顎関節症の最新の考え方と治療法-世界標準的視点から-
2019年09月29日(日)
講 師 島田 淳 氏(グリーンデンタルクリニック理事長
と き 2019年9月29日[日]午前9時半~12時半
ところ ホテル金沢4階 エメラルド
対 象 歯科会員、会員医療機関のスタッフ(定員100人、参加費無料)
申込方法 島田淳先生講演チラシ
*申し込み締め切り9月24日(火)
申込先 石川県保険医協会
電話:076-222-5373 FAX:076-231-5156
Eメール:ishikawa-hok@doc-net.or.jp
主催 石川県保険医協会
メモ
診断が重要。自然治癒もある。心の問題や環境、習癖も視野に入れる。
考え方に時代の変遷有り、かなり統一されてきた。
参考に 顎関節症・咬合治療
kojima-dental-office.net/category/etc/kansetu
1.顎関節症の診断基準(2003年)
①顎関節や咀嚼筋などの疼痛
(咬筋、側頭筋、内側・外側翼突筋のほか顎二腹筋、胸鎖乳突筋を含む)
②関節(雑)音
③開口障害ないし顎運動異常
の主要症候のうち、少なくとも1つ以上を有すること
*3つともなければ、顎関節症ではない
2.顎関節症(TMD)の自然経過
ManfrediniD ,et al 2013,栗田2002,2003,1998
・咀嚼筋痛 23~36か月66%改善
・顎関節痛障害 23~36か月52%改善
・顎関節円板障害
復位性が非復位性 10%以下
非復位性における症状の改善
2~4週間 23~33%
6か月 34%
1年 50%
・変形性顎関節症 2年半53%改善・47%不変
3.顎関節症検査
参考 顎関節症の指針 2018
kokuhoken.net/jstmj/publication/file/guideline/guideline_treatment_tmj_2018.pdf
①症状発現場所の確認
過去30日以内において患者が経験した痛みを確認する
自発痛か誘発痛(運動時痛)かどうかも確認する
チェアーサイドで再現できることを確認
②下顎運動の検査(開閉口路,開口域,下顎側方・前方運動量の計測)
a.開閉口路 左右下顎頭の運動バランス
切歯点の運動軌跡を記録する(2mm以上の偏位)
b.開口域検査
・無痛最大開口域
・自力最大開口域
・強制最大開口域
*自力最大開口域と強制最大開口域の差が5mm以上であれば筋性、
以下であれば関節性を疑う。側方運動の左右差も参考にする。
③顎関節雑音の検査(開閉口運動時,側方運動時,前方運動時)
外耳道前方約1cmに指を当てて下顎頭を触知
・クリック音 復位性顎関節円板前方転位の可能性
・クレピタス 変形性顎関節症の可能性
(「ザラザラ」、「ジャリジャリ」、「ギシギシ」といった雑音)
④咀嚼筋・顎関節の触診
・訴える痛みを確認するため
・触診の圧力を標準化 手動式痛覚計を使用
・いつもの痛みかどうか確認
・痛みの拡散、他部位に感じる時は記録する
a.側頭筋 前部、中部、後部
b.咬筋 起始部、中部、停止部
c.下顎頭 開閉口させて動きを確認
⑤画像検査 パノラマX線像
・顎関節症に類似した臨床症状を呈する他の鑑別疾患を除外診断するために必要
・パノラマ顎関節撮影法(4分画) 顎関節部に対してほぼ側面像を描出
4.顎関節症の病態診断
SCはセルフケア、PCはプロフェッショナルケア
A.疼痛関連の顎関節症
①咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)
顎運動時,機能運動時,あるいは非機能運動時に惹起される
咀嚼筋の疼痛に関連する障害で,その疼痛は咀嚼筋の誘発テストで再現される
【病歴」過去30日間に両方を認める
・顎、側頭部、耳の中あるいは耳前部の疼痛
・顎運動、機能運動あるいは非機能運動によるその疼痛の変化
【診察】両方を確認する
・疼痛部位が側頭筋あるいは咬筋
・どちらかの誘発テストで側頭筋あるいは咬筋にいつもの痛みが生じる
a.側頭筋あるいは咬筋の触診
b.自力あるいは強制最大開口運動
【治療】
・SC マッサージ、ストレッチ、温罨法
・PC 筋マッサージ・ストレッチ(保険未収載)、口腔内装置、薬物療法
②顎関節痛障害(Ⅱ型)
顎運動時,機能運動時,あるいは非機能運動時に惹起される
顎関節の疼痛に関連する障害で,その疼痛は顎関節の誘発テストで再現される
【病歴】過去30日間に両方を認める
・顎,側頭部,耳の中あるいは耳前部の疼痛
・顎運動,機能運動あるいは非機能運動によるその疼痛の変化
【診察】両方を確認する.
