のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

医者が教える疲れない人の脳

2022年01月09日(日)


「慢性疲労」を消す技術
著者 有田秀穂 セロトニン研究の第一人者
発行所 三笠書房
1400円
発行 2020年9月20日
 朝はセロトニンの活性化、黄昏時にオキシトシンの活性化、夜はメラトニンの活性化すれば、脳を「最高の状態」にして、元気になる。
 オキシトシンは、癒しや安心感をもたらす脳内物質。メラトニンは、心地よい休息や眠りをもたらす脳内物質。この2つを増やすには、セロトニン神経を活性化させることが鍵となる。
 デジタル機器は脳を非常に疲れさせる。パソコンやスマホが発するブルーライトは「メラトニン」を破壊するが、「セロトニン」には影響しないことが明らかになっている。デジタル機器を日中に使い、夜だけ使わないで過ごす。「黄昏時から入眠まではアナログ生活」を提案する。日中はデジタル生活、夜はアナログ生活の「ハイブリッド生活」を現代人はすべきだと考える。
1.朝の目覚めをコントロールしているのは「脳」
 人の覚醒をコントロールしている神経が、「脳幹」という進化的に最も古い脳にある、セロトニン神経とノルアドレナリン神経。
 この二つは、朝の目覚めとともに活動を開始して、大脳をスッキリとした覚醒状態にシフトさせ、自律神経を「休息の副交感神経」から「活動の交感神経」に切り替え、体温も血圧も上げ、代謝を活発な状態にする。
 逆にこの二つの神経が、「脳疲労」によって起床時にちゃんと働かなくなると、朝から疲れを感じ、意欲が湧かず、気分も落ち込み、体も活発に動かない。
 ①セロトニン神経
 脳の神経細胞140億個のうち、数万個がセロトニン神経。僅かな量でも、とてつもなく大きな働きをする。セロトニン神経は、「脳幹」にあり、セロトニンを作り、脳全体に分泌させる。睡眠中には殆ど活動せず、朝の覚醒とともに規則的な行動を始める。
 【セロトニン】
  脳内の神経物質の一つで、脳を元気にしてくれる。感情や精神面、睡眠など人間の大切な機能を健全な状態にするために重要な役割を果たす。
 朝の起床時に、セロトニン神経が正常に活動すれば、スッキリ目覚めて、心がポジティブになる。顔つきや姿勢もシャキッとする。頭や心も、体の働きも活発になる。不定な痛みを抑える。
 【セロトニン神経の活性化因子】
  太陽の光と「歩行」「咀嚼」「呼吸」の3つのリズム運動。
 太陽光を網膜を介して電気信号(インパルス)として受け取ると、セロトニン神経を活性化させる。電灯は、「照度」が足らないからセロトニン神経の活性化には役に立たない。これまでの研究で、2500~3000ルクス以上の光の刺激が網膜に当たらなければ、セロトニン神経は活性化されないことが分かっている。太陽光は1万ルクス以上の照度があるが、電灯光は通常500ルクス以下しかない。北欧などでは冬に「冬季うつ病」が増える。LED光によるスタンド型の人工照明ではセロトニン分泌が起こる。
  リズム運動を司る神経構造は、「脳幹」に存在し、その正中部(縫線核)にセロトニン神経が位置している。

