のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか

2022年02月11日(金)


堀内都喜子 著
ポプラ新書
2020年1月8日発行
860円
 フィンランドは福祉国家で最低限の生活が保障されていることと、性別や年齢にこだわらず、機会が平等、公平に能力を評価する国。たとえ失業中でも住むところがあり、教育の機会が平等にあることで、生まれ育った環境にかかわらず、貧困から抜け出すことも可能だし、自分の実力で勝負することができ、研究者や政治家、医師など望む職業に就くことができる。
 どんなに忙しくとも家族やプライベートに費やす時間がある。美しい自然と触れ合う機会かも時間もある。経済状況に大きく左右されることなく、学びたい人が学びたい時に学べる。ウェルビーイングを考え、「休む」ことができる。
 フィンランドは、仕事も人生も充実させたいという欲求を正直に他の人とオープンに語ることが許され、その分相手の欲求も許容する寛容さがある。
 34歳の女性首相サンナ・マリン
 貧しい家庭に生まれ、母親と同姓パートナーに育てられ、様々なアルバイトを経験しながら大学まで勉強を続けた。政治家としては、20代で市議会議員、市議会議長を務め、30歳で国会に当選。産休を経たのちに大臣、首相と着実に政治家としてキャリアを積みながらプライベートを大切にしている。
 皆が平等教育を受け、力を発揮する機会があり、周囲から公平な評価を受け、仕事と家庭の両立が目指せるフィンランドの良さを象徴していて、希望や夢を与えてくれる。
 最強の防衛戦略を持つ「軍事大国」フィンランド
news.yahoo.co.jp/articles/d187a8ddbdc40bfa5e1ddfe038f58d8e5563ae65
 出口治明著「自分の頭で考える日本の論点」
kojima-dental-office.net/blog/20210126-14561#more-14561
A.ワークライフバランスや「ゆとり」
 フィンランドでは、夏にほとんど有給休暇をまとめてとり、1ヶ月はしっかり休む。有給消化率はほぼ100%。医療に従事していても、どんな仕事であれ、有給はきっちりとる。子どもたちは、それ以上に休みが長く、6月から8月中旬まで2ヶ月半。その間宿題はほとんどない。
 フィンランド人は仕事や勉強に忙しく、家事に趣味にやることはたくさんある。それでも「人間らしい生活ができる」、バランスがとれている。休みも睡眠時間もきっちりとり、プライベートや趣味も充実させている。どこでも英語が通じ、英語どころか何か国語も操る人たちがたくさんいて、生活のレベルも高い。
 a.フィンランドの心地いい働き方
 1.ウェルビーイング
 フィンランドの仕事文化に欠かせない。身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること。従業員一人ひとりが心身共に健康的な状態にあることが、会社組織としてもプラスに働く。
 2.残業
 ①16時を過ぎると、みんな帰っていく
 フィンランドでは、8時から働き始める人が多く、16時を過ぎる頃から帰っていき、16時半を過ぎるともう人はほとんどいなくなる。どの業界も徹底されている。
 就業時間やコアタイムといわれる必ずいなければならない時間をきちんと守っていれば、文句を言う人はいない。この徹底ぶりは、国や社会全体の常識。
 ②休むことも社会人の権利
 法律で決められている1日8時間、週40時間以内の勤務時間は守られるべきで、よっぽどの理由がない限り、残業はしてはいけないし、雇用主もさせてはいけない。仕事を終えて、また次の仕事に行くまでに11時間のインターバル(仕事をしない時間)を設けることや、週に1度は35時間の休息をとることも法律で決められている。雇用経済省のデータによると、平均的な勤務時間は週37.5時間。医師も例外ではない。週38時間15分。
 さらに3歳未満の子供がいたり、子供が小学校に上がる時など、法律で決められている有里も柔軟に時短勤務を認めている企業も多い。だからといって、やらなければならない仕事の量が大きく減るわけではないので負担は増すが、家庭と仕事の両立がしやすくなっている。
 ③残業はほとんどしない
 2017年ILOの世界労働時間調査によると、各国の全就業者の週平均労働時間(パートタイムを含む)は、フィンランドが週36時間で、日本は週39時間。
