のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

Chat GPTは神か悪魔か

2025年04月04日(金)


 著者 メディアアーティストの落合陽一
   著作家・パブリックスピーカーの山口周
   経済学者の野口悠紀雄
   経済学者・駒澤大学経済学部準教授の井上智洋
   インタラクション・デザイナーの深津貴之
   精神科医・立命館大学生命科学部特認教授の和田秀樹
   生命学者・早稲田大学名誉教授の池田清彦
 宝島新書
 1100円
 2023年10月11日発行
 本書では、各分野を代表する7名の識者が徹底検証する。
 ChatGPTの操作はとても簡単で、誰でも直感的に使うことができる。時代に取り残されないためには「新しいものに触れる」という興味関心と行動力が大切。使い方はアプリをダウンロードして、質問を打ち込むだけ。できれば有料版で試してみよう。質問の仕方を工夫することで、より具体的かつ望ましい回答に近づけることができる。
 ChatGPTのアクセス数を見ると、多い順にアメリカ、インド、日本、人口比で考えると日本がトップだが、利用者数は日本は非常に少ない。つまり、日本では、特定の人たちだけがたくさんアクセスして、一般的にはITスキルはそこまで高くなく、AIへの関心も浸透していない。
 ChatGPTを上手に活用していくには、ChatGPTにできないことを正しく理解した上で、自分にとっての重要な使い道が何かを見極め、使い方を選び取って使っていくことが大切。ツールとして生成AIを使い始める。AIの答えは参考の一つとして捉え、最終的な判断は自分で下すことが大切。人生を揺るがすような重要度の高い局面においては、ChatGPTを使うことに慎重になるべき。医療におけるトリアージや裁判の判決、生活保護の申請・審査などは、複合的で繊細な判断を要するため、確率で答えるブラックボックスのChatGPTなどで安直に答えを出すべきではない。
A.ChatGPTの根本原理
 手前の文に「確率的にありそうな続きの文字」を、どんどん繋げていくAI。この文章を作る仕組みを知っていれば、ChatGPTの得意なことや苦手なことを理解しやすい。
 「ChatGPTは平気で嘘をつく」という危険性を、よく知っておく必要がある。ChatGPTの活用が、教育の分野で進みつつあるから、政府は早急に警告を発するべき。
B.ChatGPTの特徴
 1.中央値
 生成AIのテクノロジーのベースにあるのは統計。最も標準的な回答を知りたい時は、ChatGPTに聞けばいい。正規分布の「中央値」を答えとして出す。二択選択クイズは、AIが最も得意とするところ。
 インターネット上の過去の情報を学習しているため、多くの人がもつ偏見や社会的なバイアスを「確率的に高い情報」だと処理するリスクがある。最大多数が「正解」だという保証はない。例外は回答しない。
 2.世に出回っていない情報は学習範囲に含まれていない
  個人的な事やご近所の話題と最新情報など
 3.創造力がない
 ChatGPTは学習した情報から幾つかの案を提示することはできても、その仕組み上、新しいアイデアを作り出すことはできない。
C.「人間の価値」は何か
 AIをうまく使いこなせる人と使いこなせない人が結構な割合で二極化する。99%の人は何が起こっているか理解していない。
 ChatGPTを、一般のレベルで使っている会社や導入している組織はまだまだ少ない。非常に便利なものがあっても、それを使おうとしない。人類の変化は遅い。人間はなかなか檻から出ようとしない。これだけAIが発達してくると、もはやAIにできない「クリエイティブ」なことをできる人間もほとんどいない。
 AI時代には「中央値」から外れる勇気と人間本来の知性が求められる。
 1.中央値ではなく「外れ値」で戦う
 人間は「中央値」での勝負ではChatGPTに勝てるわけがないから、「意外だけど納得感がある」「思いもよらないけど、その手があったかと思える」ような「外れ値」で勝負した方がいい。人間の知性は、標準的な正解が通用しない特殊な状況において、きわめて独創的な「外れ値」の回答を導き出し、それを実現するクリエイティビティや洞察力、閃きのようなものを持っている。
 2.「外れ値戦略」で求められる能力
 「外れ値戦略」を実行するのは非常に勇気がいる。どこまでも論理的に考え続ける「思考の粘り強さ」と、その結果として生み出された外れ値の戦略を信じて実行する「精神的タフネス」が求められる。
 私は、意外性のない戦略は戦略とは言わないと思う。人間が人間にしかできない価値を生み出すためには、現状では当たり前だと思われていることを徹底的に疑い、「深い合理性を持つ外れ値の戦略」を見つけることしかない。
D.「職業」は簡単にはなくならない
