働く幸せ
2009年08月15日(土)
仕事でいちばん大切なこと
大山泰宏著
WAVE出版
2009年7月31日発行
1400円
「知的障害者が働く会社が、1つくらい日本にあってもいい」という「思い」から、知的障害者が社員の7割を占める経営を指揮してきた大山氏の嵩みある言葉が心に響く。「うまくいかないことを障害者のせいにはできないんだよ。彼らの理解力に合わせて、納得してもらえるように説明するのが君の仕事なんだ」
1.「働く」ことの意味
人は仕事することで、ほめられ、人の役に立ち、必要とされるからこそ、生きている喜びを感じることができる。私は、このことを知的障害者に教えてもらった。家や施設で保護されているだけでは、この人間としての幸せを得ることができない。だからこそ、彼らは必死になって働こうとする。
2.思い
私たちは健常者のやり方を押しつけていただけなのかもしれない。でもその人の理解力にあったやり方を考えれば、知的障害者も健常者と同じ仕事をすることができる。彼らが「できない」のではない。私たちの工夫が足りなかった。
「3歳までの(知的障害を持った)入園児では約15%が(健常児の)保育園・幼稚園に転出したのに、4歳以上になって入園した児童ではそれが見られなかった」3歳までにいかに「感じる心」を呼び覚ますような経験をさせてあげられるかが、その子の成長を大きく左右する。
3.「ビジネス」と「思い」を両立させる
ビジネスを度外視すれば、経営は成り立たない。しかし、「思い」がなければ地域に応援されることもなかった。地域に支えられてこそ、企業経営を永続させることができる。そして、「働く幸せ」を大事にしたいという「思い」を授けてくれたのは知的障害者だった。
企業が利益を上げることだけを使命とするのを止め、雇用を通じて「福祉」に貢献するようになれば、社会は大きく変化していくのではないか?
4.採用条件
①食事や排泄を含め、自分のことは自分でできること
②簡単でもいいから意思表示ができること
③一生懸命に仕事すること
④まわりに迷惑をかけないこと
しかし、実際にはまわりに迷惑をかけるようなことがあれば、就業時間中であっても、すぐに自宅や施設に帰ってもらうことにしている。ただ、親御さんには、「もしお子さんが反省して、4つの約束を守って働き続けたいと言ったら、すぐに連絡してください。私どもは連絡をお待ちしています。そして、その翌日から出勤して頂きたいと考えています」とお伝えしています。私たちは待つことに意味があると考えている。
例えば、毎週のように行動障害を起こしていた社員が、2週間に1回、3週間に1回という風に少しずつでも変化していくようであれば、本人が成長したと捉える。だから、一度や二度、「約束」を破ったからといって諦めるようなことはない。そして、待ち続けることで、確実に彼らは成長していく。人は幸せを感じるからこそ成長する。また、「働く幸せ」を手放したくなかったからこそ、行動障害で何度も失敗しても「働く」ことへの挑戦を止めない。そして、時間はかかったけれども、行動障害を克服できた。「働く幸せ」は、このように治療的な効果までも持っている。
5.ベルギーの知的障害者の雇用制度
企業が知的障害者を雇用して、最低賃金である月3万ベルギーフラン(1996年当時)を支払うと、その最低賃金分を国が企業に対して補助する。しかも、重度障害の場合には、4万5000ベルギーフランに加算される。
福祉が「働く場」をつくるため使っている公費を企業に振り向ける。そのことによって、国の負担を減らしつつ、企業は障害者を雇用しやすくなり、障害者は多くの「働く場」を確保することができる。障害者の幸せはすべて福祉行政が担うという発想から抜け出すべきだ。
参考として
「働く幸せ公式ブログ」(http://ameblo.jp/hatarakushiawase/)にも紹介されました。
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