なぜ、この人と話をすると楽になるのか
2016年01月18日(月)
ニッポン放送アナウンサー 吉田尚記著
太田出版
2015年2月6日発行
定価1111円+税
本書は、8回にわたりニコニコ生放送でコミュ障のアナウンサー吉田尚記が話した内容を構成したもの。20年かけて編み出した実践的な会話の技術を惜しみなく披露。相手を楽にさせる会話力!話すことが苦手な全ての人を救済する、コミュニケーションの極意!!
コミュ障がアナウンサーになった三つのステップ
①自己顕示欲がなくなったこと
②コミュニケーションは「ゲーム」なんだと気づいたこと
③コミュニケーションの盤面解説ができるようになったこと
会話の基本は、徹頭徹尾、人のため。楽しく、心地よく、気まずさなんてどこ吹く風でうんうんって話を聞いてくれる人。自分のことに興味を持っていろいろと訊いてくれる人。驚いたり笑ったり、話が転がってタイクツしない人。
意味のない会話と意味のある会話、両方のハイブリッドこそが、現代の社会生活に絶えず要求されるコミュニケーション・スキル。
1.コミュニケーション障害
アンケートによると、ほぼ94%の人がコミュニケーションがうまくないと思っている。
「障害」とは、本来普通できて当たり前のことができない事柄についてのみ、使われる言葉。訓練しなければできない行為には「障害」とは言わない。「コミュニケーション障害」という言葉が存在するのは、世間がコミュニケーションは簡単なもので、普通にできて当然と思っている。しかし、医学的な意味合い以外でコミュニケーション障害という言葉を使うことは、そもそもおかしいと思う。
『コミュ障』とは、日本の国民病のひとつで、他人との他愛もない雑談が非常に苦痛、あるいはとても苦手な人のこと。必要以上に空気を読み、自分の発言がその場を悪くするのではないかと不安に思ってしまう。その結果として人に嫌われるのではないかと考え言葉に詰まる。
コミュニケーションに悩みを抱えずに生きてこられた人は、コミュ障に共感することは難しい。でも、コミュ障を克服した人は、いつまでも共感することができる。最終的により優れたコミュニケーターになれるのは、まず人見知りでうまくしゃべることができない人だと思う。コミュ障であることは、むしろ最高のコミュニケーターになれる可能性を持っている。
克服方法は、自分がいかにしゃべれるようになるかではない。相手が話していて楽になれる人になる。そうしているうちに自分もしゃべれるようになる。
2.コミュニケーションとは何だろう
コミュニケーションは、情報の伝達よりも先に、話をしていて楽になる、心地よくなることの方がずっと重要だと思う。失敗していい。失敗しているうちに時々成功して、その気持ちよさを積み上げていく。
人類学者ロビン・ダンバーによると、毛繕いの時間が長い霊長類ほど、大きな群れを作る。毛繕いをしている間は脳内に麻薬物質が生成されて、単純に気持ちがいい。しかもそれが大脳皮質の厚さとも比例している。
ダンバーは、気持ちいい毛繕いの代わりとして、ヒトはおそらくコミュニケーションを発明したと、その後でヒトは「これは情報を伝えることにも使えないか?」と考えた。すなわち、情報のやりとりよりもコミュニケーション自体の成立のほうが実は先だった。
サルの毛繕いは1対1でしかできない。人間の会話は複数で同時にできる。
3.日本で一番有名な質問は、タモリさんの「髪切った?」
なぜ神の一手か。
①前回と今回の変化を指摘する
変化を指摘するのはとても大切な定石。
②他愛がない
さほど重要でないとみんなが思っていることは、相手にとって応えるリスクが少ない。
③返答のリカバリーができる
気まずさを回避し続ける。
④自分に感心があるということが分かる
相手に興味があることのささやかな表明。
⑤髪を切ったことを忘れない
髪を切ったかどうか憶えていない人はまずいない。
4.コミュニケーションにおける基本技術
目を合わせることについてタモリさんが面白いことを言っている。人の目を見る時は、自分がしゃべる番。話を聞いている時に目を見ると相手が話しづらくなってしまうので、鼻を見る。鼻を見ていると相手はしゃべりやすくて、しかもきちんと注意が向いているなって感じる。
コミュニケーションが上手くいく基本はたったひとつ。人にしゃべらせる。その方法を考えた時に、先入観は持っていた方がいい。もっと言えば、先入観はむしろ間違ってるほうがいいかもしれない。人は間違った情報を訂正する時に一番しゃべる生き物。はじめからその人を正しく理解しようとしなくていい。
自分が優位に立とうとしない、相手のフィールドに立つ。
①ホメる
②驚く
