健康を脅かす電磁波
2021年10月27日(水)
荻野晃也著
2007年5月10日発行
緑風出版
1800円
20年ほど前から送電線・変電所・配電線などの電力施設や家庭の電気製品などから漏洩してくる交流の低周波電磁波が、私たちの健康に悪い影響を与えるのではないかと言われ始めた。電磁波による影響には、白血病・脳腫瘍・乳ガン・肺ガン・アルツハイマー病が報告され、ノイローゼや自殺も関係があるといわれている。電磁波の健康への悪影響が完全に確定したわけではない。しかし、欧米では、「危険な可能性が高いのなら慎重に回避しようではないか」という「慎重なる回避思想」「予防原則思想」が広まっている。スウェーデン政府は、国レベルで「悪影響がある」と判断し、1992年末から具体的な対策を取り始めている。スイスやイタリアでは厳しい基準値を作り始めた。イギリスでは、16才未満には携帯電話を使わせないようにしている。
それに比べてこの日本ではどうだろうか。日本ほど電磁波が問題視されていない国はない。100万ボルト送電線網が、平気で家の近くを通過している。また、東京タワー、札幌タワー、名古屋タワーなどの巨大な放送タワーが繁華街の真ん中にある。欧米ではほとんどが山頂に設置されている。携帯電話システムも欧米では大ゾーン・中ゾーン方式で山の上などの民家から離してタワーが建設されているが、日本は小ゾーン方式で、3社が競い合い、街中にたくさんのタワーが林立している。2007年1月末には、日本の携帯電話は1億台を超えた。子どもまでが使っている。政府もマスコミも報道しない。危険性が証明される以前に「国民に知らせるわけにはいかない」そうだ。それでは、「危険性が証明される」までは「安全だと宣伝している」ことになる。悪影響が証明されてからでは遅すぎるのではないだろうか。環境ホルモンも、オゾンホールも地球温暖化も原子力発電所もそうだった。
参考に
ケネディ大統領が教書で発表した「消費者の権利憲章」
dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000739_po_0448.pdf?contentNo=1
「安全である権利」
「知らされる権利」
「選択できる権利」
「意見を反映される権利」
日本の消費者は全てを持っているのだろうか。
リニア中央新幹線をめぐって
kojima-dental-office.net/blog/20211114-14976#more-14976
1.電磁波とは何か 電界、磁界、電磁波
太陽光よりもエネルギーの高い電磁波を、日本では「放射線」と定義している。エネルギーが大変強いために、細胞や遺伝子などの分子や原子をバラバラにしてしまうので、その結果として発ガンの原因となる。広島の被爆者の方々に、白血病が増え始めたのは、被爆後5~6年経過してから。10年後には最大となり、その後は、急激に減少した。白血病が4倍に増加しているのは、大人の被爆者の方で、爆心地から1.5キロメートル付近に住んでいた人たち。
一方、太陽光よりもエネルギーの低い電磁波を「電波」と定義していて、電離効果を示さないことから、「非電離放射線」とも呼ぶ。日本では、一般に電磁波と言う時は、電波を指すことが多い。
①電波の周波数による分類
高周波 数百kHz以上~3000GHz 携帯電話、電子レンジ、レーダー、テレビ電波
(マイクロ波 300MHz~3000GHz)
低周波 2kHZ~数百kHz 家電機器(IH調理器)
超低周波 5Hz~2kHz 50/60Hzの家電機器、送電線
②交流電気と直流電気
19世紀の終わりの頃から低周波の交流電気を使い始めた。1910年頃に、50や60サイクルの周波数の交流電気が効率が良く安価であること、照明のちらつきが無いことなどの理由で使用が決定された。生物への影響という視点など全くなかった。
たった一つの安全論争は、エジソンと弟子のテスラとの間。エジソンは「交流電気は人間に悪い影響を与える」と主張し、直流電気を支持したが、効率の良い安価な電気を求める人たちに負けてしまった。直流の電流からは理論上電磁波が発生しない。
2.電磁波と細胞
①1975年、カリフォルニア大学・脳研究所のエイディ博士らの研究
「16サイクル周辺の変調電磁波をニワトリの脳細胞に照射すると、細胞内からカルシウム・イオンが抜け出てくる」という予想もしない事実を発見した。世界中の化学者が追試したが、同じ結果だった。50,60サイクルの電磁波でも同じ現象が確認されるが、55,65サイクルでは漏洩が少なくなる。
高周波の電磁波に低周波を混ぜることを変調という。電波の波の大きさを変調した放送技術をAM放送、周波数を変調した放送技術をFM放送という。
