のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

空気は読まない

2010年04月15日(木)


鎌田實著
集英社
2010年2月28日発行
952円

 医療や福祉の現場だけでなく、様々な分野に見られる空気を取り上げ、考えさせられる内容になっている。涙や感動の場面も登場する。日本人は空気に感染しやすく、極端に右に左にぶれやすい。自分を振り返り、これからを見つめ直す時、新しい生き方、一本の信念が見えてくる。ぜひご一読を。

1.空気ってなんだろう
 空気が読めるというのは、既成の枠が分かっているということである。空気を読んでばかりいると、人は、自分の意見や意思を見失う。空気は読めるが、空気に流されないことが大切ではないか。あえて空気を読まない時があってもいい。空気を掻き回したほうがいい時もある。ムードが沸点に近づいている時に、水を差す人間がいる社会は、強い社会だ。空気の大きな圧力に負けないことが大事。

2.人はなぜ旅をするのか
戸井十月が答える
「未知の世界と出会えば出会うほど、もっと知らない世界があることが知らされる。だから、旅をすればするほど旅への想いは募っていく。」旅は、僕らを日常のしがらみから解放してくれる。人は旅を終え、しがらみの世界へ戻っていく。しがらみから離脱することが怖くなくなる。いい旅をしている人は、知らないうちに精神が自由になっていく。

3.本当の正義とは何か
 A国にはA国の正義があり、B国にはB国の正義がある。本当の正義の味方なら、国境を越えて助けに行く。本当の正義というのは決してかっこのいいものではない。そして、そのために自分も深く傷つくものだと思う。
 アンパンマンの独自の哲学は、自分たちの理屈や理論で作りだした正義を振りかざすのではなく、生きられない子供たちをとにかく助ける。自分の顔をちぎって与えれば、悪者と戦う力が落ちてしまう。それが分かっていても、お腹のすいている人を助けることを優先する。

4.医療崩壊を救った「ありがとう」
 小児科医に診てもらうのは、自分たちの権利だと思っていた。それが夜中でも診てもらえて当たり前だと思っていた。日本中が「当たり前」に空気感染していた。多くの病院で、医師たちは一日働いて、そのまま宿直にはいる。病院によっては宿直明け後も、そのまま仕事を続ける。医師たちの多くが、今、燃え尽きそうになっている。疲れ切っている。
 「県立柏原病院の小児科を守る会」のスローガンは、「コンビニ受診を控えよう」「かかりつけ医をもとう」「お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう」の三つだ。守る会のメンバーが、小児科医に初めてあった時、「辞めないでください」と一方的に懇願するのではなく、ただただ身体のことを心配し、「今まで診てくれてありがとう」だった。「ありがとう」の感謝が、日本の医療を救うかもしれない。

5.足りないところを支援する
 Nさんの支援は、柔軟だった。制度の枠組みや世の中の常識に囚われていなかった。先ず、目の前にいる相手が何を望んでいるかを聞く。そして、それをかなえるため自分たちに何が出来るかを考える。
 一人の女性職員の熱意が、制度の範囲内で支援するのが当然と考えていた仲間たちの意識を変えた。夢を叶えることを諦めていた障害者の気持ちを変えた。町の空気を変えた。ついには行政まで動かし、新しい制度が生まれる礎となったのである。

6.「弁当の日」の奇跡
 日々の生活の中で、自分が存在している価値を見つけられず、不安にかられ、“心の空腹感”にさいなまれている子供たちが沢山いる。そこで、四国の小さな町の小学校校長が、生きていることのうれしさやありがたさを実感し、命への想像力や共感する力を育み、また、ほころび欠けている家族の絆を結び直す仕組みとして、2001年に「子供が作る“弁当の日”」を実施した。空気を読んで合わせようとせず、あえて強行し、学校や家庭に波風を立てることで、そこに漂っている空気を変えたかった。そして、子供たちには、現状にただ適応するんではなく、相手の価値観や社会そのものを変えていく“社会力”を身につけて欲しかった。
 取り組むのは5,6年生。家庭科の授業で基礎的な知識や技術を学んだ後、月に1回、合計5回実施する。献立決め、食材の買い出し、調理、弁当箱詰め、片づけ、すべて子供だけで行う。大半の教師や親は、どうせ問題続出で中止になると思っていた。しかし、そんな予想を見事にくつがえし、子供たちは思い思いの弁当を作ってきた。そうして、食べることの楽しさ、うれしさ、ありがたさを知るにつれ、毎日の給食の残り物が少なくなっていった。「食」に対する姿勢だけじゃなく、子供たちの生活力や自立心、社会への関心が育っていった。

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