のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

「男女格差後進国」の衝撃

2022年06月11日(土)


無意識のジェンダー・バイアスを克服する
治部れんげ 著
小学館新書
2020年10月6日発行
800円
 他人の過ちを指摘するのは簡単だが、自分自身が持っているジェンダーに基づく決めつけ、思いこみに気づき、直していくことは難しい。年を取るにつれて「それは違う」とストレートに指摘してくれる人は減っていく。家族、親戚、友人から「間違いを指摘してもらえる状態」を作ることが、バイアスを除く一番良い方法だと思う。
 ジェンダーについて「知る」ことから初めて、周囲の人と話をして考えを深める。世界に広がる「ジェンダー」に基づく「らしさの決めつけ」や格差を解消するための試みを知ると、日本の当たり前を見直し、個人が望む社会を作る参考にもなる。
 もし、チーム編成や委員会の構成員を決める権限を持っていたら、男女半々にしてみてください。女性が発言しやすくなるだけでなく、男性も、これまでと違う切り口の発言をしやすくなり、ジェンダー・バランスの重要性を改めて感じると思う。男性委員の発言や提案から、自分が気づかなかったジェンダー視点に気づくことができる。人の意見、異なる意見を真剣に聞く専門家が集まると、質の高い言論空間が生まれる。
 また、女性が人間として尊重され、尊厳を奪われないことが大切。男女平等に近い国であっても、女性の方が男性より多くの時間を家事・育児・介護などの「無償ケア労働」に割いている。「無償ケア労働」の男女格差にも取り組まなければならない。
 明治以前は日本も夫婦別姓の国
 北条政子 政子は嫁いだ先の源とは違う苗字を名乗っている
kojima-dental-office.net/blog/20210627-14782
A.「ジェンダー」とは?
 性別に基づく「望ましい、らしさ」を決めるのは社会。社会に決められた性差を「ジェンダー」という。生物学的な性差を示す「セックス」と対比して使われる。
 妊娠・出産は「生物学的性差」に基づいている。ただし育児は女性だけではなく、男性にもできる。社会には今なお「育児はママの仕事」という意識が根強く残っている。「男性でもできるのに、女性しかできないとされていること」、逆に「女性もできるのに、男性しかできないとされていること」、このような思いこみや決めつけは「ジェンダー」に基づくもの。
 1.ジェンダーは「女性の問題」ではなく、皆が考えるべき課題
 ジェンダーに基づく無意識の偏見や性差別の問題は、男性と女性の対立ではない。
 住宅のCM。家の中で忙しく掃除などの家事をする母親が描かれている。4~5歳の女の子が「ママ、遊ぼう」と話しかけ、忙しい母親は「ちょっと待ってね」と返事をする。この時、父親も家にいて母と娘のやりとりをソファに座って見ている。このCM動画を見た男性が「父親が何もしなくて当然」という描写に腹を立てた。彼は家事も育児も当たり前のようにやっている。
 ひと昔前であれば「お母さんは家事育児で忙しくて大変」という現実に寄り添ったCMとしい共感されたかもしれない。それが男性から批判されるところに、時代により変化するジェンダー規範の難しさがある。
B.親ができること
 家庭における無意識バイアスの大きな問題は「勉強ができる息子」を甘やかすこと。特に娘と比較して、息子には家事をやらせないこと。「あなたは勉強に集中して、ママが他のことはやるから」という態度は良くないと思う。「自分の身の回りのことを他人にやらせて当たり前だと思っていることこそがジェンダーの問題」ということを母親は強く意識して欲しい。言葉を知っているだけでは意味がない。母親は息子を甘やかしてはいけない。最低限の身の回りのことは、子供の性別にかかわらず、できるように育てた方がいい。
 生物学的な性差は多様である。出生児に診断された性別と自分自身の性自認が一致している場合は「シスジェンダー」と言われる。一方、生まれた時に外から決められた性別と、本人の性自認が一致していない人もいる。平等に扱うこと、性別より個性を見るように心掛ける。体の違いは生物的なものだが、どんな色を好むかは社会的な要素も入っている。自分と違う価値観を持って生きる身近な人を理解する。
 大切なのは、自分と同じことを次世代に求めない。もし、親を信頼していたら、子供は「こういうことがあった、おかしいと思った」と自分の意見を伝えるはず。
