治癒の病理-ぺリオ・エンド治療のために
2013年09月29日(日)
講 師:下野 正基氏(東京歯科大学名誉教授)
と き:9月29日(日)午前9:30~12:30
ところ:金沢ニューグランドホテル4階 金扇(定員100人)
対 象:会員医療機関の歯科医師とスタッフ
参加費:無料(申し込み必要)チラシ 治癒の病理
主 催:石川県保険医協会 ℡076-222-5373
メモ
A.ペリオの治療のために
1.上皮性付着による歯周組織再生
①Meicherの仮説
歯周外科後の歯根面に増殖する細胞によって治癒形態が異なる
・上皮性付着
・被包
・骨性癒着
・結合組織性付着
②1980年頃、上皮性付着は好ましくない状態であり、
結合組織性付着が理想的と考えられた
③1987年の対談を契機に長い付着上皮について研究
・長い付着上皮も正常の付着上皮と同様に非角化上皮であり、
その長さはターンオーパ-によって短くなる
ラミニンによって強固にセメント質と接着している
④1994年
・上皮性付着は安定した治癒形態であり、結合織性付着に置き換わる
2.歯周ポケットはどのように形成されるのか
・歯肉上皮が歯面から剥がれているのではない
・歯肉上皮細胞間のデスモゾームの解離によって生じる
3.歯肉の色や形は病態を反映しているか
・充血があると赤く見え、鬱血があると赤紫に見える
どちらも組織内にの血液量は増加するが、
充血は組織に流入する血液が増加する
鬱血は流失する血液が減少する
・細動脈の直径は7μm、細静脈は35μm
・炎症時には血流量は10倍(23)以上増加する
血管の太さにすると2倍以上
4.柔らかい歯肉と硬い歯肉
・柔らかい歯肉は急性炎症(炎症性浮腫・細胞浸潤・炎症性細胞の滲出)
・硬い歯肉は肉芽組織から線維性組織に変わる
5.感染したセメント質は徹底的にルートプレーニングを行う
・ルートプレーニングによってセメント質を除去しても歯根吸収は起きない
・セメント細胞は突起を出して連絡している
・象牙質の表面にセメント質が、セメント質と歯槽骨の間には歯根膜が新生する
B.エンド治療のために
1.象牙質・歯髄複合体の反応と再生
①象牙質と歯髄は一つの組織であるとの意識を持ち治療する
②象牙細管は歯随付近が太く、エナメル象牙境が細い
細管の占める割合が前者が22%、後者が1%
③象牙細管の組織液は歯随からエナメル象牙境に向かって押し出している
有髄歯では虫歯の進行が遅く、無髄歯では速い
④血管結合組織が存在しないと炎症は起きない
歯随が壊死すれば、炎症が起きない
⑤根尖性歯周炎は防御的な現象
口腔内常在菌の日和見感染によって発症
⑥歯冠側からの漏洩が根尖病変発現に強い影響を及ぼす
歯冠修復も大切
C.4-META(スーパーボンド)
①歯周組織
・再生上皮はスーパーボンドと接触させても角化せず、エナメル質と接着する
レジンを除去すると、上皮は角化する
・フラップ手術やGTR時に歯肉辺縁とエナメル質とを接着する
②歯随
・直接歯随にのせても細胞は死滅しない
・生体親和性が高い
・生きた歯随にしみ込んでいる(樹脂含浸、ハイブリッド)
<案内文>
待望の講演会!
1993年、下野正基先生を中心として編集された『治癒の病理 臨床編 第1巻・歯内療法』、続く『治癒の病理 臨床編 第2巻・歯周治療』(1994年)が出版されるやいなや、研究レベルの高さは無論のこと、「臨床」と綿密にリンクする「基礎」を簡潔明瞭に、しかも面白く解説された点で、瞬く間に日本中の臨床家の脚光を浴びることとなったことは周知のことと思います。その後も、第3巻・歯の移植,再植(1995年)、第4巻・インプラント(1996年)と続くシリーズを貪るように読みあさった諸氏も多いのではないでしょうか。
一昨年には『新編 治癒の病理』(下野正基著)も出版され、今や『治癒の病理』はバイブルの一つとしての地位を占めるに至ったと評しても過言ではないかと思います。
今回は、膨大な研究からペリオとエンドに的を縛った講演会を予定していますが、おそらく3時間は瞬く間に過ぎ去り、あとからフツフツと感動が湧き上がるものとなるに違いありません。絶好の機会をご活用していただきたく、ご案内いたします。(石川県保険医協会 歯科部)
※なお、事前に『新編治癒の病理 臨床の疑問に基礎が答える』(2011年、医歯薬出版)
www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=443460
にお目通しいただければ、理解が深まるかもしれません。
やさしい治癒のしくみとはたらき
www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=421930
<抄録>
ペリオの臨床と治癒との関連から「上皮性付着による歯周組織再生」について、エンドの臨床との関連から「象牙質・歯髄複合体の反応と再生、および根尖病変の臨床病理」に焦点を絞って解説する。
歯周組織再生に関してはMelcherの仮説が重要であり、歯周治療後理想的には結合組織性付着という形で歯周組織は再生する。しかし多くの場合、長い付着上皮による上皮性付着が起こる。長い付着上皮による上皮性付着は結合組織性付着に置換される実験的結果を示す。しかも長い付着上皮には、正常付着上皮と同様ラミニン・インテグリンが発現しており、非常に安定した治癒形態であることがわかる。
臨床的考察として、①長い付着上皮による上皮性付着の臨床的意義、②歯周ポケットの形成、③病態を反映する歯肉の色や形、④クリーピングアタッチメント、⑤ルートプレーニングを成功させるには、などについて述べる。
「象牙質・歯髄複合体」という概念は国際的にも受け入れられている。臨床的にも、象牙質と歯髄は同一の組織として処置する必要がある。象牙質・歯髄複合体は低酸素条件下でも、熱刺激下でも恒常性を維持するが、その機序について説明する。これまで、象牙芽細胞が壊死・消失した後にデンチンブリッジや第3象牙質が形成される(修復性象牙質形成)と考えられてきたが、近年象牙芽細胞が生存した状態でも象牙質形成(反応性象牙質形成)が起こることがわかってきた。その機序には侵害受容器やチャンネルなどが関与するが、それらの新知見について説明する。
臨床的考察としては、①歯の痛みに関する新しいメカニズム、②加齢に伴って狭窄する歯髄腔、③ユージノールの鎮静効果、④病理からみた根尖病変、などについて解説する。
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