のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

英国一家、日本を食べる 下

2021年02月23日(火)


英国一家、日本を食べる 下マイケル・ブース著
寺西のぶ子訳
角川文庫
800円
2018年2月25日発行
 英国一家、日本を食べる 上
kojima-dental-office.net/blog/20210122-14558#more-14558
 日本料理の本質と伝統を探ろうとして軽い気持ちで始めた冒険は、人生の大部分を占めるようになってしまった。今も僕は、日本料理はもちろんのこと、日本という国、日本の人々に、わくわくして夢中になって魅了される。
 この本がまさか日本語に翻訳されるとは思ってもみなかったし、日本の読者に喜んでもらえるとは想像もしていなかった。日本人にしてみれば普段当たり前と思っていること、ありふれたこと、見慣れたものでも、外部の人に、まばゆいばかりに輝いて見えたり、感激されたりすると、改めて日本の食文化が新鮮に見えたのかもしれない。さらに、驚いたのはこの本がアニメになったこと。嬉しかったことは、それでまた日本へ行けたこと。魅力的な古都、金沢の上等な鮨屋で食事をした。(乙女寿司)
 ミシュランガイド石川 掲載店舗
kojima-dental-office.net/blog/20160606-308#more-308
 食べ物はその国の文化や生活に直結している。日本人のように国民が食べ物に対して深く幅広い情熱を持ち、食べるために生きている国ではその傾向は強い。欧米の国の大多数の人は、生きるために食べている。
 日本の人は、季節を、場合によっては神様を重んじ、素材の質や純度を鋭く見分け、風味や見た目にこだわり、欧米人よりもはるかに多様な食感を楽しむ。
 自分なりの道を究めよう、熟練の技を身につけよう、季節と旬を理解しよう、素材の良さと本質を知ろう、そして何にもまして食べる人に喜んでもらおうとひたむきになることが日本料理。『ごちそうさまでした』は、仏教から生まれた言葉で、食べ物を収穫する人や料理をしてくれる人に感謝するという意味。
1.酒の危機
 日本酒の消費量は、何年も下降線をたどっている。日本人が飲む清酒の量は、30年前の3分の1を少し上回る程度。1965年以降、大多数の日本人が選ぶようになったのは、ビールで、最近ではワインも飲まれるようになった。
 欧米人は、料理との相性を考えてワインを選ぶことが多いが、日本人はこれまでそういうことをあまりしてこなかった。日本人が、フランスワインやスコッチウイスキーに法外な金をかけるのは有名だが、酒1本に1万円以上払う人はほとんどいない。
 日本酒は自分で注いじゃいけない、一緒に食事をしている誰かが注いであげなくてはいけないという、うんざりするしきたりもある。
 酒醸造の世界は、閉鎖主義的な日本の中でも、とりわけ伝統性が強く、上下関係が厳しく、排他的。ごく最近まで、改革に消極的。
2.鮨
 日本人の特徴の一つは、せっかちである。客の要望に応えて、注文を受けたら鮨飯を片手で握って固め、その上に魚をトッピングする方法を考えついたのが、19世紀の華屋與兵衛。にぎり鮨といえば、発祥の地を示す江戸前鮨を意味することもある。
3.豆腐
 美味しい豆腐には質のいい水が何より大切。豆腐の黄金律は作ったその日に食べること。そうしないと、美味しくなくなってしまう。牛乳と同じで毎日家庭に届けられていたが、そうした伝統が廃れたから、各地の小さな豆腐屋がつぶれていった。
4.はしご酒 大阪
 自分たちのグルメ手帳の中から選んだ美味しい店へ連れて行ってくれた。大阪で一番の衝撃的なお好み焼き「千草」、ソースに興味があった。串カツ屋「だるま」。濃厚で甘味のある黒光りしたソースを串にたっぷりとつけて食べる。「No double dipping」「二度づけ禁止」と英語で書いてある。串カツの秘密は衣にある。ウズラの卵とトマトはずば抜けている。均一な衣は、口の中でカリッと割れてとろりとうまい中身と混じり合う。新世界市場、立ち飲み屋「エノキ屋」。
 大阪では企業のトップから道路工事のおじさんまで、立ち飲み屋で肩を並べて飲む。欧米人を凌ぐほど、食事の楽しみ方を知っている。大阪人は、フレンドリーで、ユーモアのセンスがあって、安くて美味しい食べ物が好き。大阪人の気質は親切で寛容。商売熱心で、外向的で、お金に細かいけど、公正で冒険心がある。みんな現実的で、京都の人みたいに体裁を気にしたりしない。
