サッカー選手における口腔衛生管理の現状とスポーツによる顎顔面外傷について
2002年05月12日(日)
講師 石川県立中央病院歯科口腔外科
医長 鈴木 円
開催日時 2002年5月12日(日)午前9時から12時
開催場所 都ホテル
参加対象 会員、スタッフ
参加費 無料
主催 石川県保険医協会
5月12日午前9時から正午まで金沢都ホテルに於いて講師に石川県立中央病院歯科口腔外科医長の鈴木円先生をお迎えしてスポーツ歯科講演会が行われました。
まず、サッカーの楽しさ、ワールドカップの感動を話されました。前回のワールドカップの時、チケットがぎりぎりまで手元になくどきどきしながらフランスへ飛びました。テレビ観戦とは比べようのない会場の迫力や興奮、歓声を肌で感じて来ました。今回、日本で開かれるワールドカップも楽しみにしています。プレーのすばらしさやあの一体感を味わいたいです。各地で行われる練習や交流も体験したいです。
サッカー好きが大学サッカー連盟医事委員となり、選手たちの検診や治療を担当するようになりました。トップレベルの選手たちは口の中の関心が高く、虫歯もほとんどなく、しっかりとした歯並びをしています。口の中に問題があると選手寿命が短いです。歯も守れるプロ意識の違いを経験します。小さい頃から定期検診や治療に通院できる環境を整え、少年サッカーやクラブ活動の指導者への啓蒙活動の必要性を痛感しています。健康観や食生活の相談にも協力していきたいです。
Jリーグ発足以来、サッカー人口が急増し、歯科医の役割も大きくなってきています。外傷を未然に防ぐ精度のよいマウスピースの普及や顎顔面外傷の治療に医科との連携やドーピングの知識もこれから必要となります。
サッカーを通して患者さんとのコミュニケーションが広がり、地域のいろんな活動の相談に役に立つ有意義なお話でした。これからもスポーツ歯科の活躍を期待しています。
参考に
ドーピングと歯科治療
kojima-dental-office.net/20051020-752
ご案内 近年スポーツの普及に伴いスポーツ人口が増加し、スポーツによる外傷も増加傾向にあります。歯科口腔外科領域においてもスポーツ選手の歯科治療やスポーツに起因した外傷の治療に携わる機会が増えてきています。石川県でもJリーグ発足以来サッカー人口は急増しておりますが、私は静岡で生まれ育ったせいもあり、「バカ」がつくほどのサッカー好きで、そのサッカー好きが高じて数年前より大学サッカー連盟の医事委員を拝命しており、トップレベルの選手の検診や治療を担当してきました。と同時に口腔外科が専門と言うこともあり、顎顔面外傷の治療を行う機会にも数多く遭遇してきました。
今回の講演ではトップレベルのサッカー選手の口腔内状況や口腔内に対する意識など、私が関東在住時に検診やアンケート調査により得られたデータを報告するとともに、スポーツによる顎顔面外傷について、現在の勤務先である石川県立中央病院歯科口腔外科の症例も含め、実際の症例を供覧しながらお話ししていきたいと思います。
サッカー選手における口腔衛生管理の現状とスポーツによる顎顔面外傷について
石川県立中央病院歯科口腔外科 医長
全日本大学サッカー連盟 医事委員
鈴木 円
今年は今世紀初、そしてアジア初のFIFAワールドカップが日本と韓国との共催で行われます。5月31日にソウルでの開会式で幕を開け、6月30日の横浜での決勝戦まで約1か月にわたって熱戦が繰り広げられます。この間はサッカーに興味ない方もテレビに釘付けとなり、診療室では患者さんとの話題もサッカー一色となるのではないでしょうか?日本は前回のフランス大会に次いで2回目の出場ですが前回大会は3戦全敗で1次リーグ敗退という結果でしたので、今回は何としてでも1次リーグを突破して2次ステージ(決勝トーナメント)に進んで欲しいものです。
今回のサッカー日本代表のメディカルサポートは日本サッカー協会のスポーツ医学委員会が中心となり、地元開催ということもあり万全の体勢で取り組んでおります。しかしながらその委員の中には歯科医師は一人もおらず、協会関係者、指導者、選手の多くが歯や歯周組織をはじめとする口腔内への関心はあまり高くないのが現状です。
