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宇宙飛行士 野口聡一の全仕事術

2023年01月05日(木)


 「究極のテレワーク」と困難を突破するコミュニケーション力
著者 野口聡一
世界文化社
2021年12月15日 発行
1400円
 2019年末に現れた新型コロナウイルスの脅威は、世界中に広がり、人々の動きを止めた。大切な人が亡くなり、人々の心は分断された。否応なしに、私たちの生活を変えてしまい、長期にわたる在宅活動を強いてきた。ここ数年は耐え忍ぶ時代。
 ポスト・コロナという時代を切り開いていくためには、「物理的に離れていても、心理的に孤立しないこと」を意識し、ダイバーシティー(多様性)、インクルージョン(受容性)、そしてレジリエンス(強じん性)が重要。
 この本を、故・立花隆先生に捧ぐ
 師匠と呼べる3人の存在
  立花隆
  毛利衛
  木下富雄
 参考に
ニュース4.12.27.
【7】異色の対談!宇宙飛行士野口聡一が日本代表監督森保一に聞く
kojima-dental-office.net/20221226-6733
1.国際宇宙ステーションでの勤務は、“究極のテレワーク”
 ①テレワークに欠かせない「指示」「承認」「責任」
 今も日本社会では、「ホウレンソウ」が職場のキーワードになっている。上司と部下の間における「報告」「連絡」「相談」の頭文字をとった伝説のビジネス用語。 現代のビジネスシーンでは、「目的に向かって明確な指示をくれ」「現場の考えを承認してくれ」「仕事の成果物を納めたら、後は上司が責任取ってくれ」の3つが問われている。すなわち、「指示」「承認」「責任」の3つ。
 ポイントは、真ん中の「承認」。「指示」の段階で明確な意図を伝えることで、部下の裁量範囲を狭くすることが大事。明確なゴールとプロセスをがっちり指示すること。上司の指示が曖昧だと、部下はいかようにも解釈ができてプロセスが定まらず、現場でエラーが多発してしまう。指示を守らなかった末の失敗は部下の責任だが、指示通りにやった末のミスならば、それは上司の責任。
 ②最初に直接的な指示を出せ
 緊急時、対面できない相手には、直接的なメッセージでコミュニケーションをとる。「表現豊かな説明を加えるよりも、直接的な指示を出せ」。必要な説明は後から加えたらいい。
 ロボットアーム操作中に緊急事態が起きた時、管制官からのコールは“オール ストップ”を3回繰り返す。アームが変な動きを始めたら、国際宇宙ステーションの外壁に大きな損傷を与えかねない。
 大前提は、こうした事態を想定したシミュレーションをきっちりやっておくこと、そしてキーとなる言葉の意味をみんなが共有していること。準備なくテレワークを始めたら、収まるはずのトラブルも帰って傷口を広げてしまう。
 ③「言わなくても分かる」は通用しない
 日本には「言わなくても分かるよね」という文化がある。会議の場できっちり議論するよりも、飲みながらゆるく伝えていくという文化。日本のコミュニケーションは、曖昧な言葉を使って済ませることがよくある。
 そうしたやりとりが通じない、言葉で情報を伝えるしかない、“対面”とは全く違うテレワークの時代は、「あれは違う意味で言ったんだ」という逃げ方はできなくなる。伝える側と受け取る側との間で、別の解釈の余地のない、明確にして簡潔な言葉を使う。
 このコロナ禍、顔すら会わせたことがないという職場環境が出現した。出社したこともない新入社員に「言わなくても分かるだろ」という方便が通用するはずがない。「飲めば分かる」というツールも使えない。
 テレワーク環境でのコミュニケーションは、いわゆる五感情報で補うことがかなわないから、発した言葉だけで勝負することになる。「五感を使って情報を伝えるノンバール・コミュニケーションは、ディスプレイ越しでは成立しない」とお互いが了解しておくことが大事。相手の言うことを聞き返すのは、日本社会では「失礼」にあたることも多い。それでも何度も聞き返し、互いの言葉の意味合いを確認する手続きを習慣化しないと、五感情報を欠いている以上、せっかくのコミュニケーションが誤解に誤解を重ねる結果を招きかねない。
