のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

ネット依存・ゲーム依存がわかる本

2020年01月06日(月)


img182樋口 進 監修
 精神科医。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長
講談社
1300円
2018年6月5日発行
 スマホが登場する前は、学校や職場には持ち込めず、家庭でも周りの人への配慮があった。そのため、依存への対策がとりやすかった。しかし、スマホになると、連絡手段でもあるため周りの目を気にしなくてもよくなり、移動中や学校・職場の休憩時間などにも遊べるようになった。時間の制限がかけずらくなり、やりすぎを注意しにくくなった。あまり目立たずに楽しめるようになり、依存の危険度は以前よりも上がった。
 基本的には無料で手軽に遊べるが、より深く楽しむには時間とお金が必要。長時間コツコツとプレイしていけば、よい結果が出る仕組みになっている。昔のゲームにはゴールがあったが、オンラインゲームができて以来、ゲーム内容が更新されるようになり、終わりがなくなった。そして、課金する(お金を支払う)ことで、効率的にプレイできるようになる。また、「ガチャ」というくじ引きのようなシステムがあり、次にはゲットできるかもしれないという射幸心をあおりエスカレートしやすくなっている。
 店舗へ行って代金を支払う必要があるアルコールやギャンブルの場合より、いつでもどこでも無料で楽しめるスマホのほうが、依存の危険度が高い。
 ネット・スマホ依存症教育
kojima-dental-office.net/20191212-4807#more-4807
 依存症の勉強会
kojima-dental-office.net/20190926-4706

1.なぜ、そこまで熱中してしまうのか
 社会の変化や機器の進歩、ネットやゲームがもたらす脳機能の変化という複雑な要因が関わっている。
 ①社会的な背景
 依存に陥ってしまう人は、苦しい日々を送ってきた背景がある。子どもも大人も人間関係が煩わしく、ストレスが多くなっている。大人、特に30~40代の働き盛りの世代では、ルーティンの仕事が多いが、充足感がなかなか得られず、将来に希望が持てない。子どももゴールが見えない。
 現実逃避の時間が必要だが、のびのび過ごす余裕や体力もない。パソコンよりも簡単にネットへ接続できるスマホが登場したことによって、ネットがより身近になり、ストレス解消法として利用されることが増えてきた。
 ②ゲームなどの刺激に脳が慣れ、もの足りなくなる
 脳にはバランスがある。通常、理性を司る前頭前野が、本能的な大脳辺縁系よりも優勢に働いている。そのため人(特に大人)は常に理性的な判断ができる。成長中の子どもでは、大脳辺縁系の働きが強く、本能的な行動が多くなりやすい。
 依存すると、大脳辺縁系と前頭前野とのバランスが崩れ、より衝撃的になり、より強い刺激を求めて、のめり込んでいく。そして、よりエスカレートしていく。
 【大脳新皮質】
 脳の最も外側の部分。前頭前野などいくつもの領域があり、思考や判断、言語などの処理に関わっている。
ネット依存・ゲーム依存の人では、大脳新皮質の灰白質で神経細胞が破壊されてしまい、脳の損傷や萎縮が進むという報告もある。依存の期間が長いほど、灰白質の体積が減るという調査結果も出ている。依存の長期化が脳機能の低下に繋がるものと考えられる。
 【前頭前野】
 脳の最も外側に位置する大脳新皮質のうち、頭の前側の部分。社会的・理性的な判断に関わっている。ネット依存・ゲーム依存の人では、前頭前野の機能が低下し、衝動など感情のコントロールが難しくなっていると考えられる。
 【大脳辺縁系】
 大脳新皮質の内側にある部分。海馬や扁桃体という部位があり、欲望や不安、恐怖などの感情のほかに記憶などの処理にも関わっている。前頭前野よりも本能に近い働き。
 【大脳基底核】
 大脳辺縁系の内側の部分。線条体や淡蒼球などの部位があり、体の動きや「報酬系」などの働きに関わっている。大脳基底核にある線条体の「報酬系」は、刺激に対して快楽を感じる働き。ネット依存・ゲーム依存の人では、快楽などに関わる神経伝達物質ドーパミンの受容体が減り、快楽などを感じなくなっていると考えられる。
 ③脳機能が乱れ、アルコール依存のような状態に
 他の依存と同様の特徴が脳に見られるようになる。前頭前野の機能低下、報酬系の反応の欠乏、刺激への過剰反応。ゲーム以外のことには反応が鈍くなるが、ネットやゲームに対して脳が過剰に反応する。ゲームの広告や最新情報などを見ると、脳が過剰に反応し、ゲームをやりたくて仕方なくなる。

2.依存度をセルフチェックしてみよう
 ネット依存やゲーム依存は病気。「依存」は、人間関係や仕事などに問題が起こっている、生活習慣よりも優先してしまうなど、生活に支障が出る状態が長く続いている(1年以上)こと。
 ①IGDT-10
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  *依存傾向の人がチェックすると、判断が甘くなる傾向がある。
  *5点以上の場合は「依存が始まっている状態」と考える。
 ②スマートフォン依存スケール(短縮版)スマートフォン依存スケール(短縮版)
  *スマホ使用全般への依存度を調べる(韓国で使われているテスト)
  *31点以上の場合はスマホ依存