 今後AIが社会にインパクトをもたらすことは間違いない。AIによって多くの人が信じて疑うことのなかった「従来の優秀さ」が大きく価値を失っていくことになる。
 生成AIが人間に取って代わることによって「職業」がなくなることはないが、仕事の中身や価値は変わる。仕事の中身や価値が変わるから「職業」という入れ物は存続する。
 1.高収入の職業からAIに代替される
 AIのようなクイズに正解を出すのが得意な人たちが希望する職業は給料が高い。株主や経営者は、こういう人たちを最も機械で代替させたいと思っている。
 今回のAI革命は、これまでの産業革命と大きく違う。代替のターゲットが末端の労働者、労働市場で安い値段しか付かない人ではなく、労働市場で最も値段の高い人たち、エリートだということ。投資銀行のトレーダー、弁護士、医師。
 2.AIの価格破壊で「優秀さ」の定義が変わる
 量販店に並ぶコンピュータに、人間の中でも最優秀とされてきた人もかなわない状況がやってきた。私たちは「優秀さの定義」を書き換えなければならない時期に来ている。
 近い将来、「標準的な正解を出す」という類の仕事に関しては、AIの価格低下に伴って労働市場における報酬水準が劇的に低下していく可能性が高い。この先、40年も固定費として給与を払いながら、“正解を出すのが得意”な人を未だに大量に雇う日本企業が、大丈夫なのか不安になる。
 3.AIイノベーションは新たな雇用創出をしにくい
 これまでの改革は、革新的な製品を生み出す新たな産業を生み、「労働移動」により失業が解消された。しかし、AIがもたらす改革は、プロセスがより効率化され、新たな雇用を生み出すよりも、雇用を減らしていく方向に重きが置かれるようになる。
 かつての産業革命とは違って、近年のイノベーションでは社会で失われた雇用を補ってあまりあるような新しい産業・雇用の創出には至らない。
 4.AIによって芸術は二分化
 モーツアルトやショパンの音楽は、その時代における「外れ値の音楽」。
 芸術作品として後世に残るような音楽作品をSランク、一つの時代に流行したしたり話題になったりする作品をAランクとした場合、AIが作ることができるのは、その下の「それなりにあればいい」程度のBランクの作品。
 今後AIによって淘汰されるのはBランクの作品を作る仕事。「中央値で戦っている人たち」の仕事はAIに取って代わられる。
 5.ホワイトカラーに求められる能力
 多くの業種で人手不足が目立つようになった。しかし、それでもホワイトカラーの有効求人倍率は2023年7月現在0.32倍で、3人に1人しか採用されない。今後、雇用はさらに減少する。
 そこで、AIが思いつかないようなアイデアを生み出せる能力、AIを越える能力を身につけることが重要。
 今のところ、AIには意思のようなものがない。何か新しいプロジェクトを立ち上げるとか、起業するとか、そういうAIにはできない個人の意思をしっかり持てる人間になるということも大切。
 おそらく、これからは普通の会社でサラリーマンとして働くというようなスタイルは徐々に減っていく。数人の仲間で新しく会社を立ち上げていくことが「常識」になってくる。そんな時代に必要なのは、新しいことにチャレンジしていくベンチャー精神。
E.「考える力」を意識して養う
  大人も子どももAI社会になることによって何より大事な「自分で考える力」が、だんだんと衰えていくことが一番危惧される。これからの時代は自分で考える力を養うことが大切。ルールやマニュアルがないことにどう向き合い、どう対処していくかを考えることが人間の価値。
 1.大学は学ぶところではなく、新しいことを考えるところ
 自分の頭で考える力がないと、学校の勉強はできても社会に出てから新しいことに対応できない人間になる。答えのある問題だけに取り組まないで、答えのない問題を自分で考える訓練をしておかないと社会に出たら生き残れない。今まで誰も考えたことのないようなことをやる人が社会で成功する。
 2.小中学生にはChatGPTを使わせない
 小中学生がAIに頼り切ってしまったら、自分で考える力は間違いなく落ちる。文章の内容が正しいのか、素晴らしいのか、くだらないのか、といったことを自分の頭で判断する力を自分で身につけることが大事。日本語力を育てるためには、論理的に破綻していない、主語述語や接続詞の使い方が適切な文章を読んで、それを理解するという学習が大切。
 子どもたちは、絶対的な正解があるゲームやルールが決まっているものではなく、考える力を養える自然の中で遊んだ方がいい。
F.これからの課題
 1.エリートと一般大衆の分断
 AI絶対主義的な世の中に導かれた場合には、AIの回答に懐疑的なごく一部のエリートとAIの回答に素直に従う一般大衆がはっきりと分かれた、いわば分断された社会になる。
