小島歯科医院 名誉院長ブログ

歩行やトランスファー介助の基礎知識と実習

2012年07月12日(木)


 12日木曜日午後2時から4時まで、金沢西病院作業療法士 白山武志氏を迎えて研修会を開いた。他院からも5名の歯科衛生士が参加し、ペアを組んで相互実習も行った。異業種のプロの技と言葉では表せない身のこなしに触れる。心地よい介助に何とも言えない安心感があった。介助する側、される側を体験し、両方の感覚からその難しさを再確認する。
 ボディメカニクス(人間工学で用いる用語)を踏まえるとそれぞれの負担が減り安全に行えることや、腰を起こさず崩れた姿勢では立ち上がれないこと、体幹の前屈など立ち上がりやすい軌道を描いて介助すること、麻痺側の膝折れをロックする方法、車椅子のアームレストとフットレストをはずすと介助しやすいことを学んだ。そして、片麻痺の人が治療椅子で横になる時には、麻痺側にタオルを挟むことにより支持基底面が広く安定するので、安心して身体の緊張がほぐれることも分かった。
 また、介助・誘導時に反応を待ちながら能力を引き出すように心がけることは、食育やブラッシング指導にも通じるものがあると思った。
 食べるための姿勢を考える(車椅子編)
kojima-dental-office.net/20151102-1389#more-1389

第85回研修会
 日時 2012年7月12日<木>14:00-16:00
  講師 金沢西病院作業療法士 白山武志
 内容 歩行やトランスファー介助の基礎知識と実習
    歯科治療中の姿勢保持の工夫
 場所 小島歯科医院
 定員 10名
 受講料 3000円
 主催 スタディグループ健口家族

研修内容
1.身体の使い方
2.座位姿勢のポイント
3.立ち上がりのポイント
4.ポジショニングについて
5.車椅子について
6.移乗動作について
7.歩行介助について
8.実技練習

1.身体の使い方
 1)重心•支持基底面について
  重心
  ・人間では立っているときは骨盤内にある
  ・位置が低いほど安定する
  支持基底面:
  ・二足で起立した時には両足底とその間の部分を合計した面積をいう
  ・支持基底面が広いほど安定性がよい    
  ・支持基底面から重心が外れるとバランスを崩す
 2)ボディメカニクスとは
  ・人間工学で用いる用語
  ・人間の姿勢・動作時の身体の骨格、筋肉、内臓などの各系統間の力学的相互関係
  ・最も効率的に「体」が動くように、「体」に負担がかからないように考える
  ・介護者の腰痛などを予防する
  ・介護を受ける方の能力を引き出す
  ・介護を安全•安心して受けられる
  ①支持面を広く、重心を下げる
   (足を広げて膝を曲げ、腰を落とす。中腰で物を持ち上げると腰を痛める)
  ②介護を受ける方の身体を小さくまとめる(腕や足を組む)
  ③手、上半身だけでなく、踏ん張りながら全身の筋肉を使う
   (小さな筋肉より大きな筋肉を使う)
  ④重心移動を利用する、重心を考えながら介助する
   (身体から離れた所で持ち上げると腰に負担がかかる。相手をできるだけ近づける)
  ⑤身体をねじらない、介助する方向を無理なく設定する
   (不自然な動きを避け、力を発揮しやすくする)
  ⑥てこの原理を利用する(介助量の多い方に対して)
  ⑦相手の力を引き出す誘導

2.座位姿勢のポイント
  ・骨盤が後傾すると背中が丸くなり、姿勢が崩れるため、腰を起こす
  ・しっかり臀部を引き、骨盤を中間位へセットする
  ・左右対称か確認する(上前腸骨棘に触れる)

3.立ち上がりのポイント
 1)立ち上がる前のポイント
  注意点
   ・立ち上がる前は、安定した坐位姿勢でなければならない
   ・車椅子の場合は腰を背もたれに引き寄せる
   *崩れた姿勢では立ち上がれない
  ①両足底をしっかり接地する
  ②両肩から臀部に圧を加える
  ③左右対称的な姿勢に整え、落ち着いてから次の動作へ移行する
  ④ゆっくり身体を前へ倒していく