 ④テレワークを煩わせる「時差」
 地上から400km離れた宇宙に浮かぶ国際宇宙ステーションは、地上スタッフと物理的に切り離された環境ながらも快適な通信環境で結ばれるようになった。
 国際宇宙ステーション滞在中、日本のテレビ局と繋いで生放送番組に出演した。その時、気になったのは、「時差」。テレビ局のスタジオの反応がこちらに返ってくるまでに5秒くらいのズレがある。相手の様子が十分うかがえず、不安になる。中継の途中でノイズが入って画面が煩わしくなり、応答のズレも加わって、ストレスを増幅させてしまうこともある。
 ただ慣れてくると、その時差の間を使って、自分の話を組み立てることができることに、そういうズレを前提にした新たなコミュニケーションの形に、ほどなく私は気づいた。
2.物理的に離れていても、心理的に孤立しないこと
 ①精神的な孤立
 国際宇宙ステーションは、閉ざされた空間であり、時にストレスを抱え、時に孤独さを感じることもあった。そこで、週末などの余暇を利用して、地上への1本の電話、「国際宇宙ステーションから野口です」。日本語で話ができるのは、私にとって何よりのリフレッシュ剤になっていた。友人の声を聞いて元気をもらい、「1人じゃない」とポジティブな気持ちにさせてもらっていた。
 ところが、地上に帰還して数ヶ月後、友人から、あの宇宙からの電話での思わぬ心境を証された。「あの時は、ステイホームのストレスが吹き飛んだ」。ストレス解消やリフレッシュ効果が、宇宙と地上で同時に起きていた。
 「自分はいつでも世界と繋がれる。繋がっていけるという気持ちこそが大事なんだ」とつくづく感じる。私は宇宙の閉鎖空間に滞在していたけれども、孤立しているわけではなかった。人間は、人間同士の繋がりや社会との関係において自己の存在感を認識する。鏡としての集団社会がないと自分の位置を確認することができない生き物なのだろう。
 ②大切な心の鍵
 宇宙にいた私とコロナ禍でステイホームしていた地上の友人が、同じような隔離と孤立を乗り越えて、お互いの信条に共感できた。今の時代、共感が大事であって、同情ではない。
 共感も同情も自然な人間の感情だが、微妙に違う。相手の状況を頭の中で理性的に理解して「かわいそう」と言うのが同情、一方の共感は、相手が抱えている感情や環境をそのまま自分のものとして受け入れること。
 もし似たような経験があれば、被災した方に我が事として心の底から共感できる。でも、経験がなければ、被災者の大変さは頭で理解できても、我が身のこととして痛みは感じず、同情となる。他人に共感できるかどうかは、ひとえに人間としての経験の深さに関わってくるように思う。
3.ダイバーシティー(多様性)
 ①異文化コミュニティで学んだ日々
 大学の専門課程に進むまでは、似たもの同士の集まりだった。研究室に進んでから、世界観が変わったように思う。周囲の顔色をうかがいながら研究を行うという環境は、イノベーションが求められる世界とは異質なもの。明確な目的と客観的な基準に基づくアウトプット方法は明文化されるべき。
 受験数学のような10人が10人とも同じ解き方をする画一性では、航空宇宙工学の課題解決にはつながらない。いろいろな考えをそれぞれ持っていて、同じ問題に様々なアプローチを試みる。ダイバーシティで育まれたトライ精神が、諸外国の人たちと対等に渡り合える鍵になる。
 ②仲間との「距離」
 相手との距離を縮めるのと同じくらい大事なことは、1人になれる時間と場所を確保して、近すぎない距離感を意識して保つこと。むやみに個室をノックしてはいけない。どんなに相手が社交的であっても、1人になりたい時間は必ずある。当たり前の事実を共有することが共同生活の秘訣だと思う。
 ③宇宙飛行士の“働き方改革”
 業務に就く「クルータイム」と個人で自由に使える「フリータイム」の切り換えは、言うほど容易くはない。国際宇宙ステーションは、究極の「職住接近」。特に、新人飛行士ほど要領が分からず、メリハリを付けるのが大変で、つい過労になりがちになる。これは深刻な問題で、テレワークをしている働き過ぎ会社員と共通する現象が実際起きている。
