のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

内部被曝の真実

2011年10月19日(水)


児玉龍彦著
幻冬舎新書
720円
2011年9月10日発行

 7月27日に行われた衆議院 厚生労働委員会に於いて参考人として、国が「測定と除染」に今すぐ全力を挙げなければ、子どもたちと妊婦を守れないことを熱く語った。そして、それは大きな反響を呼んだ。そのスピーチを完全収録したこの本をぜひ読んでいただきたい。「世の中を変える研究というのは純粋な心から生まれるものである」は、心に残る。
参考として
7/27衆議院厚生労働委員会参考人による意見陳述
www.youtube.com/watch?v=eubj2tmb86M
その後の記者会見(1時間12分)
www.youtube.com/watch?v=skpuHiLguQw

1.専門家
 専門家とは、「経験」の枠を超える「歴史と世界」を知り、本当の危機が顕在化する前にそれを防ぐ智恵を教える人でなければならない。政治家みたいに折り合いをつけることではない。危険を危険とはっきり言うのが専門家である。その仕事とは、「一見このように見えるが、実はこうだ」ということを予測するところにある。
 津波の専門家とは、沖合の波の高さではなく、波のエネルギーから、海岸沿いの施設を襲う波のリスクを正確に評価できる人のことである。波と津波とは、作られるメカニズムがまったく違う。沖合で3メートルでも、持っているエネルギーが全然違うから、岸に来たら30メートルになることを伝えることである。

2.安易な“エビデンス”論への疑問
 1986年4月チェルノブイリ原発事故から20年後の2005年になり、ようやく「甲状腺がん増加の原因が原発事故である」というのが世界の研究者のコンセンサスとなるに至った。その時既に小児がんの発症は終焉を遂げていた。数万人集めて検診を行っても、なかなか因果関係を証明できない。対策の求められているその瞬間には「エビデンスはない」ということがしばしば起こることである。これでは患者の役に立たない。
 病気が実際起こっている段階で、軽微な変化を多数みるのではなく、極端な現象に注意することが警報として最も大事であろう。普通では起こりえない、極端な、いわば終末型の変化を実感することが極めて重要になってくる。肺転移を伴った子どもの甲状腺乳頭がんの増加であり、その分子機構としてRET遺伝子変異の増加が放射線障害を示唆することに気づくことが重要である。
 被爆者の健康被害研究に携わってきた長瀧医師は、「国際機関で“因果関係があると結論するにはデータが不充分である”という表現は、科学的には放射線に起因するとは認められないということである。ただし科学的に認められないということは、あくまで認められないということで、起因しないと結論しているわけではない」と指摘する。

3.予測と実測
 データがいろいろ足りないから予測が大事である。データが足りない中で危険性など、「一番可能性が高いのはこういうことだ」という結論を出すのが大事であって、データが全部揃っていたらそれは実測である。

4.福島原発事故の総量
 今回の福島原発事故の総量がどれくらいであるとみているのか、はっきりした報告は全くされていない。私どもアイソトープセンターの知識をもとに計算してみると、まず熱量からの計算では広島原爆の29.6個分に相当するものが漏出している。ウラン換算では20個分のものが漏出してしていると換算される。さらに恐るべきことには、原爆による放射能の残存量と、原発から放出されたものの残存量を比較すると、1年経って、原爆の場合は1000分の1程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は10分の1程度しか減らない。つまり、今回の福島原発の問題は、総量で原爆数十個分に相当する量が漏出し、原爆汚染よりもずっと大量の残存物を放出したということが、まず考える前提となる。

5.内部被曝の一番大きな問題はがん
 細胞分裂する時、鎖が1本になる過程のところが切れやすく、ものすごく危険である。そのために妊婦の胎児、成長期の増殖の盛んな細胞に対しては放射線障害は非常な危険性を持つ。一つの遺伝子の変異ではがんは起こらない。もう1個の別の要因が重なって、がんへの変異が起こる。放射線の内部障害をみる時にも、どの遺伝子がやられて、どのような変化が起こっているかをみることが、原則的な考え方として大事である。
 内部被曝というのは、全身をスキャンしても全く意味がない。ヨウ素131は甲状腺、トロトラストは肝臓、セシウムは尿管上皮と膀胱などの集積点をみる。