1975年に最初の論文が発表されて以来、欧米では、送電線や携帯電話によって白血病や脳腫瘍になったという訴訟が相次いだ。1985年、米国・フロリダ州で、小学校近くの送電線を撤去する訴訟が起き、住民の勝利に終わった。
②ブラックマン博士の研究
ニワトリの卵を10ボルト/mの60サイクルの電場下で孵化させた後で、ヒヨコの脳細胞に今度は50サイクルの10ボルト/mの電場をかけてやると、カルシウムの漏洩が急増する。
先進国の中で60サイクルと50サイクルを共に使用しているのは、日本ぐらい。このような現象がニワトリだけではなく、人間にも起きているとすれば大変。
3.低周波電磁波の人体に及ぼす影響
A.電磁波の危険性を示す疫学研究論文
①1979年3月に米国・ワルトハイマー博士らの論文
電流の多い配電線や変電所近くを「HCC(大電流コード)」とし、そうでない磁場の弱い場所を「LCC(小電流コード)」とに分類した。デンバー市の小児ガン患者を1950~1973年の間で調べ、HCCでは、「小児白血病が2.98倍、脳腫瘍が2.4倍、小児ガン全体で2.25倍」という結果を「米国疫学ジャーナル」誌に発表。
②1988年にサビック博士(米国・コロラド大学の疫学者)の論文
1976年から1983年の間で発生したデンバー市の小児ガンを調査、ワルトハイマー論文を支持すると発表した。「小児白血病はワルトハイマー分類法に従うと2.75倍の増加、脳腫瘍が1.94倍、リンパ腫瘍が3.30倍、全ガンで2.20倍」。
磁場測定を行った結果は、小児白血病が1.93倍、筋肉腫瘍が3.26倍、リンパ腫瘍が2.17倍と少し低い値だったが、電場よりも磁場のほうが問題だという結果だった。
③1992年秋にアールボム博士ら(スウェーデン・カロリンスカ研究所の疫学部長)
送電線周辺に住む約45万人を対象に研究を進め、「3ミリガウス以上の被爆で小児白血病の増加は3.8倍、2ミリガウス以上で2.7倍」と発表した。
同時に、職業人を対象とした大々的な疫学調査「ブルデリュース報告」も発表。
「2.9ミリガウス以上の被爆で大人の白血病は3.04倍に増加」
スウェーデン政府は、「電磁波被爆は白血病などを増加させる」と考えて、直ちに規制することを発表。1993年からは、2~3ミリガウスを目安にして、子どもの施設などの移転や送電線の撤去などを開始。送電線、配電線、電化製品の低減化が進められることになった。このようなスウェーデンの動きは世界中に大反響を巻き起こした。
④2003年6月に国立環境研究所の兜博士
WHOの依頼もあり、日本も疫学研究が始まった。「4ミリガウス以上の被爆で白血病(全体)が2.7倍、急性リンパ性白血病では4.73倍、脳腫瘍が10.6倍」という驚くべき結果を発表。送電線から50メートル以内では小児白血病は3.08倍の増加。
ところが、結果が公開される5ヶ月前の2003年1月に、文部かが庄内の評価委員会はこの報告書に対して最低の「C評価」にした。そして、「そのような最低評価しか受けていない研究には影響を受けない」とばかりに官・産・学、それにマスコミも無視した。
この報告書は、2006年8月に世界的なガン研究専門誌である「国際ガン研究ジャーナル」に発表されているから、国内の評価が間違っていることは明白。
B.父親の電磁波被爆によって子どもに悪影響が現れるという疫学研究
①1985年のスピッツ論文(米)
電気技師の父親から生まれた子供の神経系腫瘍は11.75倍に増加している
C.母親が電磁波被爆した場合の子どもへの影響を示す論文
①1995年のリバード論文(カナダ)
妊娠中に自宅でミシン仕事などの内職をしていた母親から生まれた子供の白血病が5.78倍に増加している
②1995年のリー論文(米)
妊娠初期の3ヶ月間を電気毛布を使用していた母親から生まれた子供には、先天性尿道異常が10倍にもなっている
D.親が電磁波に被爆した場合の胎児への影響を示す論文
①1996年のイエメンの論文
男親が電力施設に働いている場合、出産男児8人に対して女児54人。
「男の子は流産している」ことになる。
日本でも男の子の流産死が急増加している。
②2002年のリーの論文 カルフォルニア州健康局の依頼研究
母親が16ミリガウス以上の被爆で初期流産が5.7倍にも増加。
常時被爆ではなく、定期的な被爆。IHクッキング・ヒーターの前で料理したり、通勤電車で被爆したりするような場合。
生まれてくる子供に女の子が多い。
E.職業電磁波被爆
①1992年のリンドバウム報告(スウェーデン)
VDT(コンピュータ用のテレビのような末端機器のこと)使用し、約9ミリガウス以上の被爆をしている女性の流産は3.4倍の増加。
