「話し方」の心理学
2008年10月16日(木)
必ず相手を聞く気にさせるテクニック
ジェシー・S・ニーレンバーク著
小川敏子【訳】
日本経済新聞社
2005年10月20日発行
定価1500円+税
全米で40年にわたり語り継がれてきたビジネス&コミュニケーションの古典的名著。どんな場面でも、対話の基本は変わらない。大切なのは相手に「考えてもらう」こと。医師・看護師と患者さんなど多様な会話例が紹介されている。例えば、手術のことが心配だと相手がうち明けたとする。それに対し、簡単な手術だから心配いらない、などとあっさり言わない。それよりも、手術を受けようとした経緯を話してもらう。説明することで相手は不安を吐き出すことができる。充分話を聞いてから、その手術に関する情報を提供すれば、少しでも安心させることができるだろう。患者さんへのアドバイスに、スタッフとの意志疎通に、家族との会話にぜひ活用していただきたい一冊である。
1.人の考えを引き出す
会話をスムーズに始めるには具体的な質問から始めるのがベストだ。いったん相手を会話に巻き込んだら、抽象的な質問へと移る。抽象的な質問をされると、思考を組み立てなくてはならないので、能動的に考える必要がある。質問が抽象的であればあるほど、自然と相手がしゃべる割合が多くなる。相手から返事が返ってきたら、キーワードを復唱し、返答にコメントし、再び具体的な質問をする。相手がさらに情報を提供してくれることを期待する。
2.事実と経験
本当は自分の経験なのにあたかも客観的な事実であるかのように語る傾向がある。わたしたちは見たものを記憶する際に、少々肉付けすることがある。ところがこうして補足したものと事実との境目が曖昧になり、まるですべてが事実であるかのように錯覚してしまう。また、人の話を聞くとき、わたしたちは言葉が伝えることを事実だとみなす。実際にあったこととして扱い、個人が経験したことと受け取らない。事実と経験を見誤るのである。
3.言葉は頭の中のイメージの一部だけ伝える
ある人物が頭の中であるイメージを思い浮かべる。そのイメージのひとつの側面を言葉にして伝える。聞き手はその説明をもとに自分なりのイメージを描く。このとき両者の頭にあるイメージがピッタリと重なるはずがない。なぜなら聞き手が受け取っているのは話し手のイメージのごく一部に過ぎないからだ。残りの部分は自分の願望、関心、これまでの経験で補っている。これでは似ても似つかないイメージになるのは当然である。したがって、会話の途中で互いが抱いているイメージを比較する。フィードバックするときには、相手が使った言葉をそのまま使ってはならない。
4.人の感情にどう向き合うか
人が反発を示すときには理屈に合わない動機が紛れ込んでいることが珍しくない。なぜ反発するのかを深く話し合ううちに、理屈に合わない動機、つまり本題とは無関係の動機は次第に弱まってゆく。逆に本来の理由は決してパワーを失わない。
感情を言葉にして表に出してしまえば、明るい光のなかで原因を実物大のまま捕らえることができる。感情を言葉で語れば緊張が和らぐ。そしておおもとの原因に冷静に対処できる。相手の感情が高ぶっているときには、とりあえずそれを受容して相手を楽にしてやる。聞き役に徹する。相手の言い分に同意することとは違う。
5.力づける
心配事がある、落ち込んでいるなどと相手が口にした途端、力づけるのは、あまり効果がない。力づける前に、相手の感情を引き出す。もう少しそのことについて聞かせて欲しいと頼む。それで感情を吐き出すことができれば、相手は気持ちが楽になる。力づけるのはその時だ。話すことで相手は自分の感情をより客観的な視点から捕らえることができるはずだ。自分の外側に出してしまえば、別のアングルから眺めることができる。それを手伝えばよい。
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