社会的健康格差を正す
2011年03月12日(土)
第37回定期総会 記念講演
講師 近藤克則氏(日本福祉大学 社会福祉学部教授)
mihama-w3.n-fukushi.ac.jp/ins/kkondo/index.html
日時 2011年3月12日(土)午後7時~9時
会場 金沢都ホテル
参加費 無料
主催 石川県保険医協会
参加申込み 電話(076-222-5373)またはFAX(076-231-5156)
定期総会 午後6時~7時
メモ
生物学的なものではなく、社会的要因による健康格差について5つテーマで話された
1.日本では格差が拡大している?
・生活保護受給世帯数がここ10年で約2倍に
・公費援助の子供が4年間で4割増
・非正規雇用が10年間で約2割から約3割へ
・就職を希望しない新卒者が約10%となり、
就職率(就職者/希望者)が実際にはもっと悪化している
・税・所得移転後の貧困率はワースト2位
2.健康に格差はあるか?
・閉じこもり高齢者の割合は、一人当たりの年収や教育年数とパラレルになっている
・「転倒歴あり」高齢者の割合は、一人当たりの年収と相関している
3.なぜ社会的な因子が身体内に?
・過去1年間に必要な受診を控えた高齢者の割合は、
一人当たりの年収150万以下が極端に多い
・受診抑制の理由として「費用」をあげた者の割合は
65から69歳の3割負担者に70歳以上の1割負担者よりかなり多い。
・うつ状態も所得とパラレルな相関している
・メタボリックシンドロームも職業性ストレス暴露回数と相関している
4.格差拡大社会がもたらすものは?
・40から50代の自殺者数と完全失業率と相関している
・ジニ係数(所得分配の差)が増大すると主観的健康観「よくない」者も増える
・ジニ係数が大きいほど死亡率が高い
5.健康格差社会をどうする?
・参加拠点を増やす町作り
500メートル離れるごとに1割の参加者が減る
・ソーシャルキャピタルづくり
ジニ係数が少ないほど信頼関係が築きやすく、ご近所の底力が発揮されやすい
・地縁・血縁から志の(目標となる)縁へ
・WHOヨーロッパ地域委員会は、1991年に健康格差を25%削減することを掲げ、貧困を無くし不平等を無くすことが行政の責務であるとした。
・2005年には、EUサミットが開かれ、健康の不平等の削減に向けての取り組みを強めることで合意した。
参考として
健康の社会的決定要因(2) 「歯科疾患」
東北大学大学院歯科研究科 相田 潤
・高学歴者が多い地域ほどう蝕が少なかった
・う蝕罹患経験者や、未処置のう蝕を持つ者は、大都市部で少なく、中都市、小都市と続き、規模の小さな町村で最も多かった
・歯肉炎や歯の汚れは、高校生において大都市部で少なく町村で多く見られた
・専門職、管理職、会社員は、サービス業、運転手に比べて口腔の状態が良好だった。
・高齢者の調査から、所得による残存歯数の格差や、自覚症状の格差も示されている
・「貧困な地域に住んでいたら、裕福な人でも健康状態が悪化する」可能性を示した
・健康格差は個人だけでない社会の問題なのである
案内文
今年の総会では、「健康格差社会-何が心と健康を蝕むのか」(医学書院、2005年)などの著者で、日本の社会的要因による健康格差研究の第一人者である近藤克則氏をお招きし、記念講演を企画します。
かつては、国民総中流で格差が少なく、世界一安全で長生きな国といわれた日本が、今では貧困率が15.7%(2007年)で先進30カ国中ワースト4位となりました。私たち外来でも貧困による病気の悪化を実感できる事例が増えています。
近藤氏には、1)健康を蝕む要因(健康決定因)の中で社会的要因の重要さと具体例、2)社会的要因が健康を蝕む仕組み、3)学術団体や行政での社会的健康格差是正に向けた動きなどについてお話しして頂く予定です。
貧困率
ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E7%8E%87
講演抄録
経済的に豊になった先進諸国でも、低所得など社会階層が低い者に疾患や不健康は多い。WHOは、その是正の必要性を指摘し「健康の社会的決定要因」の重要性とそれを考慮した政策を進めるよう総会で決議を上げて加盟諸国に勧告している。日本においてもわれわれの取り組むAGES(Aichi Geronsological Evaluation Study,愛知老年学的評価研究)プロジェクトによって、死亡率で3倍もの健康格差が見られることは判明してきた。社会的要因が健康を蝕む機序とはどのようなものであろうか。そして、海外では、どのような取り組みがなされているのだろうか。本公演では、社会疫学の知見を元に、いまや貧困率が高い国になってしまった日本での取り組みを考えたい。
昨年の記念講演 福田衣里子衆議院議員
kojima-dental-office.net/blog/20100227-3414#more-3414
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