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すごい左利き

2022年05月27日(金)


1万人の脳を見た名医が教える
-「選ばれた才能」を120%活かす方法
著者 加藤俊徳
発行所 ダイヤモンド社
1430円
2021年9月28日 発行
 左利きはアイデア出しや、ブレインストーミングなどは得意だが、思いついたことを具現化するのが得意な右利きの助けが必要となる。
 左利きと右利きは、役割分担をすることで、左利きの持つアイデアを実施する確率がぐんと高まり、一方で右利きも、自分たちだけでは思いもよらない斬新なアイデアを取り入れることができる。
 右利きの人には気づかない、知られざる右利き優位社会。
 生まれた時からマイノリティの左利きには、「右利きと同じように行動する」という課題が与えられている。右手がうまく使えないのに、右利き用の道具を使わなければならなかったり、「どうしたらうまくいくだろう」と考えたりする場面が多く、ちょっとしたことにも工夫している。快適に生きていくために、独自の脳の使い方をせざるを得ない。
 左利きは「右利き社会のあたりまえ」を常にあらゆる角度から分析し、どうやったら自分もできるようになるのか、左右の脳を使って考えている。左利きは知らず知らずのうちに、新たな発想を生み出しやすい「脳の体質」になっている。
 さらに左利きの活性化された右脳は、部分だけではなく全体をイメージでとらえるのが得意。物事を俯瞰的に見ることで、そこに足りないものに気づきやすくなる。
 左利きであることで、利き手を動かすために、常に利き手と反対の手も気にかけ「両手を意識する」ことが、効率的に脳を活性化していた。左利きの脳は、右利きの脳に比べて「左右差が少なく」、バランス抜群。
A.左利きと右利き
 1.左利きの割合は、全体のおよそ10%
 左利き、右利きは、人間が二足歩行するようになってから生まれた。作業を左右の手で分担することで、効率良く物事を同時に処理する能力を獲得した。
 脳の負担を減らすことにも役立っている。転びそうな状況に陥った時に、とっさに右手でかばうなどの優先順位が決まっていると、無駄な動きが減って処理速度が速くなり、危険を回避する確率が高まる。
 McManus,I.C.&Bryden,M.P.1992の統計結果を見ると、両親が共に右利きの場合、9.5%の確率で左利きが生まれる。親が二人とも左利きの場合は、26.1%の確率で左利きに、右利きと左利きの場合は19.5%となる。利き手を決定づける遺伝子はまだ見つかっていない。今の段階では「利き手」を決めるのは、遺伝の可能性に加え、生まれた後の環境の影響があると考えられる。
 2.MRI脳画像の違い
 左利きと右利きの人では、水平断面のMRI脳画像に違いがあり、脳の仕組みや成長メカニズムが異なることが分かる。右利きでは右手を動かす信号を出す左脳が、左利きでは左手を動かす右脳が、対側に比べて大きな運動系断面になっている。
 3.利き手が異なると脳の使い方が変わる
 左利きは右脳を、右利きは左脳を発達させる。右脳と左脳では役割が違う。日々の中で同じことを同じように経験しても、右利きと左利きでは「感じ方が違う」。インプットの仕方が違えば、おのずとアウトプットの内容も変わる。したがって、左利きの人の発想が大多数の人と違うのは当たり前。
 左利き、右利きを問わず、7割以上の人が左脳で言語処理を行っている。右利きの96%に対し、左利きは73%、両利きでは85%。言語処理が得意な左脳を常に右手で刺激している右利きと違い、左利きは非言語情報を扱う右脳を主に働かせている。
 話すのが得意な左利きは少ない。左利きの会話は左右の脳を使う。
 4.同じ細胞だけど、役割が違う「右脳と左脳」
 右脳にも左脳にも同じ機能を持つ脳細胞が、同じように存在しているが、「右脳」と「左脳」で役割分担をしている。例えば、同じ「感情系」でも、左脳では自分の感情や意思を作り出し、右脳では自分以外の人の感情を読み取る働きをしている。また、左脳の「視覚系」では文字や文章などを読み取り、右脳では絵や写真、映像などを処理している。
 左脳は主に言葉で理解する、記憶する、生み出す言語情報の処理に関わり、右脳は言葉がなくても理解できる、非言語である画像や空間の認識を担当している。
 このように、右脳と左脳は異なる働きを担っているが、「運動系」だけは、左右対称に同じ働きをする。右利きの人は左脳の運動系が、左利きの人は右脳の運動系が発達している。つまり、左手をよく使うと右脳が活性化し、右手を主に動かせば左脳が発達する。
