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認知症 専門医が教える最新事情

2018年01月02日(火)


認知症伊東大介著
 慶應義塾大学医学部 神経内科・メモリークリニック専任講師
講談社
2011年11月20日発行
定価 840円+税
 参考に
 認知症と歯科疾患
kojima-dental-office.net/20171211-4060

1.認知症
 認知症は年齢とともに増加する。わが国では、75~79歳では10人にひとり、80~84歳では4人にひとり、85歳以上ともなると半分以上が認知症。記憶力や判断力などの知的能力が何らかの原因で低下し、次第に悪化して仕事や社会生活に支障をきたした状態。認知症の中で最も多いのがアルツハイマー病で、ほぼ6割。次に多いが脳血管性認知症、2割を占める。3番目がレビー小体型認知症で、この3種類で8割半ば近くになり、これらを3大認知症と呼んでいる。
 認知症の診断は、ある程度の期間、観察してからでないと診断できないものがある。
 【診察で分かる重要な症状のサイン】
 ・「振り向き徴候」近くにいる家族に振り向いて、さりげなく助けてもらう行為
 ・記憶障害や答えが出てこない場合、言い訳をしたり人のせいにして、話をはぐらかしたりする「取り繕い」が見られる。
 ・症状が、いつ頃から目立つようになり、以前より程度が激しくなっているか
 認知症の症状
  ・中核となる症状 記憶障害、見当式障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下
  ・周辺症状    うつ、不安、焦燥、徘徊、興奮、暴力、不潔行為
 もの忘れを劇的によくすることはできない。しかし、周辺症状は周囲の対応次第では改善することもある。
 【もの忘れ】
 人や物の名前がとっさに思い出せなかったが、後で思い出したり、ヒントで思い出すような場合は年齢による心配いらないもの忘れ。
 危ないもの忘れは、メニューだけでなく夕食を食べたことさえ忘れる、電車に乗ってきたこと自体を忘れたり、目的地そのものを忘れて迷子になる、すっかり丸ごと旅行の記憶が抜けてしまって、ヒントや答えを言ってもぽかんとしている、テレビで有名人の顔が出てきても、名前はおろか俳優なのかスポーツ選手なのか政治家なのか思い出せないなどなど。
 5分~数日以内の記憶ができなくなる、海馬の萎縮と関係している。それに対して、昔の出来事や子ども時代の思いでは比較的よく覚えている。コップを記憶が蓄えられる入れ物とすると、認知症が進むにつれ、コップの背丈は徐々に低くなっていく。新しい記憶からこぼれ、底にある古い記憶は最後まで残る。
 【もの忘れはなぜ起こる】
 もの忘れは、記憶を司る脳の海馬の働きの低下や萎縮、神経細胞のネットワークの働きが弱まる、アセチルコリンが減少するなど、様々なレベルで働きが鈍くなっている状態。
 海馬は新しい記憶を保管するファイルのような働きをする。脳は神経細胞のネットワークで動いている。ネットワークに情報を送るのは、脳内で分泌されるアセチルコリンが担っている。
①アルツハイマー病
 普通は65歳以上で発症、女性のほうが1.5倍多い。遺伝的になりやすい人もいる。特定の遺伝子(アポE4型)は、日本人の約15%が持っている。
 アルツハイマー病は、「脳にゴミがたまる」「海馬が萎縮」、そして「神経伝達物質アセチルコリンが減る」、ゆっくり進行していく病気。平均して5~10年で支援や介護が必要になる。アルツハイマー病だけでは麻痺や感覚障害は起きない。
 脳の中に2種類のタンパク質(ベータ-アミロイドとタフ)がたまっているのが特徴。ベータ-アミロイドは起きている時に溜まり、睡眠中に排泄される。つまり、睡眠不足になると、脳のゴミが溜まりやすくなる。最初にベータ-アミロイドが溜まり、脳に塊になった物を老人班という。老人斑ができると、タフが神経細胞の中に溜まり始め、塊になると神経細胞が死んでしまう。脳の神経細胞が死滅していくと、次第に記憶力が衰えていく。
 外科手術で脳の一部を採取し、顕微鏡で確認しなければならない。つまり、生前にアルツハイマー病の確定診断ができることはまずない。CTやMRIによる検査で、記憶を司る海馬や頭頂葉の萎縮の程度は分かるが、ゴミの蓄積は分からない。

 【若年性アルツハイマー病】
 30~40代でも発症し、男性が多い。一部は遺伝が大きく影響する。遺伝子によるものは10%以下。3つの遺伝子が関わっている。
 近い症状がでるため、うつ病に間違えられている場合が多い。

②脳血管性認知症
 初めて脳卒中になった人のうち、認知症を発症する人は10人にひとり。脳卒中が再発すると、3人にひとり。脳卒中を発症してから5年後には、3人にひとりが認知症になる。脳卒中の積み重ねで悪化するためガクンガクンと症状が階段状に進行することが特徴。
 脳卒中の再発予防が最も大切。高血圧や脳卒中、脂質異常症、糖尿病を治療し、禁煙などの血管へのリスクを減らす。