③おもしろがる
話は転がり始めるまでが勝負。転がり始めるまで手塩にかけて育てないと、コミュニケーションは上手くいかない。気を遣うべきポイントは、相手のタブーに触れない、プライベートに踏み込まない。「宗教」「政治」「スポーツ」の話は深く入り込んでしまうと、対立を生みやすい。
5.会話における「トラップ・パス・ドリブル」
受けがトラップ、質問がパス、答えや感想といった自分の話がドリブル。
会話が弾むというのは、相手の答えやすい質問をどれだけ繰り出せるかに懸かっている。まず、相手の言っていることを受け止めること。トラップの基本技術は、話を全部聞く、感想を持つ、この二つだけ。大切なのは「相手が興味あることを訊く」。
最高の受け答えとは、ダイレクトパス。「えっ?」の一言の後に増幅された感想が乗った質問、感想そのものが質問になっているダイレクトパス。相手にいいパスを送ることができれば、コミュニケーションの問題はほとんど解消する。人はだいたい教えるのが好きなので、驚きを持って話を受け止めていれば、そのトラップを相手は自然にパスに感じてくれてどんどんドリブルをしてくれるはず。
無知だから驚けるわけではない。深い知識があるから驚ける。素直であることと無知であることはイコールではない
6.「伝える」と「伝わる」は全く違う
伝えるというのは、なるべく伝わるよう演出することにすぎない。伝えるというのは、何もしなくても自動的に伝わってしまうことを、より正確に伝えようとする意思の表れ。コミュニケーションを通じて最終的に何が伝わるかは、こちら側の意図とはほぼ無関係。
ゲームに参加する時には基本、何かを伝えようと思ってプレーしないほうがいい。ウソっぽくなるから。必死にやって始めて、伝わる何かがある。伝えようとして伝わるものではない。
7.会話においてやってはいけないこと
倫理ではなく、あくまでもコミュニケーションの技術として
①ウソの禁止
増幅は可、捏造は不可。ウソがばれた瞬間にゲーム終了。事実であればディテールの拡大縮小ができるけど、ウソだとそれができない。
②自慢は御法度
自慢があるとその人の解釈が固定されてしまい、パスコースが非常に狭まり、フィールド全体も貧困になっていく。
③相手の言うことを否定しない
相手の言っていることに異議が生じた時は、否定するのではなくて黙秘する、勢い黙秘権を行使できなかったら申し訳なさそうに答える。「それとは別にこんな解釈もあると思うんだけど、どう?」という提案。
8.空気を読む
空気を読むとは、その場のムードに自分のテンションを合わせること。相手のテンションは変えられない。自分のテンションなら変えられる。相手のテンションを先入観で勝手に想像して、自分のテンションをそこに合わせる。
「空気を読め」と言われるのは、低いところに高く入ってしまう、もしくは高いところに低く入ってしまう、この二つだけ。その高さ低さに敏感になる。
ひとつの場にムードが二つ同時に存在することはない。
9.コミュニケーション・ゲームのルールの特徴
①敵味方に分かれた「対戦型ゲームではない」、参加者全員による「協力プレー」
コミュニケーション・ゲームは作業ではない。みんなが楽しむゲーム。相手が気持ちよくなれば、自分も気持ちよくなる。相手が楽なら自分も楽だという一蓮托生のゲーム。
②ゲームの敵は「気まずさ」
一人でも傷つけたら先に進めない。気まずさを回避するゲーム。協力プレーの仲間なんだと自分一人で勝手に解釈すればいい。全員が味方のプレーヤーなんだと思う。
③ゲームは「強制スタート」
④ゲームの「勝利条件」
ゲームに参加しているプレーヤー全員が元気になる、テンションが上がる。ポジティブな結果がゴール。「笑う-笑わせる」「尊敬する-尊敬される」「好く-好かれる」「喜ぶ-喜ばれる」「ビックリする-ビックリされる」「共感する-共感される」「教える-教えられる」
10.会話に困る場所
①エレベーター。話すことは特にない、でも話をしないと不自然。距離感が微妙。乗った瞬間にコミュニケーションのゴングが鳴る。つかの間のふっと笑えるような会話があったら、そこにいる全員が楽になるはず。エレベーターに「私語厳禁」って貼ってくれないかな。
②知らない人とコミュニケーション
ライターになるための専門学校のカリキュラムに見知らぬ人に電話をかける演習がある。今は誰でも携帯電話を持っているから、個人と個人で話するのが基本になっている。誰か知らない人に電話をして取り次いでもらう経験がなくてどうしていいか分からない。
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