 日本の場合は、パートタイムで働く人の割合が高いので、長時間働く人の時間数が相殺され、統計で見る労働時間の全体平均はそれほど多くない。だが、ほとんどの正規の社員は、残業を含めると実際これ以上の時間働いている。フィンランドは子育て中の親も、男性も女性も、パートではなくフルタイムで働くことが多い。
 さらに、長時間労働を見ると、週49時間以上の長時間労働をしている人の割合は、日本では20%以上、男性だけで見ると3割近くになるが、フィンランドでは8%に過ぎない。
 3.産休・育休
 産休・育休は法律で認められた権利。子供が3歳になるまで育休は認められているため、長ければ3年にも及ぶこともあるが、休む人に代わって他の人を代理で雇うため、周りにしわ寄せが生じづらい。
 失業率が日本より高く、新卒採用システムのないフィンランドでは、この1~3年の期間限定の雇用は、フルタイムへの第一歩となり、いい経験になる。企業にとって見ても新たな人材を試せる機会にもなる。
 ①父親の8割が育休をとる
 現在8割の父親が育児休暇を取っているが、いずれも3週間から2ヶ月と母親に比べるとそれほど長くない。最近ではとることが当たり前になっているので、逆にとらないと人間性が疑われる。取得する時期や期間は半年ほど前から周りに伝えられるので、仕事の調整はしやすく、周りもサポートしやすい。
 4.コーヒー休憩は法律で決まっている
 コーヒー休息の時間をとることは、雇用者が労働者に対して保障しなければならない法律上の決まり。10~15分のコーヒー休息が勤務時間に含まれる。例えばトラック運転手は8時間の勤務中、2回のコーヒー休憩が可能。製紙業界では、10分の休息を1日2回とることになっている。コーヒー休憩の決まりが仕事の契約に含まれる。→いつでもとれない。
 5.在宅勤務は3割
 週に1度以上、在宅勤務をしている人は3割。やらなければいけない仕事が山ほどあるし、自宅にいたらサボるとは、あまり考えていない。
 1996年に施行された就労時間に関する法律の影響が大きい。この法律は2020年1月にさらに改定され、就労時間の半分は、働く時間も場所も、従業員と雇用主が相談して自由に決定することができるようになった。それによって、皆が一斉に会社に来て、一斉に帰るというよりも、最も生産性が高くなる場所と時間に行うように変わった。
 b.プライベート
 1.自分らしく生きていける国
 フィンランドは選択を限定する要素が少ない。本人の事情や希望、ニーズに応える選択肢があり、年齢、性別、家庭の経済状況といったことはたいした障壁ではない。
 選ぶものを一つに絞る必要はなく、AもBも選択していい。文系と理系の分野で学位をとつてもいいし、仕事もプライベートも大事にしていい。
 ①仕事とプライベート
 仕事を終えた後に飲みに行くことはほとんどない。就業時間以外に自分のプライベートの時間を犠牲にしてまで、出かけようとは思わない。趣味に、家庭に忙しいから、そんな暇はない。仕事は仕事、プライベートはプライベートときっちり線を引くところが、フィンランド。内部のコミュニケーションの活性化は、勤務時間内にできるだけ済ませる。社員の歓迎会やお別れの会も勤務時間内にコーヒーとケーキでする。
 ②父親も母親も定時に帰る
 平日、共働き夫婦は協力してこなさなければならないことがあり、定時に帰る必要がある。学校に部活はなく、スポーツクラブに、街の教室に通う必要がある。子供が小さい頃はあちこちに送り迎えをする。「18時過ぎに帰ってくる父は、家庭を大事にしない父親失格の人」となる。小学生の子供を持つ親は、父親の方が母親よりも若干子供と過ごす時間が長い。
 子供がいる家庭では、日本ほどきっちりと料理を作ったり、お弁当をつくったりする習慣はない。一品料理や、パンなど、シンプルすぎると感じるほどの食事で済ませる人が多い。外食は値段も高いため、特別な理由がある時にしかしない。子供の離乳食においては、自分で手作りすることはなく、瓶詰めの市販のもので済ませるのがほとんど。
 普段祖父母に頼ることはない。実家の両親とは離れて暮らしていても、会っている回数は驚くほど多く、関係性は密。
 ③9割以上の人がサウナを楽しむ
 どこの家にもサウナはあるが、バスタブはあまりない。普段はシャワーのみ。そして週に1~2回サウナを楽しむ。土曜日は伝統的にサウナの日。コテージ(別荘)文化が有り、そこにはサウナは欠かせない。