③レビー小体型認知症
  レビー小体というタンパク質(アルファ-シヌクレイ)の塊が大脳の神経細胞の中に溜まる。アルツハイマー病より高齢になってから発症する傾向がある。嗅覚の低下が認知症やパーキンソン病様症状に先行する。
 最大の特徴は繰り返し現れる幻視。人物や虫などが見えることが多く、夕方などの薄暗くなる時間帯多く出現する。幻聴はなく、音や声は聞こえない。 
 2つ目が、パーキンソン病様症状。手足の震えやこわばり、動作が緩慢になる、歩幅が小刻みになり前のめりに歩く、身体のバランスが取りづらく転倒しやすい。
 3つ目は、睡眠時の異常行動。

④前頭側頭型認知症
 前頭葉が主に痩せていく病気。理性で自分をコントロールできなくなる。もの忘れはあまり目立たないが、自分勝手な行動や反社会的行為、万引きや窃盗などを起こし、刑事事件となることもある。

2.正常→プレクリニカル認知症→軽度認知障害→認知症
 プレクリニカル認知症から認知症へ約20年かけて進行する
 ①プレクリニカル認知症
 軽度認知障害になる前の状態、脳の小さな異変(ゴミの蓄積)が起こり始めた段階。脳細胞にダメージはまだない。診断にはゴミを検出する特殊な検査(アミロイドPET)が必要。大学病院など一部の医療機関でしかできない。認知症予防は、プレクリニカル認知症になることを防ぐこと。

 ②軽度認知障害
 65歳以上の7~8人にひとり、400万人以上。軽度認知障害の人に、アミロイドPETを行うと、3人にふたりは脳のゴミ(ベータ-アミロイドというタンパク質)が溜まっている。
 現在の医学では、軽度認知障害になってしまうと治療で進行を止めることは難しい。軽度認知障害になったら、認知症に進む人は、1年で10%程度、5年以内で半分となる。アルツハイマー病の治療薬(アリセプトなど)を早めに内服しても、認知症に進むのを食い止める効果はない。認知症への効果が確立したサプリメントもない。ベータ-アミロイドを取り除く薬は開発中。

3.認知症と間違えられる病気
 うつ病とてんかん
 うつ病は短期間に症状が変動する。認知機能の低下よりも食欲不振や不眠が高率に見られる。気分の落ち込みは日によって変動があり、認知症様症状も波があるのが特徴。うつ病では自分を責めることが多いが、アルツハイマー病では他人を責めたり、疑い深くなることが多い。うつ病の人は、自分ができないことを協調するのが特徴だが、アルツハイマー病では、言い訳をするなど自分は正常であるかのように取り繕う。
 抗うつ剤を服用して、うつ状態がよくなっていくとともに記憶障害も改善していく。しかし、アルツハイマー病では、記憶障害は元に戻ることなく次第に進行する。
 仕事を辞めて、ガタッと認知機能が悪くなったように見える人は、ほとんどの場合うつ傾向になっていることが原因。退職後に長期間続けられる趣味を見つけることや、適度の運動をお勧めする。パソコン操作は認知症予防に有効。

4.認知症の治療
 アルツハイマー病やレビー小体型認知症は、今のところ完全に治す治療法はない。
アリセプトなどは、認知症を治すためでなく、症状を改善する薬。アセチルコリンが分解して減るのを阻害し、意欲を上げる。介護時間を減らし、入居を遅らせ、自立して生活できる日々を延ばす。
 近い将来、認知症も治る病気になるかも知れない。50~60歳になったらベータ-アミロイドPETを用いて、プレクリニカル認知症かどうかを調べる。もしそうなら、開発中のベータ-アミロイドを取り除く治療を行い、発症を予防する。ごく初期のアルツハイマー病や軽度認知障害であれば、新しい抗体薬(アデュカヌマブ)が期待されている。タウPETが開発されれば、アルツハイマー病の診断精度は格段に向上する。

【認知症の初期症状チェックリスト】
1同じことを何度も言ったり、聞いたりする
2慣れているところで道に迷った
3財布が盗まれたと言って騒ぐ
4以前よりだらしなくなった
5夜中に急に起き出して騒いだ
6置き忘れやしまい忘れが目立った
7計算間違いが多くなった
8物の名前が出なくなった
9ささいなことで怒りっぽくなった
10時間や日付が不確かになった
11水道の蛇口やガス線の閉め忘れが目立つ
12日課をしなくなった
13以前あった関心や興味が失われた
14以前よりも疑い深くなった
15薬の管理ができなくなった
16テレビやドラマの内容が理解できない

【次の状態になったら認知症のひとり暮らしは限界】
1十分な食事ができていない
2家の中や衣服が不衛生になってきた
3火の不始末
4近所とのトラブル
5お金の管理ができない
6迷子になったり、徘徊が起きてきた

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