小島歯科医院 名誉院長ブログ

依存症の勉強会

2019年09月26日(木)


わかっちゃいるけどやめられない
 ~生きづらさから読み解く依存症~
講師 西念奈津江氏(岡部診療所・ソーシャルワーカー(精神保健福祉士))
メモ
 依存症とは、脳がハイジャックされた状態。人の話は入らない、コントロールできない状態。
 日本は、過ちを犯した者を、際限なく責め立てて、罰を与え続けている。世界標準は、社会の中で依存症の克服を支えていこうとする姿勢。2016年に国連総会で「薬物依存症者に対して、処罰よりも治療を」という決議が成されている。
 そろそろ日本も変わる時。依存症になっても生きやすい世の中に。単に薬物を止めれば、背景にある「長く抱えてきた苦しさ、いたみ、生きづらさ」が重くのしかかり、死へ向かう。たとえ薬を使いながらであっても、健やかに暮らせるためのサポートをする。安心、安全な環境で過ごすことが、自分を取り戻す時間となる。「生きづらさ」から解き放たれ、仲間たちとの温かい繋がりの中で自分らしい生き方、ありようを実現する環境へ。

「生きづらさ」を生きる彼らから教わったこと
 ・人は自由であること
   自分で考え、自分で決めといい
      (自分で考え、自分で決めなくてはいけない)
 ・誰も排除されないこと
      あなたはそのままでここにいていい
 ・人は人の繋がりによって生かされているということ

基礎知識
A.ソーシャルワークとは
 社会の仕組みを使って、一人ひとりが生活をしやすくするためにお手伝いすることと、生活しやすい社会や仕組みを作るお手伝いをする。
 ソーシャルワーカーは、クライエントを取り巻く環境全てを見てその人にとっての「幸せ」を探る。今ある力と関係を最大限に活かす。決して諦めない。

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義
miseki.exblog.jp/24149989/
    ・社会の変革と社会開発、社会的結束および人々のエンパワメント
     (パワーの脆弱化)と解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。
    ・社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、
      ソーシャルワークの中核をなす。
    ・ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学および地域・民族固有の知を
      基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組み
      ウェルピーイング(個人またはグループの状態)を高めるよう、
      人々やさまざまな構造に働きかける。

B.アディクション(嗜癖)
www.t-pec.co.jp/health-news/2005/06.html
  ・物質嗜癖   違法薬物、アルコール、ニコチン、市販薬、糖質など
  ・プロセス嗜癖 ギャンブル、ゲーム、浪費、自傷、窃視など
  ・人間関係嗜癖 親子関係、夫婦関係、恋愛関係など
 ハートブレイクやストレスを癒す、修復する術を多くの人は持っているが、約1割の人たちは、人(仲間)との交わりで解消できず、孤独に物で紛らすようになる。物を止めれば孤独となり死へ向かう。自ら抱えている「いたみ」「生きづらさ」をアディクションによつてコントロールしようとして、さらなる「生きづらさ」を抱える。アディクション(嗜癖)は氷山の一角、見えないところに孤独にまつわる様々な影を抱えている。傍から見ると「困った人」だが、実は「困っている人」。
 a.「合法=安全」「違法=危険」というわけではない
 周囲の人に対する影響が最も大きい薬物はアルコールであり、使用する本人への影響と併せても、最も危険な薬物はアルコールである
www.rcpsych.ac.uk/mental-health/translations/japanese/alcohol-our-favourite-drug
物質使用障害の診断基準(DSM-5)
 依存症より診断のハードルが下がり、早期での関わりを可能にする。精神科医でなくても、医師でなくても、関わりを持つことができる。「依存症ではないぞ」と突っぱねられていたのが、「お酒(薬物)と上手に付き合えなくなっているのですね」とこれまでよりも対話ができるようになる。
 初飲→機会飲酒→習慣飲酒→量・頻度↑→コントロール喪失
 コントロール喪失になってしまうと、精神科が担当になる。
 12ヶ月の期間内に11項目のうち2項目以上で診断
 軽度(2~3項目)、中等度(4~5項目)、重症(6項目以上)
 1.当初の思惑よりも摂取量が増えたり長時間使用したりする
 2.物質中止・減量の持続的な欲求または努力の失敗がある
 3.物質使用に関連した活動に費やす時間が増える
 4.物質に対する渇望、強い欲求、衝動がある
 5.物質使用により社会的役割が果たせない
 6.社会・対人関係の問題が生じていても飲酒する
 7.物質使用のために重要な社会活動を犠牲にする
 8.身体的に危険のある状況で物質使用を繰り返す
 9.心身に問題が生じていても物質使用を続ける
 10.耐性:反復使用による効果の減弱または使用量の増加
 11.離脱:中止や減量による離脱症状の出現

