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のぼる君の歯科知識

宇宙飛行士選抜試験

2010年07月29日(木)


ドキュメント
大鐘良一・小原健右著
光文社文庫
800円
2010年6月20日発行
 優れた宇宙飛行士に求められる資質は、世界で戦うビジネスマンに求められる資質と同じ。グローバル化が急速に進む中で今、日本人は、どのような資質が求められているのか。
 数々の課題を候補者たちが乗り越えていくプロセスを見ていくと、必ず“就活”の大学生にとっても、ビジネスマンにとつても、活路を見出すヒントが隠されているはずである。
 想像を超える危機を乗り越える上で、最も大切なものは“折れない心”と、「失敗したことに関してはリーダーの責任で、逆に成功したことに関しては部下の手柄だ。」と決断する心だと思う。

1.宇宙飛行士の選抜試験
 2008年2月27日に、独立行政法人・日本宇宙航空研究開発機構JAXAが『国際宇宙ステーション長期滞在に対応可能な日本人宇宙飛行士を新規に募集・選抜する』と発表した。選抜試験に応募するために、先ず必要とされた条件は、「自然科学系の大学を卒業し、実務経験が3年以上あること」である。この条件を満たし、応募書類を送ってきたのは、合計963人。
 宇宙飛行士の選抜試験は日本の場合、試験は今回を含めここ25年間で5回しか行われておらず、日本人宇宙飛行士は通算で8人しかいない。前回の選抜試験から、既に10年の月日が流れていた。
 宇宙飛行士は、JAXAの職員で、今回の募集要項によると、「採用時本給 大卒30歳 約30万円 大卒35歳 約36万」とある。つまり、宇宙飛行士は、命を賭けるほどリスクが高い割には、給料は公務員とあまり変わらない。これはNASAでもそうで、世界的に見ても同じだという。
 日本の場合、選抜試験で採用した人間は全員、宇宙飛行士になり、宇宙飛行しなければならない。途中で辞めたり、医学的に不的確になったりすることは許されない。一方、アメリカの場合、宇宙飛行をする前に宇宙飛行士を“辞める”人間もいる。

2.宇宙飛行士選抜の流れ
 2008年6月に始まった。健康診断書などの書類選考と英語の筆記・ヒアリング試験で230人に絞られた。続く8月に230人を対象に1次選抜試験が行われた。心理・精神面の検査が重点的に行われた。また、数学・物理・科学・生物・地学の5科目を含め、一般教養や科学の専門知識の筆記試験も行われた。こうした試験を経て48人まで絞られた。10月、残った48人から、最終選抜試験に進む候補者の10人を選ぶ第2次選抜試験が、1週間を掛けて行われた。4日間掛けて人間ドックで定評のある医療機関等の協力を仰ぎ、身体のあらゆる機能を調べ尽くすとともに、心理学者や精神科医による検査が行われた。そして、JAXAの7人の「資質」審査委員たち(外部の有識者3人を含む)との面接試験が行われた。
選ばれた10人
パイロット  4人
医師     2人
科学者        1人
技術者    3人
 最終選抜に残った10人は、それぞれの分野で大きな職責を担い、将来を嘱望されていた。その彼らが今の仕事とキャリアを捨てて、宇宙飛行士になろうとしている。2009年1月11日朝、「筑波宇宙センター」に最終候補者10人が集まってきた。最終選抜試験は2週間の長丁場。前半の9日間は「筑波宇宙センター」で、後半の1週間はアメリカ・テキサス州にあるNASA=アメリカ航空宇宙局で行われる。
 10人の候補者は、試験を受ける中で、ありのままの自分で勝負しなければならないことに気づいていく。宇宙飛行士という仕事が“憧れ”だけではこなせない仕事であることが、徐々に明らかになっていく。

3.リーダーシップとフォロワーシップ
 リーダーシップは指導力、そして“フォロワーシップ”は、リーダーに従い、支援する力を指す。問題点をひとつひとつ把握して、解決策を導き出すのが、リーダーシップ。チームのためと判断し、強く進言するのが、フォローアップ
 極限のストレス環境下でも、チームの置かれている状況を的確に把握し、役割分担をしっかり認識して、臨機応変に行動ができることが宇宙飛行士にとって大切な資質なのだ。任務ごとに、リーダーは替わるからだ。つまりある時はリーダーだけれども、ある時はフォロワーにならなければならない。

4.人間力
 合否を分けたものは、天才的な頭脳や、常人離れした運動能力ではなかった。宇宙という、逃げ場のない特殊な環境にも耐えうる強い精神力。国籍を超えて、誰からも慕われ、信頼される“人としての魅力”。それぞれの人生を通して培ってきたいわば“人間力”が、最終的に試されたのだった。宇宙飛行士にとって何よりも重要なのは、仲間がその人間を信頼し、命を預けられるということなのだ。

5.宇宙飛行士候補者が誕生
 半年間にも及んだ試験の結果、2人の宇宙飛行士候補者が誕生した。2人に次ぐ得点の候補者2人を第1補欠、第2補欠とした。最初に「合格」の連絡が入ったのは、ANAの副操縦士、大西卓哉だった。次は、自衛隊パイロット、油井亀美也だった。そして、海上自衛隊の外科医・金井宣茂は第1補欠。半年後宇宙飛行士候補者に選ばれた。合格した油井と大西は、それぞれ航空自衛隊、ANAを退職し、4月1日付でJAXAの職員になった。先ず4ヶ月、筑波の訓練施設で宇宙の基礎知識やISSについて学び、英語の習熟や体力訓練を集中的に行った。そして8月からはNASAの訓練コースに入った。期間はおよそ2年。
 世界の18人がNASAの「2009年 宇宙飛行士クラス」になった。2年間にわたる訓練では、常にトップから最下位まで成績の順位が付けられ、宇宙飛行士としての資質が見極められていく。

NHKスペシャル
「宇宙飛行士はこうして生まれた~密着・最終選抜試験~」(2008年3月放送)
NHK報道局 専任ディレクター 大鐘良一
NHK報道局科学文化部 小原健右

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