 シャイであまり社交的ではないが、「サウナは唯一、素面でも知らない人と気軽に話ができるところ」と語る。
B.経済活動
 日本人からすると、定時に帰りながら夏休みをきっちりとって、先進国として経済を維持することを不思議に思う人も多いかもしれない。でも、フィンランドは実現している。
 将来を見据え、ワークライフバランスを世界一にすることによって、全ての個人の知識とスキルが有効に活用され、ウェルビーイングの整った働き方、有能な専門家を有する国になることが、新しい雇用を生み出し、フィンランドの競争力を高めると考えている。
 a.1年は11ヶ月と割り切る
 夏休みは1ヶ月。法律によれば、夏期休暇は12勤務日以上の連続した休みを与えなければならない。最近では経済活動を維持するために、休みは7月だけではなく分散型になってきた。6~8月末までの間に、有給休暇をまとめて4週間、人によってはそれ以上に長い休みをとる。「夏は何も進まない。大事なことは決めない。連絡もとれなくて当然」と最初から割り切ってしまえば、なんとかなる。重要な打ち合わせや決め事は6月より前にし、1年は12ヶ月ではなく11ヶ月と割り切ればいい。
 もともと農業中心だったフィンランドでは、冬に必要な大量の干し草を7月に準備する必要があり、かつては家族どころか親戚総出の仕事だった。都会に出たり、工場等で働いたりしている人も長期の休みをとって、干し草作りの仕事を手伝った。そんな名残から、夏期休暇は7月というのが定着した。
 1.「人間、休みは必要」と皆が理解している
 「休むことは生産性のためにも必要」という認識を皆が持ち、有休を使い切ることは社員の権利だと断言する。「頑張って働いているから休む」というよりむしろ「休むから後で頑張れる」といった感覚。
 面白いのは、緊急の場合は私の携帯にしてね、という人がほとんどいないこと。休みは休み、邪魔するなと言う暗黙のルールが伝わって来る。
 小さなお店では、思い切って3~4週間、完全に閉めて一斉に夏休みにしてしまうこともある。店の貼り紙を見て、「理解できない!レストランなんて夏が儲け時なのに!」と日本人は憤慨していたが、スタッフの休みの権利を侵害することはできない。
 2.夏は大学生が大きな戦力になる
 企業は6月から約3ヶ月、大学生や卒業したばかりで定職に就いていない人をインターンとして積極的に未経験者を雇う。若い人たちにとっては、仕事経験が得られるまたとないチャンス。新卒採用制度のないフィンランドでは、就職の際に大学生もベテランも同じ土俵で戦うことが強いられる。もうすぐ卒業を控えた優秀な学生だろうが、何の社会経験もなければ即戦力にはならない。
 インターンシップは、実務をこなすことが多いので、アルバイトのような感覚。もちろんお金に絡むことや、大きな決断が必要なことはできないが、数日間教えればある程度のルーティーンや事務作業はこなせるようになる。若い人たちは新たなテクノロジーを学ぶのに長けているので、仕事が早い。新鮮な目線と柔らかな頭を持っているので、いいアイデアが生まれることもある。企業にとってプラスに働くことも多い。そのためには明確な指示やサポートが必要になる。
 b.学び続けてステップアップ
 失業が日本より身近なフィンランドでは、そのピンチを乗り切る最大の切り札として学びがある。従業員の38%が将来の転職を見据えて勉強している。よりステップアップや自分の新たな可能性のために、能動的に学びに取り組む様子が伺える。
 雇用調査2017年によると、就労年齢人口の10人のうち6人は、これまでのキャリアの中で他の職場や全く違う分野に転職している。そのうち2人に1人が転職に際し、新しい専門性や学位を取得している。学びに価値があり、新たな資格を与え、学び直しがより有意義な仕事に移ることを可能にしている。回答者の約3人に2人は、キャリアのどこかで失業を経験している。
 フィンランドの2019年10月現在の失業率は約6%。不況や業績不振になると、あっけなく社員をレイオフ(一時的な解雇)する。減給や痛み分けでみんなで乗り切ろうというよりは、とりあえずスタッフをレイオフして乗り切る。そして業績が回復すると、信じられないほど簡単にレイオフした人たちを再雇用する。一時的ではなく、完全に解雇もしくは自主退職を促す場合も、もちろん再就職や学び直しを支援したり、一定期間の給料は保障したりするなどの措置はある。合理化合理化で人員削減の機会は多いけど、従業員の権利が守られているがフィンランドのいいところ。