C.ジェンダーと経営
 1.先行して女性活躍を取り組んだ企業
 2014年、資生堂は、美容部員に向けて子供がいる女性も夜間や休日の勤務を検討するメッセージを出した。多数の女性従業員を抱え、女性役員もいる「女性に優しい企業」資生堂が、母親に厳しい措置をとったと思われたため、「資生堂ショック」と呼ばれた。
www.getgamba.com/guide/archives/8040/
 働く女性が増え、出産後も働き続ける人が増えたら「ママだけ特別扱い」できなくなるのは当然。同じ仕事をして同じ報酬をもらうためには、負担の平準化が必要。そうでなければ「ママ社員」たちは男性社員や子供のいない社員からサポートを受けることで「マミートラック(昇格や出世コースのチャンスのないこと)」に陥ることになる。
 世代が若くなるほど、男性職員も子育てに関わることが当たり前と考えるようになっているから、24時間稼働している医療や介護現場でも同じようなことが起きている。本気でジェンダーの課題に取り組み、働く人のダイバーシティを受容していこうと思ったら、男性の働き方改革こそが必要になってくる。
 自分の頭で考える日本の論点
 論点3 日本人は働き方を変えるべきか ダイバーシティの最たるものは、男性と女性。
kojima-dental-office.net/blog/20210126-14561
 積水ハウスは2018年9月から「イクメン休業制度(男性育休1ヶ月以上の完全取得)」https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/
を導入した。人事部の試算で「全ての男性社員が配偶者の出産時に1ヶ月休養しても業績には影響が出ない」ことが分かり、実施した。働き方だけでなく、家庭での過ごし方についても、企業が突っ込んだ形で関わっている。
 今後、ジェンダー課題に取り組む企業は、女性リーダーの育成と同時に、男性の働き方改革を進めていくことになる。働き方改革が根本的な解決につながる。「男性従業員の家事・育児・介護を応援するための労働環境整備」が必要。
 2.30%Club
30percentclub.org/chapters/japan-2/
 2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。これは17分野からなり、第5分野が「ジェンダー平等を達成しよう」。今、世界ではジェンダーギャップの解消を長期的な経済問題解決のために必須と考えるようになっている。グローバルな経営トレンドとジェンダー問題の関係を象徴的に示すのが「30%Club」の設立と拡大。
 「30%Club」は、2010年に英国で始まった。 上場企業の女性役員比率30%を目指す取り組み。意思決定層に多様な人がいることでより良い経営判断ができる。それが組織の長期的な成長につながる、という信念から生まれた。主流にいる男性の行動変容を目指している。そのため、メンバーを主要企業のトップ、つまり会長、社長、CEOといった人々に絞っている。加えて機関投資家が、女性役員を増やす取り組みを支援している。法律による規制ではなく、企業の自主的な取り組みや資本市場の構造を生かしていることが大きな特徴。
 ①日本支部は2019年に発足
 日本でも2019年5月1日に「30%Club JAPAN」が発足。目標は、TOPIX100の取締役会に占める女性割合を2020年に10%、2030年に30%にすること。チェアは資生堂の魚谷雅彦社長が務めている。
 ジェンダー格差が埋まらない本質的な課題のひとつは、重要な意思決定機関の多様性が低いこと、その結果、ガバナンスが低下している。リーダー層の人員構成から変えていこうとしているところが、他のジェンダー活動との大きな違い。経済合理性の話に留まらず、人権や公平性にも言及していることが特徴。多様性がもたらす危機管理能力の向上や創造性の発揮を目指している。
 3.「女性の昇進意欲が低い」は本当か
 管理職などリーダーの役職に就く女性が非常に少ない。日本は働く人の44.5%が女性。管理職などに占める女性はわずか14.8%に留まる。欧米先進国の3~4割と比べると男女格差が大きい。
 「自分が管理職になった理由」を尋ねると、男性管理職は「上司から声をかけられたから」「組織の中で自分の力を発揮するのは当然だから」が多いのに対し、女性管理職は、昇進に際して覚えた葛藤を筋道立てて長めに話す傾向がある。多数派と少数派の置かれた状況の違いが表れている。