・疼痛部位が顎関節部である
・どちらかの誘発テストで顎関節部にいつもの痛みが生じる
a.外側極あるいは外側極付近の触診
b.自力あるいは強制最大開口運動,
左側側方,右側側方,あるいは前方運動
【治療】
・SC 関節可動域訓練
・PC 顎関節ストレッチ(保険未収載)、口腔内装置、鎮痛薬
B.関節内顎関節症
③顎関節円板障害(Ⅲ型)
顎関節円板障害の中では前方転位が生じる頻度が圧倒的に高いことから,
前方転位の診断基準だけを定義する
*円板がずれているよりも、動かないことの方が問題
a復位性
関節円板の復位に伴ってクリックが生じることが多い
*大きく口を開ける時のクリックよりも、
閉じる時のクリックが問題になる
【病歴】どちらかを認める
・過去30日間に,顎運動時あるいは顎機能時の顎関節の雑音を認める
・診察時に患者から雑音があることの報告がある
【診察】どちらかを確認する
・開閉口運動時に、触診により開口時および閉口時のクリックを触知する
・開閉口運動時にクリック音を触知し,
かつ側方または前方運動時にも触診によりクリックを触知する
【臨床診断】
・下顎最前方位からの開閉口時に,
開口時および/または閉口時に生じるクリックが消失する
【治療】クリックのみなら経過観察、開口障害があれば治療
・SC 開口訓練
・PC 徒手的顎関節受動術(保険未収載)、
通常の口腔内装置または前方整位型口腔内装置
b非復位性
閉口位において関節円板は下顎頭の前方に位置し,開口時にも復位しない
関節円板の内方あるいは外方転位を伴う場合がある
【病歴】両方を認める
・顎が引っかかって口が十分に開かなくなったことがある
・開口が制限されて食事に支障をきたしたことがある
【診察】次の診察所見を認める.
・垂直被蓋を含んで強制最大開口距離が40 ㎜未満である
・強制最大開口距離が40 ㎜以上であっても、開口制限がある
【臨床診断】陽性所見が多くなるほど正診率は増加する
・クリックの消失に伴う開口制限の出現
・触診による最大開口時の下顎頭の運動制限
・開口路の患側への偏位
・強制最大開口時の顎関節部の疼痛
【治療】
・SC 関節可動域訓練
・PC 徒手的顎関節受動術(保険未収載)、薬物療法
通常の口腔内装置または前方整位型口腔内装置
④変形性顎関節症(Ⅳ型)
下顎頭と下顎窩・関節隆起の軟骨・骨変化を伴う
顎関節組織の破壊を特徴とする退行性関節障害
【病歴】どちらかの陽性所見がある
・過去30日間に,顎運動時あるいは顎機能時の顎関節部の雑音を認める
・診察時に患者から雑音があることの報告がある
【診察】・顎運動時に触診によりクレピタスを認める
【画像診断】
・顎関節CTあるいはMRIまたはパノラマX線写真
【顎関節症の鑑別診断で、他疾患を見逃さないポイント】
①開口障害25mm未満
②2週間の一般的顎関節症治療に反応しない、または悪化する
③顎関節部や咀嚼筋部の腫脹を認める
④神経脱落症状を認める
⑤発熱症状を伴う
⑥安静時痛を伴う
(顎関節学会初期治療ガイドライン)
6.初期治療
*治療の中心はセルフケア、
顎関節の保護にはスプリント療法、機能回復には運動療法
*痛みは機能回復とともに軽減してくる
*朝痛い時はスプリント、夕方になると痛くなる時は昼の訓練が必要
①患者教育・セルフケア
【病態説明】
・現在の症状の発現するメカニズムについて説明
・リスク因子の説明 精神的ストレス、悪習癖など
セルフケア指導
【咀嚼筋マッサージ】 硬結部を探す
【咀嚼筋の開口ストレッチ】
親指を上顎犬歯,人差し指を下顎にかけて指をクロスさせ,
力を加えてまっすぐ開口するよう指導する
【関節可動域訓練】【開口訓練】
・下顎左右犬歯部に患者の人差し指中指を置き、
開口時痛よりもう少し強い痛みを感じる程度にストレッチ的な開口させ
この状態で10秒間我慢する
・よくなっていることを認識させる
(痛みはあるが、口が大きく開くようになっている)
【関節円板可道化訓練】
・顎を前に突き出してクリック音のない状態で開閉口する
②認知行動療法的治療
認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種
認知とは、ものの受け取り方や考え方
ストレスに上手に対応できるこころの状態をつくる
③理学療法(運動療法・物理療法)
・痛いから動かさないという考えは間違い
・機能の回復に伴い痛みは改善する
【徒手的顎関節授動術(マニピュレーション)】
・基本的に非復位性円板転位の新鮮例に対して施行される
・大臼歯部に術者の拇指を載せて下顎頭を後方に押し下げる
・滑液が循環し、酸素が行き渡り、発痛物質も洗い流される
④スプリント療法
【ソフトスプリント】
・安静にするだけでは機能は回復しない
【前方整位型口腔内装置】
・転位した関節円板が復位できる位置まで下顎を前方に誘導し,
その位置で咬合位を付与する
⑤薬物療法