 2)立ち上がり
   ・頭部・体幹の前屈と骨盤の前傾を行いながら前方へ重心移動し、
     臀部を浮かしていく
   ・頭部・体幹をおこしながら、股・膝関節を伸展し垂直な姿勢となっていく
   ・重心は高くなりながら、踵上に位置する
 3)立ち上がりの介助ポイント
   ①本人に協力してもらうように、ゆっくり前方への重心移動を促す
   ②立ち上がりやすい軌道で体幹の伸展を誘導する
   ③膝折れを介助者の膝でロックし、臀部へ手をまわし身体を起こす
  注意点
   ・坐位姿勢を整えてからおこなう
   ・能力に応じた方法を検討する
   ・重心移動や身体反応を考慮する
   ・次へどこへ移動するか理解してもらう
   ・移動する側の物(車椅子やベッド)に触れてもらい距離感を感じてもらう

4.ポジショニングについて
 1)初めての環境などに対する不安な気持ちが
   ・緊張を強めることで身体の安定をつくろうとする
   ・身体を丸める・反り返る方向に緊張を強め姿勢が固まっていく
  *殴られそうになると身を縮めるのと似ている
 2)ポジショニングの目的
   ・緊張を強めない姿勢
   ・口が開きやすくなる
   ・飲み込みやすくなる
   ・体位変換による褥瘡予防
   ・関節の変形・拘縮の予防
   ・呼吸をしやすくする
   ・睡眠の質を高める
 *片麻痺の人が治療椅子で横になる時は、麻痺側にタオルを挟むことにより
  支持規定面が広く安定し、安心して身体の緊張がほぐれる

5.車椅子について
 基礎知識
   ①必ずブレーキをかける
   ②しっかり立てない人はアームレストを外す
   ③レッグレストがあると立ちにくのではずす
   ④フットレストを外した方が移乗しやすい
   ⑤車椅子⇔診療椅子間での移乗介助では
     高い位置から低い位置への移乗が行いやすい
   ⑥認知機能の低下されている方に対して
     移乗先を声かけにて意識させる(聴覚•視覚)
     移動先を手で触れてもらい距離を感じてもらう
   ⑦移乗前に対象者の姿勢をセットする
 *アームレストとフットレストは、はずれる

6.移乗動作について
 ベットへ移乗するときの車椅子の位置
   ・大原則:状態の良い方に車椅子を付ける
      スペースがあれば行きと帰りで逆になるのが理想的
   ・介助者は麻痺側に立つ
   ・アームレストとフットレストをはずして行うと介助しやすい

7.歩行介助について
 1)上手な介助のポイント
   ・転倒に備えること
   ・歩行のリズムを乱さないこと
   ・重心移動を助けること
 2)歩行介助のコツ
   ・重心の寄っている方向が転倒しやすい方向!
     →その方向を抑える!
   ・あまり過剰に介助しない!
     →逆に歩行リズムが乱れ歩きにくい、転倒につながる!
   ・足が出にくい場合などは重心移動を補助する!
     →出にくい足の体重が軽くなり出しやすくなる!
   ・身体レベルに合わせて介助方法を検討する!
     →千差万別なのでその都度考える!
 3)杖歩行の介助(片麻痺の方)
  身体レベルによって介助方法は様々
   ・膝折れ傾向→脇から支える
   ・体がふらつく→両手で胸郭把持
   ・軽介助→両手つなぎ
   ・中等度介助→両肘つなぎ  など
 *立ち姿や動作をみて、転びやすい方向を予想しておく
 *重心をイメージして、どこに体重が乗っているかを把握する
 4)障害が残った方に対して、我々と同じような感覚情報や運動を経験してもらうように誘導・介助することで、緊張の軽減や本人の能力を引き出すことにつながる
  介護を受ける方が
  ・どのように感じているのか
  ・どのように介助したら能力を引き出せるか
  ・心理的要因を配慮する(声かけや視線) etc

8.実技練習
  ①立ち上がりの軌跡を意識した誘導
   (両腕から、体幹側部から)
  ②麻痺のある方への介助方法
   (軽度な方、膝折れする方、麻痺側上下肢について)
  ③しっかり立てない方への介助方法
   (両膝をロックし、しっかり立たずに移動)
  ④重度な方へ二人での介助方法
  ⑤歩行介助(足が出やすくなるように)
   (手つなぎ、後方、麻痺側から)
 *反応を待ちながら能力を引き出すように誘導する

スタディグループ健口家族の最新記事