 c.職場での平等でオープンな関係
 1.性別や年齢にこだわらない
 肩書きよりも、何をしたのかという事実や結果、どのくらいスキルや知識を発揮したのか、倫理的にやったのか、周りとの協力はどうだったか、しかも周りにいる人の目にどう映っているのかが、その人の価値の評価に繋がる。
 共働きが普通で、女性の方が学歴が高く、学校の成績も優秀なフィンランドでは、就業率も女性の方が高い。政治の上でも女性の大統領や首相がすでに誕生している。現内閣でも女性の閣僚のほうが多く、党首も女性の数のほうが多くなった。女性という性別は昇進の障壁にはならなくなっている。
 2.オープンでフラットな組織
 企業や組織は、非常にオープンで上下関係があまりない。文化的・言語的背景もあって、トップリーダーの下に他の人たちが横並びでいるような、1~3段の階段の中に納まっているイメージ。先生や教授もファーストネーム。
 勤務地や条件、規則、業務がはっきりした職種別採用が多い。一人ひとりの業務内容がしっかりと細かく明確化されていることで、自分の責任範囲がはっきりしている。それによって、決定までにグルグルと時間をかけていろんな人に伺いを立てる必要もない。
 新たなポジションの提案は、本人の意思も大切にされる。ポジションに空きが出ることが分かると、内部に通知が出て社内公募が始まる。多くのポジションは約3年の任期なので、3年ごとに就職活動をしているようだ。
 ①偏差値や学歴で判断しない
 面白いのは、偏差値が存在せず、大学名などで「頭のよい人」「私より上」とか「下」といった上下関係を作らないこと。
 上下関係を作らない風潮は政治でも感じられる。変革を求めてフレッシュな30代の女性政治家を党首に選んだり、大臣職に20代、30代のやる気溢れ、考え方も柔軟な若手政治家を選んだりしている。
 義務教育も、その後の高等教育も公立学校ばかりで、通常家から通いやすい学校に行く。レベル的なバラツキは少なく、地域差もない。大学もA大学だからすごいとか、B大学だからAより劣る、といったことは一切ない。
 学校名によるレッテルがないので、とてもシンプルにその人の本質を見ようとするし、対等でありたいと思える。個人が何を学び、何を選択するか、自由に考えられる。それに、職場で出身大学による派閥というのもあり得ない。先輩、後輩のしがらみが薄い。
 ②相手を信頼して任せてみる
 とにかく相手を信頼して任せてみるという風潮がある。最初はあまりうまくいかなくとも、ダメな時はサポートする。任された方は期待に応えようと気合いが入る。
 メールが読み切れなくなってしまうから、できるだけCCに入れないで欲しいという、部下を信じ任せる上司が多い。何か悩みや迷うことがあったら、直接相談に来てくれていいけど、全てに伺いを立てる必要はなく、極力自分で考えて決めて欲しいと言う。
 トップの方から何かあったらいつでも声をかけて欲しいという人が多い。組織の中は風通しが良く、上下関係はとてもリラックスしている。ただし、話を聞くのと、聞き入れるのとは違う。
 ③ボスがいない働き方
 最近は、強い意志決定権を持つボスがいない企業も生まれている。組織自体はピラミッドではなくチーム制をとっている。最終的な意思決定は数名から十数名で構成されるチームがそれぞれ行っている。チームの意思が何よりも尊重され、経営者や管理職の役目はそれを下から支えること。
 承認をとったり誰かに決めてもらったりする必要がないため、仕事の流れがスムーズ。課題は、ボスがいない組織でうまくやっていくには、いろいろなルールや慣れが必要。
 d.効率を徹底的に追求する
 フィンランドは効率を徹底的に追求している。無駄な書類やプロセスを省いて、単刀直入に勧めていく。常に優先順位を考え、重要度や緊急性の高いものからこなしていく。
 1.日本とフィンランドの進め方の違い
 日本のプロジェクトでは細かな部分を詰めて計画をきっちり立ててから進める。ある程度固まるとその後はスムーズにいきやすいが、柔軟性に欠ける場合がある。一方、フィンランドは大枠から考えて、徐々に細かいところを詰めていく。だからあまりきっちりとした計画は立てず、すぐに着手し、トライ&エラーを繰り返しながら進めていく。その時その時に計画を修正していく。
