福島の桃
2011年08月26日(金)
よくわからないから風評被害が生まれます。地元が自信を持てるようにするにはどうしたらよいのでしょうか。放射能と食べ物に関する疑問点を明確にすることが重要に思います。これらに対する回答を城北病院副院長の服部 真先生からいただきました。この安心基準を踏まえて、美味しい桃を自分は食べようと思います。放射線の健康影響
この画像は東京書籍㈱発行「平成27年度小学校社会科教科書6年上巻」に掲載予定
追記 2013.6.21.
平成25年3月の東京書籍社の編集会議にて「福島の桃」の画像を掲載決定したとの連絡を受けましたが、印刷直前の最後の編集都合により掲載できなくなったとの連絡が6月21日付で入りました。楽しみにしていたのに残念です。
服部先生からの回答
1.外気にさらされていますから、桃の表面に放射性物質が付着しています
袋掛けや温室であれば大丈夫か
表面をよく洗って食べれば良いのでしょうか
表面の汚染は大気中の放射性物質(土壌にたまっているものが舞い上がる+今も原発から継続して(断続的?)放出されている)が常時付着していますが、雨や散水、洗浄により落ちますので、主な問題ではありません。被災地では所により土壌中に他の有害物質(PCB、石綿、重金属、ダイオキシンなど)の濃度も高いですので、それらで汚染されている可能性もあります。もちろん洗って食べる、皮をむいて食べることをした方が良いでしょう。
2.桃の表面から放射性物質がしみこんでいくのでしょうか
分厚く皮をむけば安全なのでしょうか
現在の主な放射能源はセシウムです。化学的、生物学的に、セシウムはカリウムと同じように振る舞うとされていますので、カリウムが果物の表皮細胞表面から吸収される程度と同じです。現実には無視できるでしょう。水で落ちやすいセシウムだけならしっかり洗えばよいでしょうが、水で落ちにくい他の有害物のことを考えますと、皮は厚めにむいた方が良いでしょう。
3.土壌や、地下水から吸い上げて桃の蓄積するのでしょうか
桃のどの部分に一番多く集積するのでしょうか
根からの吸収が主な蓄積源です。土壌中のセシウムがカリウムと同じように根から吸収され、桃全体の細胞に行き渡ります。PCBやダイオキシンなどの脂溶性物質は脂質が多い細胞膜や種、杯芽などに集積しますが、セシウムはカリウム同様細胞内に集まります。脂肪が少ない細胞の細胞膜より細胞質の濃度が高いですので、果物では果実内に均一に分布していると考えられます。糖度の高いものと低いもので差があるかどうかは知りませんが、原理からするとあまり差がないように思います。
4.どの放射線核種に注目すればよいのでしょうか
セシウムです。既に、ヨウ素131は半減期からしてほとんど残っていませんし、他の放射性物質は濃度が低い上、不溶性のものが多く、果物には取り込まれにくいからです。
5.基準値以下の市場に出回っているものはどういう理解をすればよいのでしょうか
あれだけ広範囲の土壌が高濃度に汚染されましたので、残念ながら、福島と周辺(静岡以東)でとれた農産物はいくらかのセシウムを含んでいる確率は無視できないと思います。
現状のように、正確な情報が提供されない場合は、消費者は産地の汚染度から農産物の汚染危険を類推するしかありません。直接個別検査ができないのと同じ地域の農産物だけを食べるわけではないのでしょうから、ある程度の範囲の土地の平均汚染度から考えるのが妥当です。
大変残念ですが、福島産農産物については一定のリスク(多く見積もっても、1年間福島産のものばかり食べても、どのがんについても発がんリスクは1.2倍以上にはならないと推定されますが)の覚悟が必要です。
ただし、子どもや子作り可能な世代には、すべての有害性に対してALARA(現実的に可能な限り少なく)の原則に従い、避けられれば避けた方が賢明です。遺伝影響については、原爆被爆者2世、3世までには形に表れる遺伝性疾患の発症率に変化はありませんが、遺伝子レベルでは明らかな変化が多数確認されています。これを進化の原動力と考えるか、将来へのリスクと考えるかですが、僕は歓迎すべきものではないと考えます。内部被曝の場合は、ごく少数の被曝でも、少数の細胞に遺伝子レベルの変異を起こすことは既に勉強されたと思います。内部被曝では被曝の程度は遺伝子障害の程度の強弱ではなく、障害される細胞の数の多少にかかわります。がんにしろ、生殖にしろ最初は1個の細胞です。放射能にかかわらず、危険なくじは出来れば1個でも引くチャンスを減らしたいものです。
そのリスクを覚悟した上で、おいしくいただくというのが、子作りを終えた大人の賢明な対応ではないかと思います。わずかのリスクでおいしいものが手に入るなら、僕は購入したいと思います。
6.どんな検査が一番有用なのでしょうか
農産物については全数検査や個別農家毎の測定までは出来ませんので、一定の範囲毎に区画し、土壌の汚染度を測定するのが基本です。これをすれば除染対策にもつながります。土地の汚染度を参考に、出荷停止、全品目サンプル検査し測定結果表示して出荷、代表品目サンプル調査し測定結果により他品目の検査を決める、無検査出荷(自主的検査は可能)に放射能汚染グレードをつけるのが科学的な対応であると思います。
検査は、産地毎、品目毎に、可食部分を一定量集めて攪拌し、平均化したものを測定する方法が現実的です。これにより、測定値のばらつきを小さくすることが出来ます。大量に測定することが困難な場合にとられる方法です。
市場での商品価値は身体的健康影響だけで決まるものでないのは当然(糖度表示など)ですので、仮に健康に影響のないレベルでも、消費者が求める情報は提供する必要があります。従って、ある基準以下なら濃度を公表しないという対応は、却って不安から敬遠されるだけです。個別表示ではなく、産地毎の表示になるのはやむを得ません。
そんなことをすると風評被害を増やすという意見もあるでしょうが、国と東京電力の無策により既にそれだけの被害が起きてしまったのです。隠蔽するのはいけません。
参考に
緊急特集:放射線障害 福島原発事故では内部被曝が問題 2011年4月22日 服部 真
- カテゴリー
- 原発 いのち みらい