のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

AIに心は宿るのか

2018年03月10日(土)


img005松原仁 著
集英社
2018年2月12日発行
700円
 AIは、すべてが個別の“既知”の状況に対応する知能。
 人間が持つ知能の本質は、未知の状況に直面した際に、生き延びるために身につけてきた適応能力。「何となく」による意思決定が、人間とAIの知能を分かつ、ひとつの大きな特徴。人間はある程度のミスをすることを容認し、この世界の莫大な情報を部分的に取り込んで処理し、大部分の場合に“なんとなくうまくいく”解を出すことができる。ミスを犯し得るという代償を支払って、知能の柔軟性を獲得している。
 羽生善治著「決断力」
kojima-dental-office.net/blog/20081102-1303#more-1303
 前野隆司著「脳はなぜ「心」を作ったのか」
kojima-dental-office.net/blog/20080811-392

1.AIの棋士
  AIは人間の棋士の棋譜を「機械学習」することで強くなってきた。しかし今、AIの棋士は、AIの棋士同士で学習する方法によって強くなっている。人間の棋士とは違い、将棋AIは自らのコピーと対戦できることが強み。
 将棋における人間とコンピュータの戦いはもう終わったと考えている。おそらく人間の棋士は、これからコンピュータと戦って勝つことは難しい。
 日本将棋連盟はプロ棋士が許可なく公の場で将棋AIと対局することを禁じた。また、将棋AIによる対局中のカンニングを防止するため、棋士の持ち物の中にスマートフォンも。将棋AIを参照できるスマートフォンは、もはや武器扱いであり、違法所持品。

2.AIの将棋
 人間は先ず、恐怖心から王将をしっかり守ることを優先する。しかし、AIは人間のような恐怖心を持っていないため、王将を守ることなく、チャンスがあれば敵将を討ちに行こうと考える。相手に致命傷を与えるためには、多少の傷を負うことを厭わないという戦法もとることができる。
 人間の棋士は、序盤などで必ず一手を費やして一歩を交換する手を指す。AIは、まったく歩の交換を気にしない。何か深い理由があるのかも知れないが、分からない。AIは“形”の良し悪しの判断も行わない。人間の手を“線”とすれば、AIの手は“点”のようなもの。

3.「知の敗北」が意味すること
 人間だけの特権であったはずの知の営みが、コンピュータに敗北した。それを人類史上最速で経験しているのが、今の将棋界。「知の敗北」にどう対応するか。その動向を見ておくことは、AIと人間のこれからを考える上で極めて重要。
 「将棋AIがやっていることを将棋ファンに説明する」という仕事が生まれている。AIは、最適解は出せるものの理由が説明できないという欠点を持っている。AIは様々な分野で人間を超えていく。その時、AIの出した答えを分かりやすく人々に伝える専門家がどの分野でも必要になってくる。
 人間とは不思議なもので、自らの力量を圧倒的に凌駕されてしまうと、急に「便利な道具だ」と感じるようになる。

4.フレーム問題
 人間は、時と場合に合わせて情報の「あたり」をつけて行動することができる。必要な情報だけを「枠(フレーム)」で囲い、適切に用いることができる。しかしAI、コンピュータにはそれができない。これを「フレーム問題」と言う。あたりをつけて行動するプログラミングが難しい。
 AIがフレーム問題を解くというのは「目の前の問題を、何の知識を用いて解くかをコンピュータが自力で見つけられる」ということ。つまり、未知の状況への対応という知能本来の働きを行わなければ汎用的とは言えない。
 人間には、明確に身体で分かれているから、自己と他者が分別できる。しかしAIには有限な身体性がないため、「ここ」と「10キロメートル先」の違いが分からない。さらにどこまでが自分であり、どこからが会話する相手なのかも分からない。すべての情報が等価になってしまう。フレーム問題を解くことができるのは、身体という限界があるからと考えられる。

5.“AI作家”は、生まれるのか
 人間は分からないことがあったとしても、何となく理解することができる。この能力を一般化できない。文章がなぜ「意味の通るもの」になっているのかが明確に分かっていない。分かっていないから、コンピュータにどうプログラムしていいか分からない。
 AI作家は単語単位で小説の構造が規定された状態に限って、小説を生成することができる。心とは、私たち人間が「心の存在を仮定した方が便利である」と確信した時に生じる、知能の働きのひとつだと考えられる。人間が設定やシナリオを与えているので、「人間が八割AI二割」の小説だと表現している。人間の作家にはできない特技がある。同じあらすじを持ってはいるが、表現が異なる作品を10万通り生み出すことができる。
 今後、「社説」のような記事は人間の記者の仕事として最後まで残っていくと考えられるが、論評の入らない速報などの記事は、AIによって自動化が進む可能性が高いと思う。AI作家が誕生したら、人間の作家とAIの作家の共進化が始まり、全く新しい文学が生まれることを夢見ている。

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