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人口減少危機論のウソ

2018年12月13日(木)


img116未来年表
著者  高橋洋一
 大蔵省(現・財務省)にて「ふるさと納税」や「ねんきん定期便」を提案
扶桑社
2018年11月1日発行
800円
 都市に住む官僚やマクロ経済から見れば、人口が減少しても何も問題はない。しかし、過疎に悩む地域やミクロ経済には深刻な問題。4万年前、子供の少ないネアンデルタール人が絶滅し、たくさん子供を産めたホモ・サピエンスは生き残った。
 絶滅の人類史
kojima-dental-office.net/blog/20181110-10692#more-10692

1.人口減少が危機だと叫ぶ人の正体
 人口が減り続けて最も困るのは主に地方公共団体の関係者と筆者は見ている。
 「人口減少」と「地方消滅」はワンセットで語られる。2014年の日本創成会議では、少子化や人口流出で存続できない怖れがある自治体を「消滅可能性都市」と呼び、「2040年までに896の自治体が消滅する怖れがある」と予測した。自治体が消滅すれば、隣の自治体と合併することになり、職、ポスト、権限を失う。
 消滅可能性都市一覧
mainichi.jp/articles/20140509/mog/00m/040/001000c
 地方公務員数は、ピーク時1994年の約328万人から2017年の約274万人へと約50万人以上減少。それでも、その家族や天下りした元公務員などを含めれば、1世帯4人と仮定しても1000万人ほどの関係者がいる。

2.人口減少
 これまでの人類の歴史では、人口減少より人口増加の方が大問題。世界の人口は毎年8300万人増えている。
 先進国の出生率は低下傾向にある。2017年日本の出生率は1.43と2年連続で低下。しかし、出生率は、政府の2002年推計と現実の値はあまり外れていない。平均寿命も延びているが頭打ちになり、人口問題は、今のところ「想定内」にとどまっている。
 それでも、日本で出生率を増やすには、「婚外子」を社会的に認める制度をもっと整備する方法もある。厚労省の調査報告によれば、人工中絶は2016年度で約17万人だった。2012年度の約20万人に比べれば減少しているが、それでも10万人以上の新しい生命が失われている。各国の婚外子の割合と出生率には相関関係が認められる。日本は、婚外子の出産数に占める割合が諸外国に比べて圧倒的に少ない。OECDのデータによれば、2014年時点で2~3%と低いのは、韓国、日本、トルコ。対照的に50%以上と高いのは、チリ、コスタリカ、アイスランド、メキシコ、ブルガリア、エストニア、スロベニア、フランス、ノルウェー、スウェーデン。事実婚を保障する制度が整っている。
 日本では、民法が改正され、嫡出と非嫡出の遺産相続での差別規定は撤廃された。しかし、婚外子に対する社会的な偏見が根底からぬぐえていない。

3.税源と地方分権
 外交、国防、マクロ経済政策などは国家維持に絶対必要だから、中央政府の仕事になる。道路や橋といったインフラ整備は複数自治体にまたがるため、都道府県単位(地方政府)の仕事になる。ゴミ収集など市民生活に密着した仕事は市町村単位(地方自治体)で行われる。
 政策的には、負担能力に応じて払う「応納税」である所得税は、地域差があって景気動向で左右されるため、国の業務に使われるのが適している。一方、行政サービスに応じて払う「応益税」である地方税の中心は、安定的な消費税や住民への均等割課税などにした方がいい。
 しかし、年金に消費税を充ててしまうと、消費税の地方移譲ができなくなってしまうため、本格的な地方分権の障害になる。

4.年金は保険である
 国民年金、厚生年金は、「保険」であり、「福祉」とは本質的に違う。国が無条件に老後を保障してくれるわけではない。長生きするリスクに備え、早逝した人の保険料を長生きした人に渡して保証する保険。長生きするのを保険事故として考える。
 公的年金では、「40年間治めた保険料の総額」と「20年間でもらう年金額」が同じになるように設計されている。おおむね100年間総額で「保険料」=「給付額」となるよう、つまり破綻しないように設計されている。年金制度設計は5年ごとに見直しされて、公表している。
 それでも、問題点はある。
1つ目は、私的年金の「厚生年金基金」。予定利回りが異なる全く性質が違う厚生年金と同時に運用している。数学的に考えれば、この基金が行き詰まることは明らかだった。多くが解散に追い込まれた。
2つ目は、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」の存在。日本の公的年金は、制度としてインフレヘッジ(貨幣価値下落のための対策)されているので、株式運用を行う必要がないと考えるのが普通。一般国民の年金を株式で運用しているような国はほとんどない。本来優先すべきは、年金制度の根幹である「安心・安全」。運用する必要のない積立金を集めて、株式で運用するというGPIFの存在自体が不要。
3つ目は、社会保険料の徴収漏れが数兆円にもなること。日本年金機構と国税庁の徴収部門を統合し、歳入庁を作る。組織をスリム化することは官僚たちのポストを減らすことに繋がるため、財務省の大反対にあって、この構想は未だに実現していない。また、きちんと年金が納付されているか全国民が国からのレシートである「ねんきん定期便」毎年確認する。
 年金制度は保険料とその運用だけで賄われるべきもの。年金給付額を増やしたいのであれば、保険料を上げるのが理にかなっている。それでも足りない場合は、所得税という発想が順番である。消費税はすべての国民に同じ税率がかかるため、所得の再配分機能はほとんど期待できない。そのため、「社会保障のために消費税を上げなければいけない」という理屈はおかしい。世界でも、消費税を社会保障に充てる国など存在しない。

