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精神科医はどのように話を聴くのか

2019年01月29日(火)


精神科医はどのように話を聴くのか著者 藤本修
2010年12月10日発行
平凡社
1400円
精神科医の聴き方の特徴とは
 傾聴するという事が大切。目的は3つ。1つ目は、患者さんの心に起こっている変化をできるだけしっかりと把握し、患者さんの評価を行う。2つ目は、傾聴することが今後の治療に繋がる。患者さんが感じることにより、治療へと広げていく。3つ目は、傾聴の内容は診療という枠組みを離れないものに限るということを明らかにすること。
 語られている内容について、同意できなくても不安な状態に陥っているのは理解できる、適切な共感を示していくことが大切。
1.精神科医はなぜ患者さんの話を聴くのか
 精神科医にとって、診断を下し、治療方針を定めるためには、情報を伝えることよりも、情報を集めることが大切。
 精神疾患の診断には症状や病態を評価する国際基準はあるが、基準は数値による客観化できるものではない。従って基準を満たすか否かは診断者の主観に任されるところが大きく、個人差がある。評価の仕方によって、基準に幅が生じる。
2.話を聴くことが最も治療に結びつくのは精神療法
 患者さんの病気の特徴をよく捉えた上で、薬物療法、精神療法、ケースワークを組み合わせながら治療する。ケースワークとは、患者さんの生活環境の調整や周囲の人が病気を正しく理解し対応するように働きかけること。
 フロイトは、ヒステリーなどの神経症は幼児期に源泉を持つ抑圧された無意識と自我の葛藤が原因であるとした。自由連想法によって無意識的葛藤を探り出し、患者さん自身がそれを認識することが治療に有効であると考えた。
 精神科医・森田正馬は、「とらわれ」を捨てて、「あるがまま」を受け入れれば症状は改善すると考えた。
 心理療法(カウンセリング)には、行動療法的な治療と精神分析的な治療がある。前者は、行動理論と学習理論に立脚しており、比較的明確な手法と到達点を持ち、患者さんの行動を変えていくために指示的・教育的なやりとりを行う。後者は、患者さんから聴取しできたものを基盤にしてこころの内奥を探索していくもので、そのやりとりには積極的な指示や教育は含まれない。実際の精神科診療では、いわゆる折衷的な心理療法を行うのが一般的。
3.話を聴くことが治療に役立たない場合もある
 統合失調症、躁うつ病の場合は、脳内の機能障害を改善する作用を持つ薬剤を投与することが第一の治療法になる。
 統合失調症により幻聴や妄想、精神運動興奮などの症状が活発に認められる患者さんに対して話を聴くのみでは症状を改善させることはできない。薬物の投与を優先させなければならない。病識を持つことができず、服薬を拒否する患者さんの言いなりになっていては、症状が改善しないばかりか、病的な症状によっては事件や事故が発生する可能性がある。このような場合は、話を聴くことよりも、無理にでも服薬させなければならない。
 精神医学の進歩
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4.精神科医はインフォームド・コンセントをどのように行うのか
 医療の主体は患者さん本人であるという認識が確立した。法的にも、1997年の医療法改定で、医療者は適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得られるように努力しなければならない、と明記された。
 精神科の場合、患者さんが説明を聞いて、それを理解し、同意することができない場合もある。精神保健及び精神障害者福祉法では、患者さんの同意を得ることができなくても精神保健指定医の要入院という診療結果と患者に最も近しい関係にある家族の同意で、入院させることができることが定められている。
5.患者さん中心の面接を第一にすべき
 患者さんが認識していない心の変調を、周囲の人が気づいているということはよくある。しかし、家族や職場の訴えよりも、患者さんが周囲の懸念に対し、どのように感じ、思っているのかということの聞き取りから始めるべき。話を聴くのは一対一が原則。
 長時間の面接では、だんだんと心理的な距離が近くなり、逸脱した医師ー患者関係に陥ってしまう危険性を持っている。また、緊急の場合を除き、患者さんがいつでも自由に相談できるようにはしていない。患者さんのこころの成長を促すよい関係、医師ー患者という枠組みを守っていくことが大切。
6.何度も話を聴くことで患者さんは回復するのか
 話すことで患者さん自身が苦しい状況から解放されていると感じることがある。医師が受け止めてくれていると実感することは、孤立化から逃れるうえで大きな意味がある。また、話し聴くというやりとりの中で、患者さんが病気を含めた自己認識を持つことができるようになるという意義もある。
7.年齢については配慮すべき
 思春期・青年期までは人格形成の発達途上にある故、心理療法と共に形成されるていく部分が残されている。積み残されたこころの発達の部分を積極的に補っていくような働きかけを心理療法の中に組み込むことも可能。
 例えば、16歳の女子高生が不登校になった場合と商社に勤める40歳代の男性課長が出社できなくなった場合を比べてみると、どちらも同じ症状を示し、適応障害と診断できるが、この二人に対する心理療法の内容は異なる。
 前者の心理療法では、この“積み残し”を回復し、他者との交流が上手くできるようになることを第一の目標にしなければならない。後者では、今の自分を客観化し、ストレスへの対応法を考えてみる等の認知の仕方の修正を試みることが望まれる。
8.憂うつそうにしている患者さんの話をどう聴くか
 気分が落ち込み、憂うつそうにしている人や、元気が無く小声でしか話せないような状態にある人に対して、積極的に話をさせようとすることは厳禁。先ずは病的な状態であることを伝え、一緒に治していこうと伝えるべき。じっくりと休養させることが第一。
 うつ病の患者さんに対して行う心理療法は、①うつ病という病気の状態に今あることを、自ら認めること、②病気であるからしかるべき治療を施すことで改善するということ、③うつ病の状態にあるのだから、重要なことの決断はしばらく保留すること、④休養し、よく寝ることが大切な治療法であること、⑤経過についてはしばらくは一進一退を繰り返すこともあるが、概ね2ヶ月程度で改善が期待できること、などの説明を行う。
 この説明は家族にも一緒に聴いてもらう。うつ病のことを患者、家族そして精神科医が共有することになる。特に、家族に対しては、患者さんがゆっくり休養できるように配慮を行い、無理に励ましたり、運動や規則正しい生活を求めないように注意することが必要。

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