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胎児のはなし

2019年11月11日(月)


胎児のはなしmishimasha.com/books/taijinohanashi.html
誰も知らない「赤ん坊になる前」のこと
著者  増﨑英明 最相葉月
発行所 ミシマ社
2019年2月4日発行
1900円
 先生と生徒の対談集だから、すらすらと読めて楽しい。
 若い先生たちは不思議を思いつこうとするような環境に置かれていない。(増﨑英明)
 1983年に刊行された解剖学者三木成夫のロングセラー「胎児の世界」が、子宮という「見てはならぬもの」の扉を開けて、胎児の変身に生命進化の記憶をたどった。
1000ya.isis.ne.jp/0217.html
 あれから35年の間に超音波断層法や遺伝子解析などの診断・検査技術の進歩によって、胎児を「生きたまま見る」ことができるようになった。世界で初めて胎児を生きたまま観察したのは日本人。横須賀で開業していた毛利隆彰先生と智恵先生。1953年に「早期妊娠人胎児の母体子宮内運動の観察記録」を撮影、1954年に英語論文を発表。
 出生前診断は認知されているが、母胎と繋がったまま手術を受ける「胎児医療」の進歩はほとんど知られていない。「見てはならぬもの」の扉を開けたのが三木成夫先生だとすれば、見てしまったところから胎児の世界を切り拓いたのは増﨑英明先生。(最相葉月)

1.水の中で生きてきた人生が終わって、新たに空気中の人生を始める
 お母さんが一番苦しい時は、子宮口が開いて頭が出て、首のところで止まるまでの1時間ぐらい。赤ちゃんは臍帯を通してお母さんから酸素をもらっていて、まだ肺呼吸していないから苦しいわけではない。
 胎児は肺胞を膨張しやすくするために肺胞液(界面活性剤)を準備している。生まれる時に狭い産道を通ってぎゅーっとスポンジ状の肺が絞られて、肺胞液を全て出しきると、空気が入って肺をばーんと膨らませる。その空気を出す時に、おぎゃーって泣く。吸気が先。生まれた瞬間に水中生物が空気中の生活を始める。帝王切開の場合は胸が圧迫されず肺に肺胞液が入ったまま生まれてくるから、チューブを入れて吸いだし空気と入れ替えなければならない。
 最初に大事なのは肺。肝臓や腎臓は完成していても、肺は一番遅く35週より前は完全にはできていない。未熟児が人工呼吸器で助かるようになっていたが、サーフファクトタント(肺胞がつくる界面活性剤)でまた一段と助かるようになった。母親にステロイドを使うと、サーフファクトタントをつくりやすく早産しても子どもは生きているが、使ってないほうは助からない。

2.胎児はおしっこをするが、うんちはしない
 胎児は、膀胱に約30ccたまると、おしっこをする。それがだいたい60分間隔だから、1日700ccくらい。子宮は完璧に密室だから、自分で処理する。胎脂や毛や、腸や腎臓から出る上皮やおしっこなど、出てくるものすべてを飲む。それを腸の中に9ヶ月溜めている。新生児が生まれてすぐに出す最初のうんちは、ビリルビン(胆汁色素)のせいで緑色している。
 羊水の成分は、初期の頃はお母さんの血清と同じで、胎児はお母さんの血の中で育つ。だんだん老廃物で汚れて、生まれる頃は、ほとんどおしっこになる。
 胎児も低酸素状態になってやばくなると、脱糞する。そうすると、羊水は濁る。病名は羊水混濁。羊水鏡を使って濁っていないかを調べる。濁っていれば早く生ませる。元気な赤ちゃんは最後まで羊水がきれい。

3.ゴジラみたいな呼吸様運動
 カラー・ドプラという器械で見ると、胎児が鼻から羊水を吸って出している。口からは出さない。カラー・ドプラは、器械に向かってくる流れを赤で表示して、逆方向は青で表示する。
 東京女子医大の小児科で新生児医療をやっている仁志田博司先生が「新生児は口で呼吸できないから鼻が詰まるとものすごく苦しい」と言われた。できない理由は、口はおっぱいを吸うのに使わなくてはいけない。おっぱいを吸いながら呼吸しなくてはいけないから鼻だけで呼吸している。