 スペースシャトルの時代だと宇宙滞在は2週間だった。宇宙飛行士も成果を上げたいと張り切るから、寝食を削って仕事をしてしまう。「窓の外を見る暇がなかった」と誇らしげに語る飛行士もぞろぞろいた。
 国際宇宙ステーションができて10年目、私の2回目のフライトの頃、ようやく宇宙飛行士の“働き方改革”が始まり、残業時間を減らそうという試みが始まった。私の見る限り、ロシア人やヨーロッパ人は夕方6時がやってくるとサッサと終わる。労働時間と自分の時間の切り換えが上手。一方、日本人やアメリカ人はそうはならない。放っておくと、何時まででも仕事をしてしまう。
 ④事実は交渉次第で変えられる
 日本人は真面目で勤勉だから「真実は一つ」という考えが根強い。モノづくりの現場では、技術者が「いいものを作れば売れる」という考えで頑張っている。でもそれだけでは、国際社会では生き延びていけない。せつかく品質の優れたモノを作ったらのなら、そこにあぐらをかかないで、どんどんと売り込む交渉をしなきゃいけない。もし事実を誤認している人がいたら、そこを論破して軌道修正をかけるパワーは持ち合わせないといけない。
 ⑤日本人が苦手な“アイスブレイキング”
 「アイスブレイキング」とは、初対面の人同士が緊張を解きほぐす時に使う手法。日本人は、きまじめな国民性だからか、これがなかなかうまくできない。お笑いの掛け合い漫才で見かける最初の、ほんの一言でワッと客席を沸かせてこちらに注目を集める「つかみ」。
 言いたいことを伝えることも大事だけれども、伝える雰囲気作りも大事だということ。相手の言葉に対し、こちらから返せる言葉の引き出しを3つは用意しておきたい。そのどれを繰り出せば場の雰囲気を転換できるか、瞬時に判断することになる。瞬時に選ぶとなると、心の余裕とボキャブラリーの豊富さは必須条件となる。
4.インクルージョン(受容性)
 ①意識の共有
 多国籍のクルー構成となれば、どうしても言葉の問題が生じる。英語を共通語として使うけれども、いざというとき、コミュニケーションの難しさが露呈してしまう。「緊迫した時こそ、ゆっくり話そう」と申し合わせた。一つのチームとして動けるためには、急いで多くのことを伝えるよりも、少しずつでいいから確実に分かってもらうことが何より大事。
 もうひとつ、「多数派はいつも少数派の意見を行かないといけない」。共同生活を営むためには、マイノリティを尊重し、包摂してこそ安定がもたらされる。この宇宙空間の中、全員が助からなければ1人も助からない。その意識を私たちは共有していた。
 ②不満が“等配分”
 スペースシャトル・ディスカバリー号の女性船長アイリーン・コリンズの言葉「リーダーの役割は、全員を満足させることではない。全員の不満の間にばらつきがないようにすること」。全員に不満が“等配分”されている状態がいい。必要な役割を各自に割り振る力がリーダーに求められている。
5.困難から立ち上がる力「レジリエンス」(強じん性)
 ①国際宇宙ステーションの仲間たち
 チームとして完成度を上げるには、できるだけメンバーの“均一性”を取りたいという考え方もある。しかし、多様性があるからこそ、打たれ強く、壊れにくい。この多様性を尊ぶダイバーシティの発想こそが、宇宙滞在という困難な状況を乗り越えるレジリエンス(強じん性)に繋がったと私は思う。
 4人がそれぞれ違ったバックグラウンド、違った性格を持っていることは、まさにダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(相互受容)に基づくレジリエンス(強じん性)を私たちのチームに与えてくれたと思う。
 違う視点があるからこそ新しい気づきがあり、改良のきっかけが生まれる。そこには他のメンバーへの揺るぎない信頼と尊敬があり、個々の能力と意見の違いを超えたところにチームとしての団結が生まれるという共通認識があったと思う。
 ②「より良いことは善の敵」
 完璧主義の人には落とし穴があるという意味合い。私が宇宙飛行士に任命されたばかりの頃、「完璧主義は危険だ」と先輩のアメリカ人宇宙飛行士から言われた。90点を取った候補生が「後10点」と自分を追い込み、自分自身にストレスをかけてしまう。その一方、「70点が合格だから」と言える人は強い。引きずらないことが何よりも大事。