 完成度への感覚も少し違う。日本は締め切りを過ぎてしまっても完璧に仕上げたいと考えるが、フィンランドは合格ラインを超えていれば完璧でなくともよい、つまりグッド・イナフで締め切りに間に合わせる。そして可能性があれば少しそこから調整していく。ドライに効率を追求するフィンランドのやり方を学んでもいいかもしれない。
 2.必ずしも会うことを重要視しない
 フィンランド人からすると挨拶だけの面談は要らないし、報告も基本メールか電話にして欲しいと考えている。
 3.会議は決定や結果を求める場所
 会議は議論して、最後に何かしら決定や結果を求める場所で、自己紹介や資料を読み上げる場所ではない。多くのフィンランド人が日本の会議で文化の違いを感じるのは、日本ではなかなか本題に進まず、決定を行わないこと。
 「良い会議」のための8つのルール
 ①会議の前に
  ・会議の前に本当に必要な会議なのか、開催の是非を検討する
  ・もし必要なら、会議のタイプと、相応しい場所を考える。
  ・出席者を絞る
  ・適切な準備をする。議長は、参加者に事前に必要に応じて責任を割り当てる。
 ②会議のはじめに
  ・会議のはじめに目標を確認。会議が終わった時にどんな結論が生まれるべきか。
  ・会議の終了時間と議題、プロセスの確認。それがアイデア、ディスカッション、意思決定、コミュニケーションのどれであるかを参加者に知らせる。
 ③会議中
  ・会議の議論と決定に全員を巻き込む。意見を表明する機会などもつくる。
   各自の多様性(外向的/内向的)を考慮に入れる。
 ④会議の終わり
  ・結果や、その役割分担をリストアップし明白にする。
 e.ヨーロッパのシリコンバレー
 高いレベルの教育、確かな技術を持ったエンジニアが揃い、様々な支援も身近にあるとして、スタートアップやイノベーションに適した国。起業に可能性を見出している人が少なくない。様々な技術アイデアを融合させたスタートアップがたくさん生まれている。
 1.スラッシュ
 ロックフェスのような、ヨーロッパ最大規模のスタートアップの祭典。企業と投資家を結びつけるため2008年にヘルシンキで第1回が開催された。その時集まった参加者は300人。それが10年後には世界130カ国以上から約2万人が集まるものへと成長。スタートアップが投資家を前にビジネスアイデアの発表をする。
 このイベントがユニークなのは、運営が学生中心に行われていること。軽い気持ちでボランテイアとして参加した学生が、成功した企業化を間近に見て、スタートアップ文化に触れ、感化されることも少なくない。
 2.ノキア
 最近は電気・電子機器、情報通信も強みの一つ。90年代の経済危機から復活するきっかけを作り、10年ほど前まで携帯電話で世界に名をとどろかせたノキアも、100年以上の歴史を持つフィンランドの会社。現在は携帯事業ではなく、5G、6Gといった次世代通信技術の開発で、世界におけるノキアの存在感は大きい。
C.フィンランドのシンプルな考え方
 a.自力でどうにかする
 周りにあまり頼らず、自分の気持ちに従って、最後までやり遂げる自立した気質は、日常生活のあちこちで感じることができる。
 フィンランドでは、進路も、授業の履修も、就職活動でも、誰かに頼るのではなく、能動的に動くことが当たり前で、それを強く求められている。
 b.考えるより、行動あるのみ
 私がフィンランドに留学しようと思った時、一番困ったのが斡旋してくれたり、相談に乗ってくれるところがなかったこと。自分で学校を調べ、資料を取り寄せて、分からないながらも手続きをしなければならなかった。不満を言ったら「どうして?情報もあるし、自分で調べて行動すればいいだけじゃない」と言われた。まさにその通り。日本に育っていると、全て準備されて、お膳立てされていることに慣れてしまって誰かがアレンジやコーディネートをしてくれないと不安に思ってしまう。
 研修やアルバイト先を見つける時は、ウジウジ考えているよりは、行動あるのみ。自分で情報を集め、常識や型にとらわれず、自由に行動することの大切さをフィンランド人から学んだ。
D.5年間の留学
 留学した年の11月、1ヶ月の日照時間がたった3時間を経験した時、あまりの暗さに閉口した。それでも、冬の良さはある。外はマイナス20度を下回っていても、中はTシャツで過ごせるほど暖かく快適だし、キンキンに冷えた日は青空と真っ白な雪景色のコントラストが美しく、ため息が出る。夏の美しい自然と、ゆったりとバランスのとれた暮らしをする人々に惹かれた。
