名誉院長ブログ のぼるくんの世界

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英国一家、日本を食べる 上

2021年01月22日(金)


英国一家、日本を食べる 上マイケル・ブース著
寺西のぶ子訳
角川文庫
800円
2018年2月25日発行
 英国一家、日本を食べる 下
kojima-dental-office.net/blog/20210223-14637#more-14637
 英国グルメライターが、3ヶ月間の食べ歩き家族旅行。実際に行って、この目で見て、自分の舌で味わってみるしかない。今の日本の食べ物を調査し、料理技術や食材についてできる限り学び、辻の悲観的な予想が当たっているかどうかを自分で見極めたい。
 僕の知識は間違いだらけ。これまで料理に関して教わってきたことは、何もかもやりすぎで、手を加えすぎで、こだわりすぎで、無駄ばかりだった。
 食感のバリエーションとコントラストは、今回の食べ歩き旅行で得た最大の発見だった。日本人の食感に対する意識は異常なほど洗練されている。一つの料理の中で、あるいは食事全体の中で異なる食感を組み合わせることについては、日本人から学ぶべきことがとてもたくさんあった。
 日本では、食べ物の色が大変重んじられる。色は季節を表す。春は緑、夏は深緑、秋は橙や茶、冬は白。それを皿の上に表現している。
1.辻静雄の『Japanese Cooking:A Simple Art』
 初版は1977年、新装版は2006年(講談社インターナショナル刊)。英語で書かれた日本料理の情報源としては傑出した存在で、世界中の日本料理愛好家にとってバイブル。今でも日本料理と言えば辻の本に始まり、辻の本で終わると言っても過言ではない。 米の精神性から日本料理における器の役割まで、ありとあらゆることを解説している。また、日本料理では季節が非常に重要だと強調。料理を作る人も食べる人も、ある特定の時期にしか手に入らない食材を貴重な授かり物として喜ぶ。日本人は味がほとんどない食材を数多く使って、食感や舌触りを楽しむ。不思議なのは、デザートが載っていない。
 辻は、未来を先取りしていた。今のヨーロッパやアメリカで共感を呼ぶ考え方を四半世紀前に書いていた。地場産の新鮮な旬の食べ物、素材を最大限に尊重し、料理人の干渉を最小限に抑えて料理を作る、乳製品と肉類を減らす、野菜と果物を多く摂る。
 驚いたことに、辻は、既に1970年代の終わりに、伝統的な日本料理の衰退に気づいていた。外国の料理がいつの間にか日本人の味覚を変化させた。冷凍マグロの味が、「日本料理の伝統を破壊している」と嘆く。
2.日本料理は、引き算の料理
 日本料理では、食材は神様からの贈り物と思って、手を加えすぎないようにする。ありのままの姿形が最高と考える。食材が本来持っている味を引き出すのが仕事だと思っている。日本では、料理屋と言えば、たいていは一種類の料理専門店。こんなにたくさん料理屋があるのに、なぜか商売が成り立っている。
 フランスのシェフは、自分を神様だと思い、素材を変えてしまいたい、自分ならではの個性を与えようとする。異なる素材の風味を込み入ったやり方で加えたり重ねたりする。
 洋食は、日本料理と西洋料理のハイブリッドで、「カレーライス」や豚カツなど、日本人が欧米から取り入れて自分たちの好みに合うように手を加えた料理。
 温かい料理は火傷するほど熱々にする。焼きたてのたこ焼きには充分注意が必要。爪楊枝で小さく割って猛烈に熱い湯気を外に出してから、用心深くかじらないといけない。新宿駅「デパ地下」には、現代の日本人の食が凝縮されていた。日本人は、生鮮食料品にとてもうるさい。どの商品も、傷一つない。
 ①焼き鳥
 欧米のバーベキューはいつもできが良くない。肉はたいてい焼けすぎか、生焼けか、焦げているかのいずれかで、時にはその3つが揃っていることもある。しかし、日本人は、他のどの国よりも炭火の扱いに長けているうえに、画期的な工夫、食材を小さくしている。串はどれも炭火で数分焼き、たれをつけてもう一度炭火にかざしてから客に出す。