 うどん屋「てんま」。この出し汁ほど美味いものはかつて食べたことがない。だしの中にカリカリに揚げた小さな餃子が浮かんでいる。もぎたての豆のように甘く、しかも海の味わいが複雑に絡まり合い、餃子をかじると見事なポークのパンチがネギと香草の刺激と一緒に口の中に広がる。
5.高野山
 自分のなす事を自覚するために、仏教は瞑想を奨励する。
 仏教は人を裁かない。仏僧は伝道者ではない。キリスト教では、これが正しい、これは間違っていると評価するが、仏教は寛容で、何れの評価もしない。解脱に至る道は様々。仏教では、人をありのままに尊重する。人間は完全ではないと分かっている。
 苦悩は愛着から生まれる。仏教は、自分のありのままの心をのぞくようにと求める。自分自身の心の働きを理解すると、開放されて今を生きることができる。幸福はその瞬間に訪れる。その時にあなたは自我を失い、自由になる。
6.牛肉 松坂
 仏教の普及に伴ってたびたび肉食禁止令が出された。禁止令には、農耕に必要な動物を過剰消費してしまうという問題を現実的に解決する目的があった。犂(すき)を引かせる牛や馬を食べることを禁じるのが目的だったので、豚は含まれていなかった。家畜を保護することにあった。
7.世界一の醤油
 四国香川に来たは、本物のグルメ志向の逸品を味わうため。 かめびし屋は日本で唯一、「むしろ麹法」という伝統製法を守って醤油を製造している会社。竹を編んだ簀の上に敷いたむしろに大豆を広げて発酵させ、もろみを作る。できたもろみは、蔵の樽で2年半かけて熟成させる。キッコーマンは脱脂加工大豆だが、大豆丸ごと使う。建物全体が豊かな微生物と共に生きる大きな熟成室。酵母菌を始めとする200才以上の微生物が230種類もいる。まろやかでコクのある醤油が出来上がる。値段は2倍ほど。当主の岡田佳苗さんは、フリーズドライの「ソイソルト」や長期醸造醤油などすばらしい新商品を開発。
8.フグに挑戦 下関
 フグで有名なのは下関。その量は、日本全体の半分以上、2000トン。
 フグにはどのタイプにも毒がある。肝臓や卵巣には、テトロドトキシンというヒ素の13倍も強い強力な神経毒がある。夏場の毒性は最強で、1匹で30人を殺せるほど。解毒剤はない。日本では、毎年数人が命を落とす。最初に現れる徴候は口の渇き。そして呼吸がしにくくなり、やがて目の焦点が合わなくなる。助からない場合は身体中が麻痺して、もだえ苦しみながら窒息死する。
9.世界一長寿の村  沖縄
 第二次世界大戦で県民の4分の1が亡くなった。長崎と広島の犠牲者を合わせた数とほぼ同じ。
 沖縄の人たちは、年齢が三桁になるまで健康で活動的に生きられる秘訣を知っている。人口10万人あたりの100才以上の高齢者数は、その他の地域の約2.5倍。その中でも大宜味村は、3500人のうち100才以上が10人以上いる、日本一、世界一の比率。103才以上の人たちも自宅で暮らすのは、当たり前。沖縄の人は、100才を大きな節目とは考えず、数え年97才で盛大に祝う「カジマナー」を大切にする。
 食べ過ぎないことが、長生きの鍵になる。沖縄人は日本で一番多く昆布を食べていた。大切なのは本物を食べること。乾燥させたものならいいけれど、サプリメントでは話にならない。沖縄人は紅芋、フラボノイドを世界一多く(欧米人の約50倍)摂取する。黒糖は加工も精白もされていない。豚肉料理、ゴーヤチャンプルは伝統料理。沖縄人は時計にあまり支配されない時間の観念を持っている。
10.究極の料理店 東京「壬生」
 「一見さんお断り」の店。ミュシュランの東京ガイドには、載っていない。調査員の評価を受けないと辞退した店の中にも入っていない。
 心と魂で料理している。彼自身と彼の料理は一体となっている。自分の技術に対して謙虚であれば、常に学ぶ姿勢を忘れず、新しい手法や素材を素直に取り入れられる。また、同業者に対して謙虚であれば、現状に甘んじることもない
 素朴さは大変な勇気を必要とする。農産物に最大の敬意を払って使い、純粋で素朴な調理によって素材自体の風味に振動を与えている。壬生の盛りつけは上品だが、技巧や細やかな手間は全く施されていない。ただ、料理があるべきところに、「着地している」ように見える。
 壬生の料理は能力がなければ楽しめない。目を楽しませ、味わいを通じて腹の底から脳を喜ばせる。食べ物は旬の時期を味わってこそ、その瞬間を楽しめる。旬の始めは「走り」、出盛りの頃は「盛り」、うま味が詰まっている終わりがけの「名残」。その晩の料理は全部で10品ほどだったが、終わる頃には満腹でも空腹でもなく、この上なく幸せで満足感に包まれていた。

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