 当時はEU以外の学生も授業利用無料で勉強できたこともあり、中部フィンランドのユヴァスキュラという街に留学した。初めは2年間のつもりだったが、居心地もよく5年間暮らすことになった。その間、日本語を教えたり、大学や企業でアルバイトをしたり、様々な経験に恵まれた。帰国後もフィンランド系企業で8年、そして6年前からはフィンランド大使館で働きながら、仕事やプライベートを通じて多くのフィンランド人との出会いがあった。そんな経験や出会いを通じて学んだフィンランドのライフスタイルや働き方、そして考え方は私に大きな影響を与えている。
E.フィンランドのランキング
 1.2018年と2019年、2年連続で幸福度ランキング世界一
 国際幸福デーの3月20日に、国連が毎年発表しているランキング。このランキングでは「自分にとって最良の人生から最悪の人生の間を0から10に分けた時、今、自分はどの段階にいると感じているか」という質問を各国の人たちにしている。決して、ハッピーな気分かどうか聞いているわけではない。ランキングによれば自分の価値観にあった有意義な人生を送っている、人生にある程度満足している。
 北欧諸国がランキング上位にあるのは、社会保障が手厚く、質の高い教育をしていること、さらにジェンダーギャップや経済格差の少ない平等な社会が築けていることが理由として記事には挙げられる。日本は人生の選択の自由度(64位)、社会的寛容さ(92位)という部分で順位を下げてしまっている。
 同僚たちが挙げた理由は、「安定」「バランス」「身近な自然」。
 2.マクロ経済の安定は世界1位
 世界経済フォーラム(WEF)が「革新力」「労働市場」など12の指標で調査して比較する国際競争力ランキングによると、2019年、フィンランドは世界で11位(日本は6位)。
 フィンランドはマクロ経済の安定と制度は世界1位。特に、マクロ経済の分野では、インフレーションや政府負債残高の項目が高く評価された。制度においては、治安の良さや報道の自由、法の中立性が保たれていること、公的機関の効率の高さなどが評価され、世界1位となった。
 さらに、技術適応力の高さという指標もスイスに次いで高くなっている。
 フィンランドが強いマクロ経済は日本が42位、技術適応力は28位。日本は、不十分な教育方法で技能の格差を拡大させていると指摘されている。また、批判的な思考能力の教育においては、フィンランドが1位、日本は87位に留まっている。
 3.世界で2番目に格差が少ない
 OECDの2018年のレポートによると、フィンランドの子供の貧困立は3.7%でデンマークに次いで2番目に低い。日本は34位で15.8%。
 2016年にユニセフが発表した子供のいる家庭の相対的所得ギャップの小さい順ランキングでは、ノルウェー、アイスランドに次いで、フィンランドが3位。つまり子供がいる家庭の所得にそれほど大きな差がないということ。
 特徴的なのがひとり親の状況。日本では貧困率が50%を超えるが、フィンランドでは15%に満たない。多くの国では女性の貧困率が男性を上回るのに対して、フィンランドはデンマークと共に唯一、男性のほうが若干貧困率が高い。
 4.国際競争力ランキング
 スイスのビジネススクールIMD発表の2019年版「国際競争力ランキング」では、フィンランドは、インフラや教育が高く評価され、15位(日本は39位)。日本はビジネスの効率性が足を引っ張り、順位を下げていた。
 5.「良い国ランキング」でも1位
 イギリス人の政策アドバイザーであるサイモン・アンホルト氏が創設した「良い国ランキング」でも、フィンランドは1位になっている。良い国というのは、「人類に貢献している国」のこと。
フィンランドは、報道の自由や移動の自由、さらに環境への負荷の少なさや特許数、そして平等などが高く評価された。さらに、安定した国、大学がよい国、女の子にとっていい国、子供にとって公平な国、政治やビジネスに置いて透明性の高い国、腐敗度の低い国、水がきれい、空気がきれい等など、フィンランドがトップにあるランキングは数多くある。

 

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