 辻静雄も、本物の焼鳥屋はたれを使い切らずに、減りかけたら新しく足していくのだと書いていた。つまり、水を一切使わないので、場合によっては何年も使い続けることができる。
 ②天ぷら
 腕利きの天ぷら職人は、他の料理を作らない。衣が油で光っているのに食べてみると油っぽくない。中の魚はしっとりとして熱々で、最高。最後に登場したのは、思わず舌鼓を打つ、指先ほどの帆立がゴロゴロ入ったかき揚げの天丼。これが出てくるのは、食事がもう終わるという合図。
 カリカリした衣の中に、ふわふわで熱々の野菜や魚が入っているのはなぜか。その秘密は、衣、私は10年修行した。衣を混ぜるのを許してもらったのはつい1年前。
 衣の材料は小麦粉と水と卵だけ。水は冷たく冷えていないといけない。作った衣は直ちに使う。もう一つの秘訣は、何があっても絶対に衣を混ぜすぎないこと。料理人は、箸でさっと混ぜただけだった。水分が多いと、素材の温度は100度以上に上がらない。だから素材の水分は、衣をつける前にできるだけ取り除く。
 天ぷらは180度前後で揚げるが、素材によって変える。家庭でも、衣をほんの少し入れてみて、すぐに浮き上がってくれば適温。大事なのは、野菜などを一度にたくさん入れないこと。油の温度が下がって、カリッと揚がらない。関東の人はきつね色に揚がったのが好きで、関西の人は薄い色に揚がったのを好む。
 ③鮨
 高級店は、天日干ししたコシヒカリなど、高価な短粒種の米を使うが、大多数の鮨屋では、アメリカ産の中粒種のジャポニカを使う。鮨飯は、人肌の25度程度が一番適している。味付けは、一般には酢と砂糖が7対5の割合で、塩は小さじ2分の1程度。
 一流店では海苔を軽く火にかざしてパリパリになるようにする。辻静雄は、海苔の片面はざらざらしていて、反対側は滑らかなので、巻きずしを作る時は、必ず滑らかな面が外側に来るようにする。
 日本人は鮨を食べる時に箸を使わないで、直接手で食べる。外国人の客は「正統派」だと信じて箸を使いたがるので、日本の鮨職人は普段よりもややしっかりと握る。
 鮨屋に行って、魚の皮の状態を見るだけで新鮮かどうかは分かる。魚が新鮮なほどいいわけではない。最高の風味を引き出すためには、しばらく寝かせる必要がある。体内の酵素が、タンパク質を破壊してうま味の強いイノシン酸を生産するまでに時間がかかる。鯛は1日、フグは1日から1日半。小野二郎は、マグロの身を10日間、白身を3日間寝かせる。例外もある。鰻、貝類、イカなどは、調理直前まで生かしておく方がよい。回転ずしの場合は、白身魚やあっさりした魚を先に食べてからサーモンやマグロに手を出す。
 最初に味噌汁を出す鮨屋は、おそらく中国人か韓国人の経営者。鮨屋では、魚の消化を助けるという意味合いもあって、最後に味噌汁を食べるのが一般的。
 ④懐石
 京都で16世紀から始まった懐石は、もともと茶会の席で出される軽い食事で、味噌汁と3つのおかずだけ(一汁三菜)。茶会の客が空腹にいきなり飲むと好ましくない成分(タンニンやカフエインなど)の刺激を和らげるために出されていた。
 茶事に伴う料理が懐石と呼ばれるようになったのは、江戸時代になってからのこと。今日の懐石を生み出したのは、20世紀の偉人、芸術家にして美食家の北大路魯山人と料理人の湯木貞一。
3.うま味
 うま味は、塩味、甘味、渋味、酸味に続く第5の味覚。うま味は日本の食材だけに存在するものではない。チーズ(特にパルメザンチーズ)やトマト、乾燥させたハム、フォンドヴォー、コンソメ、ウスターシャーソースにもうま味が豊富にある。母乳にはうま味がたっぷりある。牛乳よりずっと多い。
 日本人は調理によって「うま味」を最大にする世界一の達人。昆布にはグルタミン酸、鰹節にはイノシン酸、シイタケにはグアニル酸。3つが一緒になると、うま味が8倍に増幅される。