②ノルアドレナリン神経
 ノルアドレナリン神経は、体の内外から発せられる身体的ストレスによって活性化する。太陽光と運動によって活性化するセロトニン神経とは、まったく異なる。
 目覚まし時計などの「聴覚性ストレス刺激」や揺り動かしてもらう「触覚性ストレス刺激」によって脳は覚醒する。
【脳内危機管理センター】
 ノルアドレナリン神経は、五感(視覚・聴覚・触覚など)を介してストレス性の刺激が与えられると活性化して、人間の脳の覚醒レベルをさらに高め、集中力や積極性をもたらす。つまり、ストレスに打ち勝つために脳全体に警報を発し、戦闘態勢を整えさせる。
 適度なストレスは、人間が活発な日常生活をする上で必要。無意識のうちに、軽めの身体的ストレスを自らに与え、ノルアドレナリン神経を適度に活性化し、頭・心・体をベストコンディションにもっていこうとする。
【ノルアドレナリンが暴走してしまうと】
 「ノルアドレナリン神経」の活動が過剰になると、興奮状態になり、頭が真っ白になり、筋肉が硬くなり、いわゆる「あがり」の状態になってしまう。
 この状態に抑制をかけられるのは、「セロトニン神経」。暴走を止めて、平常心を取り戻させる。セロトニン神経の働きが「頭の疲れ」「心の疲れ」で弱っていると、ノルアドレナリン神経の暴走を止められなくなる。

2.不眠の原因は、脳にある
 私たち人間は、睡眠ホルモン「メラトニン」を夕方になると合成・分泌し、睡眠への導入と維持に活用している。メラトニンが夕方から就寝までにたっぷりつくられていることが、入眠には絶対条件。そのためには、日没までにセロトニンもたっぷり合成・分泌されている必要がある。昼間、外で元気に活動すれば夜はよく寝られるが、昼間、部屋にこもってネットやゲーム三昧だと夜はなかなか寝付けない。
 メラトニンは、横になって目を閉じると血液に分泌され、全身に「就寝!」の指令を発する。それに呼応して、交感神経から副交感神経に切り替わる。血圧も心拍も呼吸も鎮まり、体温も下がる。

①メラトニン
 メラトニンは、脳の真ん中に位置する「松果体」で合成・分泌される。メラトニンの材料はセロトニン。松果体に備わっている酵素が、セロトニンをメラトニンに変換する。松果体には、セロトニン神経のように情報伝達の働きはない。
 メラトニンは、太陽光によって見事にコントロールされている。この酵素に、視床下部は、網膜に太陽光が当たっている昼間には抑制をかけ、太陽が沈むと、その抑制が外れてメラトニンの合成・分泌が始まる。
 メラトニンの量は、20歳以降、徐々に減少していく。老化に伴って、メラトニンの合成・分泌量も減り、睡眠時間も歳をとるほど短くなる。
 「昼寝」は太陽が出ている時の仮眠であり、メラトニンが出ていない状態なので、30分ぐらいで起きよう。

②「太陽の恵み」を受けずに健康的な生活を送ることはできない
 人間は、昼行性動物として進化してきたので、脳も体も、太陽の出ている昼間に活発に行動し、太陽が沈んでいる夜に睡眠をとることによって休息してエネルギーを補給する、という生体リズムを備えた。人間の全ての細胞には「時計遺伝子」があり、それらは「同期」して活動する。その同期を司っているのが脳の視床下部。その視交叉上核にある主時計が、各神経を介して全身の細胞にある時計に「同期してバイオリズムを刻め」と命じている。このバイオリズムは、無意識の自立機能によるものだから、人の意思で変えたり、コントロールしたりすることはできない。夜行性動物に自らの意思で勝手に変えることは不可能。「夜型人間」になれない。

③中途覚醒
 入眠して90分ぐらいすると、一時的に(5分くらい)脳波が覚醒脳波に切り替わり、血圧や脈の変動が現れ、健常者でも5秒以内の無呼吸が現れ、自律神経が一時的に乱れる。この時は、目を閉じた状態ではあるが、眼球が左右に動く特別な変化(レム睡眠と呼ばれる)が現れる。
 人間は睡眠中、90分ぐらいの周期で眠りが浅くなり、レム睡眠時に目覚めてトイレに行くことも珍しくない。脳科学の立場からは、一晩の間に中途覚醒が1,2回あっても、正常だと言っていい。

