)チラシ第42回よろず勉強会
申込み:8月22日まで(講師の先生への質問がある場合は、8月18日まで)に、
    お名前と医療機関名を記入の上、お申し込みください。
主 催:石川県保険医協会 
  金沢市尾張町2-8-23 太陽生命金沢ビル8階
   TEL 076-222-5373 FAX 076-231-5156
   Eメール ishikawa-hok@doc-net.or.jp 

【講演抄録】増加の一途をたどる在宅療養高齢者の「食べる」機能を支援するには、口腔の器質的、機能的問題の解決が鍵となります。そのためには、老化に伴う口腔の退行性変化と「食べる」機能に関与する様々な修飾因子(疾患・薬剤・栄養・呼吸・食形態・姿勢など)について見識を深めるとともに、地域に裾野を広げるシステム作りが必要です。
今回の勉強会では、地域の特性を把握し、職種間の垣根を超えた「食支援」の道標について紹介します。①「食べる」機能の維持・向上、②誤嚥性肺炎の予防、③爽快感の提供、④コミュニケーションの円滑化、⑤社会性の維持など機能帰結(ケア効果)を大まかに予測した地域での取り組みについて紹介する予定です。

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