5.国民の幸せ=人口の増加ではない
 世界全体でいえば、人口増減率が高いほど、実質GDP成長率は下がり、貧しくなる傾向がある。一方、先進国では、人口増減は1人当たりの実質GDP成長率と無関係である。国内総生産(GDP)とは、国内の生産活動による商品・サービスの産出額から、原材料などの中間投入額を控除した付加価値の総額。
 分かりやすく言うと、「GDP=みんなの平均給与×総人口」。人口が減少すれば、GDP値も減るのは当たり前。予測通りに人口が減るとすれば、GDP成長率に対し最大0.7%の影響が出るかどうかといった程度、つまり影響はほとんどない。人口の増減は民間企業の経済活動にもほとんど関係ない。身の回りの生活にも全く影響ない。

6.「価格」と「物価」を混同する自称・評論家たち
 個別商品の値段が価格。一方、物価とは、「経済全体での一般的な物価水準」のこと。
 物価統計を出す場合、代表的なものをおよそ1万5千品目だけ選別して算出している。物価指数を出すために、個別商品の毎月の変化度を見ていく。取引量によってウェイトを変え、それらの割合で平均したもの。消費者物価指数の場合、総合の値を1万としてウェイトを配分する。
 マクロの物価とミクロの価格では、全く動きが違う。
 マクロの物価はベースマネー(日本銀行が世の中に直接的に供給する貨幣量)から決まってくる。ミクロの個別価格の変動がマクロの物価に大きな影響を与えることはない。例えば、飲料の価格が3倍に跳ね上がっても、ウェイトは0.01しかないから、物価にはほとんど影響しない。全体の物価は個々の価格とは関係なく動いていく。
 価格と物価の違いを理解するために、イメージしてみよう。
耐久財の個別価格が下がる時、仮に日本銀行が発行する貨幣の量が変わらないという前提ならば、非耐久財の個別価格は上がる。その理由は、耐久財が安くなる分、金銭的に余裕ができて非耐久財を買うようになるから。ミクロの個別価格の平均としてマクロの物価が上がると思いこんでいると、個別価格が上がれば、その平均も上がると考えがちだが、そうではない。
 財には、耐久財(何度でも使用できて使用期間も長い有形の製品)と非耐久財(食料など)、その中間に半耐久財(衣料など)がある。

7.「デフレ金融政策論」
 筆者は、デフレは金融政策で解消できると一貫して主張してきた。デフレとは、一般的な物価水準が持続的に下落している状態を指す。
 賃金や利子率に下方硬直性があるため、一般物価の下落に対し、名目賃金や名目利子率はうまく対応できない。結果、相対的に物価に対して賃金や利子率が高くなる。労働者は生活がかかっているから賃金を引き下げる時には激しく抵抗する。そのため、一度上げた賃金はなかなか下げられない。これを下方硬直性という。
 日本の物価上昇率と人口増減率について、2000~2017年で見ると、人口が減少しているのに物価は上昇している。人口の減少とデフレは関係がない。世界で見ても、デフレは人口の減少とは無関係で、むしろ通貨量との大きな関係がある
 デフレと人口減少を無理やり結びつけることで、「デフレは金融政策では対応できない」という印象を世間に振りまこうとする輩が存在する。官僚が本来しなければいけない、ベースマネーの仕事をさぼり、余計な仕事を創作している。そもそも金融政策は、マクロの物価に働きかけるだけの政策であり、個別の価格決定には関与しないのがメリット。

8.移民政策
 世界では移民受け入れが厳格化されている。なぜ日本では世界の潮流とは逆行する形で、移民受け入れの議論が浮上してきたのか。2014年3月、少子高齢化で減少する労働人口の穴埋め策として、政府が移民の大量受け入れに関して検討に入る。その背景には、経済財政諮問会議の一部有識者(パソナグループの会長 竹中平蔵氏)から外国人労働者活用の拡大という提起がされたことにある。
 日本の出入国管理法が世界のスタンダードと全く違う。例えば、法務省は2010年3月以降、留学生や技能実習生などとして入国した外国人が難民申請した場合、申請から6ヶ月後には就労を認めていた。難民申請が2010年の1202人から、2017年には1万9629人まで急増した。2018年1月から診査の手順を変え、診査を待つ間の就労を制限した。同年1~6月の難民申請は5586人となり、8年ぶりに減少へと転じた。この時期に難民認定されたのは22人。
 日本語を学びたいという理由で申請すれば、どんな高齢者でも留学ビザは習得できる。留学ピザの場合、民間保険加入を義務づけるのが国際常識、しかし、日本では民間保険には入れとは言わず、いきなり「国保に入れ」と言われる
 国保加入者は国籍を問わず、また出産場所が国内か海外かを問わず、出産すれば一律42万円が受給できる。荒川区議会議員によれば、2017年度の出産育児一時金の支払件数は全体で264件、そのうち外国人が105件、約40%。そのうち中国人が61件、約23%。荒川区には人口比で中国籍が3.2%しかおらず、異様な数字。
 日本には、窓口での支払が一定額を超えると還付される「高額療養費制度」がある。外国人が高額医療を受けるため、入国から1年以内に申請すればもらえる「限度額適用認定証」を予め準備しておけば、支払が初めから一定額に抑えられて超過分を負担しなくても済む。そこで、留学ピザで来日する中国人が増えている。最近の調査では、半年以内に80万円以上の高額医療を受けたケースが1年間におよそ1600件。こうして事態を受け、厚生労働省は2018年6月、在留資格のない外国人が国保に不正加入していないか調査する方針を決めた。

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