赤ちゃんは世界をどう見ているのか
2008年08月11日(月)
山口真美著
平凡社新書
760円
2006年5月10日発行
大人と赤ちゃんと決定的に違うところは、眼や耳という感覚器ではなく脳である。赤ちゃんの脳は、8ヶ月の間に劇的に発達する。見る能力は高度な脳の機能の発達と並行して進み、完成が早い。それに比べると言葉の発達は脳の完成のずっと後になる。
1.見る機能が成り立つ時期
先天性白内障の開眼手術の追跡調査が行われた。10歳までの継続的な視力調査を行ったところ、手術の時期が生後100日より前か後かで、その後の視力が変わることがわかった。適切な刺激がこの時期までに脳に与えられないと、生体の成長は阻害されてしまう。
2.未熟児網膜症
早産で生まれると、胎内にいるべき期間が不足するため網膜裏の血管の未完成になる(血管の完成は受胎後9ヶ月を要する)。そして、誕生後、未発達な血管が突然異常に多く分岐し、繊維質が増殖する。その結果、網膜が剥離する危険が生じる。
3.赤ちゃんの視力はとにかく悪い
生まれたばかりの新生児の視力は、0.001程度で、視力は半年までに急速に発達し、その後緩やかに発達する。生後半年が分岐点で、この時期でも、0.2程度の視力しかない。
赤ちゃんを対象とした視力検査は、好みの特性を利用している。縞柄の虎のぬいぐるみや服を、赤ちゃんは好んで注目する。縞の幅がある程度広く、縞と縞のコントラストが激しいほど、注目度は上がる。
4.網膜の成長
生後1ヶ月の赤ちゃんは、網膜中心部分が未熟なため、眼の中心部で見る意味がない。視線に力がなくうつろで、眼の端の方でぼんやり対象を追っているという感じに近い。3歳になっても網膜の中心部分の錘体は大人の半分程度にしか発達していない。
網膜は、錘体細胞と桿体細胞という役割の異なる二種類の細胞からできている。桿体細胞は網膜の周辺に分布し、少ない光でも反応するが、伝達する映像は粗く、色を伝達できない。錘体細胞は網膜の中心に分布し、色や細かい映像を伝達することができる。しかし、錘体細胞の発達は遅く、しかも、その発達は網膜の周辺から中心へ進み、眼の中心部分の発達が一番遅い。
5.網膜よりも脳は、環境からの影響を強く受ける
3週間眼を塞いだ後、眼を開けてその機能を調べた。片眼を塞いだ場合、塞がれた眼は見えなくなった。ところが両眼とも塞いだ場合、両眼とも見えなくなることはなかった。この場合は両眼共に、見る機能は保たれていた。
塞がれていた眼の領域に該当する脳の領域が、開いていた眼の領域の機能に置き換えられていた。片眼を塞いだ影響の方が大きい。刺激がないことよりも、左右の眼の不均衡が、脳に与える影響は大きいようである。
6.動きを見ることと形を見ること
動きを見る能力は生まれつきだ。動いているものに反応する能力は新生児の時からある。新生児が近づいてくるものを避けるために目を閉じるのは、紛れもない事実である。
素早く運動で反応するような時は、原始的な「皮質下」に情報が届く。「皮質下」で見る見方は、「見えている」という自覚がほとんどなく、反射的な動きで行動することが特徴らしい。
生後3ヶ月頃に、視線の移動は、「皮質下」の支配から、より高度な部位である「皮質」の支配へと移り変わる。細かい情報を処理する「皮質」に情報が届き、眼の中心でゆっくり形を見ることができるようになる。つまり、見るべきモノにしっかりと注意を払い、見なくてもいいモノはきっぱりと無視できるようになる。
7.赤ちゃん世界はどんな色?
色を伝達する錘体細胞は3種に分かれ、それぞれ波長が異なる赤・青・緑の光を受け取る。私たちが見ている色は、私たちがたまたま持っている、この3種の錘体細胞というフィルターを通してのものだ。錘体細胞の種類や数は生物の種によって異なるため、色の見方は、”絶対”とはいえない。
色の実験はアメリカのテラーのグループが行っている。生後1ヶ月の何割かと、生後3ヶ月のほとんどの赤ちゃんが、緑色に注目できることがわかった。しかし、青を処理する錘体細胞だけ、発達が遅い。青の錘体細胞の数は少なく、大人でも青の検出は弱いことが知られている。
- カテゴリー
- 脳の本