 5.右脳と左脳の得意分野(言語系と非言語系)
 右利きは、右手で文字を書く時、左脳の運動系を使いながら左脳の伝達系で言葉を生み出すので、左脳の中でネットワークを使う。言葉を発しようとする時、左脳の、「図書館にある本のように整然と区分けされた倉庫」から簡単に目的とする情報を探し当てて言葉を取り出すことができる。
 右利きが主に使う左脳は、言葉や計算、そして論理的、分析的な思考をする「直列思考」が得意。論理性を重視する人は、言葉の定義や選択などにこだわる傾向がある。そのためどうしても「これまで」とはかけ離れた、斬新な考えが生まれにくい。
 一方、多くの左利きは、右脳で左手を動かしながら、左脳で言語処理をしている。左脳と右脳の両方のネットワークを同時に使わないと文章を綴れない。言葉に置き換えて言いたいことを発するまでに使用する脳のルートが、いつも刺激している右脳から左脳へ、「並列情報の倉庫」に入ってから、「きれいに整理された情報の倉庫」に行かなくてはならないので、常に遠回りをしている。このことが、左利きの「言葉を使って考えをまとめるのに時間がかかる」最大の理由。
 右脳は、モノの形や色、音などの違いを認識する視覚や五感をフルに活用した、言語以外のあらゆる情報を無意識のうちに蓄積している巨大なデータベース。カテゴリーは全く関係なくプカプカと浮かんでいるイメージ情報を自在に組み合わせることで、柔軟な発想が生まれる「並列思考」の脳。つまり、右脳は「本質をつかむ」ことが得意。行き詰まった時や何か危機が起きた時、何が起こるか分からない、これまでの常識とはかけ離れた事態に陥った時などに、局面を打開する新たな考えを生み出しやすい。
 6.人間の脳の発達には、年齢による「旬」がある
 生まれたばかりの子供はまもなく、手足をバタバタと動かして運動系を、そして、目に入ってくるお父さん、お母さんの顔を見るなどして視覚系を発達させる旬を迎える。次に、まだ言葉を話さない赤ちゃんの頃は、右脳を活発に働かせる。そして6歳を過ぎる頃になると、言語機能を司る左脳を育てる旬の時期が訪れる。
 ところが、右利きと左利きでは、左脳が育つ時期が少しズレることがある。右利きは、右手を使うことで言葉を処理する左脳をいつも働かせているので、スムーズに左脳優位に移行する。しかし左利きの場合、何割かの人たちは右脳が優勢な状態から、容易にスイッチを切り替えることができず、最初は言葉を使いにくいことがある。
 周りと比べて、早い時期に言葉を話したり漢字が書けたりすると「優秀」だと考えて喜ぶが、幼いうちから脳の発達が左脳に偏ると、その後の人生で右脳を鍛える機会が少ないため、右脳が育ちにくくなる。
 また、左利きの多くは言語を扱う時に左脳と右脳、両方を使う。つまり、左脳が育つ旬の時期でも、左脳だけを集中して使うのではなく、右脳も並行して使っている。右脳と左脳の両方をじっくり、マイペースで育てている左利きは「大器晩成型」だと言える。子供の頃からずっと右脳を目覚めさせている左利きは、左脳の成長はゆっくりかもしれないが、使える脳の範囲が右利きよりも広い。
B.左利きの「あたりまえ」が「すごい脳」をつくる
 1.左利きの直感がすごい
 左利きの場合、右にある物は右手で取り、左にあるものは左手で取るクセがある。一瞬で効率性のよい方を選択するという、直感に似た行為を日常的に行っている。
 生まれたばかりの赤ちゃんは、利き手に関係なく、先ず右脳を急速に発達させる。そしてその後、言葉を覚えてくると少しずつ左脳を育んでいく。ただ、右利きは右手を使うことで左脳を刺激する時間が長い。左利きはその分、右脳の機能を高めながらじっくりと左脳の能力を養っている。左利きの得意技「ひらめき」。
 右利きは言語機能を担う左脳が発達していて、左利きはアイデアや直感を生み出す右脳が活性化しているのは、脳の摂理としてあたりまえ。
 自分たちが知っている論理をいくら積み重ねても、新たな発見に繋がる仮説には結びつかない。仮説の段階では、発想の飛躍が求められ、多くの場合、仮説は直感を基にして立てられる。科学的な真理も「直感」から導かれる。直感は、「言葉で論理的に説明可能なもの」としては表れない。
 2.左利きは「独創性」がすごい
 左利きは、特に幼い頃に、右利きの箸の持ち方を反転させてイメージしたり、右利きのペンの使い方を、左手でやったらどうなるか考えたり、指の角度や動かし方まで、細部にわたり観察しなければならない状況に置かれているため、必然的に注意深く見る力が身についている。「注意深く観察する力」がアイデアの畑を耕す。