 うま味は食べ物にグルタミン酸が含まれていること、すなわちタンパク質が含まれていることを示すシグナル。タンパク質は、生きるために欠かせない。だから、タンパク質の存在を感知するうま味受容体が舌にあることは理にかなっている。うま味は熟成の指標でもあって、野菜や果物の栄養価が最も高くなる食べ頃を教える役割も果たす。
 うま味は深くて美味しい特別な味を出してくれるので、欧米人にとっては致命的な調味料(塩、油、砂糖など)を控えることができる。食事中にうま味をたっぷりと摂取したら、急激に食欲が落ちて、もうそれほど食べたくなくなる。胃にもあるうま味受容体がグルタミン酸を感知すると、消化液の分泌が促され、消化を促進する環境が整う。うま味の多い食べ物を楽しむと、満足感が高まり、消化も促進される。
 ①だし
 だしとフォンドヴォーは全く違う。だしはほんの数分で取れ、フォンドヴォーはローストした仔ウシの骨を約6時間かけて煮立てる。一番だしを取る基本は、はがき大の乾燥させた昆布を水に入れて火にかけ、沸騰する直前に取り出し、そこへ鰹節をひとつかみ入れ、1分ほどそのまま煮出してからこす。二番だしは、一番だしを取ってから同じ鰹節と昆布をさらに10分ほどに煮立て取る。だしが多種多様な日本料理の土台となる。だしに使う食材は他にも干した魚、昆布以外の海藻、干し椎茸など。
 日本人でさえ昆布と鰹節で一からだしを取るのは難しくなっている。「味の素」、1908年にグルタミン酸ナトリウム(MSG)を発見した池田菊苗博士によって創設された。池田博士は、昆布に天然のグルタミン酸が含まれていることを知り、ナトリウムを加えて安定化し、結晶性の粉末状にして特許を取得した。MSGは、冷凍食品や缶詰の加工の過程で失われる食品の風味や味わいを補う重要な役割を果たしている。
 ②昆布
 日本人は50種類もの海藻を食べるが、その中でも昆布はキング。
 南茅部町は、北海道でも最高級の昆布の生産地として有名。日本の昆布の15パーセント以上(年間売り上げ額100億円)が収穫される。昆布は数メートル沖の消波堤のすぐ向こうで養殖している。昆布の葉は、長さ6メートルほどに生長する。半透明の茶色がかった緑色をしていて、1年または2年生長したものを収穫する。その日のうちに乾燥を始めないと、色が白くなって品質が落ちてしまう。干し上がった昆布はとても濃い緑色になり、堅いけど壊れやすい。昆布漁は7月20日に解禁され、8月の終わりまで続く。地域の人たち総出で、夜中の2時から夜8時までぶっ通しで続く。
 この地域では、「天然」の昆布も獲れる。海底で育つおかげで、海面近くで育成される養殖物に比べて味がさらによく、ミネラルも豊富。でも、漁もさらに大変で、結果的に費用は倍かかる。生育は養殖物以上に天候に左右されやすい。10月に低気圧が発生すると、海が荒れて海底がやられてしまう。「今年は天然昆布は全部で50キロか60キロ程度。例年なら1000キロは獲れる。」
 昆布を乾燥させるのに昔ながらの自然の方法も残っている。機械で汚れを落としてから浜に設けた大きな木枠に吊して天日干しする。一方、多くの昆布は、現在では小さな納屋のような乾燥室に運ばれ、70度前後で12時間ほどかけて機械乾燥する。天日干しの昆布は茶色がかった緑色だが、機械干しのほうはもっと色が濃くて黒っぽい。昆布選別の専門家は、一目見ればその昆布が北海道のどこで捕れたかが分かる。
 究極の昆布とは、天然物を天日干しした、パスポートのように分厚くて、光沢があって、形が左右対称の昆布。利尻昆布の最高級品は、温度と湿度の管理できる貯蔵庫で2年間熟成させる「蔵囲(くらがこい)」を経て、グルタミン酸の風味がさらに引き出されている。昆布の種類が違うと、だしの風味も大きく異なる。
 ③鰹節
 鰹節は、鰹のの切り身を乾燥させて発酵させたもの。焼津は日本一の鰹の水揚げ港で、その代償は辺りに充満する魚を燻す匂い。
 戻り鰹は、いったん北上し空きに南下してくる鰹で、身体が大きくなって脂が乗っているから、刺身やたたきにして食べる。一方、春に黒潮などの海流と共にフィリピン沖を始めとする南方から北上してくる初鰹は身体つきが細くて鰹節を作るのに適している。
