小島歯科医院 名誉院長ブログ

児童虐待と歯科医師の関わり

2008年07月31日(木)


児童虐待の早期発見に協力しよう
歯科健診に虐待の早期発見の側面  
 近年、児童相談所に寄せられる児童虐待の相談件数は年々増える傾向にあり、特にここ2,3年は大幅に増加し、平成13年度には23,274件にも及んだ。これは、報道などで広く扱われるようになって関心が高まり、また平成12年11月20日に施行された「児童虐待の防止等に関する法律」をきっかけにいろんな機関が積極的に取り組むようになり、顕在化したものと思われる。被虐待者は抵抗できない幼若な弱者がほとんどであり、0歳から小学生までが8割以上を占め、半数は就学前の乳幼児である。また主たる虐待者としては実母が圧倒的に多く(約60%)、震撼とさせられると同時に、虐待現場の根の深さを感じる。内容別では身体的虐待とネグレクト(保護の怠慢ないし拒否)だけで8割強を占めている。つまり比較的外見上発見しやすく、医療機関が注目し対処すべきところであると思われる。
 東京都は、乳児院や児童相談所で一時保護している1歳から12歳の被虐待児170人を対象に、昨年7月から今年1月にかけて、全国で初めて虫歯と児童虐待との関連調査を実施した。この調査結果によると、被虐待児の虫歯所有率は都内平均の2倍以上あった。被虐待児に虫歯が多い原因について、都では「保護者の養育の放棄や怠慢が大きく関係している」と分析している。

 医療機関からの通報は約5%であるが、歯科医師も子供の異常を早期に知りうる立場にあることを自覚する。これまで虫歯の早期発見や口腔の健康を見守るためと思っていた歯科健診に虐待の早期発見の側面があることも頭に入れていなければならない。必要な治療を受けさせず放置されていたり、常識的にみて説明の付かない症状や創傷があったり、多数の新旧混在性の外傷があれば、児童虐待を疑い、写真撮影やスケッチなど詳細な記録を残すことを心がけなければならない。歯科医師としてそれらを看過することなく、社会的責任を果たすことは極めて重要となってくる。子供や保護者からのSOSに勇気を持って気づき、できるだけ早く軽いうちに共感し保護者を支える。そしてこれはひとりの判断ではなく、地域のチームワークで取り組んでいくことが望ましい。それによって少しでも多くの子供が明るさを取り戻し生き生きと成長できることを願ってやまない。

参考に
 虐待の理解・各関係機関の役割と対応
kojima-dental-office.net/20121113-3156
 三重県歯科医師会の「歯科医の立場からの児童虐待防止と子育て支援(児童虐待防止マニュアル」
www.dental-mie.or.jp/110/index.html 

 児童虐待を察知した場合の対応マニュアル、医師らに配布/神奈川保険医協会
www.kanaloco.jp/article/12314

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【1】●虐待受けると虫歯になりやすい 都が関連調査/東京都
  虐待を受けている子はほかの児童に比べ虫歯になっているケースが多いことが30日、東京都が全国で初めて実施した虫歯と児童虐待との関連調査で分かった。都では「歯科健診が虫歯の早期発見にとどまらず、虐待の早期発見にもつながる」として、市区町村が中心になって取り組んでいる「児童虐待防止ネットワーク」に都歯科医師会の参加を促し、虐待発見のための連携態勢を構築していく方針。
  調査は、乳児院や児童相談所で一時保護している1歳から12歳の被虐待児170人を対象に、昨年7月から今年1月にかけて実施した。調査結果によると、6歳未満の被虐待児の虫歯所有率は47.62%と、都内平均の20.93%の2倍以上。1人平均の虫歯本数も、都内平均0.88本の3倍以上にあたる2.99本あった。また、6~12歳児の永久歯の虫歯所有率は、都内平均が34.22%なのに対し、53.49%。特に7歳児は38.46%、8歳児が58.33%と都内平均の2倍以上あった。
  被虐待児に虫歯が多い原因について、都では「保護者の養育の放棄や怠慢が大きく関係している」と分析。「児童虐待防止ネットワーク」では、保健所や学校、児童相談所などが情報交換を行っているが、歯科医師会もネットワークに加わる必要があると判断した。都では今後、教育庁とも連携し、歯科健診で児童虐待を早期に発見する取り組みを強化するという。

 【2】●愛知県歯科医師会 児童虐待、歯で発見を マニュアル作成、全国にも配布
  愛知県歯科医師会(宮村一弘会長)は、児童虐待の早期発見に協力しようと、医師の対応マニュアルを作成、全国の歯科医師関係者に配布した。歯科医師会としては全国でも初めて。愛知県では児童相談所などが虐待として処理した件数が01年度で1,155件にのぼっており、全国でも高い水準にある。さらに増加の傾向があるため、県などはすでに医療、教育機関への虐待防止マニュアルを作成してきた。歯科医師会でも「歯科医も子供の異常を早期に知りうる立場にある」として、宮村会長らが県警や大学病院の協力も得てマニュアル作りに取り組んだ。
  A4判29ページで5,000部作成。被虐待児の特徴として(1)顔面や口腔に新旧混在の外傷がある(2)口腔の衛生状態が悪く、ひどい虫歯や歯の欠損がある(3)口腔内に異物が混入している――などを指摘。「常識的に説明がつかない傷や必要な治療を受けさせていない場合は虐待を疑う」と指導している。また歯周辺の傷が虐待発見のバロメーターとなることから、写真を撮影するなど、詳細な記録を残し、カルテとともに保存することを呼びかけている。宮村会長は「小児科医などに比べ、虐待を発見する機会は少ないかもしれないが、わずかな事例からでも子供を救えれば」と話している。すでに県内の歯科医をはじめ全国歯科医師会に配布。さらに2,000部を印刷し、校医などにも無料で配布する予定だ。

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