JAZZはこの一曲から聴け!
2010年10月22日(金)
マイ・フェイバリット・アルバム100
寺島靖国著
講談社新書
880円
2000年9月20日発行
ジャズ喫茶の親父が選んだ100枚のアルバム。ジャズ好き、オーディオマニアが1曲へのこだわりを語る。新しい出会いが見つかるかも。
もっきりやのライブで耳を鍛え、自分を信じて、また新しい人を聴きに出かけよう。そして、リビングでは、その日の気持ちから選んだレコードに針を落とし、コーヒーを飲みながら、ジャズを楽しもう。早くアドリブのフレーズを口ずさみたい。
1.ジャズ入門
ジャズはライブなのだ。ジャズの原点は、ブルース・フィーリングである。ジャズ入門の近道はジャズのスタンダードを聴く。スタンダードは100年経っても古びない。オリジナル曲はその時代に生き生きと鳴り渡る。しかし、現在の感覚からすると古いのである。
2.ジャズの聴き方
ジャズというのは、聴き込まないとわかりにくい音楽である。だから自分の耳ができるまでに時間がかかる。いざ自分の耳ができても、今度は「普遍的」な耳を持つのが大変だ。ジーンが出せるか出せないか。これが優れたミュージシャンか否かの分かれ目である。有名でなくても心にヒットしたものが、すなわち「いい曲」だ。「いい曲」は口笛で吹ける曲。
ジャズの聴き方は、昔も今も『フレーズ探し』につきるようである。アドリブのフレーズが口をついて出るようになったら、ジャズ・ファンとして一人前の証拠である。
3.ジャズを現代から聴いてゆく
ジャズは過去へさかのぼる聴き方が正しいのではないかと最近思うようになった。今の時代の空気を基準にするから、その時代の空気を嗅ぎとることができる。
一般的にジャズ・ファンは未知の作品におっかなびっくりだ。一応レコード店で手には取るが、たいてい購買には至らない。少しでも紹介があれば勇気百倍、足取りも軽くレジに運ぶ。よさそうだなと思っても名前を知らないと買えない。これがジャズ・ファンの悲しいサガである。
4.ピアノ・トリオ
ピアノ・トリオの演奏で「気持ちが合う」のは大事だ。合った上で真剣な果たし合いが生じて初めて演奏に満足する。ジャズという音楽は仲良し、あるいは平和で超名作が生まれた試しはない。ジャズがハングリー、ミュージックといわれるゆえんである。
まずベースがちょっかいを出す。すかさずピアノがそれに応ずる。ドラムスが黙っていない。ピアノが切り込む。今度はベースがドラムスに歯向かってゆく。三つ巴である。混戦。イレギュラーのリズムが続き突如整然とした4ビートに入った時の快感、ジャズ・ファンのみが知るエクスタシー。
5.オーディオ
ジャズをずっと好きでいる方法をお伝えしよう。オーディオをやりなさい。昔の人はレコード盤を缶詰といった。古い録音は古い装置で、が鉄則。しかし昨今の新しいCDは、優れたオーディオ・システムで聴くと音が動くのである。音が動けばライブと一緒である。ミュージシャンが目の前にいないだけだ。スピーカー・ケーブルとかアンプに接続される電源ケーブルを少し高級品に変えると、シンバルが生々しく響き渡ってくる。
スピーカーからベースの音がころがり出ている。オーディオのチューニングは完璧である。リーダーのベースの音が一番大きく、かつ前面に出て当然。そのようにエンジニアが録音している。ベースがピアノとドラムスより早く聴こえる。それは凄い。それこそ演奏が最高にスイングしている証拠。そしてあなたのオーディオもスイングしている証左。実際は幻覚なのだ。三人のスピードはピッタリ一致している。
6.アルバム紹介
①レベッカ・トーンクウィスト&ペール・テキサス・ヨハンソン
『ザ・ストックホルム・カザ・セッション』
レベッカが歌い出す直前の一瞬のタメ。それがリアルに聴こえる。音が生々しい。ベースがレベッカの背中をしゃにむに押すものだから、のけぞるように歌う彼女。スイングのすさまじさにオーディオ・マニアが我が家でしりもちをついた。聴き終えたら、フゥとため息をついた。音楽と音の双方の生々しさを合わせ持つディスク。
②ドン・メンザ『ビレイン』
シンバルがジャーンとなってピアノが入り、同時にベースが低く下がり、これは何かが起きずには済まないな。そんな気持ちを誰にも抱かせる。そこへ入ってくるのだ。低い低いドン・メンザのテナーが。
テナー・サックスの魅力はサブ・トーンだ。下の方のズズズ・・・。唾液のしたたるような音。紙ヤスリの擦過音のように聴こえる。
③トミー・フラナガン・トリオ 『シー・チェンジズ』
トミー・フラナガンのピアノは、奇妙な具合に音がいい。右手が全部左手のように聴こえる瞬間もある。録音を担当したジム・アンダーソンは、極端なまでにヴァン・アンダーソン的にスピーカーの中央に音を集めている。ジャズの音は中央集権的に真ん中に。それが鉄則ということがよくわかる録音。
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