スタンフォードの自分を変える教室
2015年12月29日(火)
「意志力の科学」という講座
Kelly McGonigal著
神崎朗子訳
大和書房
1600円
2012年10月31日発行
この本は、「最も優れた科学的な見解」と、これまでに受講した何百人の「実践的なエクササイズ」の叡智とを融合したものになっている。理論がいくら優れていようと事実「データ」に勝るものはない。2章まで読んでのまとめ。10章まで続く。内容が濃くてコメント泣かせ。実に面白い。
多くの人が、意志力(注意力や感情や欲望をコントロールする能力)が、健康や経済的安定や人間関係、そして仕事の成功までも左右すること、意志力を磨けば人生が変わることを実感している。
1.自分を知ることは、自己コントロールへの第一歩
自己コントロールに関する最新の見解を取り上げ、「私たちはなぜ誘惑に負けてしまうのか」「どうしたら誘惑に打ち勝つ強さを身につけられるのか」を解き明かしていく。 自己コントロールを強化するための最もよい方法は、自分の失敗のパターンを知り、それを成功への戦略に変えるにはどうすればよいのかを理解すること。
自分は意志力が強いと思っている人ほど、誘惑を感じた場合に自制心を失いやすいことが研究で分かっている。それは、どうして失敗するのかということを、自分自身でちゃんと分かっていないからだ。
2.意志力には「やる力」「やらない力」「望む力」の3つの力がある
「やる力」と「やらない力」は、自己コントロールの二つの側面を表しているが、意志力はその二つだけでは成り立たない。もう一つの力が自分が本当に望んでいることを思い出す力。
前頭前皮質があなたをコントロールする。前頭前皮質の上部左側の領域は「やる力」を司っている。そのおかげで、退屈な仕事や難しい仕事、あるいはストレスの多い仕事でもちゃんと着手してやり続けることができる。反対に右側は「やらない力」を司り、衝動や欲求を感じてもすぐに流されないようにしている。そのおかげで、運転中に携帯のメールをなっても我慢して、脇見運転せずにいられる。3つめの領域は、前頭前皮質の中央の少し下の方に位置し、あなたの目標や欲求を記録する場所。
3.脳は1つでも「自分」は2人いる
人類の脳は、衝動と本能のシステムに自己コントロールのシステムが付け加えられた。かって役立っていた本能は、人類が進化した今もそのまま残っている。私たちは欲望を失えば憂鬱となり、恐怖を感じなくなれば危機から身を守れなくなる。意志力のチャレンジで成功することは、そうした原始的な本能にあがなうのではなく、むしろ利用できるようになることである。誘惑に負けてしまう自己が悪いわけではない。本能や衝動を最も大事と考えただけ。
人は気が散っている時ほど誘惑に負けやすい。選択を行う時には、はっきりと意識することが大事。
4.脳の灰白質を増強する
脳は経験したことを学んで身につけると神経科学者たちが発見した。毎日数学をやれば、数学に強い脳になる。心配事ばかりしていれば、心配しやすい脳になる。繰り返し集中を行えば集中しやすい脳になる。脳自体が変化し、脳の一部の灰白質が増強される。
5.5分間で脳の力を最大限引き出す
神経学者の発見によれば、瞑想を行うようになると、脳が瞑想に慣れるだけではなく、注意力、集中力、ストレス管理、衝動の抑制、自己認識といった自己コントロールのさまざまなスキルが向上する。自己認識を司る部分の灰白質の量が増えていることが分かった。
5分間の瞑想は、脳を鍛えて意志力を強化するには最適な方法。まずは1日5分から始める。短くても毎日練習した方がよい。瞑想する時間帯を決めておくとよい。たとえ瞑想が下手でも、気が散るたびにちゃんと気がつく限り、実際の生活にとってはかえって効果的な練習になる。
①椅子に座って足の裏を床にぴったり着け、背筋を伸ばし、両手を膝の上に置く。
②目を閉じるか、どこか一点を見つめる。
息を吸いながら、心の中で「吸って」と言い、今度は息を吐きながら「吐いて」と言う。 気が散りだしたら(自然なこと)また意識を呼吸に戻す。
何度も繰り返し呼吸に意識を戻す練習をすることによって、
前頭前皮質を活性化させ、脳の中枢のストレスや欲求を鎮める。
③他のことを考えているのに気づいたら、意識を呼吸に戻す。
意識を戻すのが難しければ、心の中で「吸って」「吐いて」を言う。
これは、自己コントロールだけでなく、自己認識のトレーニングになる。
6.本能は「闘争・逃走ストレス反応」と呼ばれている
