のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

世の中意外に科学的

2009年01月13日(火)


世の中意外に科学的櫻井よしこ著
集英社
2005年3月9日発行
1470円
 「読み書きそろばん」が日本の教育を世界最高水準に押し上げてきた要素だった。ゆとり教育がこれからの日本に何をもたらすのか。アメのみあふれている現代教育へのひとつの警鐘になる1冊である。科学のおもしろさ、楽しさ、科学への興味をしっかりと子どもたちに伝えてほしい。巻末のノーベル物理学者小柴昌俊氏との対談も見逃せない。
以下は真実を見る目をもつって、すばらしい」の要約である。

1.真実に目をつぶった日本のBSE対応
 二歳以下の牛は異常プリオンの蓄積が見られず陽性反応は見られない。一八万頭の感染牛を出した世界最大のBSE汚染国イギリスでも、三〇ヶ月未満の牛については、BSE検査の必要性を認めていない。にもかかわらず、日本は全頭検査を続けている。
 農水省は、完璧な全頭検査を行うという看板を掲げながら、他方で、BSE感染比率の高い死亡牛などのBSE検査を行っていない。感染が疑われる怪しい牛は検査を行わないレンダリングにまわす。感染牛がいたとしても闇から闇に葬り去る仕組みを考えついた。
 レンダリングとは、病死した牛や何らかの原因で死んだ牛と酪農家が乳の出の悪くなった牛を、皮も骨も一緒に処理し悪名高くなった肉骨粉にする処分方法である。そして、肉骨粉が原因だとされてからは、調べずに完全に燃やされた。
 二〇〇三年三月、最初のBSE感染牛発見から一年六ヶ月後になって、死亡牛の検査を開始した。検査開始までにすべて処理せよとの意図であろう。

2.人類を襲う不死身のタンパク
 BSEが種の壁を乗り越えて牛から人間に感染したことも、その感染因子とされるタンパク質についても、疑問の連続である。感染因子はホルマリンにも、70パーセントのアルコールにも、紫外線照射にも、大量のガンマ線照射にも、100度での煮沸にも、オートクレーブにも、乾熱滅菌にも耐えうる生命力を持つ。そして、核酸も持たない、生物でもない物質が遺伝するケースが報告されている。感染性と遺伝性の両方のルートで広がっていく病気など経験していない。また、生物でもないのにプリオンには「種」がある。発病の遅い種と早い種がある。

3.ポリオウイルスは撲滅してはいけない
 天然痘根絶に用いたウイルスは自然界に存在するほとんど病原性のないタイプのウイルスだった。天然痘ウイルスはDNAウイルスであり、有害の天然痘ウイルスを撲滅しても悪影響は残らなかった。
 非常に近い関係のエンテロウイルスが多数存在するときに、ポリオウイルスだけをスポッと取り除いたら、周辺のエンテロウイルスがどんどん進化して、ポリオウイルスのいなくなった隙間を埋めるように進出してくると考えられる。新たなウイルスに対する戦いを始めなければならない。
 もうひとつ、ポリオウイルスはRNAウイルスであり、不安定な分変わり身が早い。進化のスピードが速い。
 ポリオ撲滅という一見輝かしい成果に向かって突き進むのではなく、人類のために何が必要かをもっと科学的に考えたほうがよい。撲滅しても支障のないウイルスとそうでないウイルスを、賢く、科学的にふるい分けていく必要がある。

4.インフルエンザウイルスの生き残り戦略
 生き残りを重視してきたはずのウイルスが、宿主の人間が死ぬまで増殖し続け、宿主の死と共に、自分も死んでしまうのか。
 インフルエンザウイルスは鴨の腸で安定して増えていく。しかも宿主の鴨に対して悪さをしない。増えたウイルスは常に糞にまじって排出され、乾くと風に乗って広がっていく。残ったウイルスが自己増殖を繰り返す。
 インフルエンザウイルスはRNAウイルスである。RNAウイルスは、ほとんどの場合、遺伝子は一本の鎖で構成されている。二本の鎖で構成されて安定しているDNAウイルスの遺伝子に較べると、その分不安定である。DNAウイルスの場合、遺伝子の鎖のどこかに異常が発生しても、もう一本の鎖で修復ができるのだが、一本しかないRNAウイルスの場合は、修復がきかないのである。豚の中で、鴨からインフルエンザをもらうと共に、人間からもウイルスを受け取った豚の中では、二つのウイルスの交雑を通して、新型ウイルスが誕生する。

5.細菌の世界はゼロサムゲームの掟
 不潔不衛生の極みとも思える川の水に依存しているアジア各地の人々がなぜ病気にならないのか。免疫があるという理由だけではない。順天堂大学細菌学平松教授は「細菌を殺してしまうファージが多数いるから、ガンジス河の水はこの上もなく清浄である」と紹介している。ファージは人間には感染しない。細菌だけに感染するウイルスである。
 科学の目で見ると、日常生活の中で私たちが作り上げてきた清潔さや衛生的なもののイメージとは、まったく異なることがわかってくる。消毒薬や種々の薬を使うたび、不潔なものの中に大量に存在する細菌やウイルスは、鍛えられて強くなる。他方、人間は清潔な環境の中におかれることで、細菌やウイルスへの抵抗力を弱めている。

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