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モロッコの台所

2024年11月28日(木)


著者 エットハミ・ムライ・アメド/寺田なほ
KTC中央出版
2015年6月16日発行
1600円
 手間を惜しまず料理し、食べることを楽しむ暮らしを紹介するエッセイ集
 想像もしないような食材を組み合わせるモロッコ料理は、美味しいものを食べるのが好きな人たちをうならせる。皿の上には、長い歴史とベルベル民族の伝統、そして異民族がもたらした食材や文化の影を舌で味わう楽しみがある。
 たった数種類のスパイスが素材の味を引き出し、どの料理も優しい味わいに仕上がる。炭火で柔らかく煮込まれるタジン、もっちり蒸し上がったクスクス、新鮮な魚料理など、モロッコ料理の世界をのぞいてみて欲しい。この本で、楽しい料理と幻想的な街並みの国を旅して欲しい。

A.お皿に盛られた多様な文化
1.モロッコ料理
 日本料理の美しさはモロッコ料理の美しさとは違うものだが、2つの料理はともに素材の味を生かすことを大切にする点は共通している。
 モロッコで育まれてきた暮らしの知恵、おいしさの秘密。気候が良く食材に恵まれた国。素材の美味しさを引き出す秘密は、味を活かすスパイス使いにある。
 ①親から子へ、受け継がれる味
 料理本がほとんどないモロッコでは、母親や父親から子どもへとレシピが語り継がれていく。誰もが、自分の親から教わった料理の味は最高だと信じている。
 ②さまざまな食文化の交差
 モロッコの食の歴史は文化の交差。ベルベル民族の食文化に、アラブ文化が融合して、モロッコ料理の基礎ができあがった。ゆったりと流れる時間の中で育まれた独自の文化がある。
 ベルベル民族の食文化とは、例えばタジン。水が貴重な砂漠では理にかなった調理法。水をほとんど使わず、具材が持つ水分を利用して煮込む。
 7世紀にやってきたアラブ人は、スパイス、ナッツ、ドライフルーツをもたらした。
 長い歴史の中で、たくさんの食材が往来し、一つの食文化として成熟した料理だからこそ、料理人にとっては新たなアイデイアの宝庫。

2.ベルベル民族
 ベルベル民族は、もとをたどると紀元前10世紀頃に西アジアからやってきたと言われている。ベルベルは、野蛮人を意味する「バルバルス」というギリシャ語に由来する。しかし、ベルベル人たちは、「アマズィグ」と呼ぶ。「自由な人」という意味。自然と寄り添う暮らし方。彼らはモロッコに最初に辿り着いた民族であることを誇りに思っている。

3.宗教
 ①命をいただくことに感謝する習慣
 モロッコはイスラム教の国だから、料理は宗教の教えとも深く関係している。イスラム法で定められたルールに沿って加工された食べ物をハラールという。ハラールの認証を受ける基本的な条件は、イスラム法で認められた方法で家畜を食肉にすることと、豚肉・豚脂・ゼラチンを使用しないこと。これ以外にも、健康、清潔、安全、高品質でなければならない。イスラム教では、清潔であること、他者を気づかうこと、健康に気をつかうことを大切にしている。
 ②金曜日
 クスクスは、多くのモロッコ人にとって金曜日に食べるものなので、レストランによっては他の曜日に準備をしないから、モロッコ旅行中、レストランのメニューにはクスクスが載っているのに、食べ損ねるかもしれない。
 ③ラマダン
 ラマダンの目的は、貧しく十分な食事にありつけない人の気持ちを理解すること、欲望に打ち勝ち訓練をすること、そして胃を休めること。
 ④食卓を彩る刺繍と陶器
 イスラム教では偶像崇拝を禁止しているので、幾何学模様が発展してきた。