1980年頃から、VDTからの電磁波により、女性職員に流産が多いとか、異常出産が多いという報道が相次ぐ。スウェーデンでは1987年にVDTからの低周波規制案が発表され、最大の労働組合連合は1991年にさらに強める規制を発表し、世界中の先進国(日本を除く)は、それらのスウェーデン規制に従い始めた。
②1994年にフランスとカナダの電力会社従業員を調査した疫学結果
変電所などのパルス状電磁波被爆を受けている従業員の肺ガンは16.6倍にも増加していた。
③2001年に英国のヘンシャウ博士の論文
送電線近くに住む人の肺ガンは英国全体で250~400人にも上る。
地中にあるラドンというガス状の放射性物質が送電線近くに吸い寄せられることが肺ガンの原因ではないかと発表。日本の電力会社も従業員の調査をして欲しい。
4.高周波電磁波の人体に及ぼす影響
A.レーダーなどの人体影響
レーダーなどの高周波・電磁波が人体組織を温める。人間の身体は血液で冷やされているが、そのような冷却機能の少ない組織が睾丸と目。卵の白身のようにタンパク質を温めると白濁しやすく、特に心配されたのが白内障。
①1944年に軍の依頼を受けて調査したイエール大学レーダー研究所
「戦時中に限り、レーダー操作員は4時間勤務、4時間休息すべき」との報告を提出した。最初から危険性は知られていた。
②レーダー操作軍人の疫学研究
・1988年にはヒル論文(米国)「ガンが14.3倍、ホジキンス病が10.3倍」
・1994年にはジバルギスキー論文(ポーランド)「白血病が8.8倍」
③レーダー基地周辺の住民を調べた研究
・1984年にレスター論文(米国)「空港レーダー周辺にガンが多い」
・1989年にオリアリー論文(米国)「軍のレーダー基地周辺に乳児突然死が多い」
④小型のレーダー
・「スピード・メーター」を多用している警察官に睾丸ガン訴訟が多発
・「マリナーズ」のあるシアトル市は「レーダー・メーター」の使用を禁止
B.ラジオ・テレビ・携帯電話のタワーと人体影響
タワーからは1日中電磁波が放射されている。放送タワー周辺の疫学研究に最適な国が日本。東京タワー、札幌タワー、名古屋タワーなどの巨大な放送タワーが繁華街の真ん中にある。欧米ではほとんどが山頂に設置されている。
携帯電話システムも欧米では大ゾーン・中ゾーン方式で山の上などの民家から離してタワーが建設されているが、日本は小ゾーン方式で、3社が競い合い、たくさんのタワーが林立することになり、被爆する人の数も増えている。
①1986年にサンフランシスコ公衆衛生局
「ラジオ・テレビ塔周辺で小児ガンが2倍に増加」と発表。
②1996年のホッキング論文(オーストラリア)
シドニー郊外にある放送タワー周辺の小児白血病を調べた疫学研究
タワーから4キロメートル以内の小児白血病と12キロメートル以遠の小児白血病とを比較すると、近くのほうが死亡率で2.32倍に増加しているとの結果。リンパ性白血病では2.74倍の死亡率。
③1997年のドルク論文(英)
14才以下の子どもを調べた疫学研究
英国サットンにあるタワー周辺2キロメートル以内では小児白血病が1.83倍、急性リンパ性白血病が3.57倍にも増加。500メートル以内では小児白血病が9倍を超えていた。
C.携帯電話による人体影響
メディアは、危険性が証明される以前に「国民に知らせるわけにはいかない」そうだ。それでは、「危険性が証明される」までは「安全だと宣伝している」ことになる。環境ホルモンも、オゾンホールも地球温暖化も原子力発電所もそうだった。
①2000年5月、英国政府の依頼を受けたスチュワート報告
「16才以下の子どもは携帯電話を使用させないように」との勧告。携帯電話は頭の真横で使用するわけだから、放射されている電磁波の約半分は頭に吸収される。子どもの頭蓋骨はまだ軟らかく、また脳神経も発達途上であることなどから使用禁止するように勧告した。英国では16才以下が義務教育機関であることも理由の一つ。義務教育を過ぎれば、携帯電話の使用による危険性と利益は、個人が判断すべき。
②1999年春のハーデル論文(スウェーデン)
携帯電話による脳腫瘍の増加を発表した最初の疫学研究。左側で携帯電話を使用している人では左側の脳腫瘍が、右側で使用している人では右側の脳腫瘍が2.5倍に増加していて、その反対側では増加が見られないという衝撃的な内容。
③2004年末にレフレックス報告
レフレックス・プロジェクトは、EU7カ国・12研究所が参加した共同研究プロジェクト。何れの電磁波被爆でも培養細胞のDNAが切断された。被爆強度が強くなるに従って、形の崩れが大きくなっていた。
④2005年にウィーン大学の正式論文
電子レンジのような連続波に比べて携帯電話に使用されている「パルス変調・間欠波」や「通話変調・連続波」のほうが大きな崩れを示している。
5.電磁波被爆防護の規制は?