⑥咬合
・顎関節の状態を整えることが先
<ご案内>
顎関節症の治療法は、随分と変わってきているらしい。NHKの健康番組『ためしてガッテン』でも、症状悪化の予防に、『あごこり』のほぐしのマッサージと開口運動を推奨していたくらいだ。遅ればせながら、歯科を標榜する私達もアップデートしていかなければならない。
講師には日本顎関節学会理事で、デンタルダイヤモンド誌に、メンタル的にも対応の難しい患者さん達との臨床での出来事を軽妙な文章で連載されていた、島田淳先生にお願いいたしました。楽しくためになるセミナーとなりそうです。皆様のご参加をお待ち申し上げます。
<講演抄録>
顎関節症は長い間、その実態が把握できず、病因論が変遷を重ねたため、それに伴い種々の治療法が推奨され混沌を極めてきた。しかし近年ようやく病態への理解が進んだことから国際的に顎関節症に対する考え方は統一されつつある。
2010年3月にAmerican Association of Dental Research(AADR)が顎関節症(TMD)の診断と治療に関するpolicy statementを発表して以来,世界の顎関節症を取り巻く状況が大きく変わってきている。現在における顎関節症の世界的な共通認識は、1)顎関節症は臨床症状の類似した病態の異なるいくつかの症型からなる包括的疾患名であること,2)生物心理社会的モデル(biopsychosocial model)の枠の中で管理される必要があること,3)症状の自然消退の期待できる(self-limiting)疾患であるゆえ,まず保存療法を優先させることとなっている。こうした中、2014年に、DC/TMD( Diagnostic Criteria for TMD)が、新しい国際的な分類・診断基準として採用され、世界各国でこれを取り入れるよう準備が進んでいる。日本顎関節学会では、いち早く世界標準への対応を行っており、現在これを一般臨床医が利用できるよう「顎関節症治療の指針2018」を公開している。
ただ実際の臨床において顎関節症は多彩であり、標準的な対応だけでは難しいことは周知の通りである。演者はこれまで大学病院、また開業医となった後も、顎関節症や咬合違和感症候群などの多彩な症状を訴える症例に対し精神科医との医療面接をはじめとして様々な対応を行ってきた。今回の講演では、まずDC/TMDを中心に、最新の国際的な顎関節症の考え方と「顎関節症治療の指針2018」について解説を行い、顎関節症の基本的な治療戦略と実際の治療について、演者がこれまで行ってきた症例を基に、セルフケア、認知行動療法的対応、運動療法、スプリント療法、咬合治療など、現在考えられている治療をどのように用いていくか、難症例への対応を含めお話しさせていただきたい。
<講師プロフィール>
日本顎関節学会理事・専門医・指導医、
日本補綴歯科学会専門医・指導医、
日本口腔顔面痛学会代議員・専門医・指導医、
日本歯科心身医学会代議員)
1987年 日本大学歯学部卒業
1991年 日本大学大学院歯学研究科卒業(歯科補綴学専攻)
1991年 日本大学歯学部助手(補綴学教室局部床義歯学講座)
1995年 日本大学助手
1999年 東京歯科大学助手(スポーツ歯学研究室)
1999年 東京歯科大学講師
2005年 医療法人社団グリーンデンタルクリニック理事長(~現在)
東京歯科大学非常勤講師(スポーツ歯学研究室)(~現在)
2008年 神奈川歯科大学附属病院咬み合せリエゾン診療科非常勤講師
2013年 神奈川歯科大学顎咬合機能回復補綴医学講座特任講師
2017年 神奈川歯科大学臨床教授(~現在)
<近著>
論文:日常臨床での歯科心身症患者への対応について
日本歯科心身雑誌,32(2),60-73,2017
単著:『ある日突然やってくる困った患者さん「あなたなら、どう診る?」』
デンタルダイヤモンド社 2019
『歯医者に聞きたい 顎関節症がわかる本』口腔保健協会 2016
共著:『顎関節症 運動療法ハンドブック』医歯薬出版 2014
『顎関節症 スプリント療法ハンドブック』医歯薬出版 2016
『顎関節症 セルフケア指導ハンドブック』医歯薬出版 2018
『プロフェッショナルが語る顎関節症治療』医歯薬出版 2017
『こころの病気と歯科治療』デンタルダイヤモンド社 2018
雑誌連載:「歯科患者学」から探るGPの難症例対応
デンタルダイヤモンド 2012年1月号-2013年12月号
ストーリーから学ぶ咬合違和感症候群
デンタルダイヤモンド 2016年1月号-2018年12月号
9/28(土)片町の一献にて島田 淳 氏を囲む会。
前回の一献
kojima-dental-office.net/blog/20160606-308#more-308
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