4.胎盤の不思議
 胎盤と胎児は全く同じ受精卵からできる。男の精子からは胎盤、女の卵子からは胎児。寿命は、約9ヶ月と80年。胎盤は水中生物の間にしか使わない生命維持装置、出産で寿命が終わる。超音波で見ると、生まれる頃には石灰化してボロボロになっている。母体ですでに老化が始まっている。
 プラセンタ「胎盤のこと」
www.min-iren.gr.jp/?p=30992
 カンガルーには胎盤がない。哺乳類は3つに分かれ、卵を産む単孔類、胎盤がなく早く生んで育てる有袋類、9ヶ月もお腹に置いてお産も大変な有胎盤類。

5.アダムとイブ
 人間(22対の常染色体と1対の性染色体)は、女性が原型。
 女性の性染色体がXX、男性がXY。Xの大きさが手の小指とすると、Yは小指の爪くらい。Yは、おまけ、女を男にする役目しかない。妊娠6,7週頃にY染色体にある遺伝子が働くと、男性ホルモンが出て、女性型を男性型に変える。小さい頃の胎児はみんな女の性器の形をしている。超音波では、女の性器は下を向いていて、男は妊娠10週頃大きさは変わらないがチョンと真正面を向く。Xの中にはものすごい数の遺伝子が入っているが、女性はそれを2つもっている。片方のどこかが壊れても反対側が働く。男は1つしかないので早く死ぬ。
 性染色体の遺伝子の異常で起こる筋ジストロフィーは男の子にしか起こらない。女の子はX染色体が2つあるから片方がやられていても、もう一方が補填するので発症はしないけど、キャリアにはなる。ところが男の子はXが1つしかないので補填できず発症する。
 形態的な男と女は目で見れば分かる。機能的には染色体を調べる。性染色体が、XXなら女、XYなら男。実際にはXXの男の人がいたり、XYの女の人もいる。

6.なぜゼロ歳で生まれるのか
 お父さんの細胞が40歳で、お母さんの細胞が30歳だったら、子供が生まれた時、どうして40歳や30歳ではないのか。
 原始的な原生動物は、一つの細胞でできていて、死ねない。無限に分裂する。
 人は分裂に限界がある。だいたい50回くらい分裂すると細胞は死ぬ。だから人は死ぬ。人は体の中にいつまでも死なない物をもっている。それが生殖細胞。生殖細胞は、ゼロ歳から始めるために寿命をリセットする仕組みを持っている。

7.母はなぜ胎児を拒絶しないか
 羊膜が特殊な場所、免疫が非常にゆるい。
 羊膜は免疫を抑制する機能がある。胎児自身はお母さんにとって半異物だけど、包んでいる羊膜は受け入れられている。だから拒絶されない。
 胎児は3つの膜で覆われている。胎児のすぐ外に羊膜、その外側に絨毛膜。この2つは胎児側からできる。その外側にお母さんからできる脱落膜がある。
 羊膜の内側は、完全な密室だから細菌が全く入らない。羊膜を破ることは、外の世界と繋がるので産ませるという意味。

8.高齢出産のこと
 卵子は新しくつくられない。お腹にいる頃は、200~400万個ぐらいあるけれど、思春期には20~30万個ほどに減っている。ひと月に千個ずつ減る。それで閉経が来る。男は次々と新しくつくるので、古くならない。
 女性の老化は染色体不分離をおこりやすくする。例えば21番染色体が均等に二つに分かれないと、染色体が3本組(トリソミー)となり、ダウン症となる。染色体異常が増えていくカーブを見ると、ダウン症の子を出生する可能性が100分の1になるのが39か40歳。
 1番から10番までのトリソミーはない。生まれもしないし、流産もしない、消える。一番生き残りやすいのが21番トリソミー、次が18番、その次が13番。

9.出生前診断
 NIPTは、母体血を用いた胎児の染色体検査。妊娠10週からできる。検査の対象は、18トリソミー、13トリソミー、21トリソミー、の3つの染色体異常疾患に限る。
 NIPTは確定検査ではないので、陽性が出た時は必ず羊水検査で確認する。陽性で羊水検査をしないことは、胎児に対する冒涜。NIPTと羊水検査はセット。陰性と出ても、1000分の1の確率でダウン症の子が生まれる。
 NIPTは産婦人科医、それも遺伝カウンセリングや羊水検査の可能な施設で行われることが望ましい。倫理は医療の一番難しい部分。遺伝カウンセリングを徹底して整備する必要がある。医療者側が提示することは勧めてることだと思う。選択肢ではない、やったらどうですかと言っているのと同じ。
 あなた方の場合は半分以上の確率でお子さんはダウン症。でも100%ではないので羊水検査で確認しないといけない。確認してダウン症だったらどうするかを考えなくてはいけない。本人が考えたことならそれは正しい選択。陽性が出た女性の9割以上が中絶する。