3.病気に気づく
 ゲームをやりすぎて問題が起き始めた時、本人は自覚しにくく、家族が気づくことが多い。重要なのは、様子を見ていないで、家族が気づき動き出すこと。健康状態・人間関係が崩れたら受診のサイン、病気だと判断し、無理に説得せずに、本人が自覚するのを待たずに、家族だけでも病院に相談、受診する(自費診療)。
 ①生活が乱れる
  眠らない、食べない、動かない。特に多いのが、昼夜逆転の生活と遅刻・欠席(欠勤)。学校や会社での成績が下がる。1日1食になるような食生活の乱れと、服装や入浴などの衛生面の乱れも。そして、熱中しているオンラインの交流が中心となり、家庭や学校などオフラインの人間関係が希薄になる。家族や友達との会話が減る。家事や育児などの役割分担を放棄する。
 ②体調不良
 体調も不安定に。頭痛や吐き気、倦怠感、めまい、肩こりなどの症状が出やすい。視力の低下や目の疲れを訴える。
 ③体力の低下
 10代では低栄養になり、身長や体重、筋力の発育に異常が見られる。運動量が減って筋力や体力が低下し、10代でも骨粗鬆症を発症。
 ④精神的にも乱れ
 ネットやゲーム以外のことに煩わしさやいらだちを感じる。食事や運動に無感動・無表情になる。イライラしやすくなり、攻撃的な態度、暴言、暴力が見られるようになる。ネットやゲームに関して嘘をつく。

4.病院を受診する
 病院受診の4分の1は本人不在、家族のみ。電話で状況を伝え、対応が可能かどうか確認する。家族だけでも予約する。受診し、状況を改めて説明し、必要に応じて検査を受ける。月に1~2回程度、定期的に通院してカウンセリングや認知行動療法などの治療を受ける。
 ①WHOが作成したICD-11「ゲーム障害」診断ガイドラインを基準に
game.watch.impress.co.jp/docs/news/1186615.html
 口頭による問診を受ける。補助的に心理士が質問することや家族が答えることもある。血液検査や心理検査を受ける。
 ②身体検査は補助的なもの
 検査には治療の準備という側面もある。意識が高まり、健康への影響や依存のことを知ることが重要。血液検査、骨密度検査、脳画像検査(脳波の検査やMRI検査)。

5.病院ではどんな治療が受けられるのか
  問診や検査を通じて、依存という病気に向き合っているうちに、本人の心の中で「このままではいけない」という気持ちが大きくなり、心の準備が整ったら治療スタート。完全に止めるのではなく、やりすぎないように生活を調整していく。どこで折り合いをつければ、適度にストレスが解消でき、依存に陥らないのかを見極める。家族は、診療や家族会に参加して依存を理解していく。
 ・軽症の場合はカウンセリングが中心
 ・症状が進んでいる場合は、モニタリング・認知行動療法などの専門的な治療
 ・重症の場合は入院治療、ネットやスマホから一時的に離れ、病院で生活を立て直す
 ①カウンセリング
 対話することが重要。体の状態や今後の治療方針、治療効果などを理解する。自覚が回復への第一歩。ネットやゲームの利用法を見直すことが治療。
 ②モニタリング
 行動記録をとって、どの程度依存しているのか確認する。記録をとることに慣れてきたら、認知行動療法へ。
 ③認知行動療法
 認知(考え方)と行動を見直す治療法。姿の見えにくい依存を具体的に対処していく治療法。
 a.認知の見直し
 医師や心理士との対話を通じて本人のネットやゲームに対する考え方や行動の特徴を共有し、見直していく。考え方を見直す時に重要なのが、無意識に浮かんでくる「自動思考」を、本人自身が認識すること。依存が進むと、「ゲームをしても問題ない」などの考え方が定着し、自分の考えに違和感を持たなくなる。そのゆがみを確認し、修正していく。
 b.行動の見直し
 行動を「優先的にする活動」「日常的な活動」「楽しい活動」などに分け、優先順位をつけ直してみる。この過程でゲーム以外の活動が増えていく。ネットやゲームの利用方法を具体的に変える。
 ④運動療法
 ・生活リズムを整える  メリハリができ、食事や睡眠などの習慣も落ち着く
 ・体力を整える
 ・ネット・ゲームの利用時間を減らせる
   *運動が嫌いなら、パソコンやスマホを使わないものでも効果がある
    絵画などのアートやチェスなどの趣味
 ⑤集団精神療法
  ・グループディスカッション
  ・自分の状態を落ち着いて話せるようになれば参加できる。
  ・当事者の視点で依存から抜け出すためのヒントが聞ける。
  ・気づきが変化する
  ・当事者がネットやゲームのよい面・悪い面などを語り合う
  ・現実的には人間関係や健康面、金銭面に悪影響が出ていることが見えてくる
  ・自分が失ったものの大きさに気づいていく
 ⑥家族会
  a.家族にも対話の場が必要
   ・お互いの生活やプライバシーを守るため、ルールが設定されている
   ・つらい気持ちを安心して語り合うことができる
   ・誰からも批判されない
  b.家族全体が変わっていく
   ・依存にも様々なタイプがあり、必ず対処法があることが分かってくる。
   ・不安が軽減し、対応のヒントがつかめる。
   ・家族が変わると、本人も変わる。
   ・家族全体がよい方向に変わっていく。
 ⑦特別な治療
   a.治療キャンプで1週間の「スマホ断ち」
   b.重症例では2ヶ月程度の入院

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