 宇宙飛行士の場合、閉鎖空間でパニックになってしまうと困るので、ある程度楽天的な素養が求められるのは致し方ない。宇宙飛行士の候補生は、その人のポテンシャルの高さよりも、追い込まれた時でもなんとかやりこなせる、パニックに抗う人が選ばれる。
 100点を取っている人がいち早く宇宙に行けるわけでもない。厳しい環境を切り抜けていく精神力が威力を発揮する。100点しか取ったことがない人に、70点を取った時のためにも「ルーティンをつくっておいた方がいいよ」とアドバイスする。強制的にリセットする、ルーティンで切り替えるパターンを作っておく。
 ③燃え尽き症候群と向き合う
 2018年11月、カーリング女子の吉田知那美選手と対談。
 吉田さんは、カーリングが盛んな北海道北見市で生まれ育った。高校卒業後、カナダ留学を経て北海道銀行のカーリングチームに加入。
 2014年ソチ五輪(ロシア)で5位入賞。その直後、北海道銀行のカーリングチームから突きつけられたのは「戦力外通告」。メンバーの若返りが狙いだったようだが、吉田さんにとっては寝耳に水。「燃え尽き症候群」のような状態になり、やがて銀行を退職。とにかくカーリングから離れようと北海道から飛び出し、各地を旅して回った。その果てにたどり着いたのは、やはりカーリングだった。
 ロコ・ソラーレ(北見市)の設立者・本橋麻里選手から「女性アスリートは結婚や出産がマイナスに考えられがちだけど、夢をいつ叶えるかは自分で決める」と声をかけられ、新天地でカーリングを再開。これを転機に、「カーリングが人生」ではなく「人生の中にカーリングがある」と考え方を変えた。チームの中なら弱さを見せていい。頼ってもいい。未完成のままだっていい。本橋選手はそれを弱さや弱点ではなく、「個性」と呼んでくれた。本橋さんの誘いの言葉を吉田さんの心が受け止められたことこそ見過ごせない。それだけ吉田さんの精神がこれまでの練習で強じんに鍛えられ、4ヶ月で立ち直れるほどの回復力を持っていた。
 吉田さんは、2018年2月の平昌五輪(韓国)で銅メダルを獲得。「そだねー」が話題になり、ムードメーカーとしてチームをもり立てた。2度目の「燃え尽き症候群」は、日本に凱旋した時。日本ではカーリングはスポーツとして認められていないと感じ、「体は帰国したけれども、心が帰ってこられなかった」と振り返った。もう一回頑張ろうという気持ちに戻れるまで長い時間が必要だった。
 金メダルや世界一という具体的なゴールにではなく、そこに至る「過程」にこそ目標を置くという考え方がチームに馴染むと思い至った。カーリング大国カナダでは、ファンは勝敗よりもチームの持ち味を楽しみ、応援する。ところが日本では、オリンピックに行くチームに価値があり、勝てるチームにサポートがつく。勝たなければ行けないという思いばかりしていると、カーリングをやめたくなる。チームにとって勝つとか負けるとかを超えた、今の瞬間を生き抜こうとするモチベーションがあれば、のびのびと競技を楽しめる。オリンピックへの切符は、自分だけのものではない。チームが勝ち取るもので、そこに自分がレギュラーメンバーとして加わっていなくていい。
 ④「引退後」を意識しながら今を生きる
 「引退後」を見越した支援は、アスリートたちの世界の方が進んでいる。委員会は代表選手たちに「現役を引退してからのセカンドキャリアについて考えておいてください」とアドバイスしていた。その備えがあれば、憂いなく練習に専念できる。
 宇宙飛行に飛び立つたびに、先輩から「ミッション前に次の算段を付けておいた方がいい」とよくアドバイスを受けた。本番の試合やミッションが終わってから引退後の準備を始めようとしても、「燃え尽き症候群」で気力を失い、次のステージに踏み出せなくなっているかもしれない。
 ⑤宇宙と私の未来
 今回のギネス世界記録『二つの船外活動における最も長いインターバル(15年214日)』は、私の中に確かな手応えを感じさせてくれた。帰還後の「燃え尽き症候群」みたいな気力の衰えはない。「次に向かえる」という前向きな自分を見つけることができたと思っている。