 男女逆パターンの「なぜ、育休を取ったのか」と尋ねると、女性たちは「産後しばらく赤ちゃんと一緒にいたかった」とか「授乳期間は側にいようと思った」とごく自然に思える回答に対し、男性は、もう少し具体的な理由を述べる。分野を問わず、少数派には「慣習に逆らって、敢えて選択するだけの強い理由」が必要。
 なぜ、彼女たちは「自信がない」ことを理由に昇進を断るのか。「男性は1回言ったら受けるけど、女性は3回言わないと受けない。」新しい仕事に必要な要素が記されている時、男性は60%できそうなら応募するが、女性は100%できそうな場合だけ応募する。
 4.ハラスメントと指導の線引き
 どこをどう直せばいいか、具体的に指示するのは仕事上必要な指導。ハラスメントは権力関係こそが真の問題。もし「部下にこれを言っても大丈夫か」と迷ったら一呼吸おいて「あなたが今、言おうとしていることを、相手が上司の配偶者だったり、上司の子どもだったりしても、言いますか」と考えてみてください。自分が育った時代の常識は今では通用しない。
D.ジェンダー・ギャップと自治体
 豊岡市長と豊島区長のジェンダー問題に対する共通点は、男女別の統計データをよく見て不都合な事実から目をそらさないこと。いずれの自治体も、男女合わせた数字だけを見ていたら、問題に気づかなかった。男女格差の解消は、企業や地域、家庭などの民間部門の取り組みと、法律や制度を扱う政府部門の連携が欠かせない。民間部門ができること・進めたいこと、政府ができること・やるべきことについて、すりあわせ役割分担が必要。
 1.市長の危機感に火をつけた「若者回復率」
www.businessinsider.jp/post-174523
 兵庫県豊岡市では、2010~2015年にかけて、若者回復率の男女合計では緩やかな回復し、Uターン、Iターンの取り組みがうまく行っていると楽観的に考えることもできた。しかし、男性だけ見るとV字を描いているが、女性の若者回復率は20年間減少傾向が続いており、最近5年で男女差が2倍に開いた。男性52.2%に対し女性26.7%。
 若者回復率とは、20代で転入超過となった人数が10代で転出超過となった人数に占める割合のこと。多くの地方都市で10代が進学のため故郷を離れ、20代で就職や家族形成のため戻ってくる。
 中貝市長は、市役所にも市内企業にも働く女性は少なくて、リーダー職に就く女性はほぼいない。このジェンダー・ギャップを放置すれば、社会・経済的な損失はとてつもなく大きい。この危機意識は豊岡市が真剣にジェンダー・ギャップ解消に取り組むきっかけとなった。働く女性や女性管理職を増やす取り組みを「女性活躍」ではなく「ジェンダー・ギャップ解消」と呼んでいる。
 豊岡市はジェンダー・ギャップ解消に向けた重要な方策として「豊岡市ワークイノベーション推進会議」を作った。男女ともに育児や介護などのケアと仕事を両立できる環境が必要だから、仕事のやり方を変える。特に重要なのは、雇用主の発想と人材マネジメントを変えること。企業もテレワークなどの推進に加え、いったん家庭に入った人が再就職しやすくなるよう、短時間・小日数勤務制度を導入する。
 2.東京都豊島区「消滅可能性都市」からの逆転
www.city.toshima.lg.jp/001/kuse/shingi/documents/r2shingikai1-1.pdf
 池袋など繁華街を有する都心部にある、人口28.8万人の豊島区は、2014年に日本創成会議から「消滅可能性都市」と名指しされた。
 「消滅可能性都市」算定基準は「2010年から2040年までの30年間で若年女性(20~39歳)が半数以下になること」。豊島区は当時5.2万人いた若年女性が30年後は2.5万人まで減ると推計された。
 同区の高野之夫区長が、「女性に好かれる街」「子育てしやすい街」にするために政策を方向転換した。保育園も「作れるだけ作る」ことを指示。池袋駅に直結した豊島区役所の4階には、子供に関する諸手続の窓口が集まっている。その中に、区内の子育て関連施設と情報を一括して見られる「子育てインフォメーション」がある。非常勤職員が一人いて、その場でインターネットを使って情報の検索を一緒にやってくれる。