3.慢性疲労が消えていく「快眠脳」プログラム
 日の出とともに睡眠ホルモン・メラトニンは合成・分泌されなくなり、脳も体も目覚める準備にはいる。メラトニンの分泌が止まると、代わって、ストレスホルモンの「コルチゾール」が副腎から分泌され、「起床!」の信号が血中に発令され、自律神経は、副交感神経から交感神経に切り替わる準備にはいる。ここで、太陽の光を浴びると、「セロトニン」が脳内で合成・分泌される。呼吸・咀嚼・歩行のリズム運動がしっかり行われると、セロトニン神経がさらに活性化されて、頭も体も覚醒状態に切り替わる。
 この一連の動きがスムーズに発現しないのが「慢性疲労」の状態。

①決まった時間にサッと起きる
 日の出とともに、視床下部の主時計は、神経を介して「松果体」のメラトニンの合成・分泌を中止させる。そして、外部からの「覚醒刺激」が加わると、「覚醒中枢」の「ノルアドレナリン神経」が活性化されて、大脳が目覚める(目覚めの第一段階)。
 横になったまま目を閉じていれば、体は覚醒しない。ここでダラダラしていると、「ストレス中枢」が動き出すので危険。それを避けるために、さっさと寝床を離れて「体」を目覚めさせるべく、次の覚醒行動に移行する。
 朝、目が覚めても、寝床に入ったままグズグズしているのは、自分で時差ボケを作っているのと同じ。自然のバイオリズムを自分自身で捻じ曲げている。

②起きたらすぐに太陽の光を浴びる
 次のステップは、「覚醒中枢」である「セロトニン神経」を活性化させる(目覚めの第二段階)。一番簡単な活性術が「太陽を浴びる」行動。
 「日の出の時刻」が2時間も遅い冬の朝に、文明の産物である「時計」に従わされているから、起きるのがつらくなるのは当然の生理現象。

③朝食は必ずとり、しっかり噛む
 太陽の光によって「セロトニン神経」活性化のスイッチが入ったら、リズム運動(歩行・呼吸・咀嚼)を行う。
 朝食の栄養に気を配る。セロトニンは、食材に含まれる必須アミノ酸「トリプトファンから合成される。トリプトファンを多く含む主要な食材としては、大豆製品と乳製品がある。日本食は大豆製品が豊富で、豆腐、納豆、味噌、醤油など。乳製品は、洋食の主要食材で、牛乳、バター、チーズ、ヨーグルトなど。
 セロトニン合成には、トリプトファンに加え、炭水化物とビタミンB6も必要。トリプトファン、炭水化物、ビタミンB6をバランスよくたくさん含む食べ物はバナナ

4.「慢性疲労症候群」
 疲れやすいのは、体ではなく「脳」に原因がある。
 梶本 修身著「すべての疲労は脳が原因」
kojima-dental-office.net/blog/20170315-7210#more-7210
 脳疲労は「大脳」を酷使し続けることによって発生する。大脳は、人の認知機能を担う器官。大脳が酷使されると、興奮状態がずっと続いたままの状態となり、ボーッとして頭がスムーズに働かなくなる。
 大脳は「覚醒中枢」と結びついているから、大脳が過度の興奮状態になると、覚醒レベルも上がり、脳全体が休息モードに切り替わらなくなってしまう。脳がオーバーヒートして、疲労が蓄積し、脳全体を疲弊させていく。

①「頭の疲れ」と「心の疲れ」の違い
 「脳の疲れ」には、「頭の疲れ」と「心の疲れ」がある。大脳の疲労を「頭の疲れ」と呼び、「大脳辺縁系」の疲労を「心の疲れ」と呼ぶ。「大脳辺縁系」は、情動の表出や意欲、そして、記憶や自律神経などに関与している。
 「心の疲れ」は、様々な心労(精神的ストレス)が積み重なった結果引き起こされるもの。精神的ストレスが加わると、大脳辺縁系の「扁桃体」が刺激される。「扁桃体」は、「情動中枢」と呼ばれ不安や怒りを感じた時に活動する。「不安・怒りの神経回路」の中心に扁桃体があって、その回路が疲弊すると、その結果、気分が落ち込み、意欲がなくなっていく。それが「心の疲れ」。
 「不安・怒りの神経回路」は記憶(海馬)とも繋がっていて、ストレス状況から離れても、ちょっとしたきっかけでその時の記憶が思い出され、繰り返し「不安・怒りの神経回路」が刺激され続けてしまう。大変厄介なメカニズムを人間の脳はもっている。