 何か問題に突き当たった時、それまでの常識だけで動いていては問題を解決できない。視点を一つ高い「次元」に置いてみれば、必ず新しい解決策が見つかる。それが新しい時代を切り開く「突破力」になる。常識はどんどん変わる。新しい「宇宙」という場所に飛び込んでいく勇気さえあれば、新たな気の合う仲間と、面白くて夢中になれるものに出会えるはず。大事なのは、そんな「宇宙」を心の中に持つこと。
6.心と体の安定を求めて
 ①ファーストサイン
 “We-They Syndrome”の怖さ。組織内の会話の中に、「We(われわれ)」と「They(彼ら)」という2語が頻出して、対立の構図で語られるようになったら、ワンチームを壊しかねない危険な兆候。地上との関係悪化を防ぐには、対立の兆候、ファーストサインを見逃さないこと。
 負のスパイラルは「タイムアウト」で断ち切る。「ちょっとタンマ」。
 タイムアウトの際に大事なのはオープンに意見を出し合える環境を用意しておくこと。宇宙飛行士の間では誰でも言い出せるルールになっている。おかしいと思ったら、いったん止めて、みんなで気持ちを確認し合うのが何より大事。
 今のテレワークの時代、閉じた空間で負のスパイラルに入ると、やがて不眠症を始め様々な心身の症状に悩む方も出てくると思う。こうした不幸な「出口」に行き着く前に、初期の段階で症状の芽を摘んでおきたい。自分ひとりでその状態を客観的に見抜き、自力脱出は難しい。だからこそ、第三者から受けられるサポートがテレワーク時代には重要になってくる。宇宙飛行士の世界には、そうした支援体制が組織的に用意されている。
 ②宇宙空間で「心身の安定」を追求する
 マインドフルネスの極意とは、瞑想行為などを通じて脳をストレスから解放し、集中力をアップさせて様々な人間活動のパフォーマンスを向上させるというもの。座禅を組んでいる時、ふと雑念から抜けられる瞬間がある。その時、あらゆる知覚が覚醒され、周囲のささやかな刺激もどんどん吸収できる状態。五感がフルに働いて、周りの状況があるがままに把握できる。もしかすると、この状態がマインドフルネスという状態。
 宇宙飛行士は、頭をスッキリさせて、周りの状況をあるがままに受け入れられる状態にしておく。そこから柔軟な発想が生まれ、新しいアイデアが生み出される。
7.宇宙船
 ①民間の新型宇宙船「クールドラゴン」の打ち上げ
 アメリカの民間宇宙企業「スペースX」が生み出した新型宇宙船「クールドラゴン」は、2020年11月15日午後7時27分にケネディ宇宙センターから打ち上げられた。27時間半後、地上から400km離れた国際宇宙ステーションとのドッキングに成功。
 操縦席にはタブレットをそのままはめ込んだようなシンプルな操縦用のタッチパネルが並んでいる。これまでに搭乗したアメリカのスペースシャトルやロシアのソユーズはコックピット内にボタンと計器類がぎっしり並び、壁にはケーブルが無数に這っていた。そんな「機関室」のような操縦席に慣れていた私は、まるでショールームのように整然としたクールドラゴンのコックピットに、改めに見とれていた。
 ハリウッド映画「バットマン」の衣装担当が手がけたフィット感あふれる軽快な宇宙服。
 ②「食事」は最高の文化交流
 宇宙食は、調理法が決まっている。フリーズドライ食品にお湯を注ぐか、レトルト食品や缶詰を温める。それでも宇宙食は300種類以上にも及ぶ。JAXAが定める認証基準をクレアした「宇宙日本食」は47品目。常温で1年半以上の保存が利くことや、液体や微粉が飛び散らず、容器や包装には燃えにくい素材を要求される。宇宙船内は禁酒。
 ③宇宙の装いを変える“メイドインジャパン”
 宇宙滞在中は洗濯ができない。ポロシャツなら15日に1枚、下着は3日に1枚といった具合に数量が限定されている。どうしても吸水速乾や抗菌消臭性を持つ素材が必要で、その点化学繊維の方が優れている。不燃性を保つ範囲で、綿と化繊を配合した繊維を使う方が快適。

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