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人間の感覚のすばらしさ

2008年08月01日(金)


 これまで歯科医師は、いかに無痛治療をするか、どうしたら歯が残せるか、いかによい義歯を入れるかを目標にしてきた。義歯を作るだけで、食べられるか確認をしてこなかった。 食べるところまで診て帰える生活支援の在宅往診が見落としていた食の重要性を気づかせてくれた。口から食べられるようになったときのあの目の輝きは医療人としての心の原点ではないだろうか。口から食べることにより、目を見張るほど元気になっていく。人間の感覚のすばらしさに感動する。  「口から食べる」と言うことを満足させるためには、歯科治療と、汚れた口腔に対する口腔清掃、そして口腔周囲の機能低下に対する口腔周囲のリハビリテ-ションという3本柱が必要である。
 食事のあとに食べかすが残る。若い人の汚れとは違う。食べ物そのものが残っている。綺麗にしてあげることだけが「口腔ケア」ではない。何処に問題があるのか「ニ-ズ」を発見し、綺麗にする能力を身につけることが目的となる。 口腔の状態や問題からダメ-ジを理解し、軽減する関わりを「口腔ケア」と言う。歯が痛いから食べられない。そうすると食べる意欲も減退し、ADLも低下する。そして、起きる意欲もなくなり、さらに痴呆がひどくなる。
 医師、看護・介護に携わる看護婦、保健婦、ヘルパ-やリハビリ職の方々とともに協力しあい、互いに「教わる心」を持ちながら、プロとしての自覚を忘れずに、食の回復が人間性の回復への道になることを歯科衛生士と共に目指していきたい。

口から食べる
①口から食べる喜び
 楽しい食事は、生きる力の源になる。単に栄養を取り込むだけでなく、同時に舌触りや歯ごたえなどを感じることによって、よりおいしく感じ、口から食べる喜びを味わえる。そして、おいしい料理を口から食べると、うれしい、楽しいなどの感情がわき、食欲が刺激されて、もっとたくさん食べたくなる。
 また、視覚や味覚などが脳を刺激し、心をリフレッシュさせる効果もある。それは口の筋肉や歯、舌を使い、味覚や触覚、温覚、嗅覚、聴覚を感じながら食べることによって得られる。

②食べることは全身動作
 目の前においしい料理があると、それは目を通して脳に伝わり、唾液も分泌される。そして、口元に食べ物を近づけるために、頸部の筋肉が働き頭を支え、目と手との協調により食べ物を口に持ってくる。口に食べ物が入ると、舌と頬の助けによって、咀嚼が始まる。同時に唾液が分泌され、食べ物を飲み込みやすくする。のどを通る大きさに丸めてのどの奥に移動させると、脳に刺激が送られる。すると反射的に、食べ物を飲み込む「嚥下反射」が起こる。

③食事の介助
 食べるという行動は誰でも同じなので、自分のことをよく観察すると介助の仕方もよくわかる。障害があれば、そこだけカバーしてあげればうまく食べられる。
 例えばお茶を飲む時を考えてみる。コップを軽く持ち、口の前で一回止めて一呼吸置いて、右利きであれば右下方から口へ介助する。コップが下口唇に触れて始まり、呼吸を吸い込むとともに静かに傾け、上口唇の動きで一回量を決める。上口唇を閉じて、舌を口蓋に当てて飲み込む。実際に水分補給をどうしているかを必ず見るようにしている。
 また、とにかく細かく刻んだり、咬まなくてもいいものにすると、食べ物の持ち味を失ってしまい、食欲がわかなくなる。噛める堅さの上限を見つけて、嗜好を尊重して調理法を工夫してください。好物で試してみると食べられる堅さがわかる。

④実際の訪問歯科
    患者さんの家族、ケアマネージャーから依頼があると、双方の都合を調整してだいたいの予約を取る。そして、2,3人の歯科衛生士を連れて患者さん宅を訪れる。できるだけ普段見ているご家族とケアマネージャーの同席をお願いしている。初日は保険証の確認、記載事項が多いので多人数の訪問になる。
 まず、他職種からのコメントも参考に全身状態を把握する。また、食事内容の評価をしたり、比較したりしている。今後使いやすく安全なアセスメントの確立が重要に思われる。
 次に歯科の分野になる。依頼の多くは、「虫歯がある。歯肉が腫れている。義歯が合わない。」などが原因で痛くて噛めないことが多いようである。口腔内をしっかり観察する。また、食べ物がそのまま口の中に残ることとプラークが付着しているのは明らかな違いがある。プラークはブラッシングの問題であり、一方食物残渣は口腔機能の問題であり、リハビリの対象になる。口腔リハビリは毎日行うことがベストである。ご家族や他職種の協力が必要になる。うがいできるかどうかは口腔ケアの難易度の重要なポイントになる。そして、口腔清掃自立度や口腔機能状態も加味して治療計画を立てる。

 

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