10.胎児は、現代に新しく登場した患者
 日本では今でも胎児は人ではない。民法第3条に「私権の享有は出生に始まる」とある通り、人は出生に始まる。診療の対象でもないし、保険診療でもない
 子宮に入ったまま胎児の手術ができるようになった。双子の胎盤で血管が綱がつているケース。少し圧が違うと1人が多血症で、1人が縮んで貧血になったりする。繋がった血管をレーザーを入れて焼くとそれぞれの循環が別々になって、血流が行き来しなくなる。これは極めて有効で、全世界でやっている。双子のレーザー治療が保険を通ったのは、お母さんの治療として。

11.お父さんとお母さんはDNAでつながっている
 1997年のデニス・ロー博士の研究。母親の血液中に胎児のDNAが見つけた。胎児のDNAがお母さんに入っているということは、胎児のDNAの半分はお父さんのものだから、お父さんのDNAが胎児を介してお母さんに入っている。子どもができることによって、お父さんのDNAがお母さんの体の中をグルグル回っている。妻の方が夫に似てくる。
 アートレットが強皮症妊婦の発疹の細胞にY染色体があったことを1998年にニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに載せた。男の子を妊娠した女性にはY染色体由来のDNAがある。精子のY染色体が女性に入るということ。発疹のない部分にはY染色体はなかった。強皮症はある種の膠原病で、発疹をつくる。男女比は1対9で圧倒的に女性に多い。

12.胎児に母体のDNAがはいる
 お母さんがエイズになると胎児も一定の確率で先天的にエイズになる。普通にお産すると20~40%ぐらいだか、陣痛が来る前に帝王切開で生まれると2%までガタンと減る。お産で子宮がぐーっと収縮する時に母体のウイルスを胎児に押し込んでいる。
 【長崎県は母乳を遮断してがんを防いだ】
 長崎は、母乳と関係が深いとされるHTLV-1ウイルスのキャリアが全国でも多い地域だった。HTLV-1ウイルスが引き起こす成人T細胞白血病は非常に予後が悪い。成人T細胞白血病は母乳が感染源と分かったので、自分の代で終わらせようと母乳を止めた。1987年から30年間、30万人以上の妊婦さんに検査を行い、このウイルスをもつお母さんの母乳を遮断する仕事をした。30年前は長崎にキャリアの妊婦さんが7%いたが、それを0.8%まで減らした。20%の感染率を2%まで減らした。代々キャリアで患者が出る家系の人たちは協力的に遮断できた。ウイルス感染だから遺伝ではない。妊娠中に移行するものが残った。

13.胎児はなぜ頭が下にあるのか
 最初は、頭が下とお尻が下とが半々。36週ぐらいになると、逆子は10%、生まれる40週になると5%。
 子宮は洋ナシの形をしていて、その下の狭いほうに頭がはまる。逆子になるのは、頭のはまるところが胎盤にもう一つできる。一番多いのは、胎盤が子宮の上部ではなく子宮口近くにできる前置胎盤の場合。お尻が子宮口の方の穴にはまっている逆子は、ポーンと足で蹴って外れ、そのうち頭がコトンと穴にはまって頭が下になる。胎児は手を横方向にしか動かせないし、足は下を蹴るしかできない。
 ヨーロッパ人はズーッと、ダ・ヴィンチの解剖図(死んでいる胎児)みたいに座っていると思っていた。赤ちゃんが頭が下になっているのを見つけたのは日本人。江戸時代のお医者さん、賀川玄悦(1700~77)。

14.出産予定日
 超音波が登場して、予定日の問題が完璧にクリアできるようになった。赤ちゃんの大きさは妊娠20週ぐらいまでほとんど個体差がない。赤ちゃんを測って30ミリだったら、必ず10週ゼロ日。だからこの日から予定日を計算したら完璧。予定日はプラスマイナス2日。

15.赤ちゃんを左側に抱く理由
 子宮の中はめちゃくちゃやかましい。お母さんの心臓は子宮に接しているから、ドッコンドッコンドッコンとずーっといっている。ノイローゼになる。胎児はおそらくマスクされて聞こえなくなっている。生まれてから赤ちゃんをお母さんの心臓の方にもっていくと泣きやむ理由はこれだと思う。

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