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ヤングケアラー

2021年10月11日(月)


-介護を担う子ども・若者の現実
渋谷智子著
2018年5月25日発行
中公新書
800円
 ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいるために、家事や家族の世話などを行っている、18才未満の子どものことである。日本では、子どもや若者が家族のケアを担うというの認識がまだ十分に広まっていない。
医療や福祉の専門職は、単に「患者だけ」「利用者だけ」を見るのではなく、そのケアを担っているヤングケアラーの存在にも目を配り、子どもが年齢に合わない無理な負担をしないよう、適切な機関やサービスにつなげていかなければならない。
 「ヤングケアラー」という視点を持つことにより、対応の仕方変わってくる。「やる気がない」ではなく、「頑張っているから大変なんだ」という見方である。これまで「困った子」と扱われていた子どもたちを「困っている子なんだ」という視点でサポートする。
 “気づき”や状況を言語化して共有することが早期発見につながり、存在の可視化が、これまで以上に教育と福祉、地域で活動している団体と行政を結びつける。
 ヤングケアラーを支える法律――イギリスにおける展開と日本での応用可能性
repository.seikei.ac.jp/dspace/bitstream/10928/909/1/bungaku-52_1-21.pdf
 平成30年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 厚生労働省
ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書
www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592954.pdf
1.ヤングケアラーの実態調査
 ヤングケアラーに世界に先駆けて目を向けたのはイギリスである。2011年のイギリスの国勢調査では、スコットランドとウェールズを除くイングランドだけで、16万6363人のヤングケアラーがいると報告。
 日本では、総務省が2013年に「平成24年就業構造基本調査」のなかで、15~29才の介護者が17万7600人と発表した。
 2015年の新潟県南魚沼市の調査
carersjapan.com/img_share/yc-research2015@minamiuonuma.pdf
 市内26校の教職員446人を対象に配布したアンケートに271人が回答を寄せ、そのうちの25.1%がこれまでに教職員として関わった児童生徒の中で家族のケアをしているのではないかと感じた子どもがいると答えた。
 2016年の神奈川県藤沢市の調査
carersjapan.com/ycpj/research/img/yc-research2017@hujisawa.pdf
 2016年7月に藤沢市公立小中学校の教員に対するヤングケアラー調査が実施されることになった。教員1812人に対しアンケートに1098人の回答があった(回収率60.6%)。このうちの534人(回答者の48.6%)が、これまで教員として関わった児童生徒の中で家族のケアをしているのではないかと感じた子どもがいると答えた。
 2021年の厚生労働省の実態調査では、中学生の17人に1人が該当した。
www.minnanokaigo.com/news/kaigogaku/no1023/
 小6の6.5%「家族世話している」 ヤングケアラー初の児童調査
 (毎日新聞 2022.4.7.)
news.yahoo.co.jp/articles/6ccf2bdb7f1c40b4a41c3d2c53c111f7ca210269
2.少子高齢化や世帯人数減少のひずみが子どもに
 戦後、日本人の平均寿命は、ほぼ30年延びている。人生の終盤には、10年前後、何らかのサポートを受けながら生活する時期がある。2025年には団塊世代が75才を迎え「大介護時代」が到来する。
 社会に余裕はない。国の方針は、基本的には在宅福祉を充実させる方向になってきている。2014年の介護保険改正では、特別養護老人ホームの入所要件は、それまでの「要介護1以上」から「原則として要介護3以上」に重点化された。移動や排泄や入浴に困難を抱える人であっても、家で暮らすことが基本になった。介護やケアを可能な限り家族メンバーで分担する。
