夕陽ヶ丘苑 2
2016年12月07日(水)
介護予防事業所における口腔ケア従事者育成事業
基礎講習会「口腔ケアを考える」
講 師 小島登
日 時 平成28年12月7日(水)9:30~11:30
会 場 特別養護老人ホーム夕陽ヶ丘苑
参加者 看護師、介護士 24名
前回の講習会
kojima-dental-office.net/20131002-726#more-726
7日(水)午前9時半から11時半まで特別養護老人ホーム夕陽ヶ丘苑にて、基礎講習会「口腔ケアを考える」を行いました。看護師、介護士 24名の参加があり、熱心に聴講し、相互実習にも積極的に取り組んでいました。それぞれに介助をする上での気づきがあったようです。また、開口したままで口腔乾燥が著しい方や原始感覚の強い入居者さん、麺類をすすれない方などの対応について話し合いました。
用意するもの
各自 歯ブラシ、コップ、スプーン、手鏡、ガーグルベースン
施設 パソコン、プロジェクター、スクリーン
トロミ茶、お茶ゼリー、水
医院 パワーポイントデータ、レジュメ、
資料(お口の管理手帳、嚥下体操、唾液腺マッサージ、)
口腔ケアグッズ(タフトブラシ、アイスマッサージ、口角鈎)
レジュメ
はじめに
【歯科訪問診療の対象者】
1.自宅など居住地であること
2.通院が困難であること
3.依頼があること
が必要。
口腔ケアとは
1.本人・家族・介助者の口腔清掃
うがい、歯磨き、義歯の清掃、粘膜・舌の清掃
2.歯科衛生士による専門的な口腔ケア
①治療的なクリーニング(器質的な口腔ケア)
②口腔機能回復(機能的口腔ケア)
リラクゼーション(脱感作)、口腔周囲筋の運動訓練、
咳嗽(せき払い)訓練、嚥下促進訓練、発音・構音訓練
【口腔ケアの効果】
1.誤嚥性肺炎のリスク回避
2.風邪・インフルエンザのリスク回避
3.食べる意欲の改善
4.栄養状態の改善(MNAスコア)
5.認知症予防
【ポイント】
・プラークと食物残渣は違う。
前者は清掃の問題、後者はリハビリ。
・麻痺側、使わない方が汚れる
口から食べていない経管栄養の方が汚れる
食べなくても清掃する
・うがいができるかどうかは口腔ケアの難易度の大きな目安
・下唇がスイッチ、上唇が1回量
・胃ろうでも誤嚥性肺炎は起きる
唾液は呑みこんでいる
・舌を口唇より前に出せない人は、下の総義歯を使えない
・入れ歯の効果
上の入れ歯入れるだけ唾を呑み込みやすくなる
入れ歯を上下入れて奥歯がしっかり咬めると、
お腹に力が入り上体を起こしやすい
A.口から食べる支援と口腔リハビリ
a.誤嚥性肺炎
1.原因が食品なのか唾液なのかを区別する
・絶食
・脱水症や低栄養
・食べる意欲・楽しみ
2.唾液誤嚥
・嚥下反射・咳嗽反射惹起遅延
・嚥下運動はほぼ咽頭粘膜の反射
咽頭粘膜の感覚低下
覚醒・意識レベルに左右される
筋力の低下ではない
大脳皮質の関与は不要
・アプローチ
口腔ケアにより衛生状態を改善(対症療法)
末梢刺激による機能回復への期待 冷水刺激
3.食物誤嚥
・嚥下筋の筋力・緊張低下
・咀嚼力の回復は嚥下力の回復ももたらす
4.嚥下と呼吸の協調性低下
①口呼吸になると誤嚥の問題が生じる
・口呼吸するのは人間だけ 言葉を話すため
・口呼吸≠習慣性口呼吸
激しい運動をすれば補助的に口呼吸が始まる
安静時でも口で呼吸している場合は習慣性口呼吸
②呼吸が速く、嚥下に時間がかかるので、
(特に男性は喉頭が重く下がっている)
嚥下後に吸気になる割合が高まり誤嚥しやすくなる