 b.アディクションからの回復
 アディクションからの回復とは、単に嗜癖行動を止めることではなく、長く抱えてきた苦しさ、いたみ生きづらさから解き放たれ、仲間たちとの温かい繋がりの中で自分らしい生き方、ありようを実現していくプロセスのことをいう。
 回復のプロセス
身体面の回復→精神面の回復、考え方の回復→人間関係の回復
 人間関係回復は、遠い存在、あまり関わりのない人から始める。他人→知人・友人→家族となる。
 信頼関係を育む言葉がけとしては、「ゆっくり考えて、自分で決めていいのですよ」
患者意識調査 「止めなさい」と言われると悪化する。それは、脳がハイジャックされていて、コントロールできない状態にあるから。

 c.スリップ(再飲酒・再使用)とどう向き合うか
 シラフで生きてこそ直面する様々な課題に、はじめから「シラフで」「上手に」対処できるわけではない。回復途上のスリップは「自分らしく生きる」ためのヒントを得る貴重なチャンスとなる。

C.乱用・中毒・依存
  ・乱用  物質使用上のルール違反
    未成年の飲酒・喫煙、禁止薬物の使用、市販薬の過量服薬、過度の飲酒など
  ・中毒  物質使用による心身のダメージ
    急性アルコール中毒、急性薬物中毒、フグ・毒キノコなどによる中毒
  ・依存  物質使用のコントロール障害
    やめたいのにやめられない状態
    使ってはいけないと分かっていても使ってしまう状態

D.治療
 a.世界標準
 世界的に見れば「モラル・モデル」の考え方よりも、「認知行動モデル」の考え方が主流。
 ・過ちを犯した者を、際限なく責め立てて、罰を与え続ける態度ではなく、塀の中ではなく社会の中で依存症の克服を支えていこうとする姿勢。
 ・2016年に国連総会で「薬物依存症者に対して、処罰よりも治療を」という決議が成されている。つまり、国際社会がそのような方向を目指している。

 b.世界の流れはハームリダクション
 たとえ薬を使いながらであっても、健やかに暮らせるためのサポートをすること。安心、安全な環境で過ごすことが、自分を取り戻す時間となる。薬物使用の有無ではなく、支援の必要性の有無によりケアを提供する。
 グループ討議は、過去の自分や未来の自分に出会える。苦悩の中にあった自分が仲間によって助けられ、自分の経験が苦悩の中にある仲間の手助けの役に立つ。

 c.日本の精神科医療における回復支援の現状
  依存症対応可能な専門医療機関  4.6%
  SOSの出し方を周知する
  相談先には当たりはずれがある
  本人より先ず家族を支える必要がある

 第51回よろず勉強会 なんでも学術 なんでも回答
とき  2019年9月26日(木) 午後7時15分~午後8時45分
ところ 石川県地場産業振興センター 新館5階・第13研修室
     (金沢市鞍月2丁目1番地)
対 象  会員医師、歯科医師、スタッフ(参加費無料)
申し込み 必要事項(医療機関名、氏名)を明記し、FAXまたはメール
FAX:076-231-5156
ishikawahokeni.jp/entrysheet/
締め切り:9月24日(火)まで チラシ 依存症の勉強会
主催  石川県保険医協会/学術・保険部

講師からのメッセージ
 『無法松の一生』『青春の門』の舞台、北九州は小倉の大学に進んだ私はある日「スマイル」と名乗る、両小指と左薬指が欠けたおじさんに出会いました。「僕は薬物依存症。もう長いこと薬をやめているが治ったわけではない。いまだ回復途上。今日一日、仲間と過ごし、ミーティングに出て、薬をやめ続けている」と言います。あれよあれよという間に気が付けば薬物依存症の回復施設『北九州DARCダルク』の開設準備を手伝うことに。その後の自分がソーシャルワーカーとなり、医療機関だけではなく刑務所でも仕事をすることになろうとは、当時の私は知る由もないのでした。
 「わかっちゃいるけどやめられない」。アルコールをはじめとする依存性薬物やギャンブル、過度の買い物やネット・ゲームに困る人たちをどう理解し、どう向き合っていけばいいのでしょうか。これまでのかかわりに疲れ途方に暮れている方も、これからかかわってみようという好奇心旺盛な方も、まずは肩の力を抜いて、一緒に考えてみませんか。

2019年9月26日(木)第51回よろず勉強会
FAX用参加申し込み書
FAX:076-231-5156 
◆医療機関名
◆氏名
◆申込人数 人

依存症の最新記事