人間の身体は電気を良く通す導体と考えられ、人間の表面では電流が流れやすいこともあって、体内にある細胞内への外部電場影響は激減するするが、磁場のほうは全く減衰しない。しかも、磁場はコンクリートも突き抜けてしまう。体内の内部に浸透する磁場が、細胞内にあるイオンに働きかけて、「非熱効果」といわれる生理的・免疫的・遺伝子的効果(発ガンも含む)を誘発することが懸念されている。
危険性が知られるようになってから「予防原則」思想に基づく規制を始めた国や自治体が増えている。米国では、送電線下の通行権は電力会社が所有することが多く、その幅も日本とは比べものにならないくらい広くとられている。ネブラスカ・コロラド間の23万ボルト送電線では幅45メートル、送電線中央から22.5メートルとなっている。
日本では鉄塔のみが電力会社の敷地であり、他の多くは私有地の上空を安く借用している。送電線下から両端に3メートルの幅しか補償しない。送電線直下でも建物を造ることが認められている。住民が電磁波問題をあまり知らない間に「100万ボルト送電線網を作ってしまおう」とする日本の現状は悲しくなる。
①オーストラリア
1989年に国レベルの規制。連続被爆で
電場については一般人5kV/m以下、職業人では10kV/m以下、
磁場については一般人1000ミリガウス以下、職業人では5000ミリガウス以下
②イタリア
1992年にアンドレオッチ首相が政令を発表。現在あるものも含めて施設からの距離規制
13.2万ボルト送電線と変電所 10メートル
22.0万ボルト送電線と変電所 18メートル
38.0万ボルト送電線と変電所 28メートル
③スイス
2000年2月1日から「予防原則」思想に忠実な「電磁波規制値」を実施。
送電線・配電線・鉄道電線などの低周波の磁場 10ミリガウス
携帯電話タワーからの高周波の電場強度 4.0ボルト/メーター
③スウェーデン
電磁波過敏症を国として認知しているのはスウェーデンだけ。
1993年から小学校や幼稚園などに関して2~3ミリガウスを目安に鉄塔撤去や施設移転などが行われている。また住宅密集地近くの送電線も撤去。高圧送電線から240メートル以内での家の建築は認められていない。家電製品の低減化も着々と進んでいる。
④イギリス
1988年11月、英国・放射線防護評議会が電場の規制値を10kV/mと発表。
2001年に、英国・放射線防護評議会が「4ミリガウス以上の被爆で小児白血病が2倍に増加する」とのドール報告書を発表。
2001年のスチュワート報告では「16歳以下の子どもに携帯電話を使わせないように」との委員長の勧告。
2006年1月には英国放射線防護局の局長となったスチュワート博士が「子どもの携帯電話使用の禁止」の勧告。
2005年に送電線周辺での小児白血病の増加を認めたことから、送電線から70メートル以内での家の建設を認めない政策が行われる可能性が高まっている。
⑤旧ソ連など
1975年から職業人を対象とした電場規制が行われていた。当初は40万ボルト以上の送電線や変電所を対象に、1日に5分間であれば25kV/m以下、3時間であれば10kV/m以下で許可されるが、時間制限がなければ5kV/m以下。超高圧送電線の場合、隔離距離として100メートルが必要。
⑥アメリカ
国家電気安全規則によって「送電線下の誘導電流が地上で5ミリアンペア以下とする」ことが決められている。そのレベルは9kV/m程度と考えられる。もちろん日本のように住宅の上を送電線が通ることはない。
1995年7月に、米国放射線防護委員会は「最終的には2ミリガウスの規制を行うべきだ」との報告書案を明らかにした。米国もスウェーデンと足並みを揃える可能性がある。
⑦日本
低周波に関する規制は1976年にに作成された3kV/mのみ。日本の規制値は「傘を差して送電線下に立った場合に感ずる電気ショックを考慮して」決められた。根拠となった東京電力の高木博士の論文(1971年)には3kV/m以下でも電気ショックを感ずると書かれている。それどころか1994年12月付の通産省・資源エネルギー庁「電磁界影響調査検討会」の報告書には「現時点において、居住環境で生ずる商用周波磁界により、人の健康に有害な影響があるという証拠は認められない」と書かれていて、1995年1月に発表した。
⑧インド
現在76.5万ボルトの送電線網を建設中だが、送電線から45メートル以内には家の建設を認めていない。日本は100万ボルト送電線網の建設を急いでいるが、平気で家の近くを通過しようとしている。
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