 言語を扱う左脳は、言葉で情報をインプットし、情報をひとつひとつ、ゆっくりと理論的にとらえていく。
 一方、右脳は、カメラがシャッターを切るように、全体を瞬間的に「目でとらえた情報」をイメージで保存する。全体をとらえる視野を持つ。データサイズは文字情報に比べればかなり大きい。画像として浮かんだデータを掛け合わせて、さらに新しい情景をイメージすることにも長けている。選択肢が多く、既成の枠に収まらない発想ができ、豊富なアイデアが生まれる。
 3.左利きの「ワンクッション思考」がすごい
 右利きの場合、基本的に左脳を多く使い、右脳は眠らせていることが多いが、左利きは利き手で右脳を活性化させると同時に、現代社会で生活するために欠かせない、言語情報の処理を行う左脳も絶え間なく使う。両脳をまんべんなく活用している人が多い。
 左利きは右利き優先の社会に順応しようと、左手だけではなく右手を使う機会が多いため、両手で両方の脳を刺激している。多くの左利きは動作によって手を使い分けていることが多い。脳梁を通る「ワンクッション」が左脳と右脳、両方を覚醒させ、脳を強くしている。右利きが、動作によって左手も使うということはほぼない。
 左利き独自の「ワンクッション思考」とは、右脳と左脳を繋ぐ神経線維の太い束である「脳梁」を介して両方を頻繁に行き来する脳の使い方。
C.脳の鍛え方
 1.右脳の鍛え方
 右脳を鍛える効果が高いのが、部屋の片づけ。部屋をスッキリ整えるためには、右脳の空間認識が必要。どこに何を置けば見た目が整うのか、また、どうやって配置すれば使いやすいのかを考えながら整理、整頓をすることで、右脳を働かせることができる。
 現代人は、右脳の記憶系が一番劣化が激しい。
 2.左脳の鍛え方
 ①移動時間にはラジオを聴く
 ラジオを聴いて耳から入る言葉だけで理解しようとすると、聴覚系、理解系だけではなく、記憶系も働かせる。継続的にラジオを聴くことで、幅広い左脳を成長させることができる。
 スマホでいくらテキストを読んだり動画を見たりしても、受け身のために脳への刺激が少なく、脳の「体験」にはなりづらい。また、眼球が動かず視野が狭い状態では、視覚系への刺激も限定的で脳はほとんど活性化されない。
 ②ブログやSNSで発信する
 自分の考えをブログやSNSで発信してみるのも、左脳を鍛えるのに非常に効果がある。自分のいいたいことを明確にし、不特定多数の人に伝えようとすることで、左脳の思考系や伝達系がフル回転する。左脳の思考系が鍛えられると、物事を考えて決断したり、計画したりする能力が高まる。
 3.右利きへの矯正
 子どもの脳は先ず右脳から成長し、後から言語能力を持つ左脳が発達して、両方のバランスがとれる時期が10歳頃、小学校4年生。右手を積極的に使い始めたほうがいいタイミング。
 まずはしっかりと脳の基本的な仕組みを作り、その後に右手を使って左脳を刺激していくべき。あまり幼い頃に右利きに矯正すると、脳内に新たな回路を作ることで脳に混乱をきたすことがある。
 脳の仕組みからすると、母国語の基礎が身についた10歳以降に外国語を学ばせることで、どちらも深く理解できる真のバイリンガルに育つ。
 4.脳には8つの基地がある
 脳には1000億個以上の神経細胞がある。基本的な脳の仕組みは、同じような機能を持つ細胞同士が集まって「基地、脳番地」を作るという考え方で理解できると考えている。
 脳にはおよそ120もの働きの違いがあり、右脳と左脳にそれぞれ60ずつ分かれている。機能別に大きく8つの系統に分けられる。
 ・思考系 何かを考えたり判断したりすることに関わる
 ・感情系 感性や社会性、喜怒哀楽を感じ、感情を生み出すことに関わる
 ・伝達系 コミュニケーションを取ることに関わる
 ・運動系 体を動かすこと全般に関わる
      手足は、脳の対側が支配しているのに対し、
      口や顔の動きは片側の脳から両側の動きを司る両側支配になっている
 ・聴覚系 耳で聞いた言葉や音の聴覚情報を脳に取り入れることに関わる
 ・視覚系 目で見た映像、読んだ文章など視覚情報を脳に取り入れることに関わる
 ・理解系 様々な情報や言葉、物事を理解、解釈することに関わる
 ・記憶系 覚えたり思い出したりすることに関わる
 ひとつの行為をひとつの機能だけで対応するわけではない。例えば、人と会話するだけでも、声を聞くための「聴覚系」、言葉を理解するための「理解系」、相手の表情を読み取るための「視覚系」、そして自分の伝えたいことを表す「伝達系」などが連携して働く。

 

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