速く回した縄跳びに入るようなもの
若年健常者は無意識にする嚥下を呼吸の呼気中に息を止めて呼気中に終わることで誤嚥を防いでいるが、高齢者になると嚥下が吸気中に起きて誤嚥しやすくなる。
b.口の働きの発達
身体自立 → 生活自立 → 社会自立
身体自立 生理的な調整機能と感覚運動調整機能
生活自立 「食事・睡眠・排泄・着衣着脱・清潔」
オムツ内排便「ゼロ」に取り組み
全国6000の特養のうち110カ所
石川県は多い
アイコンタクト(スキンシップと話しかけ)が必要
・口腔の過敏さを除去しないと、
スムーズな感覚入力と緊張のない筋肉運動ができない
・優しく全身を触ることで、情報が入りやすい体と心が形成される
1.原始感覚系 → 識別感覚系
・触覚は、二つの神経伝達ルートを持つ。
原始感覚系の神経回路 生体の防御や危険回避を行う
識別感覚系の神経回路 対象物の大きさや性状や形などの識別を行う
・原始感覚系の神経回路が優位にある敏感な人は、
不意に顔や身体を触られることを嫌がる。
・どんなに敏感でも触れたまま動かさなければ感じなくなり
身体は識別系へと転換される
・何をしても痛いは、原始感覚系の神経回路が優位な人
目を開けることから始める →識別系感覚系へ
頬→口唇→舌と歯との間に指を入れる、止める→舌を触る
2.反射的な運動 → 随意運動
・反射的な運動
口に手を持っていく運動
音の方に首を向ける運動
・運動に「意識」が入ることにより機能を形成する力が格段に向上する
・鏡を見ても舌をまるめたり平にしたりできない
3.固有感覚
・触覚
「皮膚感覚」皮膚からの刺激を伝える
「固有感覚」皮膚の内部(筋肉や関節や靱帯)からの刺激を伝える
・固有感覚はいくつもの筋肉の協調運動によりチカラ加減を作り出す
・ぶどうパンや豆ご飯など混ざったものを嫌う。一品食べとして現れる
・筋肉の調整が利かないために動きが速くなりがちで、
チカラ加減のない乱暴さを感じる。
廊下をバタバタ歩く、怒鳴ったようにしゃべる、転びやすい、
身体が硬い、指が上手く折れない、折り紙の端が合わない、
筆圧が強い
c.口から食べるために
1.要介護者の食生活
・むせや誤嚥がないかチェックする
・食べていた頃のように介助・工夫する
・下唇がスイッチ、上唇が1回量、口を閉じて嚥下する
・目を閉じて食べさせてもらうと、介助の仕方がよく分かる
・みじん切りはばらけて食べにくい
・唾液が少ないとまとまらない
・ほんの少し痛くても食べなくなる
義歯の調整や修理
・上の前歯があるだけで食べやすくなる
2.姿勢を整える
①上肢を使用できる安定した座位姿勢
・骨盤を左右対称に
・重心を座骨に(尾骨ではない)
*円背の時にずり落ちる
・両足底を接地する
・麻痺側上肢を机上に置く(麻痺側体幹の短縮防止)
②頭頸部が軽度に前屈
・飲み込みやすい首の傾き
口角と耳珠を結んだ線が下向き
送り込みに苦労する場合は水平に近づけるが、逆向きにしてはいけない
・「介助」で食事姿勢を作る
前傾しやすいように車いす座面の後方を持ち上げ水平にする
座布団を敷いて相対的にテーブル面を下げる
背中の上半分にタオルを挟んで前傾に
3.口を閉じて嚥下する
・上唇を育てる ストロー→ コップ飲み、風船の膨らまし
・上顎前歯があれば上唇の筋は鍛えられる
上顎だけでも義歯を入れる。
舌が上下、左右に動くようになってから下顎の義歯を作る
B.日頃の口腔ケアを適切に行うポイント
a.本人(介護者)が行うセルフケア
・誤嚥させない
・口腔ケアはできるだけ痛くないように気持ちよく