6.α線は内部被曝における最も危険な物質
 α線は飛ぶ距離が短いため、近隣の細胞を障害する。その時に一番やられるのは、p53という遺伝子(がんの発生を抑制する遺伝子)である。
 遺伝子には、DNAが傷つかないように、p53遺伝子のような、治すための遺伝子がたくさんある。だから普通の遺伝子が1個やられてもその機能で修復される。ところが最初にp53遺伝子などがやられると、治す機能が壊れてしまう。
 トロトラストの場合は、第1段階でp53の遺伝子がやられ、それに続く第2第3の変異が起こるまでに20年から30年かかり、そこで肝臓がんや白血病が起こってくることが証明されている。

7.母乳からのセシウム検出に愕然とした理由
 セシウム137という物質は自然界には1945年以前に存在していないものである。原爆と原発で生まれて、それが1960年代の初めに水爆実験によってピークになったものである。セシウム137は強いγ線とβ線を放出する。体内にはいると、胃腸から吸収され、肝臓、筋肉に分布し、100日から200日で腎臓から尿中へ排泄される。
 福島博士らは、良性の前立腺肥大の手術の時に一部切除される膀胱の病理組織の検討を進めた。その結果、セシウム汚染地域の住民の膀胱には、高い線量でも中間的線量でも、増殖性の異形性の病変が起こっていることを発見し、“チェルノブイリ膀胱炎”と名付けた。被曝地域における住民の膀胱の病理組織を綿密に解析すると、ほぼ全例からこのような増殖性の異形性変化が発見されたが、非汚染地区患者の膀胱ではみられなかった。
 尿中にセシウムが6ベクレム/リットルぐらい出ている状態が15年ほど続いていると、みんな増殖性の膀胱炎になっている。そこにはp53遺伝子の変異が多く、小さいがんが増えている。チェルノブイリ周辺の地域では、膀胱がんが6割増えている。
 膀胱がんでは最初の報告が18年後であり、発ガンメカニズムが23年後に明らかになってきたことは、低レベルの放射線被害の証明がいかに難しいかを再確認させるとともに、地道な測定と、検討の重要性を示している。
 福島原発事故は、膨大な量のセシウム137飛散を引き起こした。すでに福島、二本松、いわき各市の7名の女性からは母乳に2~13ベクレム/リットルのセシウム137が検出されたことが厚労省研究班の調査で報告されている。この濃度は福島博士らのチェルノブイリの住民の尿中のセシウム137にほぼ匹敵する。

8.4つの提言  私が伝えたかったこと(衆議院厚生労働委員会 参考人として)
①最新の技術を駆使した食品検査を
 低いレベルを測定できる敏感な機械でないとダメである。調べる食べものの回りを厚さ6センチメートル鉛で遮蔽して、測定しなくてはならない。日本が持っている最新鋭のイメージングなどを用いた機器を使う。
②住宅の汚染を検査する“すぐやる課”を
 住宅の汚染を測定する課を全ての自治体に作って欲しい。測定の教育を受けた人を置いて、すぐやる課を作って欲しい。
 私は安全に関しては、いったん基準を決めたら、危機になったからそれを変えていくという格好ではダメだと思う。基準を変えるのではなく、今はできないかもしれないが、来年までにその基準に持っていく。再来年までにこうする、というのでなければ住民は安心できないではないか。
③自分たちで緊急的に除染をするときは土埃に厳重注意
 高圧洗浄機などは汚染物が飛散する可能性があるので、機械を使う前に、まず高い線量の土やゴミ、草を除いておくことである。さらに作業の時は、肌を露出しない、手袋をする、作業中は飲食をしない、ということを厳守して欲しい。除染作業ではほこりを吸い込んで内部被曝してしまうことを避けなければならない。
④行政による長期的な除染は住民の同意のもとに
 国策として汚染土壌を除染する技術に民間の力を結集してください。民間のノウハウを結集して、直ちに現地に除染研究センターを作ってください。緊急に子どもの被曝を減少させるために、核施設で扱える放射線量、核種、使用権限、運搬、受け入れなどの新しい法律を制定してください。
 大事なのは、住民が何を望んでいるかだ。何を優先するかの問題もある。

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