 複数の考え方がある問題の場合、AIの判断に対して、「実は古い考えではないのか?」と疑問を呈し、「既存の常識的考えから脱して、もっと世の中を進歩させたい」と考えることができる人が、AI時代における一握りのエリートとなる。もちろんAIも学習しているが、それが多数派になるまでタイムラグが生じる。最新の情報を取り入れることができる人はAIに勝てるが、これまでの常識に固執する人はAIの幅広い知識に勝てない。
 2.「中央値」が好きな日本人
 政府やマスコミの言うことに疑問を抱かない「中央値」が好きな日本人は、AIが導き出した「中央値」にも疑問を抱くことなく素直に従う。AIが進化すれば、中央値で戦うことに安心する日本人にとって辛い時代に突入することになる。中央値戦略の大きな問題点は、一つは、差別化が難しい。他の企業とは「スピード」か「コスト」の2つでしか戦えない。これは非常に厳しい消耗戦になる。もう一つは相手から見て予測しやすいこと。
 また、デフレ不況のせいで、人々が新しい革新的な技術開発にチャレンジすることができなくなってしまった。こうした時には、相手が予想もしない、想定とは全く異なるような発想だが、なおかつ大局的に見た時に合理性がある戦略が重要。
 3.科学技術立国を目指す
 国民がお金を使ってくれる国こそが技術が一番進歩するし、経済も発展する。技術力の高い企業が画期的な商品を開発できるのではなく、消費者の要求水準が高いからそれに引っ張られて技術が発展する。
 4.BIとAIをセットで導入する
 AI化・IT化による不安定な雇用状況に対して、究極的な政策は、ベーシックインカム(政府が性別・年齢・所得水準に関係なく、全国民に対して最低限の生活費を一律に給付する社会保障制度)を導入すること。ただその前に社会保険料をなくすのも一つの手。現在の社会保険制度り仕組みは戦時中にイギリスで考えられたものが基礎となっているが、イギリスの経済学者のケインズは社会保険料よりも税金で賄う方が望ましいと言及している。理論的には全て税金でよいはずなのだが、政府からしてみれば社会保険料の方が徴収しやすい。保険料は、収入のない人でも支払わなければならず、低所得者であればあるほど負担は大きくなる。だから、保険料を軽減するか、なくして全て税金で賄うようにするか、そのどちらかを行う議論をすることが、ベーシックインカム導入よりも先にやるべきこと。
G.医療分野
 医療についても大きな変化が起きる。自分の症状から病院に行く必要があるかどうかを判断するセルフトリアージの支援に、生成AIが活躍する。人の命に関わるため、実用化へのハードルはかなり高い。医師の仕事の一部をAIが担えば、患者の対応に追われる医師の負担を軽くできる。患者が病院に通う際の負担を減らすことができる。
 AIが得意な仕事はAIに任せて、人間は人間にしかできない仕事へ移行していく。例えば、身体をスキャンした画像を見て、「がんがあるのかないのか」という分析はAIに任せればいい。しかし、もしそれでがんが見つかっても、どんな治療を受けるのかということは、どんな人生を送りたいのかと同義だから、自分の頭で考え決めるしかない。その意思決定プロセスに伴走できるのは人間。AIは判断を下すのに必要な要素が不明確な問題が非常に苦手。
 一方で、現在の医療は専門家が進みすぎて「専門バカ」的な診断が横行しているから、AIならば網羅的な診断が可能になるのは確か。
 日本のカウンセリング教育は偏ったものであり、一つの流派の考えにとらわれていることが多い。基本的に精神科医に通う人の多くは、ものの見方などが正常から偏った「例外の人」が多いため、例外に弱い現状のAIでは対応できない。とはいえ、AIは症例についても対処法についても膨大なパターンをデータとして持てるわけだから、すくなくとも一つのやり方しか学んでこなかったような現在の一般的な精神科医やカウンセラーがやっているカウンセリングよりはマシな答えを出す。
H.私の活用法は3つ 野口悠紀雄(経済学者)
 1.文章の校正
 音声入力した草稿について、ChatGPTを使って校正する。原稿を書くにあたっての私の作業効率が、飛躍的に向上したのは事実。ただ、日本語の文体において、改善の余地があると思う。単語の誤用も散見される。また、“バイト敬語”やうんざりするような常套句を使う。この点は、大規模言語モデルの学習過程に根ざす問題なので今後も改善を期待するのは困難。
 2.英語の論文の翻訳と要約
 英語の速読ができない日本人にとって、非常に有用な機能。条件にあった論文を短い要約と共に示してくれ、私の情報収集能力は格段に上がった。
 3.雑談相手
 失礼なことを言わないように訓練されていて、理想的な雑談相手。
参考に
 高山義浩 FB 2025.2.12.
 訪問診療記録
www.facebook.com/profile.php?id=100001305489071

働き方の最新記事