 鰹は解凍して頭と内臓を除いて茹でてから、地元の女性軍が、僅か数秒で4つの切り身と背骨に鮮やかに切り分け、身を完璧な姿に保ったまま、すべての骨を手作業で抜く。次は燻しと熟成の行程。焙乾後にカビ室に入れてアスペルギルス・グラウカスというコウジカビを発生させる。カビによって酵素が生まれ、そのおかげで鰹のタンパク質がアミノ酸に変化し、特にイノシン酸の含有率が高まる。カビづけの行程には、最大で6週間ほどかかり、その間に、天日に当ててカビを落としてはカビ室に戻し、新たにカビを発生させるという手順を何度か繰り返して、風味をいっそう強める。
 質のいい鰹節は、両手に一つずつ持って叩いてみると、身がしっかりと詰まって質と風味がいいものほど、甲高い金属のような音がする。
 ④わさび
 静岡県の伊豆半島にある天城山の山麓は、日本のわさびの60パーセント以上が育てられ、年間生産額は25億円。355人の生産者がいる。わさびは世界的にみても栽培が難しい植物の一つ。夏が冷涼で、最高にきれいな湧水が必要。年間を通じて12~13度の水が毎秒18リットルの割合で流れようにして、1センチメートルの深さを維持する。15センチメートルの深さの砂地に植えられ、水流の速さが変わらないように正確な傾斜角度を保ったわさび田。直射日光が当たって葉が落ちたりしないように、わさびのはの上には黒いネットで覆われていた。1年三ヶ月から二年ぐらい育つとどんどか辛味が増す。そういうものを時期をずらして年間を通じて収穫する。
 魚などの細菌を殺す滅菌剤として使われ、今日まで受け継がれて、鮨や刺身と一緒に食べられる。食欲を高める効果がある。
 「白壁荘」の女将の倭玖子さんがわさびの基本的な使い方を教えてくれた。「サメ皮でおろして使う。サメ皮は細かくて、滑らかで、それでいて丈夫だから。円を描くようにして、おろさなければならない。空気とわさびが混じると、辛味が増す。根元のほうが先よりも甘味があって香りが豊か」「本物のわさびは喉が温かくなるだけで、人工的なわさびみたいにひりひりしたり鼻がつんとしたりしない。抗菌効果と解毒作用があるから、お酒を飲む時にわさびを食べると、悪酔いしない。」
4.東京
 ①築地
 築地には、人間が生み出した世界一すばらしい奇跡、人の勇気、想像力、欲を示す究極のシンボルが詰まっている。食通にとって、こんなに魅力的な場所は世界のどこにもない。
 1960年代まで、大トロも含めて、マグロは、日本では猫の餌としか思われていなかった。ところが、第二次世界大戦後に脂肪が好まれるようになった影響もあって、日本人の魚の好みは急にコッテリとした脂身に傾いた。
 夏場、最高の本マグロは、日本の北部にある北海道の近海で水揚げされる。この時期、このあたりのマグロは、ほぼイカだけを餌としているからうまい。一方冬場の最高のマグロは、アメリカの東海岸で獲れる。捕獲した天然の幼魚を地中海や北米やメキシコの近海で囲いに入れて養殖している。
 ②かっぱ橋
 世界のどこをみても、かっぱ橋道具街の店と肩を並べる店はない。かっぱ橋の店はみんな何かに特化していて、それぞれが一つの分野、あるいは一つの種類のキッチン用品を専門に扱っている。
 刺身包丁と呼ばれる刃渡り25センチメートルほどの片刃の「柳刃」。片刃の場合、平らな側の面は魚の身に圧力をかけないから、魚の身の繊維が被るダメージが少ない。
 日本の包丁はおそらく世界一よく切れるけれどダメージを受けやすく、毎日研がないとたちまち切れ味が鈍ってしまう。包丁は、研ぐと熱を持つ。新鮮な生の魚を扱う時は、ほんのりであっても温かいものは近づけたくない。それで、辻静雄によれば、一流の料理人は魚料理に使う包丁を二組もつている。ひと組を使っている間にもう一組は研いで「休ませる」。

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