4.丸テーブルを囲む食事の時間
 家庭では、家族全員が揃って食事することを大切にしている。イスラムでは、真ん中は神聖で、神様がより良いものを真ん中に送り続け、それが皿の端に広がると考えている。タジンやクスクスなど大皿で提供される料理は、決して真ん中に手をつけず、自分に一番近い端からいただくのがマナー親指、人差し指、中指の3本を使用して器用にクスクスを丸め、口に放り込む。これ以外の指を使うのはマナー違反。

B.食べて旅するモロッコ
 迷路のような細い小径を抜けて散歩するように街を巡れば、おいしい魅力があふれている。
 1.タジン
 タジンは、食材のおいしさがつまった料理。煮込む過程で食材から出る水分、栄養、おいしさのエッセンスを三角帽の上部に溜め込み、しずくのように下に落とすから、食材の味を余すところなく味わえる料理。優しくとろりと煮込む、という感覚。三角の空間に熱風がつまっているから、慌てずにゆっくりと蓋を開ける。
 家でも食堂でも、タジンに添えるのは、ホブスと呼ばれるパン。たっぷりと汁を含ませて食べる。

 2.クスクス
 小麦が香る黄金色の極小パスタ。素材は硬質小麦であるデュラム小麦粗挽きにしたセモリナ粉。これに水を含ませ、粒になるように手のひらで丸めて根気よくそぼろ状にする。粒そのものをクスクスと呼ぶが、同時に野菜と肉を煮込んだスープをこれにかけて頂く料理もクスクスと呼ぶ。小麦の素朴な香りと甘み、噛んだ時のもっちりした食感に、たっぷりの野菜が載ったモロッコを代表する食べ物。
 ①クスクスの種類
 粒の大きさは大・中・小とあり、中の2mmが家庭やレストランでもよく使われる。メーカーによって、麦の味を強く感じるもの、あっさりしたものなど500g80円ほどで購入できるので、お土産にお薦め。

 3.魚料理
 新鮮な魚を食べる港町
 ①ふっくらと焼けたイワシの身にレモンを絞るだけ
 ②シーフードサラダ
  細切りのレタスとニンジンの上に茹でたイカと小降りのエビ、蟹のほぐした身をのせて、オリーブオイルとレモン汁のドレッシングで爽やかにあえる。
 ③スープ
  アンコウやカサゴなどの深海魚の他、ムール貝やアサリなど魚介類の旨味が凝縮されている。
 ④シーフードフライ
  シャルムラにつけた魚に小麦粉をまぶしてカラリと揚げたシーフードフライ。レモンを絞り、トマトをすり潰したソースにつけて食べるとさっぱりとした味わいになる。
  舌平目やカレイのフライ、開いたイワシを2枚重ねにしたフライ
 ⑤クエのクスクス 
  西部の港町エッサウィラの名物。

 4.パン
  モロッコはパンの国。小麦の味をしっかりと感じられるパンを楽しんで欲しい。
  パン焼き窯が至る所にある。家で母親がこねた生地を子どもが窯に運び、学校が終わる昼頃に焼き上がったパンを取りに行く。

 5.スパイスマーケット
  モロッコ料理の決め手、スパイスを買う時は、できるだけ色鮮やかなものを選ぶようにする。鮮度が色に現れる。鮮度が落ちてくると風味が立たなくなるので、1年くらいで使い切ると良い。プラスチックの容器や瓶に入れ、高温多湿を避けて冷暗所に保存する。

 6.ハーブマーケット
 スークを歩くと、ミントに埋もれている店がいくつもあることに気づく。モロッコ人は1日に5回も6回もミントティを飲むので、どこの見せでも山積みにされていて、価格はひと束10円ほど。素敵な香りに包まれて、心も体もリフレッシュ。
 マグネシウムなどのミネラルが豊富なモロッコの土壌で育ったハーブは、効能が高くみずみずしい。土を守るため、ハーブを全て収穫せずに一定量土に還して土の養生に使ったり、畑を定期的に休ませたりする。土の健康を気遣いながら植物を育てる環境づくりに国が率先して取り組んでいる。

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