②ストレスを“意欲”に切り替える「ドーパミン神経」
 脳内の「情動中枢」である「扁桃体」が「快」の判定を下す状況が発生すると、脳幹・中脳の「ドーパミン神経」が活性化されて、その快をもっと味わいたいという信号を前頭前野に送り、意欲・渇望が生まれる。「快」の判定は、通常、五感を介した身体的感覚によって無意識に行う。しかし、意識的な快の感情を思い描いた時も意欲・渇望は生まれる。
 「快」のイメージを抱くと、「不安・怒りの神経回路」の働きが弱まる。「考え方」や「発想の違い」だけで、活性化される脳内の回路が変わる。ハードワークを他人から強制されれば、「不安・怒りの神経回路」が活性化されるが、自分の意志でポジティブ思考によって行うのであれば、「不安や怒り」は発生しない。
 セロトニンは、ノルアドレナリンとドーパミンの2つが不足したり、過剰になったりしないように調整している。

③慢性疲労が「うつ」をもたらす
 うつ病は、「セロトニン神経」の活動が弱まることで発症する病気。
 厚生労働省の統計データによると、遺伝的な背景を持つ「躁うつ病」は全く増えていないが、うつ病患者数は、2000年以前には20万人程度であったが、ほんの20年で100万人にまで急増してしまった。デジタル社会の進行と一致する。デジタル依存生活こそ、「慢性疲労」の最大の原因。

5.「怒り」が爆発するメカニズム
 脳の「不安・怒りの神経回路」が暴走すると、「怒り」が爆発する。ノルアドレナリン神経を通して受けた外部からのストレス刺激により、「大脳辺縁系」にある「扁桃体」が「不快」の判定を下すと、人の本能を司る回路の一つ、「不安・怒りの神経回路」が無意識に活性化されて、同時に怒りの情動が生まれる。通常は数秒のうちに、信号を送られた「切り替え脳(前頭前野)」がブレーキをかける。
 何らかの原因によってこのブレーキが利かなくなると、「不安・怒りの神経回路」が暴走する。慢性疲労の状態に陥ってしまうと、セロトニンの分泌が減少し、「怒り」をコントロールできなくなる。
 なんだかイライラする、怒りっぽくなっている、と思ったら、疲れが溜まっている、ストレスが溜まっていると考える。セロトニンの分泌が減少していると理解する。
【「怒り」のコントロール】
・ノルアドレナリン神経の暴走を事前に食い止めること。
 日頃からセロトニン神経をしっかり活性化させて「疲れない脳」をつくっておくこと。
・大脳で発生したネガティブな感情を扁桃体の「情動回路」に伝達される前に「言語化」し、大脳内部で処理を終えてしまい、ため込まないようにする。友人や家族に吐き出す、紙に書き出す。言語化する時は、「怒り」をぶちまけるようにせず、理性的な発言をすることが大事。

6.「オキシトシン」が心を癒してくれる
 オキシトシンは、哺乳類だけが持つ、脳内物質。「心地よいスキンシップ」であるグルーミングによって、オキシトシンの分泌が脳内で増えると、同時に脳内のセロトニン神経も活性化されてセロトニンの分泌も増える。また、オキシトシンが、ストレス中枢に対して直接作用し、コルチゾールの分泌を抑える。
心への作用
 ・ストレスの減少
 ・心が落ち着く
 ・意欲が湧く
体への作用
 ・疲労回復
 ・血圧が安定する
 ・治癒力が高まる

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