関東大学サッカー連盟所属の大学サッカー部員を対象としたアンケート調査でも定期検診を受けている選手は5%に満たさず、疼痛を感じるまで放置する選手が40%以上を占めていました。また全日本大学選抜チームの候補選手を対象とした歯科健診では未処置齲歯のない選手は41.3%で、一人平均未処置齲歯数は2.1本でした。一方で、12本もの未処置齲歯(うち残根歯が7本!)を有する選手もおり、意識の違いは所属大学により大きな差を認めました。つまり指導者の口腔への関心の高低により選手も影響を受けると思われることから、選手のみならず指導者に対しても口腔衛生に関する啓蒙活動を行っていく必要があると思います。
近年スポーツ人口の増加に伴い、スポーツに起因した顎顔面外傷患者を治療する機会が歯科口腔外科領域においても増えてきています。なかでも口腔内外の裂傷、歯の破折や脱臼、顎顔面骨骨折が多いようです。スポーツに起因した下顎骨骨折の場合は下顎角部、オトガイ部、関節突起部に多く見られます。骨折線は1~2本で合併症が少ないことから軽症例が多いと言えます。特に下顎角部の骨折症例では智歯(ほとんどは水平智歯)を有していることが多く、智歯が楔となって同部で骨折が起こると考えられますので、骨折の機会の多いいわゆるコンタクトスポーツの選手においては、積極的に智歯は抜歯すべきと考えます。また骨折の治療に際しては、特にプロスポーツ選手の場合は早期の現場への復帰が重要課題となるため、積極的に手術により強固な固定を行い、出来るだけ早く経口摂食を開始させ、体力ならびに体重の減少を最小限に抑える努力が必要と考えます。すなわちスポーツ選手の外傷治療はそのスポーツの特性を理解したスポーツ医があたるのが望ましいものと思われます。
顎顔面領域の外傷の予防にはマウスガードが有用とされています。マウスガードは既製品で調整が出来ないストックタイプ、既製品であるが温湯中で軟化させることによりある程度、個々の口腔に適合させられるマウスフォームドタイプ、そして印象採得した模型上で歯科医師により調製されるカスタムメイドタイプに分類されます。その適合も機能もカスタムメイドタイプがもっとも優れているのは間違いなく、顎顔面外傷の予防だけでなく、脳振盪をはじめとする頭部外傷の予防や等尺性運動力の向上といった効果も報告されています。その一方でオーダーメイドタイプであるため製作には手間暇が掛かり、その結果、患者価格も安くはないため普及に際しての大きな問題となっているのが現状です。しかしながら、マウスガードの有用性については異論がなく、若年者における歯の喪失を防ぐ意味でもその普及が急がれます。
ここ数年スポーツにおけるアンチドーピング活動が活発になり、国際大会だけでなく各種の大会においてもドーピングコントロールが導入されつつあります。日常の歯科口腔外科臨床において使用される薬剤(抗菌薬や鎮痛剤、消炎剤、局所麻酔薬など)においては問題となりませんが、口腔内へのステロイド剤の使用を認めていない場合が多いため(ステロイド剤の局所使用は眼、耳、皮膚に限られます)、アフタ性口内炎などの治療に際しては注意を要します。また漢方薬を使われる際には葛根湯など「麻黄(マオウ)」を原料に含むものは使用できません。麻黄の中には禁止薬物であるエフェドリンが含まれるからです。今後ますますドーピングコントロールが普及しますと、不用意な処方で選手の将来を奪ってしまうこともありますので注意が必要です。
最後に、サッカー狂(キチガイ)の私にとって自分の専門である歯科口腔外科を通して日本サッカー界に貢献できることは無上の喜びです。今後もより一層の研鑽を積んでスポーツ選手達に貢献できたら幸いに存じます。
鈴木 円(すずき つぶら) 略歴
昭和39年8月 静岡県生まれ
昭和58年4月 日本大学歯学部歯学科入学
平成元 年3月 同 卒業
4月 日本大学大学院歯学研究科歯科臨床系専攻(口腔外科)入学
平成5 年3月 同 修了
歯学博士の学位取得
4月 埼玉医科大学総合医療センター歯科口腔外科 助手
平成11年5月 ひばりが丘病院歯科口腔外科 医長
10月 (社)日本口腔外科学会認定医取得
平成12年4月 石川県立中央病院歯科口腔外科 医長
スポーツ関係役職
平成7年~ 関東大学サッカー連盟医事委員
平成7年 ユニバーシアード日本代表(サッカー)チームスタッフ
平成9年 ユニバーシアード日本代表(サッカー)チームスタッフ
平成9~11年 日本ハンドボール協会医科学委員
平成10~11年 日本オリンピック委員会強化スタッフスポーツドクター
平成11年 ユニバーシアード日本代表(サッカー)チームスタッフ
平成11年~ 全日本大学サッカー連盟医事委員
平成14年~ 大阪府サッカー協会医事委員
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