・保湿が大切(特に口唇)オーラルバランス等を利用する
・前歯部は鋭敏なので奧から歯ブラシを当てる
b.ケアしやすい姿勢と高さ
・座位が取れる方はその姿勢で
・ベットの方は背中を30~60度ぐらい少しずつ上げ、
膝を軽く曲げ、身体が足元へずれていかないように工夫する
・全くの寝たきりの方で、ヘッドアップに危険性があり水平位で
行う場合は誤嚥に特に注意し、健側を下にする
・術者の腰に負担のかからないように高さを調整する
c.歯科医師、歯科衛生士が行う専門的口腔ケア
d.口腔ケアグッズ
口角鈎
e.口腔ケアに伴うリスクの管理
奧から手前への清掃が基本
誤嚥を防ぐために姿勢が大切。口の健常側を下にする
舌の観察 舌苔、地図状舌、舌下部静脈
誤嚥は始めに起こりやすいので、10分以上前から口腔ケアの体勢を整えておく
食後30分ほど座位を保つ 直ぐに寝かせない
C.相互実習 2人一組
2人一組 目を閉じる
コップでとろみ茶を飲んでもらう
スプーンでお茶ゼリーを食べさせる
立って、座って、右利き・左利き
声かけ、下唇スイッチ
歯ブラシにて下7番舌側と上7番の遠心を磨いてもらう
上唇小帯の痛みを体験
D.口腔内状態と口腔機能
a.歯肉
1.歯肉炎Gingivitis=Gingivitis without attachment loss
歯肉に限局した炎症で発赤、腫脹が見られ、無痛に出血します。
歯肉炎は非特異的感染であり、プラークの増加が原因と考えられます。
2.歯周炎Periodontitis=Gingivitis with attachment loss
レントゲンにて歯槽骨吸収が見られます。
歯の支持組織の破壊を伴う歯周炎では
特異的な感染が見られます。
歯周病原菌
Porphyromonas gingivalis
Tannerella(Bacteroides)forsythensis
Treponema denticola
Prevotella intermedia
Aggregatibacter(Actinobacillus)actinomycetemcomitans
などが考えられています。
①腎疾患
②糖尿病
b.舌
・舌苔は積もった状態ではなく、舌乳頭が伸びてブドウ球菌が付着したもの
・ガンジダは抗真菌薬(フロリードゲル経口用を1日5グラム、
3回に分けて7から14日塗布)
・地図状舌 ストレス
・舌静脈
c.口臭
・朝起きた時は誰でも口臭があるが、食事をすれば消える。唾液で洗い流される。
d.口腔乾燥
・安静時唾液分泌は低下するが、刺激時唾液は変わらない
・咀嚼刺激が唾液分泌を促す
・補綴治療でしっかり咬めれば唾液は減らない
・高齢者だから食塊形成ができないということはない
・加齢によって味細胞は減らない
・唾液分泌によって味刺激を可能とし、味覚により唾液分泌を促す
e.口腔機能
・舌打ち、舌による口蓋の海苔剥がしなど
・ぶくぶく、ごろごろのうがい
・パタカの発声やアウベ体操
・食事時の姿勢
最後に 重点対象者の診察と個々の歯科治療や口腔ケア計画の立案
①お口のトラブルがある(歯が痛い、入れ歯が合わない)
②口臭や舌苔、歯肉からの出血がひどくなってきた
③食物残渣が増えてきた、口腔内に麻痺がある
④うがいができない、経管栄養の方
⑤微熱を繰り返す、むせがひどい、呑みこみづらくなる
⑥食欲がない、体重が減少してきた
⑦入所間もない方
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