扁桃体はあなた専用の警報装置。危険を察知すれば、直ちに闘争・逃走反応に移る準備を命じる。いざというときに身を守るために全力を尽くすための能力が、体と脳に備わっている。警報システムは前頭前皮質(衝動をコントロールする脳の領域)の働きを妨げ、もつと衝動的になるように仕向ける。限られた身体的、精神的エネルギーをどのように使うべきかを決定する。
7.自制心を発揮できる状態
誘惑やトラブルの素は自分の外側にあると思っているあなたは誘惑に負ける。欲求は自分の心や体の中にあり、脳が警戒サインに気づくと、前頭前皮質を助けるために、休止・計画反応が起き、体内エネルギーを脳へ向ける。
自制心を発揮するとは、心と体の両面において衝動を克服する強さと落ち着きが生まれている状態。トレーニングを積めば肝心な時に自分の体を自制心を発揮できる状態に切り換えられることも分かってきた。
8.意志の強さは「心拍変動」で分かる
心拍変動によって、体がストレス状態にあるか、穏やかな状態にあるかが驚くほど分かる。誘惑に打ち勝たなければならない時、心拍変動が上昇する。心理学者たちは心拍変動を意志力の体内「保有量」と呼ぶ。
心拍変動によって誰が誘惑に勝てそうか、あるいは負けそうかも予測できる。例えば、元アルコール依存症患者で、お酒を見た時に心拍変動が上昇する人は、禁酒を続けられる確率が高い。一方、低下する人は再びお酒を飲み出す可能性が高い。
心拍変動の高い人は、ストレスの多い状況に対処するのが上手であることが分かっている。そして、難しい課題に取り組んだ場合、それを投げ出さない可能性が高い。
9.瞑想は心拍変動も上昇させる
呼吸のペースを遅くすると前頭前皮質が活性化し、心拍変動も上昇する。但し、息は止めないようにする。呼吸の数を1分間に4回から6回程度に減らす。息を吐くのを遅くするほうが簡単。たった1,2分、ゆっくりと呼吸するだけで意志力の保有量が増える。
意志力をすぐに満タンにしたいなら、外に出るのが一番。近所を5分間歩き回る程度で大丈夫。ストレスが減少し、気分も明るくなり、集中力も高まって、自己コントロールも向上する。
10.睡眠時間が6時間未満の人は、ストレスや欲求や誘惑に負けやすくなる
睡眠不足の状態では体や脳の主要なエネルギー源であるグルコースが細胞になかなか吸収されない。そのため細胞がエネルギー不足となり、疲労を感じる。体や脳がエネルギーを欲しがるため、甘いものやコーヒーを飲みたくなる。でも、効率よく使うことができないため体や脳は十分なエネルギーを摂ることができない。
自制心を発揮するには多くのエネルギーが必要。とりわけエネルギーを消費する前頭前皮質は、エネルギー危機の影響をもろに受ける。睡眠の研究者は、この状態を「軽度の前頭前野機能障害」と呼んでいる。
一晩寝ないでいると、扁桃体と前頭前皮質の連絡が途絶えてしまう。歯止めの利かなくなった警報システムは、日常的なストレスにも過剰に反応する。体が闘争・逃走反応の生理状態のままになり、自制が利かなくなってしまう。睡眠不足の人でもちゃんと睡眠を取った後は、脳スキャンしても前頭前皮質のどこにも障害は見られなくなる。一番よくないのは連続して何時間も起きていることだと分かった。前の晩にほとんど眠れなくてピンチという時には、少し居眠りをするだけでも集中力や自己コントロール力が回復する。
早く寝るように心がけるよりも、起きてだらだらといろんなことをやり続けるのを止めること。
11.意志力とストレス
意志力は、自分自身から身を守るために発達した生物的な本能。ストレスほどあっという間に意志力を弱らせるものはない。ストレス状態になると、人は目先の短期的な目標と結果しか目に入らなくなってしまうが、自制心が発揮されれば、大局的に物事を考えることができる。ストレスと上手く付き合う方法を学ぶことは、意志力を向上させるために最も重要なことのひとつ。
12.なぜ「やりたくないこと」をしてしまうのか?
意志力のチャレンジが失敗しそうになると、私たちはそれをつい自分の性格のせいにしがち。自分は弱いから、怠け者だから、意気地なしだから、と。けれども、たいていの場合は、単に脳と体が自己コントロールに適さない状態にあるだけ。例えば、慢性的にストレス状態にある場合は、意志力の問題に取り組もうとしても、前面に出てくるのは非常に衝動的な自己。
意志力のチャレンジで成功したければ、自分のエネルギーを自己防衛ではなく自己コントロールへ向けられるように、心と体の状態を整える必要がある。ストレスから回復するために必要なものを自らに与え、最高の自分を引き出すエネルギーを確保する。
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