 「できることは何でもやる」という姿勢で取り組んだ結果、豊島区は2017年に共働きメディア「日経DUAL」調査による「共働き子育てしやすい街」の第1位に選ばれた。日本創成会議の座長だった増田寛也さんは、僅か3年でここまで変わったことに驚いた。2010年度に10.1%だった職員の管理職女性比率は2020年度には22.1%まで増えた。毎年1%強ずつ10年間にわたりコツコツと積み上げた。ジェンダー平等の重要性をリーダーが実感し、地道な取り組みを重ねないと女性管理職は増えない。
 高野区長は、女性が暮らしやすい街から始まり、子育てしやすい街、そして外国人や海外にルーツを持つ人など多様な人が暮らしやすい街の重要性を話した。
 豊島区では多様な性自認・性的指向の人々を対象にした「パートナーシップ制度」も2019年4月1日から施行した。制度を周知する際、本人の意に沿わない形で性的指向を他人に知られてしまう「アウンティング」の防止措置をとることも決めた。
F.日本のジェンダー・ギャップ指数は先進国で最下位
www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202105/202105_05.html
 2019年12月に、スイスに本部を持つ、「ダボス会議」で知られる民間団体「世界経済フォーラム」が発表した「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は153カ国中121位、先進国では最下位、多くの新興国・途上国より低い順位。南アフリカ(17位)、メキシコ(25位)、アルゼンチン(30位)といった新興国より低く、日本が政府開発援助を供与しているルワンダ(9位)、ナミビア(12位)、ブルンジ(32位)よりも低い順位。
 1.ジェンダー・ギャップ指数
 政治・経済・教育・健康の4項目で国内の男女格差を測る。各項目を測った結果は0~2の指標で表し、1に近いほど平等、0に近いほど男性優位、1を超えて2に近づくと女性優位になる。男女格差の問題は、次世代に引き継ぐ社会が公平にチャンスのあるものになっているかどうかという問題。
 ①政治
  国会議員や大臣に占める女性比率
 ②経済
  管理職・専門職の女性の割合、同種の仕事における男女賃金格差、労働力率の男女差
 ③教育
  初等・中等・高等教育への進学率や識字率
 ④健康
  出生時の男女比率や健康寿命の男女差
 2.日本は経済と政治に女性リーダーが少なすぎる
 日本の総合順位が低い最大の理由は、政治分野で女性の進出が遅れていること。特に国会議員に占める女性比率が10%程度で調査時に女性大臣が一人しかいなかったため、政治分野だけを見ると日本は144位と非常に低い順位。
 日本は管理職の比率を3割にすることを2020年までの目標にしながら、それを達成できなかった。中間管理職を増やすだけでは不十分で、意思決定層を多様化するのがグローバルな潮流。
 3.日本の女性活躍政策が成果につながらない
 一番大きな原因は、多くの人が「日本は男女差が大きい」と実感せずに暮らしていることだと私は考えている。
 「男女平等が当然」という認識から出発すると、今ある格差が1割でも2割でも「まだ平等ではない」と思う、一方で「男女格差がある現状は自然な状態」というところから出発すれば、4割、5割の格差を1割縮めただけでも「よくやった」と思うはず。何を「当たり前」と思って暮らしているか次第で、問題や格差は見えたり見えなかったりする。ジェンダーの問題は、立ち位置によって考え方が異なってくる。
 4.評価の基準には課題もある
 国内の男女格差を測る場合、大卒女性でも自分で家事育児をすることが多い日本より、大卒女性がケア労働を安く外注している途上国の方が、男女格差は小さく見える。計測方法をより公平なものに変えることを提案していくべきだと思う。
 男女格差の小さい国を見ると、二つの特徴がある。
 ひとつは北欧諸国。高い税金を払う「大きな政府」。かつて「お母さん」が担ってきた家庭内の仕事を、税金を払って「よその家のお母さんやお姉さん」に任せる。これにより女性の社会進出度合いが上がる。
 もう一つはの特徴は新興国や途上国。貧富の格差が大きく、国内の女性間で階級差も大きい。高学歴女性は無償ケア労働を国内の貧困層から安く外注できる。その結果、結婚や出産後も負担をあまり感じず男性並みに働き、キャリアアップができる。

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