 しかし、今日の家族は、以前よりも支える力が弱くなっている。個人が家庭にかけられる時間は少なくなっている。世帯人数は減り、共働きやひとり親の家も増えている。人手は減っているのに、ケアを要する人は増え、働ける人は経済的に自分や家族を支えなくてはならない厳しい状況にある。
 ヤングケアラーは、自分の家族の中では自分が相対的に余裕があるのだろうと思って、家族の世話をすることを引き受けている子どもたちである。
3.子どもたちに与える影響
 教育を受ける機会は子どもの最低限の権利と考えられているが、ヤングケアラーはその権利が守られていない実態がある。ヤングケアラーたちは、最初のうちは頑張っていても、ケアが長期化するうちに、これ以上は無理だと学校生活を諦めていく場合が少なくない。
 18才未満の子は、まだ家庭と学校以外のことをほとんど知らない状態でケアに巻き込まれ、長い視点で考えられないまま、自分のしなければならないこととケアの間で葛藤している。
 日本では、ヤングケアラーが家族のケアに時間とエネルギーを費やしてきたことは、単に「生活」と捉えられてしまい、同世代に比べて自分が「取り残されている」と感じやすく、自分に能力があるという自信を持ちにくくなっている。
 しかし、イギリスでは、子どもや若者がケアの経験を通して得たプラスの影響にも目を向けられている。年齢の割に高い生活能力を身につけていること、マルチタスク(同時並行で物事を複数進行する能力)をこなせること、聞き手上手であること、忍耐強いこと、病気や障がいについての理解が深いこと、思いやりがある等など。これらは、多くのヤングケアラーに見られる特徴であり、仕事をしていく上でも大いに発揮できる長所である。
 子どもが、結果的に「色々あるけれど、これはこれで今の自分を作っている」と誇りを持てるように、その親にも子どもに申し訳ないと思うだけではなく、その経験を通して子どもが繋がった世界が豊かなものであったと感じてもらえるようになって欲しい。
4.ヤングケアラーへの具体的な支援
 「2014年子どもと家庭に関する法律」の第96条には「ヤングケアラー」という項目が立てられた。ヤングケアラーがどのような状況にあり、何を必要としているかを、行政は把握する義務を負うようになった。イギリスに比べて、日本では、親が子どもと一緒にいられる時間を確保するサポートは、充分に考慮されていない。
 ヤングケアラーに関する法律
youngcarer.sakura.ne.jp/law.html
 ①ヤングケアラーがケアについて安心して話せる相手と場所を作ること
 ②ヤングケアラーの家族全体を見て子どものケア負担の軽減を目指すこと
 ③社会全般に対して、ヤングケアラーーの気づきの感度を上げていくこと
 人生におけるライフステージが違う。これから自分の将来を作っていくために学校や仕事などで成果を求められる人にとっての1日4時間と、職業などを引退して家にいる時間が長くなっている人にとっての1日4時間とでは、意味が違う。介護にかける時間が長い人を優先的にサポートしていくシステムでは、いつまで経ってもヤングケアラーにサポートは届かない。
 もし一人暮らしだったら、ありとあらゆるサービスを注ぎ込むはず。子どもが居るというそれだけの理由で、未成年の子どもを「ケア・パッケージ」の中に入れて考えるのはおかしい。
参考に
 ヤ ン グ ケ ア ラ ー の 支 援 に 関 す る令 和 4 年 度 概 算 要 求 等 に つ い て
www.mhlw.go.jp/content/11907000/000831374.pdf
5.相対的貧困
 「絶対的貧困」が、人間が生きるのに最低限の衣食住を満たせない生活水準を指すのに対し、「相対的貧困」は、その社会の平均的な生活レベルよりも著しく低い層を指す。先進国では、その社会の平均に比べてどうかという視点から、子どもの貧困が議論されている。
 60代以上の人々が子どもだった頃には、貧しい家庭は多くあり、ある種の連帯感が見られた。高度成長期までの子どもは家の内外で働くことを期待されたが、それ以降の子どもは守られながら自分の知識や経験を広げ将来に向けて力を蓄えていく存在とみなされるようになった。今日の日本では、多くの子どもが介護や家事やきょうだいの世話をするとは想定されていない。貧しい子どもやその親たちは気づかれず、孤立した状態になってしまいやすい。これは、子